『神の代行者【アバター】』

第60話 新たなる旅立ち



『天空神ソラテス』と『大地神アスタルテ』より与えられた『地』はまさしく『楽園』であった。

穏やかな気候に、多様な食用果実の木が生い茂り、老いも苦しみも争いもない。

『人』は『夫婦神』の言い付け通り、この『地』を支配すべく、果実を管理し、動物を飼い慣らし、子孫を増やす為に『最初の人』・アベルと、『最初の女』・ジールは契りを結び、『人類』初めての『夫婦』となった。

『仕事』を離れ『眠り』に就いた筈の『天空神ソラテス』は、アベルとジールに言い残した事があり、再び顕れて言った。

「そなたらは夫婦になったのであるな。それでは『祝福』を与えよう。我らの『宣言』の通り、『ワースの園』をそなたらの『種』で満たし、生き物を従わせて、満ちるがよい。ただし、『石板』に触れる事は固く禁ずる。」と。

『ワースの園』には、『偉大なる神々』の栄光を記した『神々の石板』と呼ばれる『石碑』があった。

『夫婦神』が『眠り』に就く間に、『人』が『偉大なる神々』の栄光を忘れない為の物である。

アベルとジールは『天空神ソラテス』にひざまずいて宣誓した。

「「承りました、我が父よ。再びのお目覚めの際には、この『地』を我らが『種』で満たした所を御覧に入れましょう。」」

その言葉に、『天空神ソラテス』は満足して頷き、やがて去っていったーーー。


~中略~


『人』を創る時の『失敗作』として流された『原初のわざわい』・セロスは『天空神ソラテス』と『大地神アスタルテ』を憎悪し、アベルとジールに嫉妬していた。

セロスは、アベルとジールと違い、『ワースの園』への立ち入りを禁じられた為、老いや苦しみや争いに苦しんでいたのである。

その為、その嫉妬心から、この『天空神ソラテス』に『祝福』されたアベルとジールをどうにか貶める事が出来ないかと考えていた。

『似姿』の『失敗作』としてのセロス、『人』の『姿』に近しいが、男女両方の特徴を持つセロスでは『ワースの園』に立ち入る事は叶わないが、セロスの歪んだ邪悪な心は、自身の『姿』を変化させる事に成功した。

こうして、セロスは『ワースの園』に侵入し、アベルとジールを唆す事とした。


~中略~


自身を『導く者』だと謀り、セロスはアベルとジールに触れる事を固く禁じられていた『神々の石板』に触れさせる事に成功した。

「これは『神々の力』その物です。これに触れれば、アベル様もジール様も『偉大なる神々』の様になれますよ。偉大なる方のお命じになられた『偉業』を達成されるなら、そうした方が『偉大なる神々』もお喜びになるかと存じますが。」

「しかし・・・。」

「それは・・・。」

「アベル様とジール様の迷いも尤もかと存じます。ならばせめてよく御覧になってはいかがでしょう?触れる事を禁じられていても、見る事は禁じられてはおりませんでしょう?」

それならばと、アベルとジールは初めて間近で『神々の石板』を眺める事にした。

描かれている事は理解が出来なかったが、偉大なる創造をされた事はアベルとジールの心にも理解出来た。

夢中になった二人は、もっと知りたい、もっと近付きたいと言う無意識の思いから、知らず知らずの内に『神々の石板』に触れてしまっていた。

すると、二人は目を見開いた。

『石板』に触れた事により、二人は『偉大なる神々』の様な『知恵』を手にしたのだ。

しかし、それは二人から無垢な心を奪い、恥じる心を生み出した。

二人はお互いが裸でいる事を知った。

それで、樹木の葉を使い秘部を隠した。

『天空神ソラテス』は二人が『石板』に触れた事を知り激怒した。

『原初のわざわい』・セロスは『天空神ソラテス』の不興を買い『奈落』へ追放された。

「見よ。お前が起こした災禍により、地上は死と混沌の支配する『地』となった。お前はその責を負い、『奈落』へと追放する。」

「おお、『偉大なる父』よ。謹んでお受けしましょう。しかし、私も『偉大なる神々』の創り出しし者。その事をゆめゆめ忘れませぬ様に。」

そう言い残し、セロスは『奈落』に追放された。

その『地』で、セロスは『奈落』を支配する『魔神』となった。

続いて、『天空神ソラテス』は、言い付けを守らなかったアベルとジールを『ワースの園』より追放する事とした。

「そなたらは我の言い付けに背き『石板』に触れた。よってそなたらをこの『ワースの園』より追放する。」

この時より、『人』は額に汗して働かねば“飢え”をしのぐ事は出来なくなり、『原初の獣』達との“生存競争”を生き残らねば、生存する事を許されなくなった。

女性は子どもを産む事に伴う痛みが与えられる様になり、男性に服従する事を余儀無くされた。

「さぁ往くが良い。そなたらは我らと同じとなった。」

こうして『天空神ソラテス』は二人を『ワースの園』から追放し、『神々の石板』の『真の開放』を恐れて、『楽園』の『門』に『断罪者』・セシルを置き、煌めき回転する剣を置かれたーーー。


―『アクエラ創世記 楽園追放』の記録の断片より―



◇◆◇



アキトがこの世界アクエラに来てから、早いものでもう13年の時が流れていた。

当然ながら『地球』でも同様に時間が流れた訳なのだが、正確には『地球』とこの世界アクエラの“時間軸”には多少のズレがある。

まぁ、それでも『地球』においても、それなりの時間が流れたのは間違いない。

さて、ではなぜそんな話をしているかと言うと、『ロンベリダム帝国』に持ち込まれた『失われし神器ロストテクノロジー』・『召喚者の軍勢』の発動条件が満たされ、密かにこの地で新たな『召喚』が敢行されたからである。

かつて、アルメリアも予測した通り、また『至高神ハイドラス』も理解した通り、この『召喚』はかつてない程の成功を収めた。

』、アルメリア風に言うと、『』に成功したからだった。

ただ、ここで思わぬが発生した。

『現代地球』で所謂『仮想現実VR技術』が爆発的に進化し、普及していた事である。


アキトが『転生』する以前にも、すでに『仮想現実VR技術』は存在し普及していた。

しかし、フルダイブ型の『VRMMORPG』はまだ実用化には至ってなかったのだが、当然ながらアキトが、『世界』は動き続ける訳で、13年の歳月(実際にはもう少し経っているが)は、その『ゲーマー』達の『夢』を現実のモノとしたのだった。

その世界初のフルダイブ用『VRMMORPG』・“The Lost World~虚ろなる神々~”は、王道の『剣と魔法のファンタジー』を『コンセプト』に設計され、『中世ヨーロッパ風』の『世界観』を舞台に、『プレイヤー』は『運命に導かれた者』として、『光の軍勢』と『闇の軍勢』との争いに巻き込まれていく、と言う『ストーリー』だった。

フルダイブ型『VRMMORPG』の大事なロンチタイトルとして期待されたそれは、『仮想現実VR技術』と『フルダイブ』を組み合わせた圧巻の『没入感』も然る事ながら、多彩なやり込み要素、キャラメイクの豊富さ、特徴的な『ソウルシステム』と『カルマシステム』、『自由度の高さ』などにより概ね好評を博し、ドハマリする『ゲーマー』が続出し、一種の『社会現象』にまで発展した。

『プレイヤー』の『種族』こそ、『人間』に限定されているが、キャラメイクによる『アバター』はそれこそ多彩で、『エルフ風』にしたり、『ドワーフ風』にしたりと『プレイヤー』の好み次第で千差万別であった。

また、『モンスター』を倒していく事で『レベルアップ』する事は基本的に普通の『RPG』と変わらないのだが、『職業クラス』獲得は特殊で、『モンスター』を倒したり、『クエスト』をクリアしていくなどして得られた『ソウルポイント』を振り分けていく、『プレイヤー』の起こした行動で『カルマ値』が変動するなどの要素により、『職業クラス』が得られ特殊な『スキル』や『魔法』が習得可能なのだ。


(例えば、『戦士ファイター』系をメインにキャラクター育成をしていくのなら、6種類の特殊な『ソウルパラメータ』

・Brave(ブレイブ) 勇敢さ。主に戦士系のソウル。

・Kind(カインド) 優しさ。主に狩人系のソウル。

・Search(サーチ) 探求心。主に魔道士系のソウル。

・Belief(ビリーフ) 信仰。主に神官系のソウル。

・Wild(ワイルド) 野生。主に獣系のソウル。

・Cool(クール) 冷静さ。主に盗賊系のソウル。

にそれぞれ振り分けていく事で最初は基本的な『職業クラス』を得られるのだが、後に派生系となる『上級職』、『暗黒騎士ダークナイト』や『神聖騎士パラディン』となるには、『カルマ値』が重要となってくる。

『カルマ値』は、その名の通り『カルマ』であるが、こちらはおおよそ3種類の

Light(ライト) 善性。

Neutral(ニュートラル) 中立。

Dark(ダーク) 悪性。

があり、『プレイヤー』が起こした行動によって変動する。

つまり、『神聖騎士パラディン』になりたいのなら、条件通りに『ソウルポイント』を振り分けていても、『カルマ値』が悪性~中立では開放されないのである。)


これにより、『プレイヤー』の『カルマ属性』によっては所属する軍勢、『光の軍勢』・『闇の軍勢』・『人間種の軍勢』が変化して、出会える『NPC』や『イベント』・『シナリオ』が変化するのである。

『メインシナリオ』や『世界』自体は『プレイヤー』ごとに各々独立しており、基本的に『ソロプレイ』でも攻略が可能だが(ここら辺は既存の『RPG』や『MO/MMORPG』や 『ソーシャルゲーム』の影響を色濃く受けている)、強力な『レアアイテム』や『レイドボス』狩りなどの為にも、『プレイヤー』同士の協力プレイや、逆に『プレイヤー』同士の争いも認められていた。

特に、『世界観』や『カルマシステム』・『自由度の高さ』、また『プレイヤー』が持つ『経験値』や『ソウルポイント』、『アイテム』が奪える事も相俟って、『PK』や『PVP』は、『安全地帯セーフティゾーン』以外では日常的に行われる事となった。

ここら辺は、『ヘビーユーザー』や『ライトユーザー』間において、意識の対立があったのだが(所謂『初心者狩り』が初期は頻発したのである)、後のバージョンアップで一定の『レベル差』がある場合は行えない様に調整されたりと『運営』からも一定の解決策は明示された。

それに、所謂『効率』を考えれば、『悪性』系の『職業クラス』は様々な事に高い適性を持っていたので、『人気』の高さも相俟って、そこに関する不満もある程度抑制されていた(特に『PK』は『カルマ値』をマイナスさせるには手っ取り早い方法だったからである)。

さて、そんな“The Lost World~虚ろなる神々~”には、『トッププレイヤー』が集う『トップギルド』が存在した。

ここで言う『ギルド』は、『プレイヤー』が創設するたぐいのモノで、『既存』の『冒険者ギルド』などの様なモノとは種類が異なる。

前述の通り、ある程度は『ソロプレイ』でも楽しめる様に設計されているが、色々な『プレイヤー』とコミュニケーションを取ったり、競争したり、出し抜いたり、出し抜かれたりは『MMORPG』の醍醐味の一つだ。

その為、『レアアイテム』獲得の為にも『レイドボス』攻略の為にも、また自衛や効率の為にも、『ギルド』の創設や所属は『運営』としても推奨しているが、楽しみ方は人それぞれであり『ギルド』によっても『方針』はそれぞれ異なる。

例えば、『攻略』を第一に考える『攻略系ギルド』や、『探索』をメインにした『探索系ギルド』、ゆるく楽しむ事をメインとした『サークル系ギルド』や、中には『PK』や『PVP』をメインにした『系ギルド』なんかも存在する。

その中で言えば『攻略系ギルド』の一角であり、“The Lost World~虚ろなる神々~”では『伝説』とも謳われた『トップギルド』・『Lord of The Lost World』の一部メンバーは、その日は久々に10人の幹部級が集まっていた。


『ご無沙汰してま~す。』

『皆さんと集まるのも久々ですよね。』

『“TLW”も大分過疎かそってますからねぇ~。』

『けど“ネトゲ”としてはかなり続いた方ですよ。フルダイブ用“VRMMORPG”の先駆けとしては大成功でしょう。』

『確かに。僕も初めて“ログイン”した時はとてつもなく感動したモノですよ。ま、今は他の“タイトル”も出てきてですけど、やっぱり“世界初”ってのは“インパクト”がありましたよねぇ~。確実に“ゲーム史”に残る訳ですし・・・。』

『そうですねぇ~。』


とは言え、どれだけ人気を集めた『タイトル』でも終焉は来る訳で、後発の期待値の高い『タイトル』も続々と発表された事もあるが、かつて隆盛を誇った『攻略』もやりつくされた感があるし、目新しい『更新』も皆無になり、『ラストエピソード』と『ラスボス』が発表されると、最後の“お祭り”とばかりに盛り上がって『攻略』され、徐々に“The Lost World~虚ろなる神々~”も過疎期に入っていった。

まぁ、『ネトゲ』で10年近くも人気を博したのだから、十分過ぎる成果とは言えるのだが。

かくいう『LOL』のメンバーも、新たな『移住先』を見付けて、『引退』する者も出始めていた。

その日彼らが久々に集まったのも、ある種『打ち上げパーティー』的なノリもあったのである。


『皆さん、今回は私の呼び掛けに応じて下さってありがとうございます。』

『よっ、ギルド長っ!待ってましたっ!』

『ハハハッ、何ですか、そのノリ?』

『いや、何だか本当に終わってしまうんだなぁ~、と思って、つい。』

『・・・お気持ちは分かります。まだ“公式”から“サービス終了”は発表されていませんが、私も似たような気持ちですからね・・・。』


立派な騎士姿の偉丈夫の『アバター』で登場した『LOL』の『ギルド長』・“タリスマン”は、狩人系の装備で身を固めたエルフ風の『アバター』の男・“N2”とそんな会話を繰り広げていた。


『まぁまぁ、ギルド長もN2さんも、まだ終わったワケじゃないですし、私らの最後の“祭り”が残ってるでしょ?』

『そうですよね。ギルド長の発案した全ての“レイドボスクエスト”の“最速記録レコード”を“LOLウチ達”で埋め尽くす。いやぁ~、久々にシビれましたよ。正に“伝説”の名に相応しい“偉業”なんじゃないですかね?』


しんみりした雰囲気を払拭する様に、“忍者”風の『アバター』の盗賊系『職業クラス』の男・“キドオカ”と、神官系の装備と美しい金髪をした『アバター』の女性・“ウルカ”がそうフォローした。

“The Lost World~虚ろなる神々~”には、『トロフィー』や『実績』・『称号』に加えて、『スコア』も実装されている。

これはやり込み要素の一環ではあるが、一部は特殊な『職業クラス』開放にも関係するモノであった。

ただし、『スコア』に関しては、もちろん初めての『攻略』組、『スコアアタック』の“最速記録レコード”などの栄誉としては、他の『プレイヤー』や『ギルド』からも注目を集めるモノだが、特別な『ボーナス』がある訳でもなかったので、最終的にはあまり重要視される事もなくなってしまったモノであった。

今回はあえてそこに着目し、一種の『打ち上げパーティー』的に『LOL』でその“最速記録レコード”を埋め尽くして、“The Lost World~虚ろなる神々~”の『歴史』に、その“名”を刻もうと企画されたのであった。


『しかし、結構厳しくもあるんじゃないか?“LOL我々”も“トップギルド”・“トッププレイヤー”の端くれだが、“最盛期”の1/10まで数を減らしているしな。』

『“アラニグラ”さんの意見も尤もですが、“アイテム”やスキル”・“魔法”をフル活用すれば、それも可能なのでは?かつての“攻略”時は、“消費系アイテム”ならともかく“レアアイテム”や“課金アイテム”の使用までは各々の判断に任せていましたからね。』

『うむ。“ククルカン”殿の言う通りじゃ。これで“最後の祭り”じゃと思って各々の“所持アイテム”を大盤振る舞いすれば、それも可能じゃと儂も計算しとる。・・・と言うか、“アラニグラ”さんも“ククルカン”さんも、相変わらずの“ロール”っぷりですねぇ~。さっきまで普通に話していたのに。』

『・・・それは言わない約束でしょ、“ティア”さんっ!』

『・・・最後までカッコつけさせて下さいよぉ~!』

『あっ、・・・すまん。』


ドッと一堂盛り上がる中、暗黒魔道士系の装備に身を包んだ“アラニグラ”と暗黒神官系の装備に身を包んだ“ククルカン”のやや重度の『不治の病』を発症している二人、通称“厨二病コンビ”は恥ずかしげに顔をしかめる。

その二人にツッコミを入れたのは、自身も“厨二病”の気質を持ちながらも、持ち前の頭脳と豊富な知識から“巫女シャーマン”として『LOL』を支える女性・“ティア”であった。


『まぁ、“ティア”姐さんも出来ると言ってるんだっ!俺達でやってやりましょうよ、ギルド長っ!』

『そうっすねっ!』

『僕も来年は就活だから、しばらくは“こっちの世界”に来れないしなぁ~。』


血気盛んな青年騎士姿の“アーロス”と、幾何学模様の民族衣装と刺青タトゥーが施された『アバター』の“ドリュース”、灰色のローブに身を包んだ“エイボン”も、“ククルカン”と“ティア”の意見に賛同した。

と、言うよりも、ここに集まっている時点で皆もやる気十分であった。

“アラニグラ”と“ククルカン”は、“ロールプレイ”の一環として、あえて反対意見を言ってみたまでである。

長い付き合いでその事が分かっているギルドメンバー達は、そこはスルーした。


『皆さんありがとうございます。とは言っても、キツいのは終盤だけですけどね。“クリア”自体は簡単でも、“スコアアタック”となれば話は別ですし。』

『そこは皆で相談しよう。多少マナー違反ではあるが、“最後”じゃし、皆の“データ”を提出してくれ。それで“最速攻略”を考えてみよう。』


コクリと一堂は頷き、『最速攻略会議』を開催するのだった。

まさかこの『選択』が、ーーー。



◇◆◇



『おおっ!』『そりゃっ!』『いけっ、“ゴーレム”ッ!』


ズシャッと“タリスマン”・“N2”・ドリュース”の波状攻撃で、『本作』の『ストーリーモード』の『ラスボス』にして、最強の『レイドボス』である禍々しくも巨体な『邪神』の身体がよろめいた。

そこを見逃す“ティア”ではなかった。


『“アラニグラ”殿、“エイボン”殿っ!最大火力を叩き込んでやれっ!“ウルカ”殿と“ククルカン”殿は、儂と一緒にありったけの“バフ”を掛けまくれっ!』

『OK!』『了解っ!』『分かったわっ!』『お任せ下さいっ!』


流石に『ラスボス』だけあって防御が高く、『トッププレイヤー』である『LOL』のメンバー達の高火力の攻撃を受けても、『HPバー』の減り方は、確実に減ってはいるが、かなり微妙な感じであった。

しかし、“最速記録レコード”狙いなので、『ペナルティ(“戦闘不能”になると『レベルダウン』・『アイテム』がランダムで没収されるなどの『ペナルティ』がある)』も恐れずに、『LOL彼ら』は回復もそこそこに攻め続けていた。

ここまでの『スコアアタック』の“最速記録レコード”更新は全て成功していた。

それに『ラスボス』戦も佳境に入って、本当にラストもラストだ。

“アラニグラ”と“エイボン”は、貧乏性な『ゲーマー』に有りがちな「『ラスボス』まで取っておこう」と考えて、結局最後まで使わなかった『かくし球』を事ここに至ってようやく披露した。


『よし、手加減も出し惜しみも無しだっ!喰らえ、“四重奏呪文クアドラプルスペル”・【地獄の業火インフェルノ】っ!』

『“アラニグラ”さんも持ってたんですね、“魔女の祝福”っ!なら僕もっ!“四重奏呪文クアドラプルスペル”・【幾万の雷ヴァジュラ】っ!』


ズガァァァァンッと、二人の『極大魔法』に呼応して、派手な『エフェクト』がその場に吹き荒れた。

最上位の『魔道士』系、その中でも一部の者だけが持つ『二重奏呪文ダブルスペル』。

ただでさえ超高火力持ちである『魔道士』系の『魔法』を一度に二回使用するのと同じ効果がある。

残念ながら、相乗効果は見込めないのだが、それでもその威力は折り紙付きだ。

強力な『レイドボス』戦では、最有力な『ダメージソース』として重宝する『エクストラスキル』である。

ただし、当然ながら『MP』の減り方が尋常じゃなく(当然二回分の『MP』を使う)、またこちらは倍とまではいかないが、『リキャストタイム』も単発で使う時よりも延びてしまう『リスク』がある。

それ故、かなり使い所が難しい『スキル』でもあった。

そして、“アラニグラ”と“エイボン”が使用した『四重奏呪文クアドラプルスペル』は、『超激レアアイテム』である『魔女の祝福』を使用する事で可能となる、『二重奏呪文ダブルスペル』を更に倍にするモノである。

正確には、『魔法』を倍にする効果なのだが、当然ながら、単発の『魔法』に使うような勿体ない真似をする『プレイヤー』はまずいない。

それに、『魔女の祝福』は『超激レアアイテム』なので、その目撃例も極めて少ない。

ある種の『都市伝説』的であった『超々極大魔法』、それが今、目の前で乱舞した。


『すっげ・・・。』


漏れた声は誰のモノだったのか。

しかし、これほど強力な攻撃を受けても、『邪神』は耐えてみせた。

『HPバー』は物理攻撃で削り切れない程度、魔法攻撃で削り切れる程度の微妙なラインが残っていた。

『スコアアタック』としては失敗か、と誰もが諦めかけた時、“アーロス”が叫んだ。


『任せなっ!“アラニグラ”の旦那と“エイボン”がやってくれたんだっ!俺も“奥の手”を使うぜっ!“竜闘気ドラゴニックオーラ・全開っ!“二刀流ダブルブレード”・【ソニックブロウ】っ!』


光速の四連撃が吸い込まれる様に『邪神』を襲う。

特殊な『職業クラス』である『竜騎士ドラゴンナイト』だけが取得できる『竜闘気ドラゴニックオーラ』は、自分自身の『ステータス』を大幅に強化する(まぁ、時間制限付きでその後弱体化の『ペナルティ』があるが)。

更に、『エクストラスキル』である『二刀流ダブルブレード』と、『戦士ファイター』系が最初期に覚えながらも、その使い勝手の良さから最終盤までお世話になる『スキル』・【ソニックブロウ】(攻撃を一度に二回行う『スキル』)を組み合わせれば大ダメージ必至の四連撃の完成であった。

“アーロス”のその攻撃に驚愕しながらも、誰もが『邪神』の『HPバー』を注視した。

わずかに残ったかっ!、と思った瞬間、『邪神』はなぜか倒れた。


『『『『『『『『・・・???』』』』』』』』


ーcongratulations!ー


『ふぅ~、やりましたねぇ~。“最速記録レコード”更新おめでとうございます。』

『あれ?“キドオカ”さん?もしかして“何か”しました?』

『いえいえ、ちょっと“毒”を仕込んでおいただけですよ。あまり効果はないのですが、最後のひと押しにはなったようですな。』

『汚いなさすが忍者きたないっ!って言うか、“ボス系クリーチャー”に“状態異常”有効だったんスかっ!?』

『もちろん、基本的には“ボス系クリーチャー”には“状態異常完全耐性”がマストで付与されているが、儂も“キドオカ”殿に教わるまで知らんかったが、どうやら一定HP以下になると、それも解除される様なんじゃよ。』

『まぁ尤も、効果は薄いので、あえてやる者もいませんからな。知らなくとも無理はありませんよ。』


そんな会話を尻目に、“タリスマン”達はややスッキリしないながらも、結果的には目標を達成したので、喜びを爆発させた。


『ま、まぁ、何にしても、“偉業”達成ですよっ、ギルド長っ!』

『そ、そうですよねっ!皆さんご協力ありがとうございましたっ!』

『いやぁ~、それにしても凄い威力でしたねぇ~、“四重奏呪文クアドラプルスペル”でしたっけ?』

『ま、もう使えないけどな。』

『“魔女の祝福”は入手困難ですもんねぇ~。噂では“課金”でも入手可能らしいんですが、こちらも排出率はそうとうシブいみたいで・・・。』

『ある種“チート”染みた威力ですから、それも致し方ないですよね。』

『“二刀流ダブルブレード”って、どこで入手したんですか?』

『結構“戦士ファイター”系の間では有名ですよ?まず“リーンの街”の“闘技場”で優勝して、それから・・・。』

『あっ、その時点でかなり入手困難な事は分かりました・・・。』


ワイワイと最後の戦闘の感想を言い合う『LOL』。

と、ここで、通常とは違う『』が作用した。

仮想現実VR空間』にノイズが走り、重々しくも、どこかな“声”が響き渡る。


〈ーーー見事なり、勇者達よ。そなたらの“栄誉”を讃え、『新たなる世界』へと招待しようーーー〉


ゴゴゴゴッと、『仮想現実VR空間』がひび割れていく様が目の前に広がる。


『な、なんだなんだっ!?』

『・・・も、もしや、全ての“スコアアタック”で“最速記録レコード”を出すと、“裏ステージ”に行けるのではっ!?』

『おいおい、まだ俺らを楽しませてくれるのかよ、“TLW”はっ!』

『これ、まず間違いなく我々が“初”ですよっ!』

『こうしちゃいられないっ!“引退”した人達にも報せないとっ!』

『まぁまぁ、まずは行ってみないと・・・。』


眩しい『光』に混乱しつつも、『LOL彼ら』は誰もが興奮した様に叫んでいた。

ーまだ見ぬ『新しい世界』へー

それは、“The Lost World~虚ろなる神々~”を初めて『プレイ』した時の感覚に似ていた。

ただし、『LOL彼ら』を待ち受けていたのは、心踊る冒険とか、そんな生易しいモノではなかったが。

『光』は更にその眩しさを増していった。

いつしか、『LOL彼ら』10人は、


その日、『現代日本』において、フルタイブ用『VRMMORPG』に接続したままひっそりと息を引き取った、死因が原因不明の遺体が10ーーー。


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