第121話 レポート 2
◇◆◇
「そ、それで、具体的にどうやって『
重苦しくなった空気を変えるべく、ダールトンさんがそう話題を切り換えた。
「すみません、僕の無理を聞いて頂いて・・・。それで、方法の件ですが、これも、所謂『魔法使い』の『秘術』に関わる事なので、流石に詳細は明かせませんが・・・。」
「・・・まぁ、そうだろうな。『魔法』は便利な
「私も『魔法使い』の端くれですから、アキト殿のおっしゃる事は理解出来ますよ。」
僕がそう一応断りを入れると、『魔法技術』に詳しいドロテオさんとジュリアンさんが、そう助け船を出してくれた。
ダールトンさんも、そのお二方の意見に頷き、目線で僕に先を促した。
「簡単に要約すると、
「ああ。ユストゥスさん達から報告は受けているよ。確か、額に
「ええ、その通りです。これは、とある『
「ほぉ~、そんな対処法があったんやなぁ~。『
「『
「いえいえ、お二方の意見は大変参考になりましたとも。」
「それに、これらの『知識』は、『リベラシオン同盟』、いや、もっと言うとアキト殿達がもたらした『知識』によるところが大きいのです。あまり大きな声では言えないのですが、『
話の途中でヴィーシャさんとグレンさんも会話に加わってきて、その対処法に驚いていた。
まぁ、それはそうだろう。
今回の『
そうした意味では、別体系の『魔法技術』を操る『
それと、ジュリアンさん?
いくら、これから“仲間”になる前提とは言え、『
いや、まぁ、事実は事実なんだけどさ・・・。
「ほぉ~。旦那はんは『知識』も豊富なんやねぇ~。」
しかし、ヴィーシャさんはそれをスルーして、僕の『知識』に関心を示した。
・・・う~ん、わざと聞かなかった事にしてくれたのかなぁ?
この
まぁ、外交上は、むしろ有能な人選であるのだろうが。
「いえいえ、たまたまですよ。それに、『魔法技術』
「ほぉ~ん。」
ヴィーシャさんは、納得したのかどうか判別がつかない様な曖昧な相槌を打った。
しかし、それも、続くダールトンさんの言葉にすぐに忘れ去られる事となる。
「しかしそれでは、『
まぁ、そこに疑問を持つ事は当たり前だろう。
よほど『魔法技術』に精通した人でないと、大抵の場合は、『魔法』とは
故に、『魔法』=『攻撃魔法』・『物理干渉系魔法』を想像してしまうのだ。
いや、『魔法技術』にある程度精通した者達の中にも、その真相に辿り着いている者達はかなり稀だろうが・・・。
しかし、『魔法技術』の“キモ”は、『情報』を
一見強力な『攻撃魔法』を使用していない今回のケースでは、ダールトンさん達としては『
・・・ここは、少し情報を開示しておいた方が良いかもな。
「その答えは、『幻術系魔法』を応用したのですよ。」
「『幻術』っ・・・!?」
ピクッとヴィーシャさんが明らかな反応を示した。
・・・そういえば、
彼女は、
確か、『獣人族』は『魔法技術』とは一線を画した別の『
「『幻術』ってアレだろ?相手に幻を見せたり、相手を眠らせたり、洗脳したりするって言う・・・。そんなモンでどうやって『
「その疑問はもっともですが、『幻術系魔法』は一般には知られていない特徴も数多くあるのですよ。そもそも、『幻術系魔法』は、
「確かに・・・。『幻術系魔法』は、一般的な『魔法使い』からしたら、
初歩的とは言え、
いや、評価して頂いてるのは嬉しいんですが、気恥ずかしくもあるなぁ~。
「言葉でご説明するのも分かりづらいと思いますので、ここからは
「なっ・・・!?」
「あれ、アキトっ!?」
「き、消えたっ・・・!!!」
「えっ・・・?旦那はんならそこにおるやないですか??」
「ふむ、確かに
「「「・・・へっ???」」」
ふむ・・・。
以前から『幻術』に耐性のある者達の存在は確認していたが、この『
などと、新たな発見に感心しながらも、僕は説明を続けた。
「ふむ、興味深いですね。どうやらヴィーシャさんには、我々『人間族』とは異なる感知方法がある様だ・・・。グレンさんは、視覚には映らなかったが、
「おおっ・・・!」
「おわっ!消えたと思ったら、また出てきたっ!!」
「こ、これが『幻術』、ですか・・・。実際に見ると、とんでもない『技術』ですね・・・。我々『人間族』は、
ジュリアンさんが感心した様に呟いた。
確かに、
ドロテオさんは、かつては『上位冒険者』として名を馳せていたにも関わらず、瞬間的には思わず
ドロテオさんならば、グレンさん同様に
これは、ドロテオさんが、すでに現役を退いている事も大きいが、環境によるところが大きいのだ。
森での環境下ならば、
そうでなければ、生きていけないからである。
故に、自然と共に生きる『エルフ族』は、そうした
しかし、『人間社会』で生きる上では、そうした『スキル』は必要なくなる。
いや、場合によっては、あまりよろしくない『職業』の方が使用する事もあるが、『人間社会』では様々な事を“共有”する必要が生じるからである。
であれば、“百聞な一見に如かず”の
それを日常的に繰り返し行っていると、咄嗟の場面で
これが、所謂『スキル』の落とし穴なのである。
まぁ、それはともかく。
「今のが、典型的な“
「ほぅ・・・。それは聞き捨てなりまへんなぁ~・・・。そんなんウチかて初耳ですよ?」
ふむ。
やはりヴィーシャさんは『幻術』に関しては一家言持っている様だな。
ヴィーシャさん、あるいは『妖狐族』は、『幻術使い』である可能性が更に高まったな。
「それが、存在するのですよ。実際にお見せしましょう。【イリュージョン】っ!」
僕は、再び『魔法』を発動させる。
同じ『イリュージョン』であるが、今度は
「また、それかいなっ・・・。えっ!!!???」
「な、何っ!?こ、今度は視覚どころか、アキト殿の
「ウチもや・・・。完全に旦那はんが
「「「・・・・・・・・・へっ???」」」
「どうした訳やっ!完全に消えてしもたなんて言わんよなぁ~?」
「当然ですよ。僕は
声はすれどと、姿は見えず。
キョロキョロと辺りを見回すダールトンさん達を眺めながら、僕は『魔法』を『
「ひゃあっ!出るなら出ると言うて下さいよっ!!」
ビクッとケモ耳と尻尾を逆立ててビックリするヴィーシャさんの様子は、割と可愛らしかった。
「オ父様ハ“S”、ト・・・。」(メモメモ)
ずっと黙っていたと思ったら、エイルがそんな事をブツブツと呟きながら何事かメモっていた。
・・・うん、違うよ?
いや、今はシリアスモードだから、あえて突っ込まんけれども。
「今のが、もう一つの『幻術系魔法』です。僕は、こちらの方を、便宜上『精神干渉系魔法』、いえ、より厳密に言うと『
「『精神干渉系魔法』・・・?」
「それに『
「それがさっきの『幻術』とどうちゃうの?確かに、ウチでも視えへんかったけど・・・。」
「私もアキト殿の
未知の事象に、ヴィーシャさんとグレンさんも驚愕の表情を浮かべていた。
「『幻覚』などが見える『メカニズム』には、大まかに二通りのパターンが存在します。それが、先程言った“
「「「「「(コクコクッ)・・・。」」」」」
僕が解説を始めると、皆さん真剣に聞き入っていた。
な、何だか学校の先生にでもなった気分だなぁ~。
いや、僕は仲間達に結構レクチャーする事も多いので、説明には慣れているつもりだけど・・・。
「ところが、もう一つ、『幻覚』を見せる大きな要因が存在します。それが、“脳”の機能障害です。」
「「「「「“脳”・・・?」」」」」
それがどうかしたのか?、と言う表情を皆さんが浮かべる。
あ、そう言えば、
いや、
「失礼。では、分かりやすく言い換えましょう。例えば、この中でもお酒を嗜む方はいると思います。あるいは、本人は飲まなくとも、周囲の人間で飲まれる方がいらっしゃるかと思います。では、こんな話を聞いた事はありませんか?誰々が
『基礎知識』の差を失念していた僕は、そうすぐさま軌道修正を図る。
「ああっ!酔っぱらうとたまに起きるよなぁ~。」
「確かに・・・。それに、呂律が回らなくなったり、足元がふらついたりもありますよねぇ~。」
「そうですね・・・。深酒をすればするほどそうした話は聞きます。もっとも、『貴族』の会合なんかで、そこまで飲まれる方は稀ですが・・・。」
「そら、“仕事”の一種やから、当たり前やろ。けど、私的な会合なら、そうした話も割と聞くなぁ~。生憎、ウチはお付き合い程度にしか嗜まんけど・・・。」
「ふむ・・・。それが、どう関係してくるのですかな?」
良かった。
これなら話が理解出来るだろう。
ここに居るのは、すでに成人を果たし、更にお付き合いも多い人達だろうからな。
「ええ。それは、お酒を摂取した事によって、先程言った“脳”に影響を与えるからなのです。先に断っておきますが、お酒はある程度ならば心身に良い影響を与えるモノです。しかし、摂取する量が増えるにつれて、そうした障害が出やすくなるのですよ。」
一応そうフォローしておこう。
僕は、今現在は
しかし、その僕の価値観を他者に押し付けるつもりは毛頭ない。
中にはお酒がお好きな人もいるだろうし、お酒は絶対的な悪であるとした場合、角が立つ可能性もあるからね。
それに、実際に
もちろん、何でも行き過ぎれば“毒”となるけどね。
「ここで重要なのは、
「そうかっ!!!酒による酩酊状態では、そうした『幻覚』みたいなモノが見えるが、実際には誰かが二人になった訳じゃないっ!」
「なるほど・・・。つまり、酒が要因となって、摂取した者本人の、その“脳”?、に影響を及ぼして、『幻覚』が見えると言う訳ですね?」
「その通りです。これは本人の身、“脳”自体に起こった現象ですから、それを打ち破る事は困難ですよ。故に、『幻術』に耐性をお持ちな様子なヴィーシャさんや、高いレベルの『気配感知スキル』をお持ちのグレンさんでさえも、看破出来なかったのですね。」
「なるほどなぁ~。」
「お、恐ろしいモノですね。その、『精神干渉系魔法』、いえ、『
「まぁ、実際には様々な方法によって『
「そんなん、出来る訳やろぉ~。それって、つまり常に『魔法』を操ってる状態って事やろ?」
「『魔法』の発動には、集中力や精神力を伴います。瞬間的ならばともかく、ずっとそのままと言う訳には・・・。」
「そりゃそーだ。つまりは、実質的には防ぐ事は不可能って事じゃねーかっ!」
ところがそうでもないんだよねぇ~。
現時点では、
そうした存在達には、この『技術』も通用しないのである。
まぁ、それは今は関係ないので割愛するが。
「しかし、ちょっと待ってや。それと今回の『
「それが、先程言った『
「「「「「(コクコクッ)・・・。」」」」」
「これを言い換えると、対象者の“脳”の『
「っ!!!そうかっ!先程も述べたが、それは『
「その通りです。物理的にも対処は可能でしたが、数が数でしたので、一々倒していては時間が掛かり過ぎる。その間に被害も更に増えてしまった事でしょう。また、大規模な『広域殲滅魔法』によって一瞬でケリを着ける事も可能でしたが、これはヘドスの街や人々をも巻き込んでしまいますから論外です。それ故に、物理的な手法ではなく、こうした搦め手を選択したのですよ。まぁ、実際に行使する事は、僕としても初めての試みでしたから、その結果も正直不透明でしたがね?まぁ、勝算はあったのですが・・・。」
「何という事だっ・・・!」
「『幻術』にそんな使い道があったなんてっ・・・!」
「・・・いや、これは旦那はんが特殊なだけや。この際正直に言いますが、ウチも『幻術』の『使い手』や。もっとも、ウチが使用出来るんは『魔法技術』とは別体系の『
やはりヴィーシャさんは、僕の予測通り『幻術使い』だったか・・・。
しかし、ヴィーシャさんの言う通り、『幻術系魔法』
誰かに真似されても困るので、意図的にそこは言わなかったのだが、この『
具体的には、今回の場合はセレウス様の『
仮に僕一人で同じ規模の『
つまりは、事前に入念な準備が必要になってくるのである。
もっとも、これは知られたとしても、どうこう出来る事でもないんだけどね。
「まぁ、『魔法技術』は奥が深いですからね。と、まぁ、『
「・・・話は概ね理解出来たよ・・・。もっとも、報告するにはハードルが高くなってしまったがね・・・。何て報告しようか・・・?」
僕が話をそう纏めると、ダールトンさんは頭を抱えていた。
・・・まぁ、それはそうか。( ̄▽ ̄;)
今の話をそのまま報告して貰っても構わないが、それだと理解を得るまでにかなりの時間を要するだろう。
『報告書』を上げる立場となると、四苦八苦してしまうわな。
「いっそ、差し障りのない報告を上げて、詳細はアキトに丸投げしたらどうですか?今回の件でユストゥスさん達が『王都』・ヘドスの『防衛隊』に協力した事は周知の事実ですし、その事からおそらく『
「確かに・・・。治安維持の協力に努めた『リベラシオン同盟』は褒賞されてしかるべきでしょう。でなければ、『王家』の面目も保てませんしね。そうなった時に、ダールトン殿の代わりにアキト殿を代表者代理として立てると言う訳ですな・・・?(ボソボソッ)」
「ふむ・・・。それが良いかもしれませんね・・・。向こうとしても、ヘドスの危機を救った『救国の英雄』には是非とも直接会ってみたいでしょうから、否とは言いますまい・・・。(ボソボソッ)」
うん、何やら不穏な相談事をダールトンさん、ドロテオさん、ジュリアンさんでしているが、バッチリ聞こえてますからね?
・・・しかし、まぁ、それも仕方ないかね?
あまり目立つのは好きではないが、それも今更だしなぁ~。
もしそうなった場合、ダールトンさん達の手前断る訳にはいかんか・・・。
望み薄だが、そもそも呼ばれない事自体を祈るとしようーーー。
「ところで旦那はん。そちらの可愛らしいお嬢さんは旦那はんの従者さんでっか?ウチにも紹介してくれへん?」
「あ、私も是非に。どうやら、皆さんとは長い付き合いになりそうですからな。」
ダールトンさんらがボソボソッと相談事をする傍らで、ヴィーシャさんとグレンさんの興味はエイルに移った様だ。
まぁ、流石に他国の人間であるお二方が、ダールトンさんらの相談事に首を突っ込む訳にはいかんだろうからな。
「ああ、ご紹介が遅れました。彼女は・・・。」
「オ初ニオ目ニ掛カリマス、ヴィーシャ・様、グレンフォード・様。私ハ、エイル・ストレリチアト申シマス。」
・・・うん、エイル?
何で勝手に僕の、っつか、アルメリア様のファミリーネームを名乗っているのかな?
いや、まぁ、現在の彼女は、僕の『アストラル』から生まれているところもあるから、血筋こそ繋がっていないが、まぁ、娘や妹みたいなところはあるんだけどさ・・・。
「これは御丁寧に・・・。ストレリチアっちゅー事は、旦那はんの肉親か何かですか?」
「イエイエ、ヴィーシャ・様。私ハ、オ父様ノ『
「ちょおぉぉぉぉいっ!な、何言ってんの、エイルっ!?」
「・・・???何カオカシカッタデスカ?」
キョトンッとした顔(いや、エイルには表情を浮かべる機能はないのだが)を浮かべてこちらを窺い見るエイル。
うぅむ、エイルにはまだまだ『人間社会』への『常識』が足りないのかなぁ~?
いや、先程の言動なんかも鑑みると、確信犯である可能性も否定出来んが・・・。
「だ、旦那はんっ!?ま、まさか、自分の娘を手込めにっ・・・!!??」
「いやいや、何言ってんすか、ヴィーシャさんっ!どう考えても、僕の年齢でエイルくらいの子供がいる訳ないっしょっ!!!」
「う~む。“英雄色を好む”と言いますが、アキト殿も御多分に漏れずそうなのですなぁ~。いえいえ、何も申されますな。私も、若い時分はブイブイ言わせていたクチでしてな・・・。」
「いやいや、勝手に納得しないで下さいよ、グレンさんっ!っつか、ティーネが聞いたら卒倒しそうな事暴露せんで下さいよっ!後、表現が古いっ!!」
「不潔、不潔やで、旦那はんっ!!!」
「半笑いで言わんで下さいっ!ってか、ヴィーシャさんはすでに気付いてますよねっ!?」
「“不潔”ッテ何デスカ?」
「エイルは知らんでも良い事だよっ!」
「あれは、今から200年ほど前の話でして・・・。」
「急に語り出さないで下さいっ!っつか、あんまり聞きたくないっ!!」
あるぇ~(・3・)?
もしかしなくても、また“
前にも考えた事だが、あえてもう一度言わせて頂こう。
急募、ツッコミ役。
宛先は、アキト・ストレリチアまでお願いしますっ!!!(割と切実に)
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