第65話 『力比べ』



「お初にお目にかかります。私がアイシャの父で、『アスラ族・族長』のローマン・ノーレン・アスラです。」

「ローマンの妻で、アイシャの母のネイシャ・ノーレン・アスラですわ。」

「はぁ・・・。」


いや、キリッと決めてますけど、さっきの“やり取り”丸聞こえでしたからね?

僕もだからそこはあえてスルーするけども。

それに、確かに(速攻で準備したであろう)お二人の装いは非常に絢爛豪華で華やかさがあり人目を引くモノであった。

どこか、『地球』で言う“オリエンタル”風な雰囲気を醸し出しており、『インド』の民族衣装、クルタ・パジャマとサリーに似た感じのモノであった。

動きやすく、通気性が良く、かつ『金細工師』としても有名な『種族』である『鬼人族』が製作したと思われる数々のきらびやかな装飾もあいまって、非常に『鬼人族』の“スタイル”に合っているのかもしれないなぁ~。

当然ながら、面会するにあたって失礼にならない様に、今現在僕らも『仮面』やらフードを脱いでお二人と対面していた。


「はじめまして、ローマンさん、ネイシャさん。僕が『英雄』の“称号”を賜っているアキト・ストレリチアです。」

「おおっ!では貴方が・・・。」

「まぁっ!とても綺麗な子ねぇ~。」

「これ、ネイシャ。失礼だぞ。」

「いえ、お気になさらないで下さい。一応『ロマリア王国』では『成人』の年齢に達しておりますが、皆さんからしたらまだまだ若輩者でしょうからね。」


実際、僕の“感覚”からいっても、“13歳”はまだ中学生くらいの少年だからな。

ネイシャさんくらいの女性(『年齢』についてはあえて言及しないが)からしたら、「カワイイ男の子」って印象になるのも否めないだろう。


「おほんっ、それで、わざわざこの様な場所までお越しになられて、本日はどの様なご用件でしょうか?アイシャとの『結婚』の挨拶ですか?」

「まぁっ!!」

「違うよぉ~、父さん、母さん。アキトが用事があるのは『山の神』の方だよ。」

「?どういう事ですか?」

「それについてはこれからご説明致します。あ、後、『結婚』については諸々の“事情”が片付いたら改めてご挨拶させて頂きたいと考えておりますので。」

「えっ?///」

「ほぉ。」

「うふふ。」


もちろん、ティーネとリサさんもだからねっ!(だから変な『圧力プレッシャー』をかけるのはやめてくださいしんでしまいます)

基本“めんどくさがり屋”で“ヘタレ”な僕だが、『前世』の経験と教訓からも、特に“女性関係”においては早め早めにキッパリとした“答え”を出した方が良いとの結論に達していた。

『時間』が解決する事もあるにはあるが、大抵の場合はウダウダと『問題』を先送りにしても良い結果になる事はそうそうないからね~。

ま、それはともかく。



「『外の世界』ではその様な事になっているのですか・・・。」

「『世界』のバランスの崩壊、ですか・・・。」


かいつまんでお二人に、これまでの“事情”を説明した。

とは言っても、結構最近まで『他種族』との交流を絶っていた『鬼人族』に、一から十まで詳しい内容を説明したところでチンプンカンプンだろう。

それ故に、僕は近しい者達以外には、所謂“方便”として、「『世界』のバランスが崩壊するに危機が訪れると“神託”を受け行動している『英雄』」、と言うていにする事としている。

実際に、『忘れられた神』・アルメリア様から“神託依頼”を受けて(個人的な事情もあるが)行動しているのは本当の事だからな。

それに、時に『事実』や『情報』と言うのは、無闇に発信すれば良いと言うモノではないからね。


「それを防ぐ為にも、僕の『限界突破』の『試練』が必要不可欠な様なのです。それ故、『山の神』のもとを訪れる、と言ったら何ですが、こうして『アスラ族の集落』にも“挨拶”に訪れた次第です。」

「『限界突破』の『試練』?『試練の儀』の事でしょうか・・・?しかしあれは『鬼人族』の中でも特に優秀な『戦士』のみが受けられるモノです。いくら『英雄』殿とは言え、『他種族』の者にむやみやたらに受けさせる訳には・・・。」


ま、そうなるわな。

一応『身分証明』や『名刺』代わりに『ステイタス』を持参してはいるが、『鬼人族』は基本『脳筋』かつ『力』を重んじる『種族』だ。

『数値』として示された物ではなく、実際の僕自身の『力』を示さなければ、皆さん納得しない、と言う事なのだろう。

ま、アルメリア様もそんな様な事言っていたしね~。


「ならよぉ~、俺様と一戦戦り合ってくれや、『殿よぉ~!?」

「あっ、こら、ルイードっ!」


どちら様でしょう?

いや、僕らを見掛けたり噂を聞き付けて、族長宅の周りに複数の『鬼人族』の皆さんが集まっていた事は『気配』で分かっていたけど。

その中に、懐かしい『気配』があった事も。


「あれ、レルフおじさんだぁ~!」

「こんにちはレルフさん。御無沙汰しております。」

「よお、アイシャ、アキトくん。久し振りだな。」


そう、かつてアイシャさんと共に『シュプール』を訪れた『鬼人族』にして、『S級冒険者』のレルフさんだった。

短い間とは言え、彼には色々な事を学んだのでよく覚えている。


「『帰郷』されていたのですか?」

「いやいや、これでも俺ももう40代半ばだぜ?『冒険者』は『引退』して、ここで後進の指導に当たっているのさ。」

「『鬼人族』も、かつての様に引き込もってばかりもいられないですからね。『外の世界』を知るレルフの様な者には、『引退』後は戻って来てもらって、『知識』や『経験』を後進に伝えてもらっているのですよ。」

「ほぉ~、なるほど~。」


以前にも言及したが、『冒険者』は『地球』で言うところの『プロスポーツ選手』に似通った部分がある。

『レベル制』のあるこの世界アクエラであるが、やはり肉体的な衰えもあるからな。

とは言え、『鬼人族』はその(どこぞの“戦闘民族”みたいな)『種族特性』として、『活動期間青年期』が長い傾向にあるのだが、やはり『S級冒険者』クラスの『依頼』ともなると、その『依頼』内容もハードになるし、他の仲間達との兼ね合いもあるだろう。

おそらくそうした事情もあって、レルフさんも戻って来たんだろうな。


「おいっ、テメェ俺様を無視してんじゃねーぞっ!?」

「っ・・・!」

「ティーネっ!落ち着いてっ!」

「そちらの方はどちら様で?」

「すまないな、アキトくん。一応俺の弟子の一人だ・・・。」

「ああ~・・・。」


典型的なな人か。

年齢的にはアイシャさんと同じくらいで、自信とやる気に満ち溢れた雰囲気の青年だ。

レルフさんが目を掛けるくらいだから『才能』もあるんだろうが、と経験不足なのは否めない。

その証拠に、ティーネが瞬間的に発した強力な『殺気』をマトモに受けても「どこ吹く風」であった。

ある意味では『大物』なのかもしれないが・・・。


「俺様はルイード・ノーレン・アスラ様だっ!オメー『試練の儀』を受けてぇんだろぉ~?なら、俺様と戦り合って『力』を示してみやがれよぉ~!?」

「ああ、なるほどね。」


もしかしたら、意外と一番『鬼人族』『気質』を持っている人なのかもしれない(いや、チラチラとアイシャさんを意識している様なので、それ以外にも『理由』があるのかもしれんが)。

まぁ、しかし、彼の言う事も一理ある。


「彼に勝てば、『鬼人族』としても僕が『試練の儀』を受ける事に異論はありませんか?」

「へっ!言いやがるっ!俺様に勝てるつもりなのかよっ!?」

「少し黙らんか、ルイードっ!」

「・・・チッ!」

「う~む(まぁ、ルイードでも良いか?本当は、ラインハルト我が息子辺りと戦り合わせてみて『英雄』の『力』を見極めるつもりだったが・・・)。あい分かりました。アキト殿とルイードの『力比べ』を『族長』として認めましょう。見事ルイードを打ち破れば、『試練の儀』を『鬼人族我ら』としても公認しようではありませんか。」

「へっ、そうこなくちゃなっ!」

「分かりました。」


パシンッと手のひらと拳を打ち合わせて喜びを表現したルイードさん。

レルフさんは痛みを堪える様に頭を抱えるのだったーーー。



「まったくっ!何なんですかっあの人はっ!?主様あるじさまに対してあの態度っ!」

「まあまあ、落ち着いて、ティーネ。」

「これが落ち着いていられますかっ!」

「けど、ボクもティーネさんの意見に賛成かなぁ~。あんま感じ良くはなかったよね~。」

「うぅ、それを言われるとツライなぁ~。ルイードは、での典型的な『鬼人族』の『性質』を体現してる様なヤツだからねぇ~。」

「・・・どういう事ですか?」


アイシャさんの呟きに疑問を持ったメルヒが、僕の方を向いて尋ねた。

なぜここで僕を見る?

いや、アルメリア様からこの世界アクエラの事は一通り学んだから知ってはいるけどね?


「『鬼人族』は圧倒的な身体能力を持っている『種族』で、性格は好戦的な面もあるが、竹を割ったようなさっぱりした者が多いんだ。意外と手先が器用で、『ドワーフ族』とは別ベクトルで『金属加工技術』に優れている。男女共に『強者』に惹かれる傾向にあり、『力』を示せば『他種族』に対しても敬意を払う『力』を重んじる『種族』だね。ただ、中には当然ながら己の『力』を過信し、『他種族』を見下す傾向にある者も一定数いるんだ。特に長期による『他種族』との交流断絶により、最近まではその傾向がより強いらしいよ?」

「ならば、主様あるじさまはむしろ『尊敬』を集める対象ではありませんか?」


至極当然と言った表情でティーネが言葉を挟むが、僕はかぶりを降った。


「いやいや、もはや僕らとしてはの事だから意外と見落としがちになるんだけど、相手の『実力』を測る事は相当な『訓練』と『経験』・『実力』が必要なんだよ。ある一定の『レベル』に達したハズの『冒険者』なんかが不幸な“”に遭うのも、そうした理由からだね。ある種の『』や『』が、『眼』を曇らせてしまうのさ。故に、『』の印象だけで自分の中で『勝手な結論』を出してしまい、細かい『観察』を怠ってしまうんだね。」


『第二次性徴』を迎えつつあるとは言え、今現在の僕の身長は、まだ160cmそこそこしかない。

対して、『鬼人族』であるルイードさんは身長2mを越える筋肉隆々の大男で、端から見れば子供と大人くらいの身長差・体格差があるのだ。

客観的に見れば、どちらが「強そうか?」は一目瞭然だろう。

もちろん、『レベル制』のあるこの世界アクエラでは身長差や体格差が全てではないが、やはり『』の印象は大きい。

相手の『実力』を測る『指針』として、この世界アクエラには『ステイタス』があるにはあるが、それを“盗み見る”所謂『』とか『』みたいなスキルはないので、最終的にどう“判断”するかは個人個人の『経験則』や『観察眼』に依存するのである。


「まぁ、要は自分が一番強いとしてんのさ。『閉鎖的な社会』で育った弊害だな。」


そこに会話に入って来たのがレルフさんだった。


「悪いな、アキトくん。俺の弟子が。」

「いえいえ。どちらにせよ、『鬼人族』の皆さんにも認めて頂かないと、大手を降って『試練の儀』に挑めないですからね。逆に手間が省けましたよ。」

「ハハハッ、ルイードの事なんか眼中にないか?まぁ、見るヤツが見れば分かる事だがな。」

「まぁ、失礼ですがその通りです。残念ながらルイードさんは、今の僕には何ら脅威ではありませんからね。レルフさんの面目を潰してしまう様で申し訳ないのですが。」

「いや、構わないよ。ルイードには、一度ハッキリとした『挫折』を『経験』させた方が良い薬になると俺も思っていたところだ。特に、同じ『鬼人族』ではなく、『他種族』の者に敗れれば、少しは“視野”も広がるだろうよ。まぁ、それでダメならそれまでだがな。」


確かにレルフさんも手を焼いている様だったからなぁ~。

自信を持つ事は良い事だが、レルフさんほどの『使い手』の『助言アドバイス』に耳を傾ける事が出来ない様では、自身の成長を阻害するだけだ。

まぁ、その後どうなるかは結局本人次第なんだけど。


「しかし、しばらく見ない内に色々な『仲間』が増えたみたいだな。『エルフ族』に『ドワーフ族』か。俺の『ホーム』だった『トロニア共和国』でも中々見掛けない『混成チーム』だな。」

「ああ、そういえばレルフさんと皆は初対面でしたね?紹介するよ、こちら『鬼人族』にして『元・S級冒険者』のレルフさん。以前、アイシャさんと共に『シュプール』を訪れた時に、短い期間だったけど教えを受けた事があるんだ。レルフさん、こちらは『仲間』で『エルフ族』のティーネ、ハンス、ジーク、ユストゥス、メルヒ、イーナ、それと『ドワーフ族』で『英雄』の専属『鍛治職人』のリサさんです。」

「レルフおじさんは、私にとっても“師匠”みたいな人なんだよぉ~。」

「レルフ・ノーレン・アスラだ。よろしく。アイシャが世話になってる様だな。これからもよろしく頼むよ。」

主様あるじさまの『従者』を賜っている『エルフ族』のエルネスティーネ・ナート・ブーケネイアと申します。ティーネとお呼び下さい。」

「同じく、ハンスフォード・ナート・ダルケニアと申します。ハンスで結構です。」

「同じく、ジークハルト・ナート・フィルメールと申します。長いので、ジークとお呼び下さい。」

「同じく、ユストゥス・ナート・アングラニウスです。ユストゥスでいいっスよ。」

「同じく、メルヒオーレ・ナート・ドラクロアと申します。メルヒとお呼び下さい。」

「おなじくー、イーナ・ナート・フェルトだよー。イーナでいいよー。」

「『ドワーフ族』でアキトの専属『鍛治職人』のリーゼロッテ・シュトラウスです。リサとお呼び下さい。よろしくお願いいたします。」


仲間達とレルフさんの一通りの挨拶が終わると、レルフさんは改めて真剣な表情で僕を見た。


「風の噂でアキトくんの『』は聞いていたが、先程の族長との会話も、すまんが立ち聞きさせて貰ったが、何だか大変な事に巻き込まれている様だな?」


大半の『鬼人族』の方々とは違い、『外の世界』の情勢に詳しいレルフさんは、ある程度の『情報』を知った上で何かを察した様にそう言った。


「まぁ、大変不本意ですが、『英雄』の“称号”を持つ以上は仕方ない事ですよ。幼い頃よりトラブルにはしょっちゅう巻き込まれていましたから、もはや慣れましたが。」

「ふむ、それならば良いが・・・。くれぐれも無理はするなよ?それはそうと、『限界突破』がどうとか言っていたが、もしや“レベル500カンスト”に到達したのかいっ!?」


やはり、『元・冒険者』としては、そこは気になる“ポイント”の様だ。

(文化的に『ステイタス』をあまり重視していない、あるいはあまり詳しくない)ローマンさん達には、いまいちピンときてなかった様だが、『外の世界』の生活が長いレルフさんには、“レベル500カンスト”が如何いかにとんでもない事かが分かるのだろう。


「ええ、本当につい最近の事ですが。」

「ほぇ~。に到達出来る者が本当にいたんだなぁ~。って事は、アイシャ達もっ!?」

「いやいや、レルフおじさん、私達はそこまで到達してないよぉ~。結構特殊な『トレーニング』が必要だからねぇ~。」

「ふ~む、それも興味深い話だな。『試練の儀』の『』も気になるところだし。しかし、これから『力比べ』をするアキトくんの邪魔になってもいけないね。」


はたと気付き、レルフさんは己の態度を軽く反省した様だ。

しかし、知識欲や好奇心が旺盛なのは、『冒険者』にとっての一番の『資質』であると僕は思う。

未知のモノや事象に興味を持ち、そこに踏み込んで行く事は、様々な発展の為にも大事な事だしね。


「いえ、それは別に良いのですが、確かにそろそろ“頃合い”の様ですね。これが済んだらまた後でゆっくりお話をしましょう。レルフさんの持つ『知識』や貴重な『ご意見』を僕も聞いてみたいですし。」


ちょうどそこに、何かしらの“準備”が終わったのか、見知らぬ『鬼人族』の女性が顔を見せたのだった。


「『英雄』殿。『力比べ』の“舞台”が整いましたので、『広場』まで御越し下さい。」

「ええ、分かりました。」


さて、それじゃ「大事の前の小事」を済ませますかね~。



◇◆◇



「ふむ。彼が『英雄』殿か・・・。」


急遽開催される運びとなった『力比べ』の“場”に現れたアキトを遠巻きに眺め、“舞台”となる集落の『広場』を取り囲んだ人々の中の一人の青年がそう呟いた。

『鬼人族』の『社会システム』は、どちらかと言うと『人間種』と言うより『野生動物』や『魔獣種』に近く、『力』の強い“個体”が『部族』を率いる『立場』になる傾向にある。

そうした事から、『鬼人族』にとっては『力比べ』は日常生活に溶け込んだモノであり、『ヤクシャ族』・『ラクシャサ族』・『アスラ族』による部族交流や、『神事』・『祭礼』の際にも目玉となる行事イベントでもあった。

そんな事もあり、簡易的なモノとは言え、ルイードとアキトの『力比べ対戦』が即座に実現し、こうして多くの『鬼人族』達が見物に集まるのも無理からぬ事なのである。


「ラインハルトは『英雄』をどう見る?」


その青年の隣にローマンが立ち、そう聞いた。


「そうですね・・・。『』はまだ幼い少年ですが、『雰囲気オーラ』と立ち居振舞いは“ただ者”ではありませんね。ですが、正直よく分かりません。あまりに“自然体”過ぎて、『強者』特有の『』を感じませんし・・・。」

「うむ、お前も私と同意見か。やはり直接見てみるのが早いか・・・。」

「そうですね。」


このラインハルトと呼ばれた青年は、ローマンの息子であり、アイシャの一番上の兄でもある。

今現在の『アスラ族』では、レルフに次ぐ『実力者』であり、次期『族長』候補の筆頭でもある。

ローマンも、当初は何かしらの理由を付けて、アキトとラインハルトを戦り合わせてみて、『英雄アキト』の『力』を見極めようとしたのだった。

まぁ、それも横やりが入った事で“予定”が変わってしまったが。


「しかし、ルイードはやる気満々ですね。やはりアイシャの事を忘れていないのですかね?」

「う~む、こればかりは私からは何とも言えんなぁ~。元々アイシャにが無かったのだから、ヤツの“一人相撲”なんだが、自分の『強さ』をアピールすればまだチャンスはある、とでも思っているのではないか?まぁ、実際レルフの教えを受けてからは、ヤツもみるみる『実力』を伸ばしているが、さてはて、どうなる事やら・・・。」


そんな言葉を交わしている間に、『広場』の中央ではルイードとアキトが対峙していた。



ルイードは所謂『猪突猛進』な、ある意味『鬼人族』青年であった。

とは言え、『鬼人族』も今現在では徐々にではあるが『他部族』とも交流を持ち、そう多くはないが、レルフの様に『外の世界』に飛び出す者も現れ始めて、“変革”の時を迎えていた。

ルイード自身も、『アスラ流格闘術』を『外の世界』で更に昇華させたレルフ独自の教えを受け、レルフには一定の敬意を持っていた。

しかし、これは文化的な事ももちろんあるのだが、若者特有の思慮の浅さもあいまって、急激に『実力』を伸ばしたルイードは分かりやすく増長していたのだった。

確かに、まだまだルイードより強い者は『鬼人族』の中にはいるが、今の自分が『他種族』に遅れを取るなどとはこれっぽっちも思っていないのである。

そんな彼のもとに、かつて思いを寄せていたアイシャが『英雄』を名乗る『人間族』の少年と共に『帰郷』してきた。

彼の単純明快な思考からいくと、そんなアキトより今の自分の方がアイシャに相応しいと考え、挑発はしたモノの、あくまで『鬼人族』の『伝統ルール』に則り、『力比べ』でアイシャのとしたのだった。


「それではこれよりルイードとアキト殿の『力比べ』を開始する。ルールは簡単で、己の肉体のみで競い合い、勝敗は気絶させるか、降参させた方の勝ちとする。ただし、相手を殺す事は禁ずる。両者質問は?」

「ねぇよっ!」

「大丈夫です。」


“場”を取り仕切るのは『アスラ族』の『青年会』の一人であり、ラインハルトと同年代のロイトと言う青年であった。


「では、対戦開始っ!」

「へっ!速攻で終わらせてやるよっ!」


『力比べ』はその名の通り、己の肉体のみでこれまで積み上げてきた『技術』や『研鑽』をぶつけ合う事である。

この『ルール』では、身体能力に定評のある『鬼人族』にとっては圧倒的に有利である。

小細工なしに開始と同時にルイードはアキトに強襲を仕掛ける。

終わったーーー。

そう大半の者達は確信した。


「・・・相手が倒れるまで油断しない方が良いですよ?」

「へっ・・・!?」


しかし、結果は違った。

ルイードの渾身の一撃を軽く受け流し、グルンッと“合気”の要領でアキトはルイードを投げ飛ばす。


「ガハッ!?」

「なかなかですが、素直過ぎですよ。もっと『虚実』や『空間』を上手く使わないと。」

「くそがっ!」


本来なら、いくらアキトが“レベル500カンスト”に到達していようとも、『器用貧乏』な『人間族』の『特性』上、『鬼人族』の身体能力を圧倒する事はまず不可能だと“”では思われていたのだが、アキトがこれまで実践してきた“レベリング”ではそれを覆す事が可能だった。

当然、『英雄の因子』所持者と言えども、アキトは『前世』では『武術』の心得が有った訳ではないのだが、こちらの世界アクエラで本格的に学んだり、仲間と『切磋琢磨』したり、『前世』の『経験』も柔軟に取り入れた結果、すでにアキトは『達人』と呼ばれるレベルを超越していた。


「ほらほら、いくら『膂力りょりょく』があっても単調な攻撃では簡単に見切られてしまいますよぉ~。」

「くそっ、チョロチョロ逃げ回りやがってっ!」


ふたを開けてみれば、ルイードは完全に遊ばれていた。

いや、見ようによっては『指導』を受けている様にも見えた。



「これほどとはっ!?以前も俺の『稽古』によくついてくるとは思っていたが・・・。」

「言っとくけど、アキトが“オカシイ特殊な”だけだからね?レルフおじさん。私とも普通に戦り合えるし、本気でやれば『鬼人族』の身体能力も軽く上回るからねぇ~。」

主様あるじさまとアルメリア様に“”は通用しませんからねぇ~。『エルフ族』の身軽さや俊敏性にもついてきますし。」

「手先も器用だよねぇ~。『ドワーフ族』とも『鬼人族』とも違う『加工技術』を持ってるし、あれでも『基本』は『魔法使い』だしね?」


あんぐりと口を開けたレルフ。

すでに自分は越えているとは感じていたが、そのアキトの『非常識』ぶりに軽く目眩を覚えていた。

確かに『ゲーム的観点』から見ても、バランスの取れた“キャラクター”はある意味では重宝するのだが、『器用貧乏』となりがちであり、実際には使いづらかったりするモノである。

しかし、これを極限まで突き詰めると“ゲームバランス”も何もあったモンじゃない『完璧超人』が完成したりする場合があるのだ。

まぁ、それはある意味究極の『理想系』なので、実際にそうなる事は皆無と言っても良いのだが、アキトは驚くべき事にそれを体現していた。


「これは、ルイードには酷過ぎたかな・・・。」

「ま、アキトなら上手くやるでしょっ!・・・多分。」


『挫折』を『経験』させるどころか、勝負にすらなっていない。

『力比べ』を眺めながら、レルフとアイシャは遠い目をしたのだった。



「なんじゃありゃっ・・・!?」

「我々は悪い夢でも見てるのでしょうか?」


レルフと違い、アキトに対する『耐性』を持たない『鬼人族』達には、目の前の光景は信じ難いモノだった。

確かに、かつての『歴史』でも『鬼人族』と対等に戦り合う『猛者』が『人間族』や『他種族』に存在したのは『知識』として知ってはいた。

しかし、くだんの『英雄アキト』は、単純なだけでも『鬼人族』を凌駕している。

もちろん、『鬼人族』とは異なる様々な『武術』も使用している様だが、それを踏まえた上でも『』とは裏腹にその立場は完全に逆転していた。


「『英雄』殿は、我々の“”が通用しない存在、と言う事でしょうか?あれでも、まだまだ本気を見せていない様に感じますが・・・。」

「・・・『力』を見極めるとかおこがましかったかもしれんな。」


ラインハルトとローマンは、『英雄アキト』の『実力』に畏敬の念を抱くのだった。



「くそっ!?マジかよっ!?」


ルイードも、すでに自分の『力』がアキトの足元にも及ばない事を痛感していた。

しかし、自分から吹っ掛けた『力比べ』で、無様に降参をする事だけは彼の『プライド』としても許容出来なかった。


「やってやらぁっ!!」


それ故、ルイードは『奥の手』を使った。


「ほぉ~!やりますねっ!」


『魔闘気』。

ある一定の『才能』のある者だけが発現する『能力』であり、特に『鬼人族』の様な『アタッカー』タイプが使用すると、とてつもない強力な『武器』となる。

『力比べ』の『ルール』上、相手を殺してしまう事は禁じられているのでルイードも使用するつもりはなかったが、逆転の目があるとしたら『魔闘気これ』を使用するしかない。

ルイードの『戦闘勘カン』は悪くなかった。

しかし。


「ですが“使”のと“使”のでは雲泥の差がありますよ?残念ながら、“使”程度で今その『手札』を切っても悪手にしかなりません。もう少しレルフさんのもとでを身に付けて下さいねっ?」


残念ながら『魔闘気それ』もアキトには通用しなかった。

ここら辺は、所謂『経験』に絶対的な差があった。

『魔闘気』は強力な技だが、“”が上がっているだけで『基本的』な『力量』が上がる訳ではない。

それ故、『力量』に差がある者には、意外と簡単に見切られてしまう可能性もあるのだ。

しかも、『魔闘気』は『運用効率』が悪いとすぐに『ガス欠』を起こし、『弱体化』するリスクがある。

実際には本当に『弱体化』する訳ではなく、よく練っていないと“感覚”にズレが生じ、調子を崩す事が『弱体化』の“正体”なのだが、結果的には未熟な者が中途半端に『魔闘気』を使うと“諸刃の剣”となりうる危険性が高いのである。


「ガハッ!!!???」


”を上げた事により、ルイードの超高速の一撃がアキトを襲うが、クロとヤミの件もあり『カウンター』はアキトの十八番オハコ中の十八番オハコである。

紙一重でルイードの拳をいなし、その無防備となった胴体にアキトの“肘打ち”が深々と突き刺さっていた。

自らのスピードが逆に災いし、“自滅”した形で大ダメージを受けたルイードはそのまま崩れ落ちた。

ズウゥゥゥンッ!!!


「勝ちましたけど・・・?」

「へっ!?」


シーンと辺りが静寂を包む中、アキトはロイトに問い掛ける。

慌ててロイトはルイードの様子を確認した。

許容量を越える大ダメージを受けたルイードは、白目を向いて気絶している。


「し、勝者、アキト殿っ!!!!」

「ありがとうございましたっ!」


ワアァァァァッ!!!!!!!!!!

ロイトの勝利者宣言に『広場』には歓声がこだまするのだったーーー。


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