第69話 『山の神』・エキドラスと『限界突破』の『試練』 3 ~決着~



◇◆◇



「うぎぎぎっ!!!」

〈ぬぅんっ!!!〉


おかしい。

いつの間にこの世界アクエラは、ド〇ゴンボールの様な『世界観』に変貌したのだろうか?

などとツッコミを入れている余裕は、正直僕にはないのだが、『オタク』ならば一度は憧れたであろう『エネルギー波』のせめぎ合いに、僕の『テンション』も若干おかしくなってしまった様である。

とは言っても、どこぞの『気』とは違い『魔法技術』は発動した時点で『物理現象』に支配される訳で(まぁ、『魔法使い』や『魔術師』ならば、ある程度は『魔素』を通じて『干渉』する事も可能だが)、最後まで精密にコントロールする事は流石に不可能である。

エキドラス様から発せられた極大の『ブレス攻撃』は、『防御結界』の激しい抵抗にあいながらもそれを破り、かなり『威力』を失いながらも僕の『サンダーストーム』と激突した。

わずかな時間のせめぎ合いの後、僕の『魔法』はエキドラス様を捉える事が叶わずあさっての方向へと逸れてしまっていた。

僕は僕で、『威力』がかなり減衰したとは言え、まともに喰らえばまず致命傷は避けられないだろう超高熱の『ブレス攻撃』を愛用の杖を操って緊急回避する。

引き分け、と言えば聞こえは良いが、最後の最後で勝敗がひっくり返ってしまった。

僕の方の『ダメージソース』は、後は『物理攻撃』用の『武器』がいくつかと、『符術』が数枚、『詠唱魔法』での『攻撃』はまだ可能だが、『ブレス攻撃』の『発動スピード』に遅れを取ってしまう。

先程とは逆に、僕の方が『詰ん』でしまったのだった。


〈はぁはぁはぁ・・・。フゥ~、あ、危なかったぁ~。『アレ』を喰らっていたら、流石の儂も『アウト』だったわい。〉


その見た目の強大さ、荘厳さ、神聖さも今は鳴りを潜め、冷や汗を流しながらエキドラス様も深呼吸していた。

その隙に、諦めの悪い僕は『詠唱魔法』を唱え始める。

はっきり言って悪あがきだが、こちらの世界アクエラでは、敗北=死である事を身に染みて理解している僕にはそれしか選択肢がなかった。

僕の『持論』としても、ほぼ『事前準備』によって勝敗の8割以上はけっすると考えてはいるが、『ラッキーパンチ』や『オウンゴール』といった事例もあるので、最後まで何があるか分からないからな。

とは言え、事勝負事で『運』を味方とするのは良いのだが、『運』任せ・『運』要素が強いモノはどうも性に合わないんだよねぇ~。

「運も実力の内」とはよく言うが、『前世』でも『ギャンブル事』はからきしダメだったし、アキト・ストレリチアとしての『ステイタス』上の『運』の数値もかなり低いからなぁ。

後に、『限界突破』の『試練』の“クリア条件”がエキドラス様に必ずしも勝利する事ではないと知ったが、この時の僕にはそんな事は知る由もなかったし。


【アキト・ストレリチアの名において命ずるっ・・・!?】

〈まだ戦るかっ!その意気やよしっ!・・・って、えっ!?〉


だが、僕はこの“場”の事と『英雄の因子』の『能力』の事を失念していた。

僕は、いつの間にか『竜語魔法ドラゴンロアー』をーーー。



◇◆◇



「「「「「「「「「「「あぁ~!!!」」」」」」」」」」」


アキトの最後の一手が“不発”に終わった事に、アイシャ達は落胆の声を上げた。

端から見ても、アキトの『必殺コンボ』は完璧だった。

エキドラスの驚異的な『戦闘力』を鑑みても、後数秒エキドラスの立ち直りのタイミングが遅ければ、結果は180度違ったモノになっていただろう。


〈・・・ふむ。こうやって“俯瞰”で見ると、アキトの『戦術』は見事なモノであるなぁ~。〉

「「「「「「「「「「「えっ!?」」」」」」」」」」」


すると、『モニター』を注視していたアイシャ達の後ろから『声』が聞こえた。

思わず振り返ると、そこにはいつの間にか気絶から復活した『人化』の姿のエキドラスが、『神代の息吹エンシェントメモリー』の『魔法陣(魔法式)』の外に出ており、アイシャ達と共に『モニター』を眺めていたのだった。


「えっ、あれっ、でも、えっ!?」


ルイードは『モニター』とエキドラスを交互に見て混乱していた。

『モニター』上では、今だに「アキト対エキドラス」の『映像』が映し出されているからである。


〈少し落ち着かんか、バカ者。まぁ、簡単に言うと、『モニターこれ』は儂ののモノじゃ。〉

「???」

「アキトっ!?」「主様あるじさまっ!?」「ダーリンっ!?」


エキドラスの登場にハッとした3人娘は、急いで振り返ってアキトの様子を確認した。

いつの間にか『祭壇』の近くにキチンと仰向けの状態で寝かされてはいたが、今だに意識の戻っていないアキトに、『魔法陣(魔法式)』の外から3人は心配の声を上げる。


〈アキトの事なら心配せずとも良い。ただ眠っているだけだ。まぁ、儂もいつ目覚めるかまでは分からんが、多分心配いらんじゃろ。〉

「・・・どういう事ですかっ?」


そのエキドラスの言葉に、ユラリとティーネが強烈な『殺気』を放ちながら詰め寄っていた。


〈これこれ、剣呑な『殺気』を収めんかっ!儂もこんな『経験』は初めてじゃからよく分からんのじゃよ。ただ、まぁ、負けたとしても今まで問題なく復帰してたのじゃから、アキトが復帰しない道理がない、と言う話じゃっ!!〉

「・・・へっ?」

「今、何て・・?」


信じられない言葉を聞いたルイードとラインハルトは、エキドラスが『山の神』である事も忘れて、そう問い返した。


〈じゃから儂がのじゃ。いやぁ~、ここから巻き返すとか、意味が分からんがのぅ~。ま、最後の方は、正直よく覚えておらんから、その確認の為にもこうして改めて『モニター』を見ている訳なんじゃが・・・。〉



ではここで、アキトとエキドラスが戦っていた“場”の事を説明しよう。

まず、大まかではあるが、『人間種』(だけではないが)は『肉体』・『精神』・『霊魂』の3つの要素から成り立っている。

その証左ではないが、この世界アクエラでも、全ての者が知覚出来る訳ではもちろんないが、『神々』の様な『アストラル体』や『幽霊』の様な超常的な『存在』が様々な場所で観測されている。

エキドラスは、『神々』の末裔であるので厳密には人々が『神』と呼ぶ『存在』ではないのだが、『鬼人族』の信仰や『竜種』の持つ強大な『力』も相まって、地上に顕現しながらもそれと遜色ないレベルの『存在』なのであるが・・・。

まぁ、それはともかく。

この世界アクエラには『レベル制』が存在するので、所謂『修行』を通して『肉体』を高める事には適した『』なのだが、『肉体』の成長や『レベル』を上げる事で、それと比例する様に『精神』や『霊魂』もそれなりに高める事が出来るのだが、『肉体』と言う『器』を介しての成長はひどく非効率的であり、また難しくもあった。

もちろん、『座禅』や『瞑想』などの様な、『精神』や『霊魂』を高める事に特化した『修行法』もあるのだが、どちらにせよ、それ相応の時間を掛けなければ『境地』に至る事は難しいだろう。

その『精神』や『霊魂』を効率的に鍛える事を可能としたのが、この『神代の息吹エンシェントメモリー』・『霊子加速空間』なのである。


『加速』された『亜空間』にて『肉体』から切り離された『精神』と『霊魂』を鍛える事が出来るこの『霊子加速空間』は、基本コンセプト的には『仮想現実VR』と似通ったところがあるのだが、当然そんな生易しいモノではない。

まず、第一条件として、エキドラスも言及していた通り、“レベル500カンスト”に至った『魂』でないと、その『魔法陣(魔法式)』に進入する事すらも困難だからである。

これは、要は『精神』と『霊魂』をで、ある種の『精神攻撃』を常時受ける様な苦痛が伴うからだ。

これは、『仮想現実VR』と違い、何かしらの『デバイス』を介して『電脳世界』に『アクセス』するからではなく、もちろん『神代の息吹エンシェントメモリー』の『力』は必要だが、形成された『亜空間』に『到達者』が直接『アクセス』しなければならないからである。


さて、話は一旦変わるが、『地球』における『科学技術』を持ってしても、今だ解明されていない不可思議な『力』を持った人々の存在をご存知だろうか?

彼らは、『シャーマン』・『超能力者』・『霊能力者』などと様々な呼ばれ方をするが、要は、先天的要因、あるいは後天的外的要因(事故や病気なども含む)によって、『普遍的無意識』に極限定的ではあるが『アクセス』する事を可能とした人々の事なのである。

これにより、通常では考えられない様なな『力』の行使を可能としているのだが、当然ながらこれにも『リスク』が存在する。

例えば『シャーマン』における『大いなる神秘グレートスピリット』、例えば『超能力者』における『脳波』、例えば『霊能力者』における『霊』などは、『アクセス』すれば人一人の『自我』や『精神』、『人格』などは簡単に飲み込まれてしまうほどの膨大な『情報量』を持っている。

故に彼らは、で、これらとの『情報』のやり取りをして、その『力』のを引き出しているのである。

『肉体』と言うのもある種の『リミッター』の一つであり、『防壁』としての機能があるのだった。


(例えば、『インターネット』を例に上げると分かり易いだろうか?

通常、『ユーザー』は『パソコン』や『スマホ』などの『デバイス』を介して、更に『アプリ』や『プログラム』を通して、膨大な『情報』の中から欲しい『情報』を『取捨選択』する。

これにより、昔では考えられなかった様な様々な『情報』のやり取りを可能としている。

しかし、当然ながら、その中には『嘘』の『情報』や『悪意』ある『情報』なども溢れかえっている。

その対策として、『ファイアウォール』や『セキュリティソフト』などが存在するが、もし、『ユーザー』が『デバイス』を介さずに『インターネット』に『アクセス』する事が可能だった場合はどうだろうか?

当然ながら、その者に何かしらの『精神防壁』や強固な『自我』が存在しなければ、あっという間に『情報』の奔流に飲み込まれて、『廃人』や『植物状態』になる事受け合いであろうし、万が一それに耐えられたとしても、様々な『悪意』にさらされて、『精神』に変調をきたす事だろう。

ただでさえ、『デバイス』を介しても、そうした『精神疾患』の発症が確認されているのだから、当たり前と言えば当たり前の話ではあるが。)


しかし、もしこの世界アクエラにおいては『世界の記録アカシックレコード』と呼ばれる『データベース』と、限定的にではあるが『アクセス』出来る権限を得られるとしたら、強力な『武器』になる事は間違いない。

それがの『限界突破』の『試練』であり、『人間種』の『限界』を乗り越える事なのである。


『肉体』から、『精神』と『霊魂』をに切り離す『プロセス』において、『』と言う『キーワード』が重要になってくる。

本来『精神』と『霊魂』は3次元的な『時間』や『空間』の『制約』を受けないのだが、しかし、『肉体』がある以上はそれもあってない様なモノである。

以前にも言及した通り『肉体』と『精神』は密接な関係にあるからである。

しかし、それを可能としたのが『霊子加速空間』であり、簡単に言うと、『体感時間』を限りなく、『肉体』と、『精神』や『霊魂』との間の“時間軸”に解離を作って分離。

その後、『亜空間』に『精神』と『霊魂』を取り込み、『到達者』の『霊体』、『オーラ』あるいは『気』とも呼ばれるモノを、『現世』の状態や装備を全く変わらない状態でし、『調整』・『強化』していくのである。

』と言うのは、厳密には、何かの動きを『早く』する事ではなく、何かの動きの『体感時間』を『長く』する事である。

これが、アキトは特に違和感を持たなかったが、『霊子加速空間』に進入する際の『精神攻撃』を常時受ける様な苦痛を伴う要因となるのである。


さて、長々と説明してきたが、また、説明不足な部分も否めないが、それは追々明かしていくとして、アキトは、そんな『加速空間』でエキドラスと激突していた。

そして、その間に何度もエキドラスの放つ『竜語魔法ドラゴンロアー』を、そして、遂にはそれを

これは、アキトの持つ『英雄の因子』の『能力』・『言語理解』の効果である。

以前にも言及した通り、『言語』の違うこの世界アクエラの『言葉』やクロ・ヤミら『白狼』の『言葉』、『ルダの街』に住む『動物』などの『言葉』を、アキトはこの『言語理解』の効果により習得している。

とは言え、流石に瞬時に理解出来るモノでもないが、アキトがすでに研究・確認している様に、超高速で『言語学習』をしているのは間違いない。

それは、もちろん『竜語』であっても変わらないのだ。

であれば、『亜竜種』との『戦闘経験』や、エキドラスとの対峙を鑑みても、『竜語』を・習得するには圧倒的に『』が足りない筈なのであるが、そこにもう一つの要因・『加速空間』が関係してくる。

もちろん、エキドラスと対峙していたアキトは、所謂『霊体』の状態であり、『肉体』とはに切り離されているが、それでも、やはり『肉体』の影響を色濃く受ける。

それは、アキト自身がこの“場”の事を正確に把握していなかった為に起こった“感覚”の齟齬なのであるが、結果的に、アキトは、『肉体』が『体感』した『』の分だけ、『言語学習』したのと同じ効果が現れたのであったーーー。



◇◆◇



ー『竜語魔法ドラゴンロアー』を習得した。ー

僕はにそう理解していた。

これは、本当に破格の『技術』である。

ほぼ『無詠唱ノータイム』に近い『発動スピード』を誇り、『オートマチック方式』の『魔道書』や『符術』の様な『触媒』を必要とせず、なおかつ『マニュアル方式』の様な多彩な応用も可能とか、もはやチートもいいところである。

難を言えば、『魔素』のコントロールに尋常ではない精密さを求められるところだが、『魔法技術』を、それも『オートマチック方式』や『マニュアル方式』両方を学び、理解し、最終的には同時併用すらこなしていた僕には何ら難しい事ではなかった。

これで『死角』は完全に無くなりました。


疾風迅雷サンダーストームっ!!!】

〈ちょっ!!??ほげぇぇぇぇっ~~~!!!〉


何故かは知らないが、明らかに『詠唱魔法』時より『威力』の上がった無数の『雷撃』が、ほぼ『無詠唱ノータイム』でエキドラス様を強襲する。

エキドラス様も『ブレス攻撃』にて迎撃態勢を取っていたが、先程の『詠唱魔法』時と違い、ほぼ『無詠唱ノータイム』での『魔法』発動には流石に対応出来なかった様である。

しかも、『結界術』の『フィールド効果』で付与していていた無数の水滴はエキドラス様の装甲外皮上に健在で、さらに保険として『避雷針』代わりに最初の激突で突き立てておいた目掛けて無数の『雷撃』が全身を襲う。

まぁ、流石は『山の神』と呼ばれる規格外の『存在』と言ったところで、本来なら一発即死であろう無数の『雷撃』を受けてもなお、撃沈するどころかギャグの様な悲鳴を上げていられるのは凄いを通り越してもはや呆れるのだが、とは言え、これで間違いなく僕の勝ちだろう。


「はぁ、はぁ、や、やったかっ!?」

〈あばばはばっ!!!〉


若干、「『フラグ』くさいかなぁ~?」、などと考えながらも、ブスブスと黒焦げになりながら墜落し、目を回していたエキドラス様の様子を油断なく確認していた。


【・・・『高次生命体』の・『戦闘不能敗北』を確認。『到達者』の『勝利』・です。『加速時間』の分だけ『増幅ブースト』された『霊子ポイント』と『勝利ポイント』を・『到達者』に・『フィードバック』します。『調整』に・時間が掛かりますので・しばらくお待ち下さい・・・】


と、そこへ、僕には理解不能なな『音声』が空間に響き渡り、『試練』が終わった事を僕は何となく察した。


「お、おわったぁっ~~~。」


と、同時に、何とか五体満足ながらも全身ボロボロだった僕は、安堵の声を上げて倒れ込んだ。

『符術』を駆使した『防壁』や、衣服に縫い込んだ使用済みの『精霊石せいれいせき』を細かく砕いた『結晶』、通称『精霊結晶せいれいけっしょう』を用いた僕自身の極周辺だけを守る“力場”・『簡易障壁』を持ってしても、間接的な現象、エキドラス様の『ブレス攻撃』による爆風で舞い上がって襲い来る石や砂利、熱風などは完全には防げないからなぁ~。

ま、五体満足で生きてるだけで、十分奇跡なのだが、流石に僕も疲れた。

もう、マジで二度と戦り合いたくないもんである。

そう思いながら、僕は意識を手放したのだったーーー。



◇◆◇



アイシャ達が食い入る様に見つめていた『モニター』上でも、「アキト対エキドラス」の決着の様子が映し出されていた。

しかし、『竜語魔法ドラゴンロアー』と言う『魔法技術じょうしき』の埒外である『秘術』を習得したアキトの『攻撃』には、なかなか理解が及ばず皆ポカンと呆けていた。

そんな中、レルフがポツリと呟いた。


「・・・勝った、のか・・・?」


それに追従して、皆も口々に感情を発露させていく。


「・・・勝ちました、ね・・・。」

主様あるじさまが勝ったっ!!??」

「そ、そうだっ!勝ったんだっ!!!」

「やりやがったぜ、あるじさんよっ!!!」

「何かとんでもない戦いだったなっ!!!」

「素晴らしいですわっ!!!」

「あのバケモンに勝っちまいやがったっ!!!」

「やったねっ!!!」「流石は主様あるじさまですっ!!!」「すごいよっ、ダーリンっ!!!」


一気に沸き上がるアイシャ達を余所にエキドラスも納得の表情を浮かべていた。


(・・・バケモンはひどくないかのぅ~?まぁ、気持ちは分からんでもないが・・・。しかし、なるほど。あの土壇場で『竜語魔法ドラゴンロアー』を習得するとはのぅ~。本来ならは、いくら『英雄』とは言えども、『人間種』に理解が及ぶ様な代物ではない。となると、アキトは・・・。そういう事ですか、『』よ・・・。)


そう考えて、エキドラスはアキトが復帰するまでにかなり時間を要すると確信した。

ならばと、沸き上がるアイシャ達に向かってこう提案をするのだった。


〈なるほどのぅ~。いやはや、見事であったっ!儂も生まれてこのかた負け知らずじゃったが、『英雄』・アキトが『英雄』の中でも傑出した存在であると認めざるを得ない。『限界突破』の『試練』は、間違いなく成った事をここに宣言するっ!!!〉

「「「「「「「「「「「おぉ~!!!」」」」」」」」」」」

〈しかし、その弊害ではないが、詳しい事は言えんがアキトがするまでにはおそらく、もうしばらく時間が掛かるだろう。下手すれば数日掛かるかもしれん。もちろん、儂が最後まで責任を持って面倒を見るつもりだから、お主らはここを下りてもかまわんが・・・、どうする?〉


そうエキドラスが確認すると、アイシャ達は顔を見合わせた。

そして、まずラインハルトが声を上げた。


「私は『族長』の『名代』として、また、『立会人』として、事の経緯を『族長』に報告せねばならぬ立場にありますので、『山の神』がそう仰るなら一度『集落』に戻ろうかと思います。」

〈うむ。〉


その言葉にエキドラスは頷いた。

続けて、レルフが発言する。


「ラインハルトがそう言うなら、『』である俺達も『集落』に戻るべきだろうな・・・。アイシャ達はどうする?」


レルフはルイードに目配せしながら、アキトの仲間達アイシャ達に水を向けた。

それに、皆を代表して3人娘が答えを返した。


「私達は残ります。」

「『山の神』を信頼しない訳ではありませんが、従者として主様あるじさまのお側を離れる訳には参りませんので。」

「目が覚めた時、ダーリンが淋しがってもいけないからねぇ~。」


その3人娘の胆の据わった言い回しに、エキドラスはカラカラと笑いながら応えた。


〈クハハハッ!もちろん良いとも。ちょうど盃を交わす相手が欲しかったところだ。それが『英雄』の仲間達なら是非もなし。ただ、心配はいらんだろうが、野宿みたいな格好になるので・・・。〉

「ご心配には及びません。私達は野宿には慣れておりますので。」


それにすかさずイーナが応えた。

エキドラスも頷いた。


〈ならば良い。この『魔法陣(魔法式)』以外なら好きに使うが良い。〉


そうして、ラインハルト、レルフ、ルイードを除く面々は、エキドラスのもとに留まる事となった(ルイードは若干残念そうにしていたが)。



◇◆◇



そこは何とも不可思議な所だった。

色々な景色がごちゃ混ぜになったような混沌とした場所なのに、何らかの秩序があるかの様なそんな感覚。

これは夢だなと、自覚するが目覚めず、自分をうまくコントロール出来ない。

自分自身を俯瞰して見ている様な感じだったーーー。

って、以前にも経験があったなぁ~。

いや、死んだ訳じゃないと思うが・・・。


「よう、アキト。。」


すると、突然『場』と『空気』が少し鮮明になった気がした。

見ると、朧気ながら女性の様に長い黒髪をたなびかせた神々しくも圧倒的な存在感を放つ青年がニカッと笑う姿があった。

いや、髪に関しては、僕も人の事は言えないけども。

『前世』では、髪質は癖っ毛で若干コンプレックスもあり、長髪とか有り得なかったが、アキト・ストレリチアの『肉体』ではサラサラのストレートヘアーである事を良い事に思う存分伸ばす事が出来た。

まぁ、確かに事戦闘においては、長髪これが弊害となる事もあるが、しっかりまとめているし、すでに慣れているので問題ない。

また、だだの趣味やオシャレとしてだけではなく、体系的には『呪術』のたぐいとはまるで違うのだが、『魔法使い』にとっても『髪』は一種の『触媒』となると言う事情もある。


『魔力』とか『魔力保有量』と言う『概念』が存在しないこの世界アクエラでは、『魔法技術』を扱う為には『魔素』と呼ばれる『外部』の『エネルギー』を利用するのだが、『魔素』と『術者』を繋げる上で『魔法発動体キー』となる『杖』とか『宝玉』、『触媒』となる『魔道書』や『符』などが必要となる。

もちろん、そうした『道具』はそのままでも発動は可能であるのだが、一般的には周知されていない事実として、これに更にする様に、『個人情報パーソナルデータ』の一部である『髪』や『血液』、『精液』などを『道具』に付与する事によって、『魔素』との『親和性』、あるいは『発動スピード』と置き換えても良いが、が格段に向上すると言う『裏ワザ』があるのである。

僕の場合は、更に『結界術』に使用する『精霊石せいれいせき』の加工にも利用するので、いちいち身体を傷付けて『血液』を採取するより(『精液』に関してはまだ子どもだったからなぁ~)、そう言った意味では『髪』が一番効率が良かったと言う事情も合致した結果長髪にこうなっているのだった。

ま、僕の『オタク』的趣味・嗜好、“西嶋明人にしじまあきと”時には出来なかった『コスプレ』的感覚があったのも否定はしないが。

まぁ、それはともかく。


それにしても、この人(?)、どこかで見覚えがある様な・・・?

ルドベキア様やアルメリア様との『共通項』から、僕が勝手に『既視感』を持っているだけかもしれないが。


「えっと、すみませんが、どちら様で・・・?」


僕の『経験則』から、明らかに『高次元』の『存在』であろう彼に、僕は恐る恐る尋ねてみた。

すると、彼は大仰に腕を組み頷いた。


「ああ、それもそうだな。お前と会うのはだが、あん時のお前は赤ん坊だったもんな。それじゃあ、改めて。俺はセレウス。お前に『宿』いるモンだ。」

「・・・はい?」


それが、『英雄神セレウス』との、初めて(?)の邂逅だったーーー。


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