第64話 『ノーレン山』へ



◇◆◇



「と言う事で、僕は『ドラゴン』と一戦戦り合う事になりました。」

「いや、と言う事でと言われましても、我々は“事情”がよく飲み込めてないのですが・・・。」


その日の夕食の席にて、突然そんな事を言い出した僕にジークは冷静なツッコミを入れた。

いや、ここはもう説明したていにしておこうよぉ~。

改めて“事情”を説明すんのもしんどいっすわぁ~。

ただでさえ憂鬱なのにさぁ~。


「アキトさんが“現実逃避”している様なので、私からかいつまんで“事情”をご説明致しますわ。」


見かねたアルメリア様が、改めて皆に“事情”を説明し始めるのだったーーー。



「へぇ~、やっぱりアルメリア様とアキトは『』だったんだねぇ~。」

「アルメリア様が『忘れられた神』で、主様あるじさまが『英雄の因子』所持者の『元・異世界人』、ですか・・・。」


アルメリア様も流石に今回の“事情”を説明するのに、ここら辺の(一部)『事実』を語らなければ説明が難しいと判断したのだろう。

アルメリア様と僕の『秘密』を仲間達に開示する事にした様だ。

と、言っても、アルメリア様は分からないが、少なくとも僕はその事を特段隠していた訳ではない。

ただ、こちらの世界アクエラの者達にとっては、『』と言うのは荒唐無稽な話なので、わざわざ話して“イタイ人”認定されてもアレだったから話さなかっただけである。


「まぁ、アルメリア様と主様あるじさまが『』なのは今に始まった事じゃないだろう?」

「むしろそういう『秘密』があった方が、何かと納得出来ると言うモノだ。」

「いくら俺ら『エルフ族』と文化が違っても、いくら『英雄』と呼ばれる“存在”でも、あるじさんと初めて会ったのが8歳くらいだったっけ?で、すでに俺らより強いのもオカシな話だったからなぁ~。」


とは言え、ジーク、ハンス、ユストゥスの反応を見るに仲間達としてもその事に対して特に驚きはない様であった。

シュプールここ』での『生活』が長ければ長いほど、『非常識』に対する“耐性”も“適応力”もついてるだろうからねっ!

まぁ、主に僕のせいなんだけどさ・・・。


「それよりも、『召喚』されてしまった主様あるじさまと『』の『異世界人』達の事が気がかりですね。」

「『世界』のバランスの崩壊かぁ~。ボクには事が大きすぎて想像も出来ないや。」

「だけど、アルメリアさまがおっしゃるならホントなんだろーねー。」

「それを何とかする為に、アキトの『限界突破』がどうしても必要なんですね?」

「ええ。これ以上の事は、私の『制約』に抵触するので詳しくは申せませんが・・・。どうか皆さん、アキトさんに“ご協力”頂けませんか?」


アルメリア様は、自分の『生体端末』が長くない事も説明した上で、こう仲間達に頭を下げた。

まぁ、“存在”自体が消滅する訳ではないからアレだが、気軽に会えなくなるのは事実だし、この場面であえて言う事でもない。

アルメリア様のその姿に、僕もグダグダとした“現実逃避”を止めて、同じく頭を下げた。


「僕からも改めて皆にお願いするよ。それぞれ『立場』も『種族』も違うけど、この世界アクエラ(と僕の素敵な『遺跡発掘ライフ』)を守る為に、皆の『力』を貸してほしいっ!」


一部個人的な事情も混ざっているが、『世界』のバランスの崩壊はこの世界アクエラに生きる全ての者達にとっては重大な問題である。

それ故に、すでに皆には『立場』や『種族』を越えて『リベラシオン同盟』に“協力”して貰ってはいるが、うやむやの内になし崩し的に巻き込むのではなく、改めて皆の“意思”を問うべきだと判断したのだった。


「あったり前じゃんっ!」

「我らは主様あるじさまに『忠誠』を誓った身。何処までもお供させていただきますっ!」

「ダーリンがいる所がボクのいる所だよ。その為に、頑張って『独立』したんだからねっ!」


とは言え、これまでの経緯から僕らの“信頼関係”や“絆”、“結束”は強固なモノとなっている。

アイシャさん、ティーネ、リサさんがそう快く返事を返し、ジーク、ハンス、ユストゥス、メルヒ、イーナ、そして、リオネリアさんとフィオレッタさんも力強く頷いてくれた。


「ありがとう。」「有り難う御座います。」


その事に感謝し、僕とアルメリア様は再び深々と頭を下げるのだったーーー。



「さて、“事情”が分かったところで今後の“方針”だね。とりあえず僕の『限界突破』の話は良いとして、『シュプールここ』はどうしましょうか?やっぱり“拠点”を移した方が良いのですかね?」

「そうですね。建物自体は何の変哲もないモノなので良いのですが、私の『領域干渉結界』は“解除”しなければずっとしまいますから、『世界』への影響も考慮して“解除”せねばなりません。となれば、当然『シュプールここ』も『安全地帯』では無くなりますからね。」


ふむ。

住み慣れた『シュプール我が家』を出るのは少し淋しくあるが、仲間達の『安全』を考えれば“拠点”を移すのが最善か。

まぁ、仲間達の『実力』を考えれば『領域干渉結界』が無くなっても特に問題なさそうだが、リオネリアさんとフィオレッタさんは“荒事”に関しては素人だからね。


「となると、『ルダの街』に移住するか、『リベラシオン同盟』の今後を考えて王都・『ヘドス』に移住するか、だな。」

「『ルダの街』の方が良いと思うけどね~。私達、一応『他種族』だし。」

「そうですね。『ルダの街』の方々は快く受け入れて下さっていますが、『ロマリア王国この国』の他の者達となると・・・。」

「それなんだよねぇ~。」


ロマリア王国この国』では、『他種族』、特に『エルフ族』と『獣人族』に対する『差別意識』が根強く残っている。

『リベラシオン同盟』の活動により、大分『ロマリア王国この国』も“変化”していると思うが、一度根付いた文化や思想を覆すのは中々難しいだろう。

わざわざ仲間達に嫌な思いをさせるのもアレだし、結果的には『ルダの街』一択となるかな・・・?


「ちょっと待って下さい、アキトさん。『召喚』された『異世界人』達の事も考慮すると、アキトさん達はこれからは『他国』に赴く事が多くなると思います。いずれにせよ、『限界突破』しない事には始まりませんので、それから考えても遅くありませんよ?私もすぐにいなくなる訳ではありませんからね。」

「ふ~む。そうですよねぇ~・・・。」


ますは『限界突破』しない事には話にならんか。

場合によっては、僕らは『リベラシオン同盟』から『独立』して動く必要があるかもしれんから、予定を組んだとしても変更を余儀無くされる事もあるかもしれんしな。


「とりあえず『冒険者登録』ついでにダールトンさんとドロテオさんにもある程度の“事情”を説明してから、『ノーレン山』に向かって『限界突破』。その後の事はそれから、ってトコですかね?」

「それが妥当でしょうね。」


僕の発言にアルメリア様も頷いた。



◇◆◇



「ふ~む、『世界』のバランスの崩壊か・・・。」

「『非常識』なヤツだとは思っていたが、まさか『異世界人』だったとはねぇ~。」


翌日、僕らは『冒険者登録』ついでにダールトンさんとドロテオさんと面会していた。

今現在の『リベラシオン同盟』は、以前の(『隷属の首輪』で操っていた)フロレンツ侯の“後ろ楯”を得ていたとは言え、非合法な義賊行為をしていた頃とは違い、『ノヴェール家』や有力な『名門貴族』達、『冒険者ギルド』や『魔術師ギルド』もその名を連ねる『一大政治団体勢力』に様変わりしている。

まぁ、世の中“綺麗事”だけでは済まないから『武力』を持つ事自体は、特にこの世界アクエラでは珍しくない。

なので、僕らが“所属”していても何ら不自然ではなかったが、この段階に来ると、『武力』や『勢力』を背景とした『政治的圧力交渉』がメインとなるので、僕らの“存在意義”は前よりは小さくなっている。

まぁ、こちらとしてもめぼしい『他種族解放』も済んでいるのでそれは良いのだが。

それ故、後の事は『リベラシオン同盟』の皆さんに任せて、僕らは『独自』に動くべきだと考えている。

どちらにせよ、『召喚』された『異世界人地球人』達は僕と同等の『力』を持つなら、対抗出来るのは、それに近しい僕らだけとなる訳だしね。


「そんな訳で、“発起人”の一人としては心苦しいのですが、『リベラシオン同盟』の活動は皆さんにお任せして、僕らは『独自』に動くべきだと考えているのですが・・・。」

「うむ。まぁ、それが妥当だろうね。」

「その『召喚』された『異世界人』達がアキトと同等の『力』を持つってんなら、対抗出来るのはアキト達しかいねぇからなぁ~。」


幸いダールトンさんとドロテオさんの意見も僕と同じ様だった。


「しかし、今だ『ロンベリダム帝国』は目立った活動をしている『噂』は聞かないなぁ~。アルメリアさんの『情報』だから、信頼は出来るのだけど。まぁ、『水面下』で動いていれば、今の『リベラシオン同盟我々』でも『情報』の入手は困難だけどね?」

「俺も『戦闘』に関しちゃ『元・プロ』ですが、『戦争屋』ではありませんでしたからそこら辺は曖昧になっちまいますが、いくらアキトクラスの『使い手』が複数人いようと、『』となるとまた話は変わってきますからねぇ~。案外『異世界人』達をそうした利用はしない“方針”なのかもしれませんよ?」

「ふ~む、なるほど・・・。」


ふむ、それは新しい『情報』だな。

まぁ、もっとも、『異世界人地球人』が僕と同等の『力』を持っていても、元は一般人の筈だ(いや、正確には『地球時代』の『経歴』までは分からんけども)。

それが、こちらの世界アクエラに来ていきなり『実戦』を戦えるかと言ったら、答えはNoだ。

当然だが、こちらの世界アクエラの戦いは『ゲーム』ではなく、“”な命のやり取りだからだ。

それ故、それなりの“覚悟”を持ち、相応の訓練を積まなければ、弱い『モンスター』や『魔獣』相手だろうと、実際に一戦交えるのだって精神的に相当キツい筈である。

実際僕がそうだったからな。

そう言った話なのか、はたまた別の理由かは知らないが、『ロンベリダム帝国』が『異世界人地球人』達を表立って使事は事実なのだろう。

例え強力な『箝口令』を敷いたとしても、「人の口には戸は立てらぬ」とはよく言ったモノで、『噂話』にすらならないのは不自然だからな。

そうした意味では、『ロンベリダム帝国』が沈黙を守っている内に、『限界突破』の『試練』を受けられるのは、タイミングとしては良いのかもしれないな。


「まぁ、どっちにせよ、僕が『限界突破』しない事には動き様がありませんからね。僕らが『ノーレン山』に赴いている間は、『ロンベリダム帝国』や『異世界人』達の『情報』に注意を払って下さい。無事に『限界突破』を果たしたら、また改めて協議しましょう。」

「そうだね。」

「ああっ!っつか、『限界突破』の『試練』はあの本物のである『ドラゴン』と戦り合うんだろ?アキト、オメー死ぬなよ?」

「ハハッ、まぁ、やるだけやってみますよ・・・。」


流石に『元・冒険者』だけあって、ドロテオさんには『ドラゴン』の脅威がに分かっているのだろう。

普段からは想像もつかないほど、心配気な表情で僕にエールを贈ってくれた。

まぁ、無傷ではいられないと思うが、僕も死ぬつもりはない。

「備えあれば憂いなし」と言う事で、入念に『準備』してから『ドラゴン』に挑むつもりである。



◇◆◇



さて、『冒険者登録』も無事に済ませた僕らはアイシャさんの『故郷』である『ノーレン山』を目指している訳だが、『パーティー』は僕、アイシャさん、ティーネ、リサさん、ハンス、ジーク、ユストゥス、メルヒ、イーナの合計9名である。

残念ながら、リオネリアさんとフィオレッタさんは『戦闘要員』ではないので『シュプール』にて“お留守番”である。

“お留守番”と言っても、この世界アクエラには僕らの所持している『通信石つうしんせき』以外に遠方の者と即座に連絡を取れる手段が現状ないので(『失われし神器ロストテクノロジー』にはあるかもしれないが)、『協力者』(例えばヴィアーナさんや『ノヴェール家』の方々)との『連絡役』としてはかなり重要な役割である。

ただ、リオネリアさんとフィオレッタさんは仕えるべき相手(慕っている相手?)であるハンスとジークと離れるのを残念そうにしていたが・・・。

最近は、ユストゥスもヴィアーナさんと何やら良い感じの様であるし、この中身『男子中学生』である三人にもついに“春”が来たのだろうか?

まぁ、とは言え、僕が口出しする事じゃないが、三人とも上手くいったとしてもお相手がそれぞれ『人間族』の女性故に色々大変だとは思う(仮に結婚となると、この世界アクエラでは『人間族』と『他種族』間のみ交配が可能だが、『人間族』側の『レベル』が低すぎると生まれる子供が虚弱かつ極めて短命になるリスクがあるし)。

今現在の三人(まぁ、アイシャさん、ティーネ、メルヒ、イーナもだが)は、限り無く“レベル500カンスト”に近い、言うなればこの世界アクエラの『歴史』に名を遺すほどの『使い手』達だ。

当然、そうした極めて優秀な者達の“血筋”を残したいと『エルフ族』側としては思うだろうし、同じ『エルフ族』と結ばれて欲しいとあれこれ画策する事だろう。

まぁ、この世界アクエラでは『一夫多妻制』も珍しくないのでアレだが、圧倒的な『強者』故に、逆にこれからは“女性関係”で悩まされる事となるかもしれんなぁ~。

ま、かく言う僕も全然他人事ではないんですけどねー。

『英雄』の“称号”を持ち、すでに“レベル500カンスト”を迎え、これから『限界突破』に挑む僕は、これが『世間』に知れれば、この世界アクエラではひっきりなしに求婚を受ける『立場』だ。

『神々』からも嬉しくない『ラブコール』をすでに嫌と言うほど受けているし。

現状でも、大変ありがたい事に三人の女性から思いを寄せてもらっている。

アイシャさん、ティーネ、リサさんである。

『元・日本人』としての『社会通念』を引きずっている僕は、多少思うところもあるのだが、三人の思いに応える『覚悟』はすでにそれなりに出来ている。

『第二次性徴』も始まり、めでたく(?)『精通』を迎えた僕は、心身ともにこの世界アクエラ、と言うか『ロマリア王国この国』では『大人』の仲間入りであり、それによるある種の「まだ『大人』じゃないから」と言う“言い訳”も効かなくなった訳だしね。

まぁ、現状では問題が山積しており、一旦“保留状態”となっているのが心苦しいんだが。


「フンフンフ~ンっ♪」

「ご機嫌だね、アイシャさん。」

「まあねぇ~。アキトがこれから大変なのは分かってるけど、アキトと一緒に『帰郷』出来るのは素直に嬉しいよっ!やっと父さんと母さん、兄さん達にアキトを紹介出来るもんねぇ~!」


いやいや、結婚の挨拶じゃないんですけど。

案内役ガイド』として軽快に山道を進むアイシャさんに、僕は軽く呆れてしまった。


「あ、主様あるじさまっ!今度『エルギア』にも是非お越しくださいっ!私も、その、主様あるじさまを家族や『同胞』達に紹介したいですし・・・///あ、後、『エルギア』にも、未知の『遺跡』らしきモノが多数存在するんですよっ!?」

「あっうん。」

「ダーリン、ダーリン、『ドワーフ族の国』にも来てよっ!ボクも家族達にダーリンを紹介したいし、一人前、どころか『の『鍛治職人』になった事を報告したいしさっ!あ、後、『ドワーフ族の国』は無駄に長い『歴史』があるから、ダーリンが気に入る『資料』なんかもあるかもよっ?」

「あっハイ。」


アイシャさんに負けじと、『従者』として同行するティーネにもそうアピールされ、『ルダの街』に移住したドニさん一家のもとからつい最近『独立』したリサさんもそう言ってきた。

リサさんの事情は彼女自身やドニさんからも聞いていたが、元々彼女は卓越した『腕』の持ち主だったが、“女性”故に『ドワーフ族』では一人前の『鍛治職人』として認められる事がなかった。

それ故、『ドワーフ族の国』で燻っているよりは、『人間族の領域』で名を上げて、そうした『風習』に風穴を空けるべく一念発起したのだそうだ。

まぁ、その過程で『ルダ村の英雄』としてすでに噂となっていた僕と知り合い、ドニさん一家共々『シュプール』に来る事となり、半年ほど一緒に暮らしていたのだが、バッティオ親方に頼んでいたドニさん一家の『住居兼工房』が完成した後は、一旦別れて暮らしていたのだった。

しかし、僕を慕ってくれていたリサさんは、一心不乱に“修行”して、つい最近ドニさんのもとから『独立』を果たして『シュプール』に戻って来てくれたのだった。

ドニさんが言うには、最初から彼に迫る『腕前』があったのだが、驚異の吸収力であっという間に自分を追い抜いたそうだ。

しかし、『鍛治職人』としての名を上げる目的もあったのでしばらくは手元に置いていたのだそうだが、僕らの為の製作したリサさんの『武具』の数々を見て、いち『職人』として、このまま『田舎街』で燻らせておくのは惜しいと感じたのだとか。

特に『魔工』と言う『特殊技能』は、ドニさんにも教える事の出来ない『分野』であり、また、『大人』としての計算から、『英雄』の“称号”を持つ僕のの『鍛治職人』となれば、名を上げる上でも有利だと判断したのだとか。

そんな訳もあり、『後継者』であるアランも10歳を越えて本格的に『鍛治職人』としての“修行”を開始し、『リベラシオン同盟』の『他種族解放』と一緒に『解放』した『人間族』の青年・カルロさんも新たな弟子に迎えた事を機に、ドニさんはリサさんの『独立』を認めたのだそうだ。

まぁ、シモーヌさんとエリーが大層淋しがったそうだが。

ま、それはともなく。


「落ち着いたら皆で行ってみたいよね~。あっ、もうすぐ『アスラ族の集落』だよ~!」


普通にガンガン進んでいる僕らだが、『ノーレン山』は『霊峰』とも呼ばれる山で、並みの『冒険者』なら足を踏み入れる事すらも危険なエリアだ。

中々『外』では見掛けない様な、特殊かつ強力な『モンスター』や『魔獣』が数多く生息し、その激しい『生存競争』を日夜繰り返している。

まぁ、身体能力に定評がある『種族』とは言え、な『鬼人族』達が暮らしているエリアなので、今現在の僕らでは全く脅威ではないのだが。


「へぇ~、意外と大きい『集落』なんだな。」

「『鬼人族』は僕達『エルフ族』以上に『他種族』との交流を聞かない『種族』だったからな。実物を見たのは、アイシャ殿が初めてだったし。」

「どのくらいの人数がいるんだい、アイシャ殿?」

「う~ん、元々私達『鬼人族』は『少数種族』だから、私がいた頃は千人ちょっとだったけど、今はもっと増えてるかもね~。『ヤクシャ族』や『ラクシャサ族』と言った『他部族』とも交流が進んで、つがいも増えてるだろうし。」


高地の山間やまあいにひっそりと佇む『集落』。

ここがアイシャさんの『故郷』・『アスラ族の集落』であった。

『鬼人族』が高地に引きこもった経緯。

これは以前アイシャさんやレルフさんからも聞いていた話だ。

まぁ、過去の話とは言え、『人間族』は『他種族』と色々と『因縁』を持っているよねー。

これから『他種族』交流をする身としては迷惑極まりない話である。


「止まれっ!」

「何者かっ!」


『集落』に近付くと、“見張り”とおぼしき『鬼人族』の青年二人に誰何すいかを受けた。

やっぱ、『鬼人族』の男性は大きいなぁー。

あ、ちなみに僕はいつもの様に『仮面』で顔を隠していて、仲間達も皆フード付きマントに身を包んだ格好だ。

そりゃ、怪しいよね~。

ま、僕らはこの『スタイル』に慣れちゃっているんだけどさ。

すると、アイシャさんが先行し、フードを脱いで素顔を晒し青年二人に呼び掛けた。


「ヤニックさん、フレッドさん、お久し振りですっ!」

「お、お前はっ!?」

「ア、アイシャかっ!?族長の末娘のっ!」

「うんっ!」


どうやらアイシャさんの知り合いの様だ。

と、言うか、そこまで規模の大きくない『集落』なので、住人はほとんど顔見知りなのだろう。


「『英雄』のもとに赴いていたのではないのか?」

「うんっ!そうなんだけど、少し『山』に用事があってねっ!仲間と一緒に戻って来たんだよっ!」

「仲間?後ろの者達か?」


言葉を交わしながら、“見張り”の二人はチラッと僕らを見たので、僕らも『仮面』やらフードを脱いで会釈をした。


「おおっ!?なんと言う『雰囲気オーラ』だっ!!もしや、貴方が『英雄』殿なのかっ!?」

「『エルフ族』と『ドワーフ族』も一緒とは・・・。詳しい“事情”をお聞きしたいところだが、こちらでお待たせするのは些か失礼だな。アイシャ、族長の所までご案内しなさい。」

「通ってもよろしいのですか?」

「もちろんです。『英雄』殿のご来訪を拒む理由はありません。」

「ようこそ、皆さん。『アスラ族の集落』に。」

「どうも、ありがとうございます。」


ヤニックさんとフレッドさんと呼ばれた青年二人は警戒体勢を解き、僕らの来訪を歓迎してくれた。

ホッ、よかった。

アイシャさんのおかげで特にトラブルになりそうもないな。


「相当ぜ、あの二人。」

「ああ、そうだな。で“見張り”を任されているほどだからな。」

「ここらは強そうな『モンスター』や『魔獣』も多いみたいだしな。」

「しかし、改めてこの『仮面』は凄いよ、アイシャさんっ!顔を隠すだけじゃなく、その『力量』もから、方々で面倒なトラブルに巻き込まれないで済むしっ!」

「えっ!?う、うんっ、そうだねぇ~。(ただ単にアキトの『容姿』と『雰囲気オーラ』を覆い隠しているだけなんだけど、ま、アキトが納得してるならいいよね?)」

「(相応な『使い手』ならば、主様あるじさまの“身のこなし”を見れば『強者』であると一目瞭然ですしね。)」

「(けど、ダーリンの言う事も一理あるよ?『仮面』で『雰囲気オーラ』も覆い隠しているから、分からない人には分からないし、女の人を、結果的ににならなくて済むからね~。)」

「(私は多少主様あるじさまの将来が心配ですが・・・。御自身の『』を自覚して対策を打った方が良いと思いますけどね~。)」

「(それもムズカシイんじゃなーい?『オン』・『オフ』できるタグイのモノじゃないし。ゲンジョウでは『カメン』がいちばんのタイサクだとおもうよー?)」


『集落』の中に進みながら、再び『仮面』を被った僕を余所に、女性陣は何やらコソコソと内緒話をしていた。

なんじゃろか?



『集落』の中では、当然他の『鬼人族』の皆さんもチラホラ見掛けたが、アイシャさんの存在に加え、『検問』を通過している関係で直接的に絡まれる事はなかった。

まぁ、端から見たら怪しい集団なので、ジロジロとは見られるのは仕方ないんだけどね。

そう遠くない距離を歩くと、一目で他と違った大きな家が見えた。

ここがアイシャさんの『生家』にして、『アスラ族・族長の家』なのだろう。


「皆はちょっと待っててね~。父さん達呼んでくるから。」

「はい。」


突然押し掛けて申し訳ないが、何事においてもそうだが、『根回し』や『挨拶回り』は必要不可欠だ。

『許可』を取る・取らないと言う話ではないが、『鬼人族彼ら』の『信仰』している『山の神』に用事があるとは言え、『鬼人族彼ら』にも話を通しておかないと、後々トラブルとなるかもしれないし、心証が悪くなるかもしれない。

それ故、直接『山の神』のもとへ赴いて『限界突破』の『試練』を受けるのではなく、こうして一旦『アスラ族の集落』を訪れているのであった。

まぁ、アイシャさんの『帰郷』と言う目的もあるにはあるんだけどね。


「たっだいまぁ~!」


元気よく家に飛び込んでいくアイシャさん。

まぁいいんだけど、一応もう二十歳ハタチになるんだし、もう少しおしとやかに出来ないモンかね?

いや、元気なアイシャさんは嫌いじゃないんだけどさ。


「・・・アイシャっ!?アイシャかいっ!?」

「うんっ!ただいま、母さんっ!」

「まぁまぁ、綺麗になっちゃってっ!」

「えっへへ~。」

「何だ、ネイシャ、騒がしいな。」

「あっ、アナタ、アイシャが帰ってきたのよっ!」

「はぁっ!?」


ドタバタと中で騒々しくなっているのが聞こえる。

この会話だけ聞いてると、極々普通の『家庭』のワンシーンの様に感じる。

まぁ、『登場人物』は皆『普通』ではないんだけど。


「アイシャっ!お前、『英雄』殿はどうしたんだっ!?レルフからは無事に『英雄』殿のもとに送り届けたと聞いていたが。」

「あっ、父さん、ただいまっ!」

「あっ、ああ、お帰り、ってそうじゃなく、質問に答えなさいっ!」


マイペースなアイシャさんと言うのは、家族の前でも変わらないらしい。


「『英雄アキト』なら一緒だよ。他の仲間もね。ヤニックさんとフレッドさんにも族長の所に案内しなさいって言われてるし。」

「えっ!?」

「まぁっ!?」

「外にいるから、入って貰ってもいいよね?」

「ああ・・・。ハッ、いや、ちょっと待ちなさいっ!こんな格好で会ったら『アスラ族・族長』としての威厳がっ!?」

「そうねっ!私もお化粧しないとっ!?」

「えぇ~、待たせてるんだよぉ~?早くしてよ~。」


どうやら、面会するまでにはもう少し時間が掛かる様だ・・・。


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