第108話 追記~後日談 その3~



『チート』。

それは、広義には『コンピュータゲーム』において、『ゲーム』に備わっていない機能を用いることで、『使用者』が優位になる行為である。

狭義には、『ゲーム』を優位に進めるために制作者の意図しない動作をさせる『不正行為』、または『ハッキング』をし、それらを実行する行為を指す。


『チート』は元々は、『ズル』や『騙す』事を意味するごく一般的な単語であったが、上記の通り、『ゲーム』における『ズル』や『不正行為』として広く知られる様になっていった。


昨今では、これはよくある『現象』ではあるが、元々の意味合いとは違うニュアンスで使われる事も多い。

並外れた『力量』・『技量』・『才能』に対して、嫉妬を含んだ表現として『チート』と呼ばれる事もあるが、正確にはこれは間違いなのである。


さて、ではアキトがウルカの『異能力』に対して『チート能力』と表したが、これも実は半分間違いであった。

(もちろん、アキトもそれを理解した上で使用しているが。)

と、言うのも、ウルカ達の『異能力』は、『チート』には当てはまらないからである。


ここで、元・『LOL』のメンバー達の『異能力』を整理しておこう。

元・『LOL』のメンバーの『異能力』は、フルダイブ用『VRMMORPG』・“The Lost World~虚ろなる神々~”の『魔法』や『スキル』を、『異世界アクエラ』においても使用出来る『能力』の事である。

確かに、この世界アクエラの住人からしてみたら、ある種『チート』染みた『力』に見えるかもしれないが、『仮想現実VR』とは言え、一つの『世界』で得た『力』であるから、それも広義の意味では彼ら自身が勝ち得た『力』である。


また、彼らを『召喚』した『召喚者の軍勢』によって、これはアルメリアも言及していたが、元・『LOL』のメンバー達以前にも、向こうの世界地球の『神話』や『伝承』の『データ』をもとに、『偉人』や『英雄』が喚び出された事もある。

英雄』達彼らの『力』は、向こうの世界地球においても、この世界アクエラにおいても、並外れた『力』を備えていた為に、ある意味『チート』と見なされても仕方ないが、『英雄』達彼らはそうある様に存在なので、これも『チート』には当てはまらない。

何故なら、これは『英雄』達彼らが、持っていた『力』だからである。


それを言うならば、アキトの方がよっぽど『チート』持ちであるかもしれない。

無自覚だったとは言え、『英雄の因子』と言う『力』を持ち、女神・ルドベキア、女神・アルメリア、英雄神・セレウスの『加護』受け、『前世』の『知識』を組み合わせた強力な『魔法技術』や様々な『力』を行使する事が可能なのだから。

まぁ、それ故に、いらぬ苦労も多いのであるが。


また、この世界アクエラの住人では、ニコラウスも、ある意味では『チート』持ちであった。

ニコラウスは稀少な『』と言う『力』を持ち、彼自身はその『力』を『精神干渉系』に全振りしてしまったが、まっとうに『魔法技術』を学んでいれば、この世界アクエラの『歴史』に名を残すほどの『大魔道師』・『大魔法使い』になっていたかもしれない。


あるいは、『グーディメル子爵家』のリリアンヌ・ド・グーディメルの様に、単純な“天才”もいる。

それも、人によったら『チート』と感じるかもしれないが、これもリリアンヌの『才能』と『努力』の結果に過ぎないのである。


そもそも、人によってその『能力』に差が生じるのは当たり前の話だ。

スポーツが得意な子、勉強が得意な子、絵が上手い子、読書が好きな子、おしゃべりが得意なクラスの人気者etc.

姿形、性別に身体能力や家庭環境による精神性の在り方。

それが一人一人違うのは当たり前の話だからである。

つまり、それは一つの『個性』なのである。

結局は、その『力』をどう使うか、あるいは活かすかだ。

そうした意味では、各々の『アドバンテージ』の違いはあれど、皆同じ『ステージ』に立っているのである。


他人ひとを羨む事が悪いとは言わないが、しかし、それがマイナスの方向に向かうならば、それは止めておいた方が健全であろう。

何度も言及するが、人は今現在自分が持っているモノ、これまでに自分が積み重ねたモノで勝負するしかないのだから。

他人ひとを羨んでも、他者が有している『力』が手に入る事は、、ありえない事なのだからーーー。



□■□



「・・・ぁ・・・あ、貴方、はっ・・・!?」


うん、どうやら何とかまだ彼女の『精神』は、“”に留まっている様だ。

彼女のを見て、僕はそう判断した。


「何とか間に合った様ですね。後もう少ししたら、貴女の『精神』は“”に持っていかれたかもしれませんねぇ~。」

「・・・へっ・・・?」


僕の言葉の意味が分からなかったのか、彼女はポカーンとしていた。

いや、僕も経験があるので、その戸惑いは分からなくはないが。


「えっ、あの、その、何がなんだか・・・。」

「まぁ、混乱するのも無理はありませんが、ひとまず落ち着きましょう。とりあえずの“危機”は脱した訳ですからね。」

「は、はぁ・・・。」

「それに、想定とは違いましたが、貴女とは落ち着いて話をしたいと思っていました。もう薄々お気付きかもしれませんが、僕らは『』ですからね。『異世界人貴女方』がこちらの世界アクエラに来た経緯は聞き及んでいますが、個人的にはこちらの世界アクエラでの暮らしぶりや『異世界人貴女方』の『』も気になるところですからね。」

「・・・っ!!!???で、では、貴方は、やはりっ・・・!!!」

「ああ、申し遅れました。僕は西嶋明人にしじまあきとこちらの世界アクエラでの名はアキト・ストレリチアと申します。貴女方と同じ元・『地球人』ですよ。」



・・・



「やはり、『』の方なのですね。貴方の発言から、もしかして、とは思っていたのですが。」

は僕としてはでしたが、まぁ、そうですね。」


見た目は少年にも関わらず、非常に大人びた言動に紳士的な立ち居振舞い。

もしかしたら、見た目通りの“年齢”ではないのかもしれませんね。

しかし、こちらの世界アクエラに来てから初めてとも言える“”を深く知っていそうな人物。

状況が状況ではありますが、私は軽く安堵感を覚えていました。

元・仲間とは疎遠となった私が、そんな心情になるのも不思議な話ではあるのですが。


「あ、私はウルカ。『リアルネーム』は仲西麗香なかにしれいかです。」

「仲西さん、ですか・・・。もしかして、れいかは麗しい香りと書くのではないですか?」

「はい、よくお分かりですね。」

「いえ、単純な推理ですよ。ウルカから連想して、そうなのではないか、と思っただけです。『ゲームキャラクター』の名前を自分の名前にする人はいますが、『ネットゲーム』だと『リアルネーム』は危険ですからね。それで、読み方の一部を変えたのではないか、と推測したまでですよ。」

「なるほど・・・。」


うん、間違いありませんね。

一応、確認の為に、あえて“本当リアルの名前”を出してみた彼の反応がそれでした。

彼は向こうの世界地球の“”に相当詳しそうです。

彼の『』発言には、より一層信憑性が増しましたね。


「いやぁ~、それにしても災難でしたねぇ~。こちらの世界アクエラに喚ばれてしまっただけに飽きたらず、『時の狭間』に堕ちてしまうとはね。」

「・・・西嶋さんは、色々と“”にお詳しい様ですね・・・。」

「アキト、で結構です。もう、そう呼ばれ慣れていますのでね。」

「・・・では、私もウルカと・・・。『リアルネーム』には、もう意味がありませんので・・・。」

「ふむ、了解しました。しかし、“”、ですか・・・。まぁ、少なくとも貴女方よりかは色々と知ってはいますが、はたして、それを貴女にそのまま知らせても良いモノかどうか・・・。」


アキトさんの発言に、私はキョトンとしました。

それを察して、彼はポツポツと語り出す。


「いえ、と言うのも、我々の個人的な心情はともかくとして、今現在の我々は、言わば『』同士なのです。貴女のこちらの世界アクエラでの“”は存じ上げませんが、『ハイドラス派』の手の者と共に行動していた以上、貴女が『至高神ハイドラス』に与する者である可能性がありますからね。」


そういえば、トリアさんとエネアさんが、『英雄』は『ライアド教』をと、言っていましたね。


「それはですよ、アキトさん。『ライアド教』や、『至高神ハイドラス』様は、この世界アクエラの平穏を願っています。貴方は『反ハイドラス派』を掲げている様ですが、が解ければ、きっと分かり合えると思いますが・・・。」


しかし、私の言葉に、彼はフルフルと頭を振った。


「いえ、それは不可能です。何故なら、それはでもなんでもないからです。」

「そういえば、トリアさんやエネアさんは貴方がに何事かとか言っていましたね・・・。」

「それも違います。どちらかと言うと、のは貴女の方ですね。と、言うのも、僕がこちらの世界アクエラに来る事になった『元凶』も、そして、貴女方をこちらの世界アクエラに喚んだ『元凶』も、もとをただせば『至高神ハイドラス』なのですから。まぁ、にわかには信じられないでしょうけどね。」


今度こそ私は、一瞬頭が真っ白になりました。

この方は何を言っているのでしょう?


「いえいえ、私達を喚んだのは、『ロンベリダム帝国』の皇帝ですよ?本人も、それは認めていましたし。貴方はどの様にしてこちらの世界アクエラに来たのかは存じ上げませんが。」

「(ふむ。大分『』、いや、『』なのかもしれないが、が進んでいる様だな・・・。それを“”のは可能だが、いや、意外と『ハイドラス派』の内情を知る良い機会かもしれないか・・・。)ふむ。そこら辺も含めて『情報』の行き違いがある様ですね。どうでしょう?ここは一旦お互いの『』は忘れて、『情報』の擦り合わせをすると言うのは?もちろん、お互いに言えない事もおありでしょうがね。」


何事か考えた末に、彼はそう提案してきた。

それに私も頷くのだが、ハタと気が付いた。


「ええ、もちろん。は早めに解いて、お互いに協力出来れば良いですからね。ところで、では何ですから、とりあえず元の場所に戻りませんか?」

「いえ、で結構ですよ。でなら、と邪魔が入りませんし。」


彼は、訳知り顔でそう答えた。

そういえば、改めて考えてみると、は何処なんだろうか?

段々感覚も戻ってきたが、改めて見てみると、は不可思議な場所であった。

が、『異世界アクエラ』である事は間違いないだろう。

その証拠に、トリアさんとエネアさんが確認出来る。

それと、『魔道人形ドール』も。

しかし、あいかわらず『石像』の様に微動だにせず、まるで『

その『』で動いているのは、私と彼だけ。


「そう、ですか・・・。ところで、は何処なんでしょうか?」

は、先程も申し上げた通り、『時の狭間』です。貴女が使用した『時空間干渉系』の『魔法』か『スキル』かは分かりませんが、によって作り出された『時空間』の一部分が切り出された場所ですね。『異世界人地球人』の貴女なら、『写真』や『映像』の『中』に取り残されてしまった様な感じ、と言えば分かりやすいでしょうか?当然ですが、は元の『時間軸』としては、すでに過ぎ去った『過去』ですから、ではに『干渉』する事は不可能です。」

「なるほど・・・?では、貴方はどの様にしてに来られたのですか?」

「僕はすでに『神性』の『領域』に足を踏み込んでいますからね。通常の『物理法則』を越える事も可能なのです。一応、僕の持つ『情報』では、『異世界人貴女方』にも同じ事が可能だと思われますが、まぁ、『アストラル』に関する事を理解出来ていないでしょうから、それも意味を成さないでしょうね。言うなれば、ある『レベル』には達しているが、『条件』を満たしていない為にまだそれを得られていない、と言う感じでしょうか?」

「なるほど、分かりやすいですね。」


私達の『力』はこの世界アクエラでは相当上位に入ると思っていましたが、上には上がいるのですね。


「さて、それではお互いどの様にしてこちらの世界アクエラに来る事となったかとか、一つ一つ整理していきませんか?」

「良いでしょう。もっとも、貴方は私達の事はご存知の様ですが・・・。」

「おおよその事は、ね。しかし、『異世界人貴女方』がこの世界アクエラでどの様に過ごしているかとか、『異世界人貴女方』の『』は僕も知りません。それが分かれば、現状の打開の一歩になるかもしれませんからね。」

「まぁ、そうですね。」



・・・



「ふむ。どうやら、『異世界人貴女方』も一枚岩ではない様ですね。この世界アクエラに魅力を感じている人もいる様だ。」

「う、嘘です。『至高神ハイドラス』様が、我々を利用しようとしているなどっ・・・!?」


一通り、おおまかな『情報』を交換すると、彼女は頭を抱えていた。

ふむ、彼女はまたまだ『精神的』に幼いのかもしれないな。

残念ながら、『世界』や『世間』と言うのは、『優しさ』では出来ていない。

『ゲーム内』ですら騙し合いが横行するのだから、『リアル』な『世界』では言わずもがな。

自分に優しくしてくれるからと言っても、すなわち、その人やその『団体』が『絶対的』な『正義』な訳ではないからな。

まぁ、それを理解していても、人は騙される事はある訳だが。


しかし、収穫はあった。

異世界人彼女達』の中には、元の世界地球への『帰還』を望んでいる人も何人かいる様だ。

それならば、『交渉』次第では、に『送還』する事も少なくて済むかもしれない。

まぁ、中には『』もいるみたいだが。


「混乱しているところ申し訳ありませんが、貴女がそこまで思い悩む必要はありませんよ?まずは、貴女の中の『優先順位』を考えるべきです。貴女のお話を聞く限り、貴女の中の『優先順位』の最上位は、『至高神ハイドラス』でも『ライアド教』でもなく、向こうの世界地球への『帰還』でしょう?これは、むしろ当たり前の話ではありますが、『国』であろうと、『企業』であろうと、『社会』であろうと、『組織』であろうとも、普通は貴女の意向を最優先には考えてくれませんよ?何故ならば、それらにも『優先順位』というモノがあるのですから。ならば、貴女も自分の事を最優先に考えても良いのです。もしかしたら、それらに対して貴女は『恩義』があるのかもしれませんが、それは向こう側が何かしらの“思惑”を持って動いた結果なのですから、貴女がそれに囚われる必要はないのです。まぁ、人によっては冷たいと感じるかもしれませんがね。」

「ですがっ・・・!!!」

「まぁ、これは僕の『価値観』ですから、貴女に押し付けるつもりはありませんがね。ですが、仮に貴女がそれに納得出来ないと言って、僕らとする道を選ぶならば、それは貴女の『意思』を尊重しますよ?もっとも、そうなった場合は、一切の容赦をしませんがね?」

「っ・・・・・・・・・!!!」


僕が軽く『圧力プレッシャー』を掛けると、ビッシリと冷や汗をかくウルカさん。

しかし、これは僕の『本心』である。



残念ながら、この世に『絶対的』な『正義』も『悪』もない事はすでに承知しているので、ぶっちゃけると僕は、何処の誰が『野心』を抱こうと、それに巻き込まれる人々がいたとしても知った事ではない。

まぁ、仮にその“”に居合わせたならば、僕の『価値観』から“”する事はあるかもしれないがね。

しかし、それはあくまで僕の『エゴ』であり、誰かの為にとか、『正義』を名乗るつもりは毛頭ない。


それは、『英雄』の『称号』を与えられた今でも変わらない。

どれだけ強大な『力』を有していても、人一人に出来る事などたかが知れているのだから。

『世界』や『人類』、なんてモノを背負うつもりは毛頭ないのである。

何故ならば、それは容易に“”からである。


『至高神ハイドラス』や『ライアド教』と事を構える事も、もちろん様々な理由は存在するが、ぶっちゃけると、これも自分の為であると僕の中では結論が出ている。

世の中には、『愛』とか『理想』とかの為に戦える人が存在する。

それが意味はないとか、無駄だとかまでは言わないが、『愛』や『理想』の為とか言って自分の『心』を誤魔化すのは止めた方が無難だろう。

それは、己自身を削る行為だからである。

ましてや、『役目』なんてモノに振る舞わされるなど、言語道断である。

何故ならば、それが破れた時、今度は人は自分を助けなかった『世間』を恨む様になるからだ。


この様に、誰かの為に行動する事は尊い行為だが、それも究極的には自分の為であると理解していないと、その人は不幸になると僕は考えている。

『無償の愛』は尊いモノだが、得てして人はその境地に達する事は難しい。

つまりは、どれだけ『理論武装』をしても、そこには『利己的な愛』が存在するのである。


例えば、『親』と『子』の関係を一例に挙げてみよう。

『親』は子供の為といって、色々と口うるさく要求してくる。

これは、世間一般的に日常の光景として見る事が出来るが、『関係性』としては一番『利害』から遠いこの『親子関係』においても、これは『親』の『エゴ』が介在している訳である。

当たり前の話だが、『血縁関係』にあるとは言え、『親』と『子』では、『人間』として別の『人格』を有している。

有り体に言えば、全く別の『人間』なのである。

しかし、その事実に気が付かずに『親』が『子』に自身の『理想』を押し付ける事が往々にしてある訳だ。


大抵の子供は、それに反発するだろう。

それは、むしろ健全な証拠だ。

『親』の『ロボット』ではなく、一個の『人間』としての『自我』や『人格』に目覚めた証拠だからだ。

これが、言わば『自立』への第一歩なのである。


『親』ならば、これは本来喜ぶべき事態だ。

ところが、それを受け入れられない『親』もいる。

場合によっては裏切られたと感じるかもしれない。

これは、

故に、自分の思い通りに成らなかった事に対して、苛立ちを持つのである。

これが、所謂『子』に対する『過干渉』となり、『子』離れ出来ない『親』、『親』離れ出来ない『子』と言う状況を生み出すのである。


あるいは、自分の良いと思ったモノを、他者が受け入れなかった時にも、人は苛立ちを募らせる。

これは、自分と他者を別個の『生き物』である事を理解していないから起こる『現象』である。


それを踏まえた上での僕の結論は、『個人主義』で良いと言う事だ。

特に、こんな『世界』ならば、尚更である。

まぁ、だからこそ、ハイドラスやフロレンツ候、ニコラウスさんの様な存在が横行する事にもなりうるのだがな。

しかし、心情的には、僕は彼らを批判するつもりはない。

彼らには彼らなりの考えがあるのだろうが、ただ単に、僕の『オタクライフ好きなモノ』を邪魔する者だったから排除しただけの事である。

まぁ、これは、僕の『覚悟』であり、それに対して『自分勝手』であると批判されても仕方ないとは思う。

しかし、僕はそれを


さて、ではこの女性には、それほどの『覚悟』があるだろうか?

答えは、否である。

異世界人彼女達』がこちらの世界アクエラの来たのは、どう見積もっても一年にも満たない。

それなのに、この世界アクエラの為に行動しようなどと、明らかに正常ではない。

おそらく、彼女の生来の『依存心』をハイドラスに利用されているのだろうが、そこには彼女自身の『意思』は介在していないのだから、彼女はそんなモノに付き合う必要はないのだ。

彼女が、その為には何も厭わないと言うなら話は別だけどね。

向こうの世界地球に帰りたいなら、それを最優先に考えるべきだと僕は思うがねぇ~。



「・・・そ、それは、“脅し”でしょうか・・・?」

「いえ、ただの“忠告”ですよ?貴女が心の底から『ライアド教』や『至高神ハイドラス』の為に尽くしたいと考えるならば、僕はそれを尊重します。ただし、僕の考えでは、それらと『迎合』する事はありえないので、その末でぶつかる事はあるかなぁ~、と。」

「『ライアド教』や『至高神ハイドラス』が何をしたと言うのですかっ!?」

「いやいや、先程もお話ししたではありませんか。僕や『異世界人貴女方』をこちらの世界アクエラに喚んだ『元凶』ですよ?」

「か、仮にそうだとしても、何か理由がっ・・・!!!」

「いやいや、理由があれば他者を『』・『』して良い事にはなりませんよ?」

「・・・っ!!!」


うぅ~ん、彼女と言い合いをするつもりはなかったんだけど、どうやら彼女の『依存心』は相当なモノだなぁ~。

あるいは、一種の『ストックホルム症候群』に陥ってるのかもしれないが。

まぁ、正直、彼女を救う『義務』は僕にはないけど、一応こちらとしてはハイドラスのもとに『戦力』が集まる事は避けたい事態である。

故に、彼女の『意思』(があるかどうかは知らないが)は尊重するが、ハイドラスとの『リンク』は切らせて貰いましょう。


「もちろん、僕も『ライアド教』や『至高神ハイドラス』を全面的に批判するつもりはありませんよ?彼らの“”はともかく、彼らは広く『社会貢献活動』もしていますからね。」

「で、ではっ!!!???」

「しかし、それはあくまで彼らの一つの『側面』でしかない。『至高神ハイドラス』は、我々人類、いや、この世界アクエラに生きる者達を『』や『』としか認識していません。故に、『世界』の『バランス』が崩れようと、我々が被害を被ろうと、一切何も感じないのです。むしろ、人は苦境に陥れば陥るほど、ヤツにとっては都合が良いかもしれませんね。」

「・・・っ!!!あ、貴方とは話が合わない様ですねっ!!!」

「まぁ、信じられないのも無理はありませんけど、『真実』から目を逸らさない方が良いですよ?」


怒り心頭になった彼女は、聞く耳を持たないと僕から目を逸らす。

うん、少し険悪なムードになってしまったが、まぁ、ここまでかね。


「さて、では貴重なご意見は聞けたので、ここらでお開きとしましょうか?何か僕に聞き忘れた事はありませんか?僕なら『異世界人貴女方』を『送還』する事も可能ですけど。」

「・・・っ!!!???」


最後に、一応その『事実』を伝えておく。

少し意地悪かもしれないが、僕の『交渉術やり方』では一番の『奥の手』は最後まで晒さないのがセオリーであるからだ。

まぁ、今回はそれが悪手になったかもしれないがな。


しばしの葛藤の末、彼女は結論を出した様だ。


「結構ですっ!!!貴方が本当の事を言っているとも限りませんし、第一貴方に『借り』を作りたくありませんっ!!!自力で見つけますので、早くから出して下さいっ!!!」

「ま、いいですけど、ね・・・。」


残念ながら、『交渉』は決裂の様だな。

まぁ、しかし、僕の『』はすでに、ここから先は彼女が判断する事である。

その結果として、仮に彼女が不幸になったとしても、それは彼女が選んだ『』なのだからーーー。


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