第122話 レポート 3



◇◆◇



ウチが出会ったのは、それはそれは美しい顔立ちと神秘的な雰囲気を持った少年であった。

いや、その芸術的なまでに整った中性的な顔立ちと長い髪、物腰柔らかな雰囲気もあいまって、一瞬少女と見間違えそうになったが、その内に溢れる雄々しさと力強さから、男の人であると分かった。


ウチは、基本的に『人間族』とは距離を置いているが、この『人間族』の少年、彼の有名な『ルダ村の英雄』こと、アキト・ストレリチアにはひどく惹かれてしまっていた。

いや、言い訳ではないが、女なら誰しもこの少年には、惹かれてしまうのではないだろうか?

もっとも、彼にはその自覚はないのかもしれないが・・・。


それに、彼は、所謂『人間族』とは一線を画した『価値観』を持っている様に感じた。

もちろん、その表面上の資質。

芸術的なほどの容姿に、カリスマ性に富んだ立ち居振舞い。

他を圧倒するほどの『魔法技術』に、その『知識』への造形の深さ。

挙げればキリがないほどの魅力を兼ね備えているが、ウチが惹かれてたのは、その何気ない一言であった。


ー「なんやぁ~。けったいな見てビックリしとっただけかいなぁ~。」

「・・・???何の話でしょうか?綺麗な毛並みだなぁ~、とは思いましたが・・・。」ー


その言葉と表情はどこまでも自然で、本当の本心からの言葉である事がウチには分かった。

だから、凄く嬉しかったのである。

ああ、こんな人が『人間族』にもいたんだな、とーーー。



・・・



この世界アクエラ、特にウチらが住んでいる『ハレシオン大陸この大陸』には、様々な『種族』が存在する。

一番大きい勢力は、やはり間違いなく『人間族』であるが、次いで『ドワーフ族』、『獣人族』、『エルフ族』、『鬼人族』となるのであろうか。

もっとも、その中にも考え方の違いや部族の違いなどがあって、多種多様な派閥グループに別れているのだが・・・。

そして、ウチら『獣人族』と呼ばれる『種族』も、実は非常に雑多な種類が存在する。


その中で、ウチは『妖狐族』と呼ばれる『種族』であった。

『妖狐族』は、『獣人族』の中でも数が少なく、稀少な『種族』と言われている。

昔は数がそれなりにいたらしいのだが、『人間族』の迫害によって数を減らしてしまったそうだ。


ちなみに、『獣人族』と言うのは、見た目上は『人間族』に近しいのだが(まぁ、これは所謂『他種族』全般に言える事だが)、『』の名からも分かる通り、野生動物に類似した一部形質や身体能力、特殊な能力を有する『種族』の事を指している。

具体的には、特徴的なケモノ耳に尻尾、その冠する『獣』が備えている身体能力、そして一番の武器としている特殊能力を兼ね備えている。

一説には、その特殊能力は、『魔素』を独自の手法で発現しているモノであって、実は『魔法技術』とは兄弟関係にある、なんて分析もある様だ。

そこら辺の解釈は、この『知識』豊富なこの旦那アキトはんに、一度聞いてみたいものでもあるが・・・。

まぁ、それはともかくとして。


ウチら『妖狐族』は、生来妖艶な容姿を持ち、身体能力はさして高くはないが、『知能』が高く『幻術』を得意とする『種族』なんだそうだ。

で、まぁ、これは他の『他種族』にも共通する事なのだが、そうした『人間族』以上のチカラを脅威に感じた『人間族』に攻撃されると言う現象が起こったのである。

個々のチカラでは『他種族』の方が有利だが、やはり数のチカラは大きな脅威になる。

その結果として、『ドワーフ族』はその『金属加工技術』の有用性や利便性の観点から、友好的・中立的な立場に落ち着いたが、『鬼人族』は完全に『人間族の領域』から姿を消していた。

で、残された『獣人族』と『エルフ族』は、長く苦しい弾圧と迫害の歴史と共に『人間族の領域』のすぐ近くで生き延びてきた訳である。


獣人族ウチら』や『エルフ族』が執拗に狙われた理由についても諸説ある。

『獣人族』や『エルフ族』の見た目が、奇異に見える者もいるだろうが、非常に性的に魅力的に映った結果とも言われているのだ。

ウチ自身も、男性から情欲を向けられたり下卑た目で見られる事も多くある。

『人間族』の(特に男性の)『美的感覚』としては、恐ろしさと同時に、そうした魅力もあったという事なのだろう。


それに、ある種のにもなったのだと考えられる。

人の歴史を紐解けば、『人間族』は同族同士でも争っている(まぁ、これに関しては『他種族』にも意見の対立から敵対する事もあるが)。

そうした戦争の後は、敵対勢力が所有していた土地や物資、資源やなんかを簒奪する現象がしばしば起こる。

で、その戦功褒賞として、簒奪した土地や物資、資源やが分け与えられる事があるのだ。

これが、『貴族』などの『特権階級』の始まりとなり、同時に『奴隷』の始まりでもあったのだと言われている。

で、ここからはウチの想像であるが、人口的にも『人間族』や『ドワーフ族』に次ぐ勢力を持つ『獣人族』や『エルフ族』は、そうした『奴隷人材』確保の為のに利用されたのではないだろうか?


同族同士でも、もちろん『奴隷』は存在した様だが、法的・人道的・道徳的観点から、または、女性達からも生理的な嫌悪感からか、相当な反発があったそうなのである。

何故ならば、『奴隷』とは、『労働力』としての側面とは別に、『』、『』としての側面もあるからである。

『奴隷』を多く持つ者は、つまりはそれだけの権力や影響力を持つ事の裏返しでもある。

故に、『貴族』などの『特権階級』者は、社会的ステイタスの一部として多くの『奴隷』を囲っていた訳なのであるが、そうした反発や時代の移り変わりと共に、同族を『奴隷』とする風潮は徐々に廃れていったのである。

で、その代わりとした白羽の矢が立ったのが、ウチら『獣人族』や『エルフ族』だったと言う事なのである。

人間族彼ら』からしたら、見た目は『人間族』に近しいが、『他種族』である『獣人族』や『エルフ族』は、当時『人間族彼ら』の『法』の埓外にいる存在なのだ。

言ってしまえば、“人間”を所有している訳ではなく、“動物”を所有している、と言う、何とも頭の悪い『大義名分』がまかり通ってしまっていたのである。

こうした経緯もあって、『労働力』として、また、『愛玩動物』や『性奴隷』として、『獣人族』や『エルフ族』は『人間族』に付け狙われる様になっていったのである。

ここから、『獣人族』と『エルフ族』の、長く苦しい苦難の歴史が幕を開けたのであった。


で、そうした『奴隷』としての歴史についてはウチも詳しくない、と言うよりも、あまり知りたくないので意図的に調べない様にしているが(どうせロクな事にはなってないだろうし)、流石に重要な歴史についてはウチも知っている訳で、『獣人族』や『エルフ族』が『解放』された歴史的転機が訪れたのであった。

それを成したのは、皮肉にも『人間族』の『英雄』であり、名を“アルス=マグナ・トロニア”と言った。

そう、『トロニア共和国』の“トロニア”は、彼の『英雄』の名から取られたものなのである。

その出来事が、今から100年以上前の出来事である。

つまり、『トロニア共和国ウチらの国』は、比較的最近に建国された『新興国』なのである。


アルス=マグナ・トロニアに賛同した『人間族』、解放された『獣人族』、『エルフ族』などの多様な『種族』は、そのまま『国』としての母体を持つに至り、今現在にまで続いている訳なのである。

とは言え、『トロニア共和国』にいるそうした『獣人族』や『エルフ族』はもちろん全てではなく、グレンはんらの派閥グループの様にエルギア列島に渡った部族もいれば、『ハレシオン大陸この大陸』の人の手も行き届かないほどの深い森の中へと消えていった『獣人族』や『エルフ族』なんかも存在する。


しかし、それで全て終わりって言う事は当然なく、今現在でも秘密裏に『奴隷』やそれに伴う差別や偏見は存在する。

ロマリア王国この国』でも、最近まで『奴隷』が非合法に存在していたそうだし。

まぁ、これらについては、このダールトンはん(ってか、おそらく本当は旦那アキトはん)率いる『リベラシオン同盟』の尽力によって、ほぼ『解放』された訳であるが・・・。


しかし、『他種族』を積極的に受け入れている『トロニア共和国ウチらの国』と言えど、当然他国に比べたら幾分マシだが、今現在においても、差別や偏見は完全にはなくなっていない。

いや、比較的近しい距離で関係性を構築している事も手伝って、他国よりもむしろその根は深いのかもしれない。

もちろん、表面的には友好的に接しているし、ウチの様に重要ポストを担う『他種族』も多く存在するし、有名人の中には、『他種族』の者も多く名を連ねている。

中でも、最近の『トロニア共和国』の一番人気のある有名人と言えば、レルフ・ノーレン・アスラはんだろう。


レルフはんは、『ハレシオン大陸この大陸』の歴史から忘れ去られていた『鬼人族』の末裔であり、ある日突然『トロニア共和国ウチらの国』へと姿を現し、そのまま『冒険者』として精力的に活動を始めた。

彼には何かしらがあった様だが、その過程で様々な『偉業』を仲間と共に成し遂げ、遂には『冒険者』としての『最高位』である『S級冒険者』にまで登り詰めた猛者であった。

そうした活躍が噂になると、彼が『鬼人族』という事も手伝って、特に『他種族』の者達から、彼は高い支持を得る様になっていったのである。


彼が何か働き掛けた訳ではないが、彼の活躍が広まるほどに、『他種族』に対する意識や評価も上がっていった。

有名人が世間に与える影響は、それほどまでに大きいのである。

しかし、そうなると面白くないのが人間の心理だ。

『人間族』からの、『他種族』に対する風当たりは、急激に厳しくなっていったのである。


ここからはウチの予測であるが、これは『トロニア共和国ウチらの国』内の一部の『人間族』達の潜在意識の中では、元々『他種族ウチら』を見下していたからではないだろうか?

人間族自分達』が“”し、一定の“”を与えてやった『他種族存在』が、最近何かと調子に乗り始めている。

そして、遂には『人間族自分達』の(政治・経済・軍事など)にまでし始め、更には種族の垣根を越えて人々から支持を集める人気者が『鬼人族他種族』から現れてしまったのだから。

人間族自分達』の優位性を侵害していると思い込んだとしても不思議はない。


そうした背景や風潮のもとに、ウチは生まれた。

そして、物心ついた時には、様々なイジメに近い嫌がらせなどを経験したのである。


(ちなみに、『冒険者』は『トロニア共和国』では若者から人気の『職業』の一つであり、中でも『最高位』の『S級冒険者』ともなると、その人気と知名度はアルス=マグナに次ぐクラスとなる。

一説には、その“”の高い仕事内容と、一攫千金や名誉も夢ではない可能性に惹かれているところもあるのだが、『トロニア共和国この国』の“開国の祖”であり、“奴隷解放の父”でもあるアルス=マグナも、元々は『冒険者』であった事も影響しているのかもしれない。)


今でこそ、おちゃらけた雰囲気と、変な言葉遣いなどを駆使して、人々の中を渡っていく術、所謂『処世術』を身に着けたが、幼い頃のウチは、どちらかと言うと人見知りで、大人しい子供であった。

そうした者が、他の子供達から標的となる事もしばしばあるが、そうした背景や風潮があれば、それはより一層過酷なものとなる。

子供というものは、大人の影響を受けやすいものだ。

彼ら自身に主義も思想もないが、大人が陰で言っていた事が、直接的に子供だったウチに浴びせられた。


そうした事があってから、ウチは『人間族』に対して苦手意識を持つに至った。

更に、成長するに従って、ウチも『種族』としての特性、妖艶で性的魅力に溢れた身体になっていった事で、男達から情欲や下卑た目で見られる様になり、それは更に悪化していったのである。


これが、ウチが『人間族』と距離を置いてる要因だ。

一言で言うと、ウチは『人間族』を信用出来ない様になっていったのである。

もっとも、そうした幼い頃の経験がもととなって、『トロニア共和国』の意識の水面下に蔓延していた、そうした『他種族』に対する差別や偏見をどうにかする事を志して、『トロニア共和国』の政治の中枢に飛び込んだのは、ある意味皮肉なものだが。


しかし、これまでに色々な人々を見てきたが、旦那アキトはんほど一切のも偽りもなく、ウチを好意的に見てくれた人は初めてだった。

しかも、ウチの性的魅力に惹かれた感じでもなく(まぁ、それはそれで何だか腹立たしいのだが・・・)、珍しい生き物を見付けた奇異の目でもなく、単純な尊敬や羨望の様な眼差し。

まるで、ようやく見付けた“理想の女性”を見付けた時の様な、何ともくすぐったい感じの眼差しだったのだから(いや、まぁ、これはウチの勘違いかもしれないが)ーーー。



◇◆◇



「何やぁ~。誤解ならそう言うて下さいよ、旦那はん。ウチ、勘違いしてもうたやないのぉ~、恥ずかしいわぁ~。」

「うん、僕の説明も聞かんと、途中からからかっていたのはヴィーシャさんの様に感じますが、その、ごめんなさい・・・?」

「しかし、まさかエイル殿が、ではないとは・・・。」

「・・・私達も全く気付きませんでしたよ。」

「確かに。一応、我々も報告として『魔道人形ドール』の存在は聞いてはいたが、まさかこれほどだとは思いませんでしたからなぁ~。」

「改めて、『古代魔道文明』の『技術力』はとんでもないモノですね・・・。」


エイルはんの爆弾発言によって、一気に打ち解けた(?)ウチらはそんな会話を交わしていた。

何やら、旦那アキトはんの報告を聞き、相談事をしていた盟主ダールトンはんらも、どうやら方向性が決まったのか、後ろに控えていた執事はんや書記官はんらに指示を飛ばすと、彼らは無言で頷き、素早く部屋を出ていった。

で、何事もなかったかの様に盟主ダールトンはんらもウチらの会話に混ざっていた訳だ。


・・・しかし、あの執事はん、えらいな雰囲気を感じるなぁ~。

それに、何処と無く懐かしいニオイを感じるけど・・・、どっかで会った事あったかなぁ~?


何て事を考えながらも、ウチは再び旦那アキトはんとエイルはんに目を向けた。


「オ騒ガセシテ大変申シ訳アリマセン。改メマシテ、私ハ、『魔道都市ラドニス』製造ノ、『魔道兵量産計画』ノ『試作機』。正式名称ハ、『自律思考型魔道人形 試作13号機』、愛称ハ、“エイル”デス。今現在ハ、オ父様付キノ“従者”、ト言ウ事ニナルノデショウカ?皆様、以後オ見知リオキヲ。」(ペコリ)

「おお、こりゃ御丁寧に・・・。」

「ますます普通の人と区別がつきませんねぇ~。」

「彼女とは、で『ヒーバラエウス公国』に赴いた際に知り合いまして。それから、なんやかんやあって、彼女の『所有権』を今現在は僕が所持しているのですよ。ですから、彼女が言う“”と言うのは、血縁に由来する事ではなくてですね・・・。」

「シカシ、オ父様ト私ハ、深イ“リンク”デ繋ガッテイマス。ソコカラ鑑ミレバ、以上ノ関係デアル事ハ否定出来ナイト思イマスガ?」(力説)

「何でそこにこだわるの、お前はっ!?元々そんな性格だったっけ!?」

「オ父様ガ“”ヲ認知シナイ“クズ男”ダカラデスヨ?」(しれっ)

「ヒドイ言われ様だっ!それに、まだ結婚もしとらんのに、“”が出来るなんてっ!!!」

「段階ガ省略出来テ良カッタデスネ?」(ニッコリ)

「よかないよっ!」


な、何やら随分親しげな感じやなぁ~。


そのやり取りを見ながら、ウチは内心モヤモヤしたモノを感じていたが、とりあえずそれは一旦脇に置くとしても、旦那アキトはんはやっぱり変わったお人だと思った。


旦那アキトはんらの話を総合すると、もちろん、ウチは『古代魔道文明』には詳しくはないが、エイルはんが“”ではなく、何らかの使用を目的として造られた“”である事は分かった。

それに、そうした関係性から、エイルはんは、本人の言う通り、旦那アキトはんに仕えるべき“従者”である筈なのだ。

だと言うのに、今見たやり取りは、“主人”に対する“従者”のそれではない。

どちらかと言うと、気の置けない友人や恋人、家族のそれに近いかもしれない。

しかも、旦那アキトはんもそれを咎める事もなく、ごく自然に接している。

相手が“従者”で、しかも“”でないにも関わらず、である。


一般的に、人間社会では、“上位者”、ここで言うところの、“上司”や“主人”は絶対の存在である。

そんな者に対して、意見を言う事はもちろん、気安く話し掛けるなんて事はありえない事なのである。

もちろん、むしろ優秀な者達は、“上位者”に対して進言をする事もあるが、それもかなりの覚悟のいる事である。

何故なら、“上位者”、“主人”は、“部下”、“従者”に対して生殺与奪の権利を握っているのにも等しいからだ。

自分の“生命いのち”や“生活基盤収入源”を握っているに等しい者に対して、例え正しい事でも意見を言う事は、普通なら憚られる。

場合によっては、“上位者”や“主人”の不興を買って、処分されたり冷遇されたりするのだから。


ウチとて、今や政界でそれなりに高い地位にいる者だ。

それくらいは承知している。

それに、ウチとて“部下”を持つ身だ。

もちろん、ウチは“部下”に対して圧力を掛ける事はないが、流石に旦那アキトはんやエイルはんの様な関係性を構築する事は出来ていない。

まぁ、考え方によったら、旦那アキトはんの方がおかしいはおかしいのだが、そこまでの信頼関係を、しかも、『種族』、どころか“”ではない存在に対して構築出来る事が内心羨ましかった。

と、同時に、旦那アキトはんの、その懐の大きさに対して、ますます興味を惹かれていた訳なのだが・・・。


「そ、そういえば、『ヒーバラエウス公国向こう』の件は上手く片付いた様だね?」

「ええ、問題なく。今回の件もあって、少々慌ただしく戻って来てしまいましたが、『外交使節団』・『団長』であるケント・スピーゲル卿と、アンブリオ大公を引き合わせるところまでは済みましたよ。後は、彼らにお任せしても問題ないと判断しまして、僕らは一足先に戻って来たって感じです。」

「それは僥倖ぎょうこう。御苦労様だったね。」

「いやぁ~、しかし、流石はアキト殿ですなぁ~。私も、当初アキト殿が『ヒーバラエウス公国』に赴いたと聞いた時には、『ヒーバラエウス公国彼の国』との何かしらの足掛かりが得られれば儲けもの、くらいの感覚でいたのですが、まさか、『大公家』の方々と繋がってしまうとは・・・。」

「いえいえ、ジュリアンさん。ですよ、。それに、ディアーナ公女殿下をお助けした事で、まさか『ヒーバラエウス公国彼の国』のに巻き込まれるとは思ってもいませんでした。まぁ、結果的にそれによって、アンブリオ大公やドルフォロ公太子殿下とも知己を得るに至った訳ですけど・・・。」

「いやいや、アキト。さらっと言ってるけど、そもそも公女殿下の危機をお救いする場面に遭遇する事自体おかしな話なんだぜ?『ヒーバラエウス公国彼の国』の重要人物の襲撃など、襲撃者側からしたら、それこそ慎重に慎重を期していた筈だ。それを、たまたまお救いしちまうお前は、計算外の存在だったろうよ。まぁ、今更お前に俺らの常識を求める方が間違ってるんだろうけどよ・・・。」

「えらい言われようですね・・・。いえ、僕自身自覚はありますけど・・・。」

「・・・何の話なん?」

「襲撃とは穏やかではないですな・・・。」

「「「「あっ・・・。」」」」

「フゥ~・・・。皆サン油断シ過ギデスヨ?今コノ場ニハ、ヴィーシャ・様ト、グレンフォード・様モイラッシャルトイウノニ、“機密情報”ヲペラペラ喋ルナド・・・。」(やれやれ)

「「「「面目次第も御座いません・・・。」」」」

「・・・デスガ、考エヨウニヨッテハ、良イ機会カモシレマセンネ。オ父様ヤ皆サンノ活躍ニヨッテ、『ロマリア王国コノ国』ト『ヒーバラエウス公国彼ノ国』ノ長年ニ渡ル確執ニ終止符ヲ打チ、新タナル関係性ノ構築ニ一歩前進シタ訳デスカラ。外交交渉ノ“カード”トシテハ、オ二方ニモソノ経緯ヲ御説明差シ上ゲタ方ガ、何カト心証ガヨロシイノデハナイデスカ?」

「ふむ・・・。言われてみれば確かに・・・。例の『三国同盟プラン』を提案する上でも、両国の関係性が改善した事は、『トロニア共和国』側としても、『エルフ族の国』側としても、悪い話ではないだろうからね。」

「いっそのこと、お二方にも事の経緯を明かしてしまってはどうですかね?俺らも、改めてアキトの口から事のあらましを聞きたいですし。」

「国家の機密に関わる事ならば、流石にお二方にも明かせはしませんが、今回の事に関しては私も同意見ですね。」

「まぁ、お三方が良いのなら、僕としても特段隠す事ではありませんし、良いですよ。ただ、少々長話になりますが・・・。」

「なに、今は、喫緊きっきんの課題であった『泥人形ゴーレム』騒動が終結したとは言え、その影響で予定していた行事は一旦保留になっている状態だからね。関係各所の調整が済まない限り、いつそれらも再開するかは不透明だ。言い方はアレだが、そうした訳で我らも今や暇を持て余していた状態なんだよ。」

「そうやなぁ~。ウチらも、ある種足止めを食らった形や。もちろん、そこに対して文句はないし、思いがけない休暇と思う事にするが、自由に外出もでけへん状態やしなぁ~。」

「確かに、暇を持て余していた、と言っても過言ではありませんでしたな。」


などと言いながら、ウチは内心ワクワクが止まらなかった。

この現代の『英雄』たる旦那アキトはんの活躍が、一体どういったものなのか、単純に興味があったからだ。

それは、グレンはんも一緒だろう。

まるで子供の様に、キラキラした目を向けたウチらに軽く溜め息を吐いて、旦那アキトはんは一言呟いた。


「・・・ヨーゼフさん、エイル以外の皆さんのお茶の用意をお願いします・・・。」

「かしこまりました、アキト様。」


おわっ、ビックリしたっ!!!

見ると、先程音もなくこの部屋を出ていった例の執事はんが、いつの間にか旦那アキトはんの傍らに立っていた。

ドロテオはんと、エイルはん、そしてグレンはんは特に驚いた様子はなかったが、盟主ダールトンはんとジュリアンはんはウチと同様に目を丸くしていた。

し、心臓に悪いで、この執事はん・・・。


なんて、一幕もありながら、ウチらはポツリポツリと語られた旦那アキトはんの『ヒーバラエウス公国』での活躍劇に耳を傾けるのだったーーー。





















「ところでアキト様。ヘルヴィはご一緒ではなかったのですかな?」

「・・・・・・・・・あっ」( ̄▽ ̄;)



◇◆◇



「うぅー、ひどいよー、アキトくーん。私を置いてさっさと帰国しちゃうなんてー。」


『ヒーバラエウス公国』の『政変クーデター』騒動時に、アキトに呼び出されて密かにニコラウス陣営に潜入を果たし、かなり重要な役割を担ったヘルヴィだったが、その後の『泥人形ゴーレム』騒動のゴタゴタで、慌ただしく帰国をするハメになったアキトらに、すっかりその存在を忘れ去られていた。


もっとも、彼女の実力や交渉術などを鑑みれば、隊商キャラバンなどに同行する形で、『ヒーバラエウス公国』から『ロマリア王国』へ帰還する事はさして難しい事ではないが(そもそも、アキトに応援を要請されて『ヒーバラエウス公国』へ訪れた際も、ヘルヴィはその様な手段を駆使して単独で『ヒーバラエウス公国』入りしていた)、帰りはアキトらに同行してノンビリと出来ると思っていただけに、その仕打ちは彼女にとってはあんまりな事だった。


「くそー、覚えてろよー、アキトくーん。」(TДT)


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