第113話 アキトラバーズ



◇◆◇



「それでは、今から第32回、アキトラバーズ会議を開催したいと思いま~す。議題は、新しく入った仲間であるエイルのを認めるかどうかだけど・・・。」

「・・・ソノ前ニ一ツ質問ガアリマス、アイシャ・サン。コレガ何ノ会議カハ分カリマセンガ、私ハオ父様ノ近クニ控エテイタイノデスガ・・・。」(困惑)

「おおっ、エイル殿は素晴らしい忠誠心をお持ちの様ですねっ!!私とは、気が合いそうですっ!!!」

「ティーネさんは、それで何度もダーリンに叱られてるでしょっ?」

「う~ん、正直ティーネとエイルの気持ちは分かるんだけど、アキトは過干渉を嫌うみたいだからねぇ~。適度な距離感で接した方が良いと思うよ?」

「今はディアーナさんとの『お茶会中会合中』だからね。ダーリンやディアーナさんが同席を認めたのならともかく、そうじゃないなら、あまりダーリンの回りをウロチョロしない方が良いよ?ウザがられちゃうかもしれないし・・・。」

「「なっ(ナッ)・・・!!!???」」


大人な意見を述べるアイシャとリサに、スガガーンッ!と、衝撃を受けるティーネとエイル。

いや、エイルは『魔道人形ドール』であるから、表情を変える様な機能は備わっていないのだが、それでもアキトの『アストラル』の影響を受けているので、以前に比べれば、非常に“人間くさい”リアクションをする様になっていた。

まぁ、アイシャ達は知らない事であるが。



アイシャ達が今いるのは、『ヒーバラエウス公国』の『宮殿』の一室であった。

アキトは、今現在、この部屋とは別のディアーナの私室にて、『お茶会中会合中』である。

ディアーナとしては、公女の『身分』とは関係なくお付き合い出来る数少ない同世代の友人達として、アイシャ達の同席もやぶさかではなかったのだが、そこにはドルフォロとモルゴナガルも後に合流して、やや政治色の強い話になるになっていた為、今回は泣く泣くアイシャ達の同席を見送った訳なのである。

で、その代わりと言う訳ではないが、アキトに同行して来たアイシャ達を、こうして別室にて待機して貰っている訳なのだが・・・。



「ア、アイシャ殿、リ、リサ殿っ!わ、私、主様あるじさまにウザがられてるんでしょうかっ!!!???」

「ワ、私ガオ父様ニ嫌ワレル・・・?ウフフフフッ、ソ、ソンナバカナッ・・・。ソウダ、死ノウ・・・。」(絶望)


狼狽えるティーネと、途端にネガティブになるエイル。

それには、さしものアイシャとリサも慌ててフォローを入れる。


「い、いやいや、アキトはそんな事で二人を嫌ったりしないってっ!」

「そ、そうそう。けど、ダーリンにもプライベートな時間があるんだから、そこは注意しないとさぁ~。ダーリンにべったりで許されるのは、子供達だけだし。」

「・・・そういえば、主様あるじさまはアラン殿とエリー殿を、よく可愛がっておいででしたね・・・。」

「ナラバ私ハ問題ナイデスネッ!私ハオ父様ノ“”ミタイナモノデスカラネッ!!!」(ふんす!)

「いや、その“見た目”的に無理があるんじゃないかなぁ~?エイルは一番アキトの年齢に近い感じだし。」

「それに、エイル的には“”ポジションで満足なの?なら、は見送りの方向って事で・・・。」

「イヤイヤ、早合点ガ過ギマスヨ、リサ・サン。私ハ、オ父様ノ“”デアリ、“”デモアルノデスッ!」(ドヤッ)

「それだと意味が変わって・・・、こない、の、かな?」


エイルの発言に、リサも頭を悩ませる。



ちなみに、エイルの印象が随分と変わっている感じがするが、アキトの『アストラル』の影響を受けて、一個のとしての『自我』が確立した為である。

今現在では、『魔道人形ドール』としての機能も大分回復しており、アキトレベルとはいかないまでも、アイシャ達と肩を並べる程度の『実力』を持っていた。

十全に回復していないのは、経年劣化による損傷が激しい部分である。

これは、『古代魔道文明』時代の技術が、今現在では大半が失われているので、修復する見込みは本来ない為であるが、そこはそれ、アキトと言う『古代魔道文明』の『研究家』がいるので、時間は掛かるだろうが、完全に復元する事も、そう遠い未来の話ではないだろう。


しかし、ことのほかアキトに対する“”を持ってしまったのは、これはもはやご愛嬌とも言えるかもしれない。

本来の『魔道人形ドール』の『コンセプト』から言えば、『魔道人形彼ら』は『』であり、『』である訳だ。

故に、『』との関係性は、『主従関係』が、ある種理想的であると言えるだろう。


実際にエイル自身も、アキトを『オ父様』と呼称している様に、ベースとしては『主従関係それ』に近しい関係性を構築しようとしていた訳である。

そこに、アキトの『事象起点フラグメイカー』の力が干渉した事で、“”でありながら、“オ父様大好きっ”、いや、もはや“オ父様至上主義”とも言える今現在のエイルが誕生してしまった訳なのである。

アキトは、それを知った時、“どうしてこうなった”、と頭を抱えていたのは更に余談である。

それはともかく。



女三人寄れば姦しいとはよく言ったモノで、エイルを新たに加えたアイシャ達の日常は、こんな感じに騒がしかった。

いや、何度となく言及しているが、彼女達の『地位』やら『身分』はこの際置いておくとしても、この世界アクエラでの『実力』から言えば、彼女達はアキトや『異世界人地球人』にも迫るレベルである。

しかし、それを差し引いたとしても、彼女達は普通の少女達と同じか、それ以上に乙女であった。


「クスクス・・・。」

「「「「・・・???」」」」

「ああ、御客様に失礼ですわね。けれど、アイシャ様達の御様子が何とも微笑ましくって・・・。」


漏れ聞こえた笑い声にアイシャ達は目をやると、妙齢の宮殿付きの侍女メイドさんが、謝罪の言葉を述べていた。

ディアーナが、別室に待機して貰っているアイシャ達の身の回りのお世話役と言う事で、つけてくれた侍女メイドさんであった。


本来、侍女メイドさんは、主人を立てたり、御客様をもてなしたりする『役割』であるから、過度に“己”を出す事もないのだが(いや、ヘルヴィの様なイケイケな(笑)侍女メイドもいるにはいるが)、これはリオネリア達の時にもあった事だが、アイシャ達の“人柄”がそうさせるのか、侍女メイドさんとしてではなく、一人の女性として彼女達に接してしまう事がある様である。

実際、公女の『立場』を持つディアーナとも、すんなり打ち解けているのは、彼女達の、そうした“人柄”の為でもあった。


「いや、別に私達は気にしないんだけど・・・。そうだっ!侍女メイドさん、お名前はっ?」


ピコンッと何かを思い付いた様に、アイシャがそんな事を聞いていた。


「は、はぁ、わたくしはレイチェル・ブラウンと申しますが・・・。」

「レイチェルさんだねっ!私は、アイシャ・ノーレン・アスラだよ。よろしくね。」

「はい、よろしくお願いいたします・・・?」

「突然どうしたの、アイシャさん?あ、ボクはリーゼロッテ・シュトラウスだよ。リサって呼んでね。」

「はぁ・・・。」

「まあまあ、リサ殿、アイシャ殿には何か考えがおありなのでしょう。あ、申し遅れました。私は、エルネスティーネ・ナート・ブーケネイアと申します。長いので、ティーネで結構ですよ。」

「はい・・・。」

「フム、アイシャ・サンノ行動ハ、私ニモ読メマセンネ。何ヲオ考エナノカ・・・。ア、私ハ、『魔道都市ラドニス』製造ノ、『魔道兵量産計画』ノ『試作機』デス。正式名称ハ、『自律思考型魔道人形 試作13号機』、愛称ハ、“エイル”デス。フム、シカシ、私ハオ父様ノ“”デモアリマスカラ、対外的ニハ“エイル・ストレリチア”ト名乗ッタ方ガ良イデスカネ?」(真剣)

「あ、あはははは~。それは、アキトに聞いてみない事には何とも・・・。」


アキトのファミリーネームを勝手に拝借しようとしているエイルに、またしても困惑しつつ、アイシャは曖昧に答えていた。


「んで、レイチェルさんに何か用があるの、アイシャさん?ってか、エイルのの話はどうなったの?」


それ以上に困惑しているレイチェルを交えつつ、リサはそうアイシャに問い掛ける。


「うぅ~ん、ぶっちゃけ、ってのは私達が勝手に名乗っている事だし、アキトがエイルを仲間に加えた以上、私達が何か言う事でもないでしょ?エイルの様子を見ていれば、アキトに害を与える存在とは言えないだろうし、私はエイルのを認めても良いと思うよっ?」

「異議なしっ!」

「いや、それについては、ボクも異論はないんだけど、さ。」


とんだ茶番だったね、とリサが呟く。


ちなみに、“アキトラバーズ”とは、アキトを想い、アキトを愛する者達が、アキトを支え、アキトと共に生きる事を誓う『同盟』の様なモノである。

今現在の正式メンバーは、アイシャ、ティーネ、リサの三名のみ。

ここに、エイルが新たに加わった訳である。


「当然デスネッ!」(ドヤッ)


あっさりの審査を通過したエイルは、誇らしげに胸をはった。

それに苦笑しつつ、アイシャは爆弾発言を投下した。


「で、レイチェルさんに用って言うのは、少しばかり彼女にお話を聞きたかったからなんだよねっ!前にアキトが、“侍女メイドさん、あれは良いモノだ。”って、呟いていたのを思い出してさっ!」

「「「なぬ(ナヌッ)っ!!!」」」(キラーンッ☆)

「っ!!!???」


恋する乙女の原動力は、何時でも“想い人”の為である。

『前世』では色々あったアキトではあるが、客観的に見ればアイシャ達にはかなり心を許していると思われる。

実際に、彼女達を側に置いている事を鑑みれば、アキトの彼女達に対する『信頼』は明白であるし、全てが終わったあかつきには、彼女達の気持ちに応える覚悟も、すでにアキトの中ではあった。

とは言え、アキトは、これは彼の悪い癖なのであるが、最終的には『感情』よりも『計算』で動いてしまう為、中々それを表に出す事もなかった。

故に、アイシャ達としては、不満や不安ってほどでもないが、もっとアキトに自分達の存在をアピールする事を常々考えている訳である。

まぁ、要約すると、もっとアキトに好かれる女性になるべく(構って貰うべく)、常日頃からアンテナを張り巡らせているのだ。


そこへ来ての明かされた、アキトの数少ない女性の好みの『情報』。

それを聞き逃すアイシャ達ではなかった。


(ちなみに、アキトがそう呟いた真意は、彼の『オタク的趣味』から来ている。

やっぱり、侍女メイドさんって良いよねっ!)


「ふむふむ、それは有益な『情報』ですね。我が“心の師匠”であるヘルヴィさんにも、とご教授頂いておりますが・・・。」

「男の人って、結構侍女メイドさん好きが多いモンねぇ~。上品でお淑やかで、知性もあるし・・・。」

「フム、言ウナレバ、男性ノ心ヲ掴ム手練手管ヲ備エタ存在、ト言ウ事デスネッ!コノ様ナ存在ガ、ゴロゴロト居ルノデスカラ、世ノ中ハ怖イデスネッ!!!」(驚愕)

「あ、あのぉ~、そのぉ~・・・。」


ターゲットをロックオンしたティーネ、リサ、エイルから漏れ出る威圧感にレイチェルは冷や汗を流した。


「と、言う訳で、レイチェルさんに色々聞いて参考にしようと思って、ねっ!」

「「「異議なしっ(異議ナシッ)!!!」」」

「・・・あの、私の都合は・・・?」


力なく呟かれたレイチェルのわずかばかりの言葉も、その場に雰囲気に飲み込まれていくのだったーーー。



・・・



「へえっ、レイチェルさんって新婚さんなんだぁ~!」

「え、ええ、まぁ・・・。」///

「わぁ~、素敵だねぇ~!けど、あれ・・・?それなら普通は寿退職するんじゃないの?」


レイチェルから侍女メイドとしての心得や、旦那を落とした手練手管を興味深げに聞いていたアイシャ達であったが、結局、最終的には恋バナに話が逸れていってしまうのは、これはもはや、何と言うかご愛嬌と言うヤツである。


しかし、リサはここで疑問を感じてそんな質問をした。


今現在のこの世界アクエラでは、これは『国』や『風習』、『立場』などによってもちろん異なるが、一般的に女性は結婚と共に家庭、つまりは専業主婦になる事がほとんどである。

これは、子育てに専念する為でもある。

まぁ、もっとも、この世界アクエラに一番多い『職業』は所謂“農業従事者”であるから、全く仕事をしないかと言えばそれも違うのではあるが。


とは言え、レイチェルの様な、所謂『資格』ではないが、高い知性や教養が必要な『職種』の場合は、やはり通常とは異なる。

以前にも言及したが、元々『執事』や『侍女メイド』と言うのは、ある程度の高い知性や教養が必要な為、『貴族』の子弟や子女が成るモノだ。

実際に、レイチェル自身も、とある『貴族』の一族に連なる者だが、『身分』自体はそれほど高くはない。

そうした場合、特に女性の場合は、より高い『身分』の『家』の者に見初められれば、所謂『玉の輿』も夢ではないのだが、ここではあまり関係ないので割愛しよう。


つまり、『執事』や『侍女メイド』はそんな選ばれた者だけが成れる『職業』なのだが、裏を返せば、そう簡単に代わりがきかないと言う事でもある。

特にレイチェルは、曲がりなりにも『ヒーバラエウス公国この国』の政治の中心地の一つでもある、“宮殿”付きのエリート侍女メイドなのである。

結婚するので辞めます、とは行かず、彼女に代わる人材を教育し終えるまでは、とりあえず現状維持を余儀なくされている訳であった。


「へぇ~。思ったよりも大変なんだねぇ~。旦那さんも寂しいんじゃない?」

「いえ、彼も、同じ宮殿勤めですので、その点は理解してくれています。それに、どちらかと言えば、寂しいのは私の方、かもしれませんし・・・。」///


何だかおのろけ話を聞かされたアイシャ達は、羨望と共に砂糖を吐く勢いだった。


「ぐぬぬ、羨ましい限りですね・・・。私も、いつかは主様あるじさまとっ・・・!!!」


それに一番反応していたのは、意外にもティーネであった。


「ティーネさん、段々と自分の欲望を隠さなくなったよね・・・。いや、良い傾向なんだけどさ・・・。」

「私ノ場合ハ、スデニオ父様ト、切ッテモ切レナイ“リンク”デ、アマリ体裁ヲ気ニスル必要ハアリマセンガネッ!」(ドヤッ)

「そう言った意味だと、何だかんだでエイルが一番アキトに近いのかもねぇ~。羨ましいなぁ~。」

「イエイエ、ココハアエテフォローヲサセテ頂キマスガ、オ父様ハオ三方ヲ大切ニ思ッテオリマスヨ?オ父様ト“リンク”デ繋ガッテイル私ニハ、オ父様ノ考エガ、少シ伝ワッテキマスカラ。」(慈愛)

「そ、そうなんだ?何だか、テレくさいねぇ~。」///

「あ、主様あるじさまが、わ、私の事をっ・・・!!!」///

「それは素直に嬉しいなぁ~。」///

「・・・英雄殿はおモテになるのですわね。まぁ、あれほどのお方ならば、御近づきになりたい女性も多い事でしょうが・・・。」

「「「「っ!!!???」」」」


レイチェルも、“宮殿”付きの侍女メイドとして、流石に詳細は知らないまでも、アキトの活躍を聞き及んでいた。

それに、遠めから見てもあの容姿である。

流石に公式の場でアキトも『仮面』は着用出来ないので、必然的にその神秘的な容貌は、『ヒーバラエウス公国この国』の多数の女性の知るところであった。

また、若くして『ロマリア王国』の『重要ポスト』の長を担う事を合わせて鑑みれば、アキトと結ばれれば、まさしく『玉の輿』は夢ではないのである(と思われている)。


もっとも、実際には、『前世』のエピソードからも分かる通り、それは非常にハードルが高いと言わざるを得ない。

もちろんアキトも、元・『社会人』として、ある程度しっかりとした『経済観念』を持ってはいるが、これはこの世界アクエラへやって来る以前からあった傾向ではあるが、アキトはあまり『金銭』や『地位』に固執しないタイプだからである。

これは、歴史や『オタク的知識』から得た教訓であると共に、彼自身の経験に由来する考え方でもあった。


アキトは、これは以前にも言及したが、この世界アクエラはもちろん、『前世』においても、その高いスペックの為に、やろうと思えば高い『金銭』や『地位』を獲得する事が可能であった。

しかし、そこには当然様々なリスクやデメリットがある事も理解している。

高校でのサッカー部におけるひと悶着やら、女性関係における意見の食い違い、肉親の件などもあり、ある種の虚しさを感じているとも言える。

“だからどうしたんだ。”と。


もちろん、『金銭』があれば、世の中の大体の事はクリアになるだろう。

生活の水準は上がるだろうし、贅沢な暮らしを出来るかもしれない。

しかし、“猫に小判”、“豚に真珠”と言うことわざにもある通り、どんな御題目を唱えても、本人にとって無意味ならば、それには価値がないのである。

その決めるのは、結局はその人自身だ。

残念ながら、アキトは良くも悪くも周りに流される人物ではなかった。


そして、その“フリーダムぶり”はこの世界アクエラでより顕著になっている。

先程も言及した通り、アキトの今現在のこの世界アクエラにおけるスペックを鑑みれば、彼が本気を出せば、それこそ『世界征服』すら可能であろう。

多くの部下を従え、世界中の金銀財宝を集め、世界中の美女を囲う事も出来るだろう。

しかし、アキトにとっては、これはのない事である。

もっと言えば、興味がないとも言える。

どれ程栄華を極めても、栄枯盛衰は世の常。

それに、死んでまで『金銭』も『地位』も出来る訳ではない。

いや、場合によっては、死後にそれを発端として、子孫が骨肉の争いを起こす事さえあるだろう。

“過ぎたるは及ばざるが如し”。

それを、アキトは経験として理解しているのである。


逆に、彼は自分ののある事にはとことん突き進むタイプでもあった。

アキトの愛する歴史や『オタク的コンテンツ』などは、彼の幼少時を形作った重要モノであると同時に、彼の手が介入しない独自の“世界観”を既に持っている。

、アキトも没入出来るし、何かしらのロマンを感じるのかもしれない。

まぁ、それはともかく。


要は、そうした世間一般とは異なる『価値観』を持つアキトは、普通の女性では手に負えないのである。

ここら辺は、系統こそ違えど、彼の『前世』の父親と似通った『性質』を持っているのかもしれない。

アキトと共に生きられる女性は、それこそ、アイシャ達の様な、強力な『個』を持った存在でないと務まらないだろう。


とは言え、一見してそのアキトの『本質』に気付ける女性もいないだろう。

故に、表面上の彼の、その神秘的な容貌であったり、高過ぎるほどのスペック、表向きの『立場』などに群がる女性は後を絶たない。

それに、アイシャ達は、やきもきするのであった。


「これより、第33回、アキトラバーズ会議を緊急開催したいと思いますっ!議題は、アキトに群がる女を一掃する事っ!!」

「・・・具体的には?」

「ブッ潰スッ!!!」(怒)

「いや、物騒だよっ!」

「え?あれ??皆さん???」


心配せずともアキトは、そうした女性達を受け入れる事はありえないが、そこはそれ、アイシャ達も普通の乙女達(?)である。

自分達の愛する少年に、粉をかけようとする女性達を一掃すべく、中々過激な議論を繰り広げるのだった。


流石にレイチェルには、暴走したアイシャ達を止める術など持たないのでアワアワと戸惑うのだが、ここで、彼女にとっても、また、アキトを狙っている女性達にも運の良い事にアイシャ達の気を逸らす出来事が起こった。


プルプルプル。

まるで向こうの世界地球の『通信機器』の様な“着信音”が鳴り響く。


「あれ?『通信石つうしんせき』に連絡が入った。」

「妙ですね。“定例報告”にはまだ早いですし・・・。某かの、緊急的な案件でしょうか?」

「とりあえず、出てみなよ。ここで考えていても埒が明かないしさ。」


今現在、アキト、アイシャ、ティーネ、リサ(更にそこに新たにエイルが仲間に加わった訳だが)達は、ごく少人数で『ヒーバラエウス公国この国』を訪れている。

当然、残されたハンス達やダールトン達が『ロマリア王国』にてアキト達の留守を守る形になっている訳だが、お互い何かしらトラブルがある事もある。

もちろん、ハンス達やダールトン達が、それらをアキトなしでも処理する事が出来る人材である事はアキトも承知しているが、『情報』の重要性は今更議論するまでもないだろう。

それ故にアキト達は、“定例報告”と称して、お互いの『情報』をある程度共有していたのだった。


その為に使用されているのが『通信石つうしんせき』であるが、これは元々『トランシーバー』レベルの通信距離しか持っていなかったのだが、『古代魔道文明』時代の『技術』を応用する事で、今現在ではかなり遠方への通信も可能としていた。

実際、『通信石これ』を利用する事によって、アキトはヘルヴィの派遣の要請など、今回の『ヒーバラエウス公国この国』の『政変クーデター』騒動に置ける重要な一手を打つ事に貢献していた。


「はいはぁ~い、アイシャでぇ~す。」


若干気が抜ける様な感じで、アイシャは『通信石つうしんせき』に返事をした。


「ザザ・・・、アイ、シャ、殿・・・かっ・・・!やっ、ザザ・・・と繋がっ、たっ・・・!!」


それに突っ込もうかと思っていたリサは、しかし、その乱れた通信に眉をひそめた。


「あれ、ユストゥスかな?どうしたの?酷い通信状況だけど。」


アイシャも、これはただ事ではない事を察した様だ。

通信相手を特定しつつ、情報収集に務める。


「ザザ・・・、悪い、が、緊急事態、だっ・・・。ザザ、詳し、く、説明、ザザ・・・している、時間、ザザ・・・がない。あるじさん、にすぐ、ザザ・・・に伝えてくれっ!ザザ、『王都』、ヘドス、ザザ・・・、が謎、の一団に、ザザ・・・、よって、襲撃ザザ・・・、だっ!!ザザ、俺達も、ザザ・・・、ているがっ・・・!ザザァーーーー!プツンッ!!!」

「ユストゥスっ!?もしもし、ユストゥスっ!!??」


不穏な言葉を残しながら、通信が途切れる。

その後、折り返し通信を試みたが、一向に繋がる気配がなかった。


「ど、どうしようっ!?」

「とりあえず、主様あるじさまにお知らせしましょうっ!」

「それが良いね。ディアーナさんとの『お茶会中会合中』に悪いとは思うけどね。」

「そうだねっ!!!」

「・・・。」



こうした経緯があって、『マナー』もへったくれもなく、アイシャ達がディアーナの私室に突撃する事態と相成った訳であるーーー。


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