神話の再来
第114話 神々の復活
『天空神ソラテス』に反旗を翻した『大地神アスタルテ』は、徐々に『天空神ソラテス』を追い込んでいった。
これは、母たる『大地神アスタルテ』を慕う生命が多かった事もあるのだろうが、再三に渡る『天空神ソラテス』の行いに、多くの生命達が『天空神ソラテス』に対して反感を持っていた事にも由来するのだろう。
その頃には『天空神ソラテス』に対する『信仰心』も地に落ち、『大地神アスタルテ』の提唱する『
そこへ来て、『天空神ソラテス』は苦渋の決断を下した。
『異界』より、新たなる『神々』を召喚しようとしたのである。
その時現れたのが、『知恵の神ハイドラス』と『英雄神セレウス』の『双子神』を始めとした『新しき神々』であった。
事情を理解した『双子神』は、この愚かな『古き神々』達から、アクエラの生命達を切り離し、『古き神々』を封じようとした。
『双子神』曰く。
「神代の時代はもはや終焉を告げたのだ。ならば父たる者の“支配”も、母たる者の“庇護”も、子らにとってはただの足枷に過ぎぬ。真に子らを思うのであれば、“自由”こそ与えるべきであろう。」
「然り。ただ子らの行く末を“見守る”。それすら出来ないのであれば、汝らは速やかに消え去るべきであろう。」
そう、『天空神ソラテス』と『大地神アスタルテ』の“在り方”を否定した『双子神』は、神代の時代の終焉を宣言し、『古き神々』の排除を決定したのである。
ここに、長きに渡る『古き神々』である『天空神ソラテス』と『大地神アスタルテ』、それに『新しき神々』との三つ巴の争いが始まったのであるーーー。
~中略~
結論から言えば、『天空神ソラテス』はアバリア海の底に封じられ、『大地神アスタルテ』は、双月の片割れ、『惑星アクエラ』の衛星『ルトナーク』に封じられた、と文献には記されている。
これは、『古き神々』の『神性』から鑑みても、滅する事が難しかったからだと推察される。
紆余曲折を経たものの、『古き神々』が『
いや、場合によっては、『始祖神』たる『古き神々』を滅してしまった場合、全く別の『信仰』と結び付き、得体の知れない
それは、『
故に、『新しき神々』は『古き神々』を封じる事を余儀なくされたのかもしれない。
(余談ではあるが、『天空』を冠する『天空神ソラテス』が“海の底”に、『大地』を冠する『大地神アスタルテ』が“天空の星”に封じられたのも、おそらくその真逆の『属性』、すなわち『相剋』によるものだと推察出来る。)
『神話』とは、すなわち教訓めいた事柄を示すとともに、今日に生きる我らに対する戒めともなっているものである。
私の独自の解釈ではあるが、これらの“創世記”から始まり、“神々の争い”、“神々の黄昏”、そして“人類史への移行”へと繋がるこの一連の『物語』は、我らに対する何らかの『メッセージ』であるのかもしれない。
それが、『神々』からのものなのか、『古代人』からのものなのかは、定かではないがーーー。
ー哲学者カザンの『失われし原初神話の考察』から抜粋ー
☆★☆
〈・・・ここは・・・?〉
「・・・・・・・・・おおっ!これは『
衛星『ルトナーク』の月面上にある『
それにいち早く気付き、
〈・・・そなたは、・・・はて、誰であったか・・・?〉
「んん~~~?嫌だなぁ~。僕ですよ。ヴァニタスですって!」
〈・・・ヴァニタス・・・?・・・はて・・・?〉
「(ありゃ~。これは不完全な『
瞬時に思考を巡らせたヴァニタスは、ややあって改めて
「記憶が混乱されている様ですね、『
〈・・・ふむ。すまんがとんと思い出せん、・・・が、うっすらそなたの存在は覚えている様だ。事情は把握しておらんが、そなたの様子からわらわの帰還を守っておった様だな?うむ、大儀であった・・・。〉
「勿体無い御言葉。従僕として、当然の事をしたまでで御座います。」
〈うむ・・・。ところでそなたに尋ねたいのだが・・・。『英雄神セレウス』様は、今、
「・・・それは・・・。」
☆★☆
一方その頃、『惑星アクエラ』の深海の底にて。
『ハレシオン大陸』の遥か東南に位置するアバリア海と呼ばれる海の底にて、
「ふむ、これは非常に興味深いですね。これほどの深海にあって、なお、原形を留めているとは・・・。見たところ、通常の木材と然程変わらない素材で出来ている様ですが、これも『古代魔道文明』の『
ブツブツと呟く男は、完全に全身をローブによって覆い隠し、その正体を窺い知る事は出来なかった。
その男の目の前には、強大な大型の木造船が横たわっていた。
いや、木造船と言うには些か形状が特殊ではあるが、男の発言通り、水中と言う環境下である事も考慮しても、水性生物の存在や微生物、深海の水圧などを合わせて鑑みれば、ありえないほど損傷もなく
それどころか、うすぼんやりと“バリア”にも似た“膜”が
仮に、これをアキトが知れば、全てをすっ飛ばしてでも
ただ、幸いと言うべきか、アキトにとっては残念ながら、アキトがこれの存在を知る事はなかったが。
「
しばらく木造船付近を捜索した男は、出入口らしきモノがない事に改めて気付き、懐から“何か”の道具を取り出した。
「っ!!??」
すると、その道具はかすかな光を放ち、その光が男を包み込んだ。
木造船もそれに呼応する様に反応を示し、スーッと男をその“内部”へと
「い、いよいよもって、得体が知れないですね・・・。」
しばらく、その現象に呆気に取られていた男だったが、自らの“
“内部”は、男にはよく分からない構造物で溢れていた。
ただ一つ確かなのは、この木造船は、その
しばらく散策すると、男は突如としてありえない光景を目の当たりにする。
海の底であり、なおかつ、木造船の“内部”だと言うのに、
「・・・なんとっ・・・!!!???」
これには男も面食らった。
自分は、夢でも見ているのだろうか?
いや、知らない内に、自分は“あの世”に迷い込んだのではないか?
などと、
「あれはっ・・・!」
それは、『神殿』に似通った構造物であり、“誰か”の住居、あるいは霊廟を示す物だと見てとれたのである。
それにやや早足で駆け寄ると、男はここが“
「ふむ、ここまでは
などと呟くが、男の声色には何かを確信した様な力強さがあった。
『神殿』に似通ってはいるが、そこには何らかの装飾品も金銀財宝もなかった。
流石に今現在の
故に、結論としては、そこには最初からそれらの『神殿』や霊廟にありがちな物が一切無かった事が窺える。
しかし、“何か”を祀っていた事は事実の様だ。
いや、場所柄を鑑みれば、封じ込めた、が正解なのだろうが。
男が踏みいった、おそらくこの『神殿』の中心部には、棺がある訳ではなかった。
ただ、謎の球体上の物質が浮かんでいるだけだった。
しかし、男は、ここが“
「・・・。」
ゴクリッと生唾を飲み込むと、男は無言でその球体上の物質に、この木造船の“内部”に進入した時と同様に、“何か”の道具をかざした。
すると、チリチリとした感覚を覚え、その球体上の物質が震えるのが目に入った。
「・・・うぐぅっ、や、やはりとんでもない『
突如として発生したその膨大なエネルギーの奔流に、少しばかり後悔した様な素振りを見せた男だったが、すでに
身動きをとる事も出来ずに、男はただ堪え忍ぶ事しか出来なかった。
そんな時間が、唐突に終わりを告げる。
男の体感的には非常に長い時間だったのだろうが、客観的にはものの数分の出来事である。
その球体上の物質がピシリッと音を立てて崩れたのである。
〈・・・・・・・・・。〉
その
・・・
「・・・・・・・・・。せ、成功、した、のか・・・。」
男は、空中に漂う“
〈・・・・・・・・・?〉
しばらくすると、“
じっと、その様子を眺めていた男は、“
〈・・・・・・・・・おおっ・・・〉
感嘆の声を上げたそれは、次いで男の姿を視認した。
〈・・・よもや、再び『現世』に舞い戻ってこようとはっ・・・!・・・ふむ、察するに、
「そ、その通りに御座います。」
“
〈・・・ふむ、大義であった。しかし、今だ我が『
“
男は、そのプレッシャーに背中に嫌な汗を感じていたが、それを意識外に押し出すと、“
が、その前に、“
〈幸い、
「っ!!!」
有無を言わさず“
男は、“
バチンッと、拒絶する様に、“
〈ぬっ・・・!?『
「お戯れを、『
内心、男はバクバクとした心臓の鼓動を誤魔化しながら、どうにか余裕の態度を演じる事に成功していた。
〈・・・ほう。我の事を知っているのか・・・。少しばかり、
ジロリッとソラテスは男に視線を向ける。
それに気圧されながらも、男は内心安堵していた。
どうやら、今現在の状況では、男の方がソラテスよりも優位な状況である事が確認出来たからだ。
〈黙っとらんで、何か申せ。わざわざこの様な場所にまで来たのだ。
ようやく話を前に進められそうだ。
男はそう思った。
「“
〈・・・ほう?それは中々に興味深い話よの。・・・ならば、
「それは簡単に御座います。それだと、
男の真意を探る様に、ソラテスは男を睨み付ける。
それを男は、今度は本当の意味での平常心で受け流した。
〈・・・続けろ。〉
「はい・・・。確かに私は、自分で言うのも何ですが、人間にしては中々の『力』を持っていると自負しております。しかし、『始祖神』にして『高次』の存在である貴方様に比べたら、それも微々たるものでしょう。それでも、私を乗っ取れないほど『弱体化』した貴方様にとっては、多少の糧にはなるでしょうが。」
〈何だ、分かっておるではないか。ならば、
「先程も申し上げた通り、効率が悪いからで御座います。あなた方『高次』の存在は、『信仰』を介してエネルギー、この場合は、先程の貴方様の発言から『
〈ふむ、
「だだの『
〈ほう、
「もちろん、先祖伝来の知識もありますが、私自身が学んだり、研究したりした末での結論なのですが・・・。その様子ですと、当たらずとも遠からず、と言ったところでしょうか?」
〈もちろんそれは言えん。〉
「・・・でしょうな。しかし、そういうものとした前提でお話を続けますが、先程も述べた通り、私を乗っ取った場合、この場合は『
〈それは特に問題ない。我にとっては時間はさほど重要ではないからな。〉
「いえいえ、それですと
〈ふむ・・・。しかし、この状態でも、それは同じ事だぞ?我の『
「・・・それも魅力的な提案ですが、そんな事をせずとも、貴方様の『
〈ほう・・・?〉
男の言葉に興味をそそられたのか、ソラテスは目線で男に先を促した。
「意外と簡単な手段ですよ。言うなれば、あなた方の活動するエネルギー、すなわち『
〈なんだ、そんな事か・・・。少々失望したぞ。確かに、方法論としてはそれも“アリ”だろうが、その場合、我の『属性』に多大な影響を及ぼす。『畏れ』とは、すなわちマイナス方面の感情であるから、それを取り込んだ場合、我の『属性』もそちら側に傾いてしまう。その場合、我の“有り様”が『
「いえいえ、滅相もない。私の“
〈ふむ・・・。まぁ、それに関しては否定はせん。
忌々しそうに呟くソラテスであったが、現状を冷静に分析し、受け入れる度量はある様だ。
男は、ソラテスの言葉にさもありなんと頷いた。
「簡単で御座います。私は、むしろその存在を打倒したいと考えているからです。」
〈・・・・・・ほう?〉
その言葉に、ソラテスは更に興味深そうに男を見やった。
「その存在の名は、『
〈ふむ、
「申し訳御座いません。それに関しては、私も答えを持ち合わせておりませんので・・・。今現在の
〈ふん、なるほどの・・・。我が封印されている期間に、何かあったのだろうが、それを示す『資料』は排除されておる訳か・・・。我も、今の『
「はっ。通常ならば、先程述べた通り、『信仰』からエネルギーを抽出するのが望ましいのでしょう。しかし、『畏れ』の方が、もっと簡単に、より早くより多くのエネルギーを抽出する事が可能ですが、それですと、先程貴方様が述べた通りの事が起こり得ます。ここら辺は、一口にエネルギーと言っても、それが人々の精神エネルギーから成っているものですから、そうした制約があるのでしょう。では、それをプラスもマイナスもない、単純な“エネルギー結晶”へと変換が可能であれば、どうでしょう?」
〈・・・っ!?それを可能とした、と言うのかっ!?〉
男の言葉に、ソラテスは驚愕を
「如何にも。もっとも、私が確立した理論ではありませんので、どの様なプロセスを経て“
〈それが事実なら、確かにその通りだ・・・。プラスでもマイナスでもないエネルギーであれば、我の『属性』に影響はない。・・・そこまで言うのであれば、
「ええ、ここに。」
男が取り出した
見た目的にも美しい
〈おおっ・・・!?確かに、かなりのエネルギーを感じるぞ・・・。すでに、かなりのエネルギーを回収しておるのか?〉
「ええ。と、言っても、これは私の“協力者”から譲り受けたものなので、どの様な手段でエネルギーを回収したのかは存じ上げませんが・・・。」
〈ふむ。〉
ここに条件は出揃った。
ここからは、所謂『交渉』の段階であった。
「それで、いかがでしょうか?」
〈ふむ・・・。“
「まぁ、要約すればその通りですが、利害は一致していると愚考致しますが?」
〈ふん、中々食えん男よの・・・。何処まで知っておるのかも気になるところではあるが・・・。〉
「いえいえ、私など、あなた方『高次』の存在から比べたらちっぽけな存在ですよ。
〈(ふむ・・・。確かに、このエネルギー量では、我の全盛期には遠く及ばん。しかも、ある程度『
〈ふむ、話の大筋は理解した。
「おおっ!有り難き幸せっ!!」
男は、床にひざまずき頭を垂れた。
それに、ソラテスは
〈して、
「そうですな。私の事は、『
〈『
「はい、いえ。ご気分を害されたのならば申し訳ないのですが、我が一族の風習で、『真名』は家族以外には明かせぬのです。それが、例え『高次』の存在であっても・・・。」
〈ふむ、中々に面白い風習を持っておる様だの。良い。ならば『
「はっ!!!」
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