第66話 しばしの休息



◇◆◇



「アキト殿~っ!こちらで御一緒しませんかぁっ~!?」

「アキト様~!私達と御一緒しましょうよぉ~!!」

「はぁ、ありがとうございます・・・。」

「皆、アキトはこれから大事な『儀式』が控えてるんだよっ?少しはそっとしておいてあげてよっ!」

「まあまあ、いいじゃねぇかアイシャ。アキト殿はもうイケる口ですかいっ!?」

「アイシャばっかりアキト様にべったりでズルいよぉ~。私達もアキト様とお話したぁ~いっ!!」


『力比べ』の後は『宴会』に雪崩れ込むのが『鬼人族』の『お約束』の様だ。

先程の『力比べ対戦』を肴に盛り上がっている『鬼人族』の皆さんから、一躍“時の人”となった僕はひっきりなしに声を掛けられていた。

賑やかなのは嫌いではないが、こうも立て続けに声を掛けられると流石に辟易へきえきする。

それを察した訳じゃないだろうが、その都度アイシャがぴったりと僕の“ガード”をするのだった。

ちなみに、ルイードさんはレルフさんが引き取って行った。

結構な大ダメージを与えてしまったが、『鬼人族』は基本的に頑丈タフなので、怪我の程度としては軽い筈である。

とは言え、手当てはしないとならないし、敗北による精神的なショックもあるだろう。

まぁ、そこら辺は『冒険者』としても『人生』としても『経験』豊富なレルフさんに丸投げお任せするのがベストだろう。

誰が言ったか「勝者が敗者に掛けられる言葉はない」とは正にその通りで、僕がフォローしたところで嫌味にしかならないからね。

まぁ、しかし、お陰で僕の『試練の儀』挑戦に対する“第一関門”は突破した事になる。

『鬼人族』の公認を受けた訳だし、これで大手を降って『限界突破』に挑めると言うモノである。

まぁ、これからが一番大変なんだけどね?

『準備』もしたし『覚悟』も出来ているけど、流石に『ドラゴン』と一対一サシで戦り合う事は、僕にとってはやはり憂鬱であった。


「ハハハッ、大人気ですなぁ婿殿っ!」

「アイシャ、いい人と『縁』が出来て良かったわねぇ~。羨ましいわぁ~。」

「妹の事くれぐれもよろしくお願い致します、アキト殿。」

「あれっ、ライ兄さんっ!?家で見掛けなかったけど、どこ行っていたのっ?」

「おいおい、アイシャ。俺ももう家庭を持つ身だぞ?すでに家を出て自分の家を構えているさ。」

「えぇ~、そうなんだぁ~!あれっ?もしかしてそちらが?」

「妻と子どもだ。」


アイシャさんにライ兄さんと呼ばれた『鬼人族』の青年の後ろで女性と幼い男の子がペコリと頭を下げる。

男の子の方は、なぜかキラキラした目で僕を見ているが・・・。


「えぇ~、私いつの間にか叔母さんになっちゃったんだぁ~!あっ、アキト、紹介するねっ!私の一番上の兄のライ兄さんだよっ!」

「申し遅れました、アキト殿。『アスラ族・族長』・ローマンの子にしてアイシャの兄、ラインハルト・ノーレン・アスラです。こちらが妻のエルマ、息子のファブリスです。」

「はじめまして、ラインハルトさん、エルマさん、ファブリスくん。アキト・ストレリチアです。」

「お初にお目にかかりますわ、アキト様。ラインハルトの妻、エルマ・ノーレン・アスラです。」

「あ、あの、は、はじめまして、アキトさまっ!ラインハルトのこ、ファブリス・ノーレン・アスラですっ!あ、あのっ、『チカラくらべ』みてましたっ!とってもカッコよかったですっ!」


ああ、そういう事か。

アランもそうだったが、『鬼人族』で、なおかつ一桁代の年齢の男の子が『強い者』に憧れを抱く事は分からない話じゃない。

先程の『力比べ』を見ていて、僕に憧れを抱いてくれたんだろうなぁ。


「そうかい?ありがとう、ファブリスくん。」

「カワイイ~!アイシャ叔母さんだよぉ~。よろしくね、ファブリスくんっ!」

「う、うんっ!」


僕とアイシャさんがニコリと笑うと、ファブリスくんもパアッと笑顔になってくれた。

やはり子どもの存在は、空気を明るくしてくれるなぁ。

ほのぼのとした空気の中、アイシャさんはキョロキョロと辺りを見回した。


「あれっ?ところで、レオ兄さんとエド兄さんは?」

「レオナルドとエドワルドは『ヤクシャ族』と『ラクシャサ族』にそれぞれ行ってるわ。一応“部族交流留学”の一環なんだけど、私のでは向こうに好きなが出来たんじゃないかと睨んでいるのよねぇ~。『交流会』の後にやたらと“部族交流留学”を熱望していたしねぇ~?」

「ハハハッ、まぁ別に良いじゃないか、ネイシャ。ラインハルトは『アスラ族ウチ』に残ってくれた訳だしな。『アスラ族ウチ』も以前に比べればアイシャも知らない顔が増えただろう?これも“部族交流留学”の一環さ。エルマさんも、元々は『ラクシャサ族』の出だしな。」

「そ~なんだぁ~。どうりでエルマさんの顔を見た事ないなぁ~と思った。」

「アイシャが婿殿のもとに旅立ってから6年。いや、7年だったか?だからなぁ~。色々変化もあるさ。」


しみじみローマンさんが頷く。

まぁ、その和やかな雰囲気の後ろでは、ちょっとした騒動が起こっているのだが・・・。


「・・・ところで、ウチの『男子中学生アホ』共は止めなくて平気ですかね?」

「はい、毎度の事ですから。毎回『力比べ』の後は、『力比べそれ』に触発された血の気の多いのがちょっとしたを起こすのが定番なんですよ。」

「まぁ、一応『一撃決着』の『暗黙のルール』が存在するから、大した大事おおごとにはならないしねぇ~。」

「しかし、流石は婿殿のお仲間の方々ですなぁ~。お三方共、すでに『10人抜き』を達成されている。」

「『エルフ族』に対するイメージが変わりますわねぇ~。」

「・・・言っときますけど、アイツらが特殊なだけですからね?」


そう、『宴会』の裏ではウチの男共が『鬼人族』の若手連中と『腕比べケンカ』をしているのである。

『宴会』や『祭り』の際には、若者同士でちょっとしたいさかいが起こるのはよくある事であり、それはこの世界アクエラでも変わらないらしい。

まぁ、当初はルイードさんの仲間連中とおぼしき者達がハンス達にからんだのが発端らしいのだが、今や『宴会』の“余興”の様な様相を呈していた。


「オラァッ、次はどいつだっ!?」

「おい、お前らっ!周りにご迷惑を掛けない様に少しは気を付けろっ!!」

「えぇ~・・・。」

「そんな事言われてもなぁ~・・・。」


『鬼人族』の『膂力りょりょく』や、今現在のハンス達の『ステイタス』由来の身体能力を持ってすれば、相手に『一撃』を入れた方が勝ちである『一撃決着』の『暗黙のルール』であっても、『決着』がつく際には周囲に被害が出るのは否めない。

それを未然に防ぎ、いそいそと『鬼人族』の手当て(?)をしているメルヒ達はウチの男共を叱っていた。

とは言え、当初からまれたのはハンス達の方だ。

今でこそノリノリで“対処”しているが、降りかかる火の粉を払うのにそこまで気を使えと言うのは些か酷な話ではあるが・・・。


「うぅ、すまねぇな、『エルフ族』の姐さん・・・。」

「貴方達もですよっ!?『腕比べケンカ』をするなら、相手の『力量』も見極めた上で、人のご迷惑にならないところでやりなさいっ!」

「ウチのオトコドモは、あるじさまとちがってキホン“アホ”だからねー。そっちがオトナにならないとー。」

「ひどい言われようだねぇ~。」

「ハンス達も『武人』としては成長してるのですが、一度夢中になると後先の事を考えないところがありますからねぇ~。」

「・・・なんか、すいませんでした・・・。」


メルヒ達のフォローだか何だかよく分からない剣幕に、『鬼人族』の若手連中もたじろいでいた。

こりゃ、放っておいても事態が収まるかねぇ~?



◇◆◇



「・・・ハッ!?」

「おお、気が付いたか。」


上半身裸の上に包帯を巻かれたルイードは、意識を取り戻し、勢い良く起き上がった。


「イテテッ!!??」

「バカ、まだ安静にしとけっ!『エルフ族』秘伝の薬を分けて貰って治療してはいるが、結構なダメージを貰ったんだからな。まぁ、半分はお前の“自爆”だったが・・・。」

「・・・そう、か。俺はヤツに敗れたんだな・・・。」


ルイードは、先程の『力比べ』の事を思い出していた。


「おっ、ちゃんと覚えていたか。で、どうだったよ、実際アキトくんと対峙してみて?」

「・・・、『外の世界』にはがゴロゴロいるのかい、師匠?」

「いやいや、あれは相当特殊な例だ。『鬼人族俺達』を上回るの持ち主なんてそうはいないからな。けど、『対抗』出来る者ならばそれなりにいるぞ?『戦闘スタイル』にも色々とがあるからなぁ。」


『鬼人族』の『戦闘スタイル』は、良くも悪くも“真っ向勝負”が基本だ。

大抵の場合はそれでも『ゴリ押し』で何とかなるが、『戦上手』な者や、『搦め手』を得意とする『モンスター』や『魔獣』と戦り合う場合には、苦戦は免れないだろう。


「お前は確かにそれなりになった。しかし、『強さ』にも色々あるし、『勝負事』には綺麗も汚いもない。勝ったヤツが『勝者』で負けたヤツが『敗者』だ。ただそれだけが唯一の『事実』だよ。」

「そう、か・・・。」


レルフ自身も、『外の世界』に飛び出した頃は『鬼人族』特有の圧倒的な身体能力に絶対の自信を持ち、増長していた時期があった。

実際、事『近接戦闘』においては、『鬼人族』は無類の『強さ』を誇り、『外の世界』でも十二分に通用したからだ。

しかし、それだけでは当然対処出来ない事態にも見舞われる事がある。

弓術や『魔法技術』などに代表される『遠距離攻撃』の脅威である。

『鬼人族』の文化的には、そうした『戦い方』は卑怯で臆病と蔑まれ忌避される傾向にあるが、『戦術』として見た場合『遠距離攻撃』は非常に優秀であり有用でもある。

その事を悟り、『鬼人族』としての『固定概念』から脱却したレルフは、その後様々な『武術』や『武器術』を学び、自分に合った『スタイル』を完成させていったのだった。

アイシャにも『レクチャー』したが、『手甲』を使った『武器術』を取り入れたり、『暗器あんき』を取り入れた『飛び道具』による自身の『間合い』を広げる事にも成功した。

『打撃系』が主体だった『アスラ流格闘術』に、より実戦的な『投げ技』や『関節技』なども取り込み、そうしてレルフは『S級冒険者』にまで登り詰めたのである。

その教えを、間接的にではあるが継承し体現したのがアイシャであるが、それはアイシャがアキトらと共に様々な『経験』を通して柔軟に考える事を悟ったからだ。

同じくレルフの教えを受けているルイードが、『技術』だけ吸収したとしても、アイシャやレルフと同じ『ステージ』に立てていないのは、やはりそうした『経験』が圧倒的に不足しているからなのである。


「まぁ、敗北から何を学ぶかは結局お前次第だがな。そもそも、『本当の敗北』は単純に『死』だ。そうした意味では、『力比べ』の『ルール』の中でアキトくんと戦り合えたのはラッキーだぞ?負けたとは言え、お前はまだこうして生きてるんだからな。」

「ああ、分かってるよ・・・。」


もちろんルイードとしては負けて悔しい気持ちもあったが、はレルフの言葉や、アキトとの“やり取り”を素直に目をつぶりながら受け入れ反芻していた。

遠くで『宴会』の喧騒を聞きながらーーー。



「おいっ、オマエラーっ!サケがたんねぇーぞっ!タルごともってこいやーっ!」

「「「「「へ、へいっ!!!!!」」」」」

「お、おいっ、イーナっ!少し飲み過ぎじゃないのかっ?」

「うっせーっ、ハンスっ!アタシがオマエラのいちばんうえのオネェチャンなんだぞーっ!?もうちょいウヤマエよなーっ!だいたいオマエラはなー・・・。」


「・・・。」


「誰が『男前』だゴラァーッ!私はれっきとした『乙女』なんだぞぉーっ!」

「痛いっスッ!言ってやせんよっ、そんなこたぁっ!?」

「お、おいっ、メルヒっ!流石に理不尽だろうっ!?」

「あぁ~んっ?普段私らに迷惑掛けてばかりのオメェーらに言われたくねぇんだよ、ジークっ!フォローするこっちの身にもなれや、ゴラァっ!」

「あ、イタっ!?」


「・・・。」


「ぢょっど、ユズドゥズっ!ごっぢにぎでずわりなざいっ!」

「な、何だい、ティーネ殿?」

「あなだ、あるじざまにごめいわぐをがげずぎでずよっ!?わだじだぢはあるじざまのじゅうじゃなんでずがら、あるじざまのおだずげをずるのがどうりでじょうっ!?」

「いや、あるじさんはそんな小さい事は気にしないと思うんですが・・・。」

「ユズドゥズっ!!」

「すんませんっ!?」


「・・・。」


メルヒ達に任せとけば大丈夫だと思っていた時期が僕にもありましたよ・・・。

まぁ、確かに結果的には『鬼人族』の若手連中とハンス達の『腕比べケンカ』は収まったのだが、『鬼人族』の若手連中がメルヒ達に酒をすすめたモンだから事態はより“カオス”な方向に突入してしまった。

基本的に、イーナ、メルヒ、ティーネは“酒癖”が悪い訳ではないのだが、場合によってはその限りではない。

まぁ、主に男共(僕もかもしれんが)に対する普段の“不満”が爆発する形の事なので、ある意味健全ではあるのだが・・・。

『前世』では、飲酒を嗜んでいた事もある僕ではあるが、今現在は『ロマリア王国』で『成人』したとは言え、13歳の少年の姿である。

それ故、『前世』の知識を持つ僕としては、健全な『成長』の為にも『健康』の為にも、せめて『第二次性徴成長期』を過ぎるまでは酒を飲まないと決めている。

そんな僕が、酔っ払いの巣窟に素面シラフで突入するのは些か分が悪い(つか面倒くさい)。

それ故、ちょうどいい『人身御供』となってくれた『鬼人族』の若手連中とハンス達を『囮』に、ファブリスくんを連れて『爆心地』からコソコソと避難するのだった。

いや、本当にヤバければ止めるけども、ま、いつもの事なので平気でしょ、多分。


「あ、あの、アキトさま。おねーさんたちとめなくてへいきなんですか?」


オロオロと困惑しつつ心配してくれるファブリスくんはとても良い子でした。


「へーきへーき。いつもの事だからね。“大人”には時として『お酒の力』が必要な事もあるんだよ?主に『精神』のバランスを取る為にもね?」

「???」

「ファブリスくんにはまだ分からないかな?まぁ、心配しなくても、その内皆酔い潰れて寝ちゃうから平気だよ。」

「は、はぁ。」

「そうそう、それからアキトが『回復魔法』と『体力回復ポーション』で治療してくれるから翌朝には身心共にスッキリしてるんだよぉ~。」

「・・・あら、知ってました?」

「もちろんっ!」


ま、これでも仲間で家族だからね。

しかし、まさかアイシャさんに勘付かれていたとは驚きだ。

僕はテレ隠しをする様に頭をポリポリと掻いた。


「はぁ、だからって、アイシャさんとリサさんまで飲み過ぎないで下さいよ?」

「大丈夫だよぉ~!『鬼人族』と『ドワーフ族』はお酒に強い『種族』だからねぇ~。」

「まぁ、ボクは飲む様になったのは最近だけどねぇ~。けど、このお酒はボクも美味しいと思うよ、アイシャちゃん。」

「そうでしょ~?やっぱりお酒は『外』より『山』の物の方が上質なんだよねぇ~。『山の神』も『鬼人族』の造るお酒には目がないんだよぉ~!」

「へぇ~、そうなんだぁ~。」


あっちは“カオス”だが、こっちはアイシャさんの言う通りお酒に強い二人なので、穏やかな雰囲気であった。

とは言え、そろそろ良い時間帯だ。

まだまだ『宴会』は続いてるが、一桁代の年齢のファブリスくんは、眠くなったのかウトウトとし始めていた。

しばらくすると、そのまま僕に寄り掛かりスゥスゥと寝息を立てる。

僕はファブリスくんを起こさない様に体勢を変えて、膝枕をしてあげた。


「まあまあ、すっかりアキト様に懐いてしまいましたわね。申し訳ありません、アキト様。お辛くありませんか?」

「いえ、大丈夫ですよ。それにこういう事には慣れていますから。」


近くにいたラインハルト夫妻とローマン夫妻が微笑ましげに僕とファブリスくんを見ていた。

エルマさんがヒソヒソとそう僕に問い掛けたが、僕もそうヒソヒソと返事をする。

そこにアイシャさんとリサさんも加わった。


「そういえは、アランとエリーもアキトにべったりだったモンねぇ~。」

「ダーリンの近くは落ち着くんだよ。ダーリンと別れてからは、二人とも少し淋しそうだったしなぁ~。」

「多分、年齢が近いから親近感があるんじゃないですかね?僕も子どもは好きなので、慕ってくれるのは嬉しいですけど。」

「おそらくそれだけではないでしょう。婿殿の『魅力』に皆惹かれているのだと思いますよ?そうでなければ、『他種族』同士がこうも穏やかに酒を交わす事はそうそうない事でしょうからな。」


穏やか・・・?

あっちは“カオス”なんだけど・・・、あ、いや、今は静かになったか?

ま、しかし、確かに僕の仲間達は所謂『他種族』同士の『混成チーム』だ。

本来なら、“文化”の違う者同士が共に過ごす事はかなり困難なのは想像に難くないので、僕が持つ『英雄の因子』の『能力』が関係しているのも否定は出来ないか・・・。


「そう、だと嬉しいですね・・・。」


ローマンさんの発言に、そう頷いておいた。



◇◆◇



ぼくは、そのひはじめて『タシュゾク』のひとたちをみました。

おみみのながいおにーさん、おねーさん、ちょっとくろいはだをしたちいさなおねーさん。

おみみのながいおにーさんたちのコトを『エルフぞく』だとオトナのひとたちがいっていて、ちょっとくろいはだをしたちいさなおねーさんのコトは『ドワーフぞく』だといっていました。

それに『きじんぞく』のおねーさん。

おとうさんはぼくのオバさんだといっていました。

そして、そのひとたちをひきつれたおにーちゃん。

オトナのひとは、あれが『エイユウ』なのか、『にんげんぞく』のしょうねんではないか、とツブやいていました。

ぼくにはむずかしいコトはよくわからなかったけど、そのひとがなんだかあたたかいフンイキをもっているコトはわかりました。

それが、アキトさまでした。



アキトさまは『きじんぞく』のオトナのひとたちにくらべればちいさかったけど、『ゾクチョウ』であるおじいちゃんやおばあちゃんのまえでもドウドウとしていました。

『チカラくらべ』のトキにも、ちょっとコワイルイードおにーさんあいてに、ぼくみたいにコワがったりしないで、ドウドウとショウブしていてとってもカッコよかったです。

まさかかっちゃうとはおもってなかったけど、おとうさんもおかあさんもビックリしていたから、たぶんぼくとおなじだったんだとおもいます。

けど、おはなししたらとてもやさしくて、ちかくでみるととてもキレイなおかおをしていました。

ぼくはすぐにアキトさまのコトをスキになって、ずっとおはなししていました。

アキトさまのそばはすごくあたたかくてあんしんします。

おとうさんとおかあさんにだっこされてるようなかんじでした。

ざんねんですが、アキトさまは『ヤマのカミ』さまの『しれんのぎ』というのをうけにきたらしく、すぐにいなくなってしまいましたが、ふしぎなコトに、ぼくはそんなにさみしくありませんでした。

それよりも、アキトさまのようにつよくなって、みんなをまもってあげたいとおもいました。

アキトさまは、いつかぼくに『タシュゾク』のおともだちをしょうかいしてくれるといっていました。

ぼくはそのコトをたのしみに、たくさんたべてはやくおおきくなりたいとおもいました。



翌日、昨夜はファブリスくんの関係でラインハルト夫妻の家に泊めてもらった僕は、ローマン夫妻の家に泊まったアイシャさんとリサさんと合流して、酔い潰れてそこら辺に寝こけていたティーネ、メルヒ、イーナ、ハンス、ジーク、ユストゥス(と『人身御供』にしていた『鬼人族』の若手連中)を『介抱』していた。

これから『山の神』のもとへと赴き、『試練の儀』(『限界突破』の『試練』)を受ける僕としては、なるべく消耗は避けたいところであるが、まぁ、この程度なら大した負担にもならないし、いつもの事と言えばいつもの事だしね。

『回復魔法』と『体力回復ポーション』の効果で、空腹以外は絶好調になった仲間達を引き連れて、僕らは『アスラ族の集落』をおいとまする事とした。

元々『アスラ族の集落』に立ち寄ったのも『根回し挨拶』の為だし、アルメリア様の事や『異世界人地球人』達の事も考慮すると、あまりのんびりしている時間もないからな。


「なんとっ!?もう行かれると言うのですか、婿殿っ!しばらくは滞在されるのかと思っておりましたが・・・。」

「ご厚意は大変ありがたいのですが、あまりのんびりしてもいられないんですよ。『外の世界』の事もありますからね。」


僕がそう言うと、ある程度の“事情”を話してあるローマンさんとネイシャさんは納得顔で頷いた。


「『英雄』の『使命』、ですか・・・。」


いや、そんな大層なモンじゃないですけどねっ!

まぁ、そう説明したのは僕なんだけどさ。


「・・・はい。」

「ならば私達がお引き留めする事は出来ませんな。」

「アイシャ、アキトさんの事しっかりと支えてあげなさいな。」

「もちろんだよっ!」


ネイシャさんはアイシャさんにそう言葉を掛け、アイシャさんは元気良く返事を返した。


「とは言え、『試練の儀』には『鬼人族』の『立会人』が必要です。本来なら『族長』自ら赴くところですが、私も歳ですし、アキト殿の『限界突破』の『試練』とやらは通常の『試練の儀』とは異なる様子。『経験』を積む上でも、ラインハルトを『名代』として遣わせましょう。」

「ありがとうございます。」


一応、『試練の儀』は『鬼人族』の信仰する『山の神』の『神事』の一環だそうだからな。

ここまで来たら、僕らだけで勝手に行動する訳にも行くまい。


「お、俺も連れて行ってくれっ!」

「あ、こら、ルイードっ!」


と、そこに昨日の再現の様にルイードさんが割り込んで来た。

しかし、その様子は昨日と違い真剣な表情だった。


「ルイードっ!?お主傷はよいのかっ!?」

「大丈夫、です。それよりも、『英雄』殿の『強さ』には感服しました。俺も少しでもその『高み』に追い付きたいんですっ!族長っ!俺にも『立会人』の栄誉をお与え下さいっ!」

「ったく!!」


しかし、『猪突猛進』なところは相変わらずであった。

レルフさんも呆れた様に頭をガシガシと掻く。


「ふ~む、しかしな・・・。」

「・・・族長、アキトくん、俺からも頼むよ。て言うか、俺も行くよ。どうやら、『試練の儀』には俺達『鬼人族』も知らない『』が隠されてる様だしな。」

「レルフ・・・。」

「師匠・・・。」

「・・・『』?」


そういえば、昨日もルイードさんとの『力比べ』の前にそんな事を言っていたな。

結局昨日はルイードさんの『介抱』をする為に、その事を含めてレルフさんと色々とお話する機会がなかったんだけど。


「ああ。その前にアキトくんに一つ確認しておきたい事があるんだが。」

「・・・何でしょう?」

「君に『試練の儀』の事。いや正確には『限界突破』の『試練』だったかな?の事を教えたのは誰だい?」

「アルメリア様ですけど・・・。」

「ふむ。やはりか・・・。」


納得顔でレルフさんは頷いた。

そういえばレルフさんも以前アルメリア様に会った事があったな。

あの時は軽く流したが、鋭敏な感覚を持つ『鬼人族』で、なおかつ『元・S級冒険者』としての豊富な『知識』を持つレルフさんが、アルメリア様の『正体』をおぼろげながらにも察していても何ら不思議ではない、か。


「そもそも『試練の儀』っていうのは、簡単に言うと、『山の神』に『稽古』をつけてもらう『儀式』の様なモノなんだ。それにより、『鬼人族』のレベルをある一定に保つ事が出来る。まぁ、これは俺の推測だが。」

「ふむ・・・。」

「しかし、『試練の儀』が本当は『限界突破』の『試練』であるなどとは俺も聞いた事がない。いや、そもそも“レベル500カンスト”に到達した者を、噂にも聞いた事がないから俺達が知らなかっただけかもしれんがな。」

「なるほど・・・。」


まぁ、それはそうだろう。

僕の場合は特に感慨もなく到達したが、本来“レベル500カンスト”に到達するなど、『神話』や『伝説』・『伝承』レベルの選ばれた『英雄』や『偉人』だけが、長い『苦難』の末に初めて到達するたぐいのモノだからな。

その為、本来は『限界突破』の『試練』だったモノが、いつしか『試練の儀』へと変貌していった可能性も十分考えられる。

ただ、『制約』によってアルメリア様から詳しく聞けなかったが、『限界突破』がただの『レベル上限』の解放ではない事は明らかだ。

おそらくこの世界アクエラの『』に関わる話で、“”とやらにも通ずる話なのだろう。

とりあえず『試練』を受けてみれば、あるいは『山の神』に直接聞けば、何か見えてくるかもしれないかとも思っていたが、最悪『』を得られない可能性も考慮すれば、大まかな予測を立てる上でも、『元・S級冒険者』の『知識』は参考になるかもしれんな。


「ローマンさん。僕からもお願いします。レルフさんとルイードさんの同行を認めていただけませんか?」

「・・・私には二人が何を言っているか理解が出来ませんが、必要な事なのですな?」

「はい。」


僕がハッキリと頷くとローマンさんはしばらく考え込み、ややあって顔を上げた。


「よろしい。ならばレルフとルイードを『立会人ラインハルト』の『』として認めよう。」

「「ありがとうございます。」」「すまない、族長。」


こうして、『限界突破』の『試練』に『鬼人族』からラインハルトさん、レルフさん、ルイードさんが同行する事となったーーー。


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