第70話 『事象起点【フラグメイカー】』の『効能』



◇◆◇



「セレウス様、ですか?」

「おうよっ!」


いや、そんなドヤ顔(いや、まぁ、顔はハッキリは見えないんだが)でニカッと頷かれても、僕はその『名』を知らんのだが・・・。

まぁ、僕に『宿』いると言った以上、心当たりとしては『英雄の因子』の事しかないんだけどね?

しかし、それにしてもここに来て唐突に出てきたモンだ。

これまで僕と、ある意味“一心同体”だったのにも関わらず、今まで一向にセレウス様からの“アプローチ”がなかった事から、彼に何らかの『制約』があったのか、あるいは彼の『解放』には何らかの『条件』が必要だったのかもしれんが・・・。

もしかしたら、その『解放条件』が『限界突破』の『試練』と言ったところなのかもしれないなぁ。


「察しが早くて助かるぜ、アキト。流石は俺の『宿主』だぜ。確かにお前の『英雄の因子』の『能力』は俺の『神霊力しんれいりょく』の一部だ。まぁ、しかし、それも最早お前自身の『力』だがな。」

「・・・ナチュラルに人の思考を読むの止めてもらっていいですか?」

「おお、すまんすまんっ!お前との付き合いも随分長いからなぁ~。自然と“考える事”が伝わってきちまうのよ。」


カラカラと豪快に笑うセレウス様。

それすらも様になってるのが何だかイラッとするが、まぁ、それはともかく。


「それで、急に出てきてどうしたんですか?」

「いや、急じゃないのよ、これが。俺、一応こっちの世界アクエラでは『』とか『』、『』をやってたんだけど、ちょっとした“事件”があって『』に“ジョブチェンジ”したら、『』扱いされちゃってさぁ~。最終的に双月の片方レスケンザに島流しになっちゃったのよ。ま、その時に『神の座』を追われて幽閉封印されてたんだけど、何の因果か偶然発生した『時空の歪み』に飲み込まれて、明人のいた世界地球に飛ばされちゃったんだよねぇ~。」


えぇ・・・、急にメッチャ喋るじゃん。

何気に気になる『ワード』もチラホラあるし、あっけらかんと言うには結構重たい話じゃね?


「あのぉ~・・・。」

「いやいや、すまんが疑問や質問は後にして、まずは俺の話を聞いてくれ。『』もあんまりないからなぁ。」

「はぁ・・・。」


確かに以前のルドベキア様との邂逅(まぁ、それも随分前の話になるが)の時に感じた『力』と言うか『存在力』みたいなモノが、セレウス様からはあまり感じられない。

彼の言葉を借りるなら、『神霊力しんれいりょく』、あるいは『神気しんき』とでも言うのだろうか?、が随分弱まっているのかもしれない。


「そうそう、正にそれなのよ、アキト。こっちの世界アクエラじゃ、『ライアド教』によって俺の『存在』そのものは抹消されちまったし、細々と生きている『信仰』は『名』も知られぬ『破壊神』や『邪神』としてのモノだから、俺に直接『力』を与えるモンでもないしな。明人のいた世界地球じゃ、そもそも俺の『存在』なんて知られてないから、いくら『神』が『高次元』の『存在』と言っても、人々の『信仰』無しだと、その『力』の供給が途絶えてしまうのよ。陸に打ち上げられた魚と一緒さ。残っていた『神霊力しんれいりょく』を使いきっちまったら、俺の『存在』は『根源』へと還っちまってた事だろうよ。ま、アキトのおかげで俺はこうして『存在』していられるんだけどよ。」

「だから、ナチュラルに人の思考を読むのを止めて下さいよぉ~。何ですか?神様の間で流行ってるんですか?ルドベキア様もアルメリア様もそうだったし・・・。」

「おう、そうそう。ルドベキアの嬢ちゃんとアルメリアの嬢ちゃんが世話になってる様だな!彼女等の“親代わり”としては、一応礼を言っとくぜっ!」

「あれ?お二方とはお知り合いですか?ってか“親代わり”って?確か彼女達は『管理神』だから、『土着神』より更に『高次元』の『存在』でしたよね?」

「ま、その辺の“事情”も追々な。今は、それよりも重要な事を伝えておきたい。」


一転してセレウス様の真剣な雰囲気に、僕も様々な疑問を一旦脇に置いておいて、彼の話に真剣に耳を傾ける事にした。


「サンキューな。で、さっきも言った様に、明人のいた世界地球に飛ばされた俺は、『力』の『供給』がない状態になった。俺としては、ちょっと色々あって、そのまま『』ちまってもよかったんだが、その時偶然お前に出会った。生まれて間もないお前は、とある理由でに所謂『霊能力』、『霊媒体質』・『憑依体質』に目覚めちまってたんだ。んで、色々あってそのに衝撃を受けた俺は、お前に『宿』と決意した。お前なら察しがつくと思うが、『霊媒体質』やら『憑依体質』ってのは結構危険な代物だからな。」

「『霊能力そんなモン』に目覚めた覚えはないんですが、『英雄の因子』の事を考えれば分からない話ではありませんね・・・。『オタク』的知識から推測すると、無秩序かつ無意識に『超自然的存在』等を引き寄せてしまう状態になった。しかも、赤ん坊。確かに、危険な状態ですね・・・。」


何だか話が若干“オカルト”じみてきたが、セレウス様を始め、ルドベキア様やアルメリア様などの『高次元』の『存在』を直に知っている僕としては今更ではあるか・・・。


「そっ。『霊媒体質』や『憑依体質』はある意味一種の『テレパス能力』だからな。『憑霊』・『神降ろし』・『神懸り』・『神宿り』・『憑き物』って言葉がある一方で、『悪魔憑き』とか『狐憑き』なんて言葉もあるくらいだ。いずれにせよ、それらに対して何らかの“対処法”を持たなければ『精神』や『霊魂』に多大な悪影響を及ぼすし、下手すればお前自身の『魂』も。ま、あくまで仮定の話だがな。んで、俺が『宿』事で、お前の『霊能力』はされた。言うなれば常時『神降ろし』をしている状態になったから、他の『』が入り込む“”がなくなったんだな。まぁ、その弊害って訳じゃないが、それによってお前が『英雄の因子』の『能力』を持つに至ったって訳だ。もっとも、明人のいた世界地球でのお前の『能力』は、デフォルトの『能力』のみが発現していただけの状態だったが・・・。」

「ふむ、なるほど・・・。」


とりあえず、僕とセレウス様の関係、僕が『英雄の因子』所持者になった経緯は理解出来た。


「俺としても、一度は逃げ出しかけたこっちの世界アクエラへの復帰だったが、お前のおかげでしっかり『決着』をつけなきゃならんと思い直した。幸い、お前に『宿』事で、“消滅”の危機は免れたんだが、恩義のあるお前に要らぬ苦労を背負わせるのも忍びないと思って、向こうの世界地球じゃあえて“表”に出なかったのよ。ま、お前の『霊能力』のを介して『力』を取り込んでいたとは言え、俺自身の『神霊力しんれいりょく』もかなり下がっていたって事情もあるんだけどな?」

「ふむふむ。」


捉え方によってはある種の『寄生』みたいに聞こえるが、『英雄』と言う“称号”を持つに至ったとしては、“”が如何いかに尊いモノかを実感している。

少なくとも、確かに『地球』時代の僕は人並みに幸せだったと思うし、『地球』で普通に暮らす分には『英雄の因子』の『能力』など必要ではないからな。

逆に、そんな『能力』を持っているとバレたら、何らかの事態に巻き込まれていた可能性すらある。

そう言った意味では、セレウス様の配慮はありがたかったし、彼が取った手段は分からない話ではなかった。


「いや、ある意味『寄生』ってのは合ってるさ。俺の方にもメリットはあったからな。少しずつ『力』を蓄えて、お前の『最期』を看取ってからお前と別れて、こっちの世界アクエラに復帰するつもりだったんだよ。まぁ、しかし、それも最終的には裏目に出ちまったけどな。まさか、こっちの世界アクエラ側からの干渉があるなんて思いもしなかったからよ。」

「『至高神ハイドラス』からの干渉、ですか・・・。」

「うん、まぁ、厳密には違うんだが、概ね合ってる。で、知っての通り、『運命力』を弱体化させられたお前は『転生』するハメになっちまったって訳だ。俺も、干渉の影響でお前の中で『』につくハメになっちまってたから、それにあらがう事も出来なかったしな。まぁ、それを直前で察知したルドベキアの嬢ちゃんが介入して色々と『』をしてくれたし、アルメリアの嬢ちゃんもこっちの世界アクエラでお前を保護してくれたおかげで“最悪の事態”には陥らずに済んだんだがな。」


確かに客観的に考えれば、事前にルドベキア様やアルメリア様に出会わなければ、僕自身も『ライアド教』にされていた可能性が非常に高い。

『英雄の因子』を抜きにしてみれば、『西嶋明人にしじまあきと』時代はごく普通のおっさんだった訳だし、多少頭が回っても目端が効いても、こちらの世界アクエラの事は何一つ知らない状態では、いいように言いくるめられて、おだてられて、自分はなんだと増長していた可能性も否定出来ない。

それだけでもこちらの世界アクエラの人々に多大なご迷惑をお掛けする事態になっていただろうし、しかもも『世界』のバランス崩壊の要因になる僕は、まさしく“災厄”そのものになっていたかもしれないのである。

改めて実感したが、今現在の『召喚』に巻き込まれた『地球人』達と同じ立場に立っていたかもしれないのか・・・。


「そういうこった。ま、俺も含めて、ルドベキアの嬢ちゃんやアルメリアの嬢ちゃんも、もちろん『制約』もあったんだが、“神々俺達の事情”にお前を巻き込むのはだったから、知らせていない事や黙っている事も多かったんだけどな。まぁ、ここまで巻き込んでおいて今更なんだが。で、まぁ色々あって『限界突破』の『試練』をクリアした事によって、お前の『精神』や『霊魂』は更に強化された。それによって俺もこうして“表”にって訳だ。」

「なるほど・・・。」


『限界突破』の『試練』にはそんな裏があったのか・・・。


「で、ここからが本題だ、アキト。」

「・・・なんでしょうか?」


若干迷う様な素振りをみせながらも真剣味を帯びたセレウス様の雰囲気に、僕も襟を正して真正面から向き合う。


「・・・お前は俺とするべきだ。これ以上お前を“神々俺達の事情”に巻き込む訳にはいかない。幸い、お前自身の『霊能力』は『限界突破』の『試練』をクリアした事で完全なコントロールが可能になったし、お前自身も“レベル500カンスト”を越えて強くなった。『英雄の因子』の『能力』も、今現在発現しているモノが弱体化した状態になるとは言え、お前自身の身に定着しているから、お前にちょっかい掛ける『』に後れを取る事もないだろう。そもそも俺がいなければ、お前が狙われる理由がなくなるからな。」

「・・・。」

「まぁ、だからと言ってお前自身の『力』を付け狙う『』が全くいなくなるって訳でもないが、それはどの『世界』でも同じだろ?『力』を持つ者は、人々から恐れられるか、逆に利用されるかってのが大体相場で決まっているからな。」

「確かに・・・。」


セレウス様の言いたい事も理解出来る。

しかし、僕は思わずクスッと笑いをもらしてしまった。


「?何かおかしかったか?」

「フフフッ、いえ、すいません。ただ、僕と貴方はよくと思いまして・・・。」

「???」


疑問符を浮かべるセレウス様に謝罪しながら、また僕はおかしくなってしまった。

おそらくこのは今までもきたんだろうなぁ。

それこそ、その結果『破壊神』に“ジョブチェンジ”


「・・・はしませんよ、セレウス様。そもそも先程貴方自身が仰ったではありませんか?今、ここでしたとしても、貴方自身はどうするおつもりですか?僕の目から見ても、貴方の本来の『力』がどの程度のモノかは想像もつきませんが、少なくとも“本調子”でない事は明白です。『信仰』と言う『力』の『供給』を受ける手段が失われている今の貴方が、僕としたところで、貴方の『目的』に即しているとは到底思えませんが?」


僕の『答え』に絶句した様子のセレウス様。


「・・・しかし、お前にこれ以上迷惑を掛ける訳にはっ!!!」

「・・・“神々の事情”の事や貴方の“事情”の事は正直見当もつきません。ですが、貴方がお一人で全てを背負われる事が間違いである事は確信を持って言えます。僕と“一心同体”であるならご存知ですよね?以前、僕自身アルメリア様に諭された事を・・・。」

「っ!?それは・・・。」



ー「・・・アキトさん、それは思い違いですよ?彼らも『この世界アクエラ』に生きているのです。『この世界アクエラ』に生きている以上、自分達の文化や思想、自由などは自らで勝ち取るべきなのです。意見の対立や、文化の違い、人種の違いによる『価値観』の違いで、人々は常に『争いの種』を持っています。その全ては、『誰か英雄』が解決する事では無く、自分達一人一人が考え行動する事でしか解決し得ない事です。『貴方英雄』一人で背負い込む事ではありませんよ?」ー



今にして思えば、これはアルメリア様からセレウス様に宛てた『メッセージ』でもあったのかもしれないなぁ。

これは、以前僕自身が仲間達や他の人を“”に巻き込む事を良しとせずに発した言葉に対するアルメリア様の返答だった。

これによって僕は、自分一人で全てを解決しようと自分自身のに気が付き、反省し、『』を広げるキッカケとなったのだった。

そして、それは『神』と呼ばれる『高次元』の『存在』も同じではないだろうか?

いくら強大な『力』を持っていても、『』でも『』でも、一人で出来る事はたかが知れているだろう。

なぜなら、『世界』とは様々な『生命』達一つ一つが


「正直、貴方の心遣いは有り難いと思います。僕だって、出来れば面倒事はゴメンですからね。けれど、これは、最早“”でもあります。向こうの世界地球にいた時の僕なら、嬉々としてセレウス様の提案を受け入れたでしょうが、こちらの世界アクエラで生き抜いてきた僕は、自分の“事情”、あるいは『生命いのち』と置き換えても良いかもしれませんが、を他の人に押し付けて、自分は『何もしない』などと言う事が如何いかに愚かな行為であるかを再認識しています。もちろん、『高次元』の『存在』に比べれば僕に出来る事は限られているでしょうが、しかし、それでも『何もしない』と言う『選択肢』だけはありえないと断言出来ます。それは、この世界アクエラに生きる者にとっては“死”と同義なのですから。」

「っ!!!」


僕だって、別に何かから逃げる事や諦める事を否定するつもりはない。

皆が皆『物語』の『英雄』の様に“強い”訳ではないからだ。

しかし、だからと言って、自分達の『生活』や『人生』を他者に委ねて良いモノじゃない。

それは、最早自分達の『生活』や『人生』ではなくなるからだ。

当たり前の話で、だがしかし、誰もが意外と忘れがちになる事なのだが、最終的に自分自身の『生活』や『人生』を守れるのは自分自身だけなのである。

それを、僕らは忘れてはいけないのである。


「貴方自身の精神やお考えはとても尊いモノですが、一方で非常にでもありますよ?聞き様によっては、「関係ない奴はすっこんでろ。」と言っているのと同じです。この世界アクエラに生きる者の中に、「関係ない奴」はいません。もちろん、それぞれ成せる事は微々たるモノでしょうが、貴方の『力』は言わば『信仰』の『力』、言い換えると『』です。ならばなおの事お一人で全てを背負われる事ではないと思います。それに、何の策もなしにただ単純にしたとしても『効率』が悪いだけですしね。」

「・・・・・・。フフフッ。“人の子お前”にまたも気付かされる事があるとは、な。」


呆気に取られた後、暫し考え込み、セレウス様は自嘲気味に笑いそう呟いた。


「本当は貴方自身も迷っていたのではありませんか?それに、これは僕だけの考えではありませんよ。僕自身もルドベキア様やアルメリア様、頼りになる仲間達に気付かされましたからね。まぁ、確かに人と人との繋がりは、正直面倒な側面もありますけど、一人では成し得ない事が出来たりもしますしね。それに、あまり深く考える事でもないんですよ。人は人で、勝手に考えて行動するのですから、協力を募っても嫌なら拒否するだけの事です。それでも協力してくれると言うなら、それはその人の『意思』なんですから、『神』だろうと『英雄』だろうと、それをねじ曲げるのはその人に対する侮辱ではないでしょうか?僕は、そう考える様になりました。まぁ、当然『強制』はダメですけどね・・・。」

「そう、かもしれんな・・・。俺は間違うところだったのかもしれん・・・。ならばアキト。先程の言葉は訂正しよう。俺に、協力してもらえないだろうか・・・?」


やはりセレウス様自身にも思うところがあったのか、僕の言葉を深く反芻してから、改めて別の案を明示してきた。

もちろん、僕としては断る理由がない。


「ええ、もちろんです。」


そう頷くのだった。



アキトが『限界突破』の『試練』をクリアした事によって、本来ならセレウス自身の『神霊力しんれいりょく』の一部でもあった『英雄の因子』の『能力』・『事象起点フラグメイカー』も更にを遂げ、セレウス自身にも影響を与える事となった。

こうして、アキトは新たな心強い『仲間』を得る事となったのであるーーー。



◇◆◇



「しかし、先程の『戦い』は見事でしたなっ!」

主様あるじさまももちろんですが、エキドラス様の『力』も尋常ではありませんでしたしね。我らでは立ち向かう事も不可能でしょうな。」

〈いやいや、そんな事はないとも。確かに一対一サシなら儂の勝ちは揺るがんだろうが、『チームプレー』は儂ら『竜種』に取っても脅威よ。それに、お主らもアキトほどではないにしても、結構じゃろ?次第では分からんぞぉ~?〉

「確かにあるじさんの『戦術』は流石でしたからね。しかし、最後の一手は少し不可解でした。『精霊魔法』に似ている様でしたが、威力は段違いでしたし、あるじさんの『手札』にあんなモンあったかなぁ~?」

〈ありゃ、『竜語魔法ドラゴンロアー』っつー儂ら『竜種』だけが持つ特殊な『魔法』よ。確かに体系としては『精霊魔法』に近いかもしれんなぁ~。ま、『竜語魔法ドラゴンロアー』にしても『精霊魔法』にしても、本来は『種族』だけが持つ特殊なモノだが、それを習得した『英雄アキト』は本当に規格外じゃのぅ~。〉

「いやいや、エキドラス様。主様あるじさまに『』は通用しませんよ?」

「違いない。」「そうだなぁ。」〈なるほどのぅ。〉

〈「「「わーはっはっはっ!!!」」」〉


アキトがセレウスと邂逅している頃、アキトの仲間達は、エキドラスのもとでアキトが目覚めるのを待っていた。

そこに、『アスラ族』から献上された上質な酒とツマミ、肴に「アキト対エキドラス」の話が加われば、(もちろんそこまで酷いモノではないが)若干『戦闘狂』のきらいがあるハンス、ジーク、ユストゥスとエキドラスは、すっかり意気投合して上機嫌で酒を酌み交わしているのだった。

まぁ、何だかんだ言っても、結局『男』と言う『生き物』は、『勝負事』や何かを競い合う事が好きなのだろう。


「・・・すっかり意気投合している様だな・・・。」

「いーんじゃなぁーい?きょうはあの3人もあばれるコトはないだろうしー。」

「・・・イーナもすっかりいつも通りに戻ってしまったな。別に先程の『モード』でいつもいても良いのだぞ?」

「つかれるからいいよー。もうこっちのほうがなれてるしねー。」


それを遠巻きに見ていたメルヒとイーナは『アスラ族の集落』時とは違い、若干呆れながらも、穏やかな雰囲気で酒を嗜んでいた。

まぁ、イーナはいつもの調子に戻ってしまったのだが。


「それよりも、ティーネ殿もアイシャ殿もリサ殿も、主様あるじさまが心配なのは分かりますが、でずっと主様あるじさまを眺めていても仕方ないでしょう?」

「そーそー。エキドラスさまもちゃんともどるっていってるんだし、しんぱいないよー。わるいケハイはかんじないしねー。」

「うっ・・・。」

「それは、分かっているんですが・・・。」

「どうもダーリンがいないと落ち着かないって言うか・・・。」


メルヒとイーナは呆れた様に『神代の息吹エンシェントメモリー』の『魔法陣(魔法式)』の外側ギリギリで心配そうにアキトを眺めている3人娘に声を掛けるのだった。


〈そうじゃぞ、娘達よ。アキトはただ寝ている訳ではないのじゃ。そんな様子では、目覚めたアキトに。〉

「・・・えっ!?」

「それって・・・!?」

「どういう事ですかっ!?」


そこに、それを見かねたエキドラスがいつの間にか男達の輪から外れ近付いてきて、若干酔っぱらいながらも、挑発する様にそんな事をのたまった。

もちろん、3人娘に発破を掛ける為の『方便』なのだが、その言葉に3人娘は青ざめた様に問い返した。


〈何、そのままの意味じゃ。お主らもこの世界アクエラでは類を見ない『使い手』の様じゃが、『限界突破』の『試練』をクリアし、あまつさえ儂に勝ったアキトは、そんな『次元』の『存在』ではなくなったのよ。このままアキトの帰りをただ待つだけの者では、この先他の『有象無象』と同じく、アキトの『足手まとい』になるかもしれんなぁ~、と思ってのぅ?〉

「「「っ!!!???」」」


それにこれはただの『方便』でもない。

エキドラスももちろん全てを理解している訳ではないが、アキトが『』と邂逅している事は何となく察していた。

アキトがこれから


〈・・・儂はアキトを含めお主らの事が気に入ったのじゃ。じゃから儂のでならお節介を焼いてやろうかとも思ったのじゃが、その様子じゃ必要ないかのぅ?〉


『世界』のバランス崩壊は、エキドラスの様な『自然崇拝』を起源とする『神々』(エキドラスはその末裔だが)に取っては見過ごせない事態だ。

とは言え、彼自身が介入する事(これは他の『神々』にも言える事だが)は『制約』や、『神代の息吹エンシェントメモリー』を『守護』する関係上難しい。

それ故、通常『神々』には『使徒』として『神々』の意向に沿って動く者がいるのだが、エキドラスには(『アスラ族』がそれに近しいが)残念ながらそうした存在がいなかった。

そこで目を着けたのがアキトであり、そしてその仲間達であった。

アキト自身は、アルメリアからの依頼と自身の考えから独自にその阻止の為動いているが、仲間達はアルメリアやアキトから協力を求められて快諾したモノの、どこか話が大き過ぎて半ば『現実感』がない状態だった、

しかし、エキドラスからこのままではアキトの『足手まとい』になるかもと諭されてようやくハッとするのだった。

アイシャ達は、お互い顔を見合わせ頷き合う。

彼女達は、『英雄アキト』に守られる存在ではなく、『英雄アキト』の『』なのだから。


「いえ、是非お願いしますっ!」


代表してアイシャが力強く応えた。

エキドラスはその『答え』に満足そうに頷いた。


〈うむっ!いちいちいやらしい言い方をして悪かったのぅ。しかし、儂にも色々と“事情”があるのじゃ。〉

「いえ、私達もエキドラス様のお言葉で目が覚めましたのでお気になさらないで下さい。」

〈うむ、すまんな。どれ、『英雄アキト』に様に少し揉んでやるとするかのぅ。〉

「「「「「「「「はいっ!!!」」」」」」」」


こうして、アキトがセレウスと邂逅している間に、アキトの『事象起点フラグメイカー』の『力』に影響を受けたエキドラスとアイシャ達も独自に新たな『フラグ』を立てるのだったーーー。


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