第59話 ユストゥス教官のブートキャンプ(+α) 5



◇◆◇



“洞窟”内は、かなりの奥行きを感じる構造になっている様だ。

そこに先行したレイナードとテオは、『トラップ』を警戒しながらも、危なげなく“洞窟”内に侵入していた。

“見張り”が“洞窟”付近にいたのだが、それは二人がすでに“処理”している。

“見張り”を釣り出した程度では、“ゴブリン”全体を外に出す事は無理だと判断したのだろう。

むしろ、“見張り”を突破されて中まで侵入されたと知れれば、“ゴブリン”達は二人を排除しようと躍起になる事だろう。


「・・・!」

「・・・ッ。」


ハンドサインで『トラップ』を知らせるテオ。

レイナードは無言でそれに頷いた。

少し行った場所に、開けた『スペース』が存在した。

纏まった数の“ゴブリン”達がいるその場所は、所謂集落であった。

ここよりもさらに奥に道は続いている様だが、これ以上奥に行くのはの二人ではかなり危険だ。

それに、二人の『任務』はあくまで“ゴブリン”達を釣り出す事である。

ここで二人は、『座学』で学んだ『エルフ族』の『薬学』の初歩的な知識で作った、所謂『刺激物』を配合した『催涙弾』を『スリングショット』にセットして、“ゴブリン”達の注意を引き付ける様に声を張り上げる。


「いやぁぁぁぁっ!」

「うおぉぉぉぉっ!」

「「「「「「「「「「ギギッ!?」」」」」」」」」」


『侵入者』を認識した“ゴブリン”達は、一斉に警戒態勢に入った。

そこに、セットしていた『催涙弾』を撃ち込み、即座に反転して、二人は“洞窟”の外に駆けていった。


「「「「「「「「「「ギヤァァァァッ!?」」」」」」」」」」


『催涙弾』の効果範囲はそう広くないし、その効果も大した事はない。

しかし、挑発するにはもってこいであるし、“洞窟”内と言う閉鎖空間では、この攻撃はかなり悪辣な“嫌がらせ”である。

その攻撃を免れた“ゴブリン”達は、激昂して逃げた『侵入者』を追い掛ける(もちろん、外の新鮮な空気を求めてと言う事情もあるだろうが)。

そこまで『知能』が高くない故に、『集団心理』に操られ大半の“ゴブリン”達は二人の釣り出しに引っ掛かってしまったのだった。


「よっしゃっ、第一段階成功っ!」

「このまま、バネッサとリベルトと連携して、“ポイント”に誘導しようっ!反撃しても倒さない様になっ!」

「おうよっ!」


“洞窟”を脱出した二人は、次の“フェーズ”に移行するのだった。



バネッサとリベルトは、レイナードとテオの“洞窟”からの脱出を目視で確認していた。

レイナードとテオ彼ら二人は、『囮役』として全速力を出していない。

その後方から、わらわらと大勢の“ゴブリン”達が二人を追い掛けてきた。


「第一段階は成功かなぁ~?」

「とりあえずはね。理想を言えば、全ての“ゴブリン”を釣り出したい所だけど、中の様子までは分からないからね~。」


『アスレチック』の『訓練』で鍛えた“身軽さ”で、所謂『制空権』を確保しているバネッサとリベルトは、木の上でそんな言葉を交わしていた。

次は、四人で連携して、必死に逃げているていを装い、追い詰めていると“ゴブリン”にさせながら“ポイント”に誘導する“フェーズ”だ。

その為、格段に腕を上げた『弓術』のスキルを最大限利用して、わざと“ゴブリン”達にに矢を散漫的に射掛ける。

“ゴブリン”達は基本的に臆病であるが、弱い者には残忍で狂暴である。

こうした『演技』は、“ゴブリン彼ら”には『弱者』の振舞いに見える事だろう。

ただでさえ『知能』もそこまで高くない上に、この状況下は“ゴブリン”達のそうした『性質』は強く刺激し、興奮状態に陥らせ、まともな判断力を低下させていた。


「ギャッギャッギャッ!」

「ギギッ、ギギィッ!」


甲高い笑い声の様なモノを上げながら、“ゴブリン”達はレイナード達を


「うわー、助けてくれー(棒)!」

「殺されるー(棒)!」

「もうちょっと上手く出来ないの?二人とも~。」

「まぁ、とりあえず喚いてる事を認識させられば良いんじゃない?どうせ、僕らも“ゴブリン”達の言葉は分からないし、それは“ゴブリン彼ら”も同じだろうしねー。」


多少緊張感のないレイナード達だったが、もちろん油断はしていない。

むしろ、こうした状況下で警戒態勢を維持しながら普段通りに振る舞えるのは、『訓練』の成果と言えるだろう。

慌てて逃げてる風を装いながら、足場の悪い“ポイント”に到達する。

当然ながら、“ゴブリン”達に取っても足場は悪いが、それはレイナード達にも当てはまる事だ。

端から見れば、子ども四人が“ゴブリン”達の集団に追い立てられ、足場の悪い場所に迷いこんでしまい、正に大ピンチと言った状況である。

“ゴブリン”達もそう認識した。


「ギィッ、ギィッ!」

「ギャッギャッギャッギャッギャッ!」

「ギギィッ!ギギィッ!」


“ゴブリン”達は興奮した様に、この地形を生かし、この『人間』達を仕留めるべく、小柄な体型を利用して追撃スピードを上げていた。

確かに『訓練』を受ける前のレイナード達なら、これはピンチな状況はだっただろう。

なぜなら、足場の悪いフィールドの移動の仕方・体力の温存の仕方などを十分に練っていなかったら、それなりの『実力』を有していても、戦闘に入る前から体力を大幅に消耗してしまうからだ。

以前にアキトが、戦闘は総合的なバランスに左右されると言った意味を、レイナードは今なら正しく理解出来た。

戦闘に入る前からすでに戦闘は始まっているのである。

当然ながら、『ゲーム』の様に移動しても体力が減らない、なんて事はない。

体力の低下は、疲労の蓄積を招き、疲労の蓄積は思考の低下を招く。

それを踏まえた上で様々な事に備えておかないと、『実力』を十全に発揮出来ずにアッサリと殺されるのがオチである。


「よっしゃ、上手く掛かったなっ!」

「急いで離脱するぞっ!バネッサ、ケイア達に合図を出してっ!」

「OK~!」


こちらも『エルフ族』の『薬学』の初歩的な知識で作った『閃光弾』(まぁ、実際にはどちらかと言うと色付けした煙幕に近いが)を空に射出して、バネッサはケイアとヴィアーナに合図を送った。

間髪入れずに、レイナード達は“手加減”を止めて、全速力でそのフィールドを離脱するのだった。


「合図来たわっ!ケイア、私に続いてっ!『クエイク』っ!」

「了解です。

ケイア・アンダーソンの名において命ずる。

大気と水の精霊よ。

いにしえの盟約に基づき、生命の恵みをもたらせ。

出でよ、『ウォーター』!」


合図を確認すると、ヴィアーナは『宝玉』と『魔道書』を使用し、ケイアは『詠唱』と『印』・『魔法陣(魔法式)』を構築し、それぞれ『魔法』を発動させる。

『クエイク』は、地系術式の初歩の魔法で、極小規模に地形を変化させる魔法である。

以前アキトが使用した『アース・クエイク』の簡易版だが、フィールドによってはその威力はバカには出来ない。

元々足場が悪いこのフィールドでは、『クエイク』の影響を受けて、亀裂や陥没が起きていた。

そこにケイアの『ウォーター』である。

『ウォーター』は、水系術式の初級の魔法で、『ファイア』に並んで使い勝手の良い魔法である。

戦闘においては直接的な攻撃魔法とはなりにくいが、足場を悪くする、相手を水で濡らす事で体力を奪う、さらには、生活用水の確保の為にも重宝する、間接的な応用に優れた魔法である。

ヴィアーナの『クエイク』により更に悪化した足場を『ウォーター』が満たす事で、“ぬかるみ”を作ったり、小さな土砂崩れを起こす。

これで、『トラップ』は完成だ。

“ゴブリン”達にしてみれば、急に悪化した足場に小柄な体躯が逆に災いし、亀裂や“ぬかるみ”に足を取られる。

中には地滑りや土砂崩れに巻き込まれてしまった運の悪い者達もいた。

正に、状況は一変したのである。

これが、『魔法技術』の便利かつ恐ろしい所であった。


「よっしっ!完全に決まったなっ!」

「ああっ!いい連携だったよっ!」

「二人とも、まだ油断はするなよっ!ケイア、ヴィアーナさんっ!もう一撃お願いしますっ!」

「時間は稼ぐからねぇ~!」

「分かったわっ!」

「了解っ!」


レイナード達は合流し、『トラップ』のフィールド外から、運良く『トラップ』に掛からなかった“ゴブリン”達を『弓術』や『スリングショット』で仕留めていく。

その間に、再びケイアとヴィアーナはそれぞれ『魔法』を発動させる。

と、言っても、フィールドの事を考えれば、リベルトに注意された事を踏まえた上でも火系術式は選択外だ。

何より“ぬかるみ”や水溜まりがあるので、“火”では相性が悪い。

ならば、“水”に親和性が高い魔法を選択するのがベストである。


「『ブリザード』!」

「ケイア・アンダーソンの名において命ずる。

大気と水の精霊よ。

いにしえの盟約に基づき、我が敵を討て。

出でよ、『ウォーターボール』!」


その為、ヴィアーナとケイアは水系統の術式を選択した。

『ブリザード』(『クエイク』や『ウォーター』もだが)は、『ボール系』・『アロー系』(『ショット系』)など『指向性』を持っている攻撃魔法と異なる、所謂『範囲魔法』である。

その名の通り、暴風雪を巻き起こす魔法であり(まぁ『術者』の『力量』によっても効果範囲や効果の度合いは違うが)、これだけ恐ろしい魔法にも関わらず、中級に属する魔法である。

ただ、特に『範囲魔法』は使い所が難しい魔法だ。

『指向性』を持つ攻撃魔法とは異なり、無差別に効果範囲に影響を及ぼすので、しっかりとした仲間との連携を構築していないと、仲間や『術者』自身にもその脅威が襲い掛かってしまうからである。

その為、未熟な者達に初級以上の『範囲魔法』を伝授するのはタブーとなっている(もちろんヴィアーナは、『高位魔術師』としての教育を受けているので問題ないが)。

『ウォーターボール』は、『ファイアボール』や『アイスショット』と同じ『指向性』を持った攻撃魔法だが、『アイスショット』の劣化版であるとの認識が強い。

ただ、これも『術者』の『力量』によっては、射出する際の『圧力』にも差が出るので、意外と凶悪な魔法ともなりうる。

また、今回の場合は、フィールド効果、『ブリザード』との併用により、さらにその凶悪さは増しており、対象の体力を急速に奪い(冬場に水を浴びせられるのと同じ)、急速に冷え固まった水が、雨霰となって“ゴブリン”達に襲い掛かった。


「「「「「「「「「「ギィヤァァァァッ!」」」」」」」」」」


元々“ゴブリン”達は身体能力はさして高くなく、小柄な為生命力も強いとは言えない。

その為、ヴィアーナとケイアの追撃でほぼ瓦解し、辛うじて生き残った者達も、その命は風前の灯であった。

生物を殺傷する事はかなり抵抗があるだろうが、この世界アクエラはそうしないと生きていけない。

その為、どこかでそうした気持ちと折り合いを付けて付き合っていかなければならないのだが、レイナード達はすでにその“覚悟”が出来ていた。


「掃討するぞっ!」

「おうっ!」「ああっ!」「うんっ!」「分かったわっ!」「了解っ!」


“狩る側の者”として、最後までキッチリトドメを刺してやる事も、一つの作法、あるいは供養と言うモノであるーーー。



数十分後、釣り出した“ゴブリン”達を全滅させたレイナード達は、生き残りの“ゴブリン”の捜索の為、“洞窟”内を探索していた。

“ゴブリン”は繁殖力が強いので、討ち漏らした者達がいると、あっという間にまた数を増やしてしまう。

その為、しっかり全滅させるまでは油断大敵なのである。


「ここまではさっきも来たけど、この先はいってないからなぁ~。」

「まだ生き残りがいるかもしれないから、皆警戒態勢を維持してくれ。」


コクリッと、リベルトの注意に皆無言で頷き、レイナード達は集落のあった開けた『スペース』からさらに奥へ向かっていった。

しかし、そう行かない内に、再び開けた『スペース』に出る。

そこには、明らかに普通の“ゴブリン”達とは一線を画した“個体”が取り巻きの“ゴブリン”と共に鎮座していた。

“ゴブリン”の『上位種』・“ゴブリンロード”とその取り巻きであろう。

“ゴブリンロード”は、通常の“ゴブリン”達よりも、体格・知能ともに優れていて、中には“人語”をカタコトながら話す者もいるそうだ。

とは言っても、それでもそこまで高い知能は有している訳でもないので、彼らは仲間の“ゴブリン”達の“お粗末”な追撃が失敗するとは露ほども思わず、油断した様子であった。


「ギギィッ!ニ、ニンゲンッ!?」

「ギギッ!?」

「ギャアッ、ギャアッ!」

「散開っ!」


レイナード達に驚く“ゴブリン”達とは対照的に、レイナード達はリベルトの指揮の下、瞬時に戦闘態勢に入った。

とは言っても、“洞窟”内なので『魔法技術』を使う事はあまり好ましくない。

それ故、ヴィアーナとケイアも『訓練』で鍛えた『弓術』で、取り巻きの掃討を行う。

レイナードとテオは“ゴブリンロード”との距離を詰め、取り巻きの方は完全に仲間達に任せていた。

特に『遭遇戦』では顕著に表れるのだが、基本的に戦闘は長々と続く様なモノではない。

所謂『スポーツ』で言う所の『速攻』の様な事が、普通に戦闘でも起こるからである。

これを防ぐには、『危機察知』スキル・『気配察知』スキルを高めるか、機先を制されても対処可能な『迎撃能力』を持つか、『後の先』を取れる『力量』を持つ他ない。

残念ながら、この“ゴブリン”達にはそのどれもなかった。


「ギヤァァッ!」

「ヒギィィッ!」

「クッ、オ、オノレッ!」


取り巻きの“ゴブリン”達は瞬く間に射貫かれて絶命し、孤立無援となった“ゴブリンロード”は激昂した様に、その手にしていた太い棍棒を振り回した。

“ゴブリンロード”は、他の“ゴブリン”達より体格が大きく、『人間種』で言う成人男性ほどの体格を有している。

また、身体能力も通常の“ゴブリン”達に比べて高く、その統率力と知能から脅威度はかなり高く、油断すれば『中級』の『冒険者』達でも危ない。

もちろん、今だに子どもであるレイナード達からしても危険度の高い『モンスター』ではあるが、すでにこの世界アクエラでもトップクラスの『使い手』であるアキト達に鍛えられているので、今さらこのの相手を恐れる事はなかった。

何より、『速攻』を仕掛けた心理的優位もあり、殺生をする“覚悟”がすでに決まっているレイナード達には、微塵の躊躇もなかった。

デタラメに振り回す棍棒は、当たれば大ダメージを免れないが、テオはそれを冷静に『体術』を応用した足さばきと身体操作、それに得意の『盾術』を駆使して、“ゴブリンロード”に致命的な隙を作る事に成功した。

以前アキトが発言していたが「目には映っているけど」と言うモノがある。

アキトから伝授された『散心』もそのたぐいの技である。

生物の視野は意外と広い。

しかし、『注視』している所以外はのである。

それを応用して、相手の『意識』を逸らしたり、『フェイント』を駆使してな『死角』を作り出す事が『散心』のである。

テオが作り出した隙を見逃さず、自分の体勢を崩したテオに『意識』がいっている事も加味して、レイナードは躊躇なく致命的な一撃を“ゴブリンロード”に与えた。


「ギィヤァァァァッ!」


生物である以上、危険を察知し、脳が身体に次の行動の命令を送る間には一瞬のタイムラグがある。

故に、“ゴブリンロード”がレイナードをした時にはすでに手遅れなのである。

生物の急所である首に綺麗な横凪ぎが決まり(流石に今のレイナードに首を刎ねる事はかなわなかったが)、のたうち回って暴れる“ゴブリンロード”にレイナードとテオはあえて追撃を加えずに退いた。

こうした絶命寸前に暴れ回る生物に追撃を加えようとすると、思わぬダメージを受ける恐れがあるからだ。

それ故、遠くからバネッサ達がトドメを刺すのを予期して、邪魔にならない様に退いたのだった。


「ギヤァッ!」


バネッサ・リベルト・ヴィアーナ・ケイアの追撃を受け、遂に“ゴブリンロード”は沈黙した。

これは大金星である。

普通ならここで喜び合ってもおかしくはないのだが、レイナード達はすでに一流の『戦士』の風格を漂わせていた。

無言でハンドサインで喜びは伝えるモノの、『作戦行動』はなおも続いている事を理解しており、冷静に“洞窟”内を全て“クリア”していくのだったーーー。



“洞窟”内の掃討を終えたレイナード達が外に出ると、ユストゥスが待っていた。

無言で頷き、レイナード達を労う。


「皆ご苦労様。問題なく『討伐』出来た様だな。よくやった。上出来だぞっ!」

「うおぉっ!」「やったねっ!」「お疲れ様っ!」「上手くいったなっ!」「私達がやったんだよねっ!?」「ええっ、素晴らしかったですよっ!」


その言葉を聞き、ようやくレイナード達は子どもらしい喜びを爆発させた。

ヴィアーナの助力を得たとはいえ、自分達で初めての『モンスター討伐』を成功させたのだ。

少なくとも、この規模の“ゴブリン”達+“ゴブリンロード”を討伐するのは、『冒険者』で言えば『初級』の域から出て『中級冒険者』として、つまり、ようやく一人前プロとして認められたのと同じ様なモノである。

ユストゥスも、レイナード達に同じ様に話した。


「ただ、まぁこれは坊主達にはまだ教えていなかったからあまり気にせずとも良いが、『討伐』でも『狩り』でも、“ターゲット”以外の『魔獣』や『モンスター』も同じ森で生きている。それ故、血肉の臭いに釣られたりして介入してくるケースもある。そうなれば複数の『魔獣』や『モンスター』と乱戦になる事もあるので、その警戒へのも必要になってくるぞ?ま、頭の片隅には入れといてくれ。」


ただ、ユストゥスはしっかり褒めるべき所は褒めるが、同時に今後の“課題”も示すのだった。

これは、アキトも懸念していた事だが、ユストゥスはその点を忘れずに指摘する。

ハッとしてレイナード達は冷静にユストゥスの周囲を観察した。

よくよく見てみれば、ユストゥスの“警戒網テリトリー”に侵入を試みようとした『魔獣』や『モンスター』と思わしき死骸がチラホラと転がっている。

これは、ハッキリ言えば、ユストゥス強者の『気配』に気付けなかった『魔獣の森この森』では底辺の者達だ。

しかし、レイナード達のレベルではまだ苦戦は免れない相手であり、この者達が“ゴブリン”達の『討伐』中に介入していたら、と想像し、レイナード達は肝を冷やすのだった。

まさしく、「勝って兜の緒を締めよ」ではないが、レイナード達は正しくユストゥスの『教訓』を肝に命じるのだった。


「「「「「「はいっ!」」」」」」

「よし、では今日は撤退する。本来ならこの後に、“解体”や素材の“剥ぎ取り”、死骸の処理などの『行程』があるのだが、“ゴブリン”達の肉は旨くないし、素材の旨味もないので、今回は『自浄化作用』に任せよう。その内、『訓練』でそこら辺は教える。最後に、今日は本当によくやったぞっ!」

「「「「「「は、はいっ!」」」」」」


だがしかし、あくまでこれは『実戦』であり、レイナード達に成功体験をさせる事、自信をつけさせる事が目的だ。

現時点で持てる力を上手く扱ったレイナード達を再びユストゥスは褒めながら、ユストゥス達は『シュプール』に帰還するのだったーーー。



◇◆◇



「どうやら、問題なく乗り切った様だね。」

「うん。二週間でこの成果なら、かなり良いんじゃない?」

「彼らは元々の『基礎』は持っていましたからね。」

「それを上手く活かせた、と言った所か?」

「ああ、そうだな。まぁ、まだ“アラ”は目立つがな。」

「そこは、これからの『経験』でいかようにも改善出来るだろう。」

「こどもとしたら、ジュウブンにごうかくラインなんじゃないー?」


レイナード達の“ゴブリン”討伐をこっそり見ていた僕らは、そう総評した。

また、ユストゥスが僕の懸念していた事を今後の“課題”として示したので、僕としてはもう言う事はない。

しかし、ヴィアーナさんの扱う『魔術師ギルド方式』の『魔法技術』は便利だなぁ~。

『魔法発動体』と『触媒』は必要みたいだけど、それさえクリアすれば、『エルフ族』の扱う『精霊魔法』に匹敵する発動スピードを実現していた。

・・・少し思い付いた事がある。

これは、是が非でもヴィアーナさんと『交渉』する必要があるかもしれんなーーー。



レイナード達が『シュプール』に帰還し、初『モンスター討伐』を成功させたを中庭で繰り広げていた。

こういう日の為にストックしていた、『ワイルドボア』の肉を大盤振る舞いし、一種の『宴会』の様相を呈している。

まだレイナード達は『成人』してないのでアレだが、他の者達は酒も入り良い感じのカオス具合であった。

一方僕とヴィアーナさんは、それに合流する前に、『交渉』の話をすべく、僕の部屋で二人きりで対面していた。


「すいません、ヴィアーナさん。お疲れの所お呼びだししてしまって。」

「いえ。アキト殿とは一度ゆっくりする必要があると思っていましたので・・・。」


神妙な面持ちでそう応えるヴィアーナさん。

この“会談”が『魔術師ギルド』の今後を左右する事を察しているのだろう。


「単刀直入に言います、ヴィアーナさん。『リベラシオン同盟僕ら』と『技術提携』するつもりはありませんか?」

「・・・えっ?そ、それはこちらとしては有り難い話ですが、急にどうされたのですか?」


僕の発言に困惑するヴィアーナさん。

ヴィアーナさんとしては、レイナード達との『訓練』を経験し、『リベラシオン同盟』、特に僕らが持つ『技術』や『知識』の有用性はすでに理解している筈である。

それを、如何いかに『魔術師ギルド』に取り入れられるかを模索していた事だろう。

しかし、まさか僕の方からそうアプローチを受けるとは思ってなかったんだろうなぁ~。

まぁ、僕自身もこちらからアプローチするつもりはなかったのだが、人から聞いた話ではなく、実際にヴィアーナさんの扱う『魔術師ギルド方式』の『魔法技術』をからこそ、こう提案するつもりになったんだけどね。


「実は今日の『実戦訓練』を。その時に、ヴィアーナさんが扱う『魔術師ギルド方式』の『魔法技術』も見させて頂き、その即応性と取り回しの良さに非常に興味を惹かれたのですよ。ただ、多少残念な点もありました。それは、その『技術』を『魔術師ギルド』は十全に活かしきれていない点です。」

「・・・それは、どういった点でしょうか?」


多少挑発的な発言だったので、ヴィアーナさんもムッとした様だ。

ただ、興味を惹けた様であるし、話に説得力を持たせる上でも外せない行程である。

ここで、僕は『精霊の眼』をヴィアーナさんに見せる。

これも、この後の『布石』である。


「何、簡単な話ですよ。『魔術師ギルド』はその『魔法技術』を開発・研究して、魔道具マジックアイテム』を普及させていない。つまり、その『技術』を用いて“”していないからです。」


ヴィアーナさんは、『精霊の眼』の(中庭の様子を映した画像)を目の当たりにし、驚愕の表情を浮かべているが、絞り出す様に反論した。


「そ、それは、ア、アキト殿も御存知の通り、『魔法技術』には危険な側面も存在しますから・・・。」

「ええ、もちろん承知しています。それ故に、今現在の『魔術師ギルド』は、その“”を『貴族』や『特権階級』に限定しているのですよね?ですが、ヴィアーナさんなら、『ルダの街』やレイナード達の『訓練』を通して、『精霊の眼これ』とか、高い『魔法技術』でなくとも、十分にがある事はお分かりになりますよね?」


この僕の発言に、ヴィアーナさんはハッとした。


「『基礎四大属性魔法』・・・!?」

「そう。特に、“火”と“水”ですね。意外と見落としがちですが、一般市民にとっては高い『魔法技術』など全く必要ではありません。むしろ、『魔法使い』や『魔術師』にとっては初歩の初歩たる『基礎四大属性魔法』の方が生活する上では重宝するモノでしょうね。枯れ木に“火”を着ける、出先で生活用“水”を確保する。燃料に“風”を送る、農“地”を耕すなどなど、この『アイデア』は最小の『技術投資』で莫大な“利益”を生む可能性があります。しかし、『魔術師ギルド』はその『歴史』を鑑みれば理解出来なくもありませんが、それすらも『魔法技術』の流出を恐れる余り上手く活用出来ていない。故に『貴族』や『特権階級』に寄り掛かり過ぎて、その“関係”が危うくなると首が回らないといった現状になっているのです。」

「・・・その為の、『技術提携』と言う事ですか・・・。しかし、それで『リベラシオン同盟アキト殿』にどう言ったメリットがあるのですか?」


ヴィアーナさんは納得した様子で頷いた。

『魔術師ギルド方式』の『魔法技術』は、特に『魔道具マジックアイテム』と非常に親和性が高いと僕は睨んでいた。

僕がこれまで入手した『失われし神器ロストテクノロジー』の『データ』や『魔道具マジックアイテム』などを作成した課程で得られた『データ』を組み合わせれば、それこそ『基礎四大属性魔法』を簡易的に発現させる『魔道具マジックアイテム』の作成は容易だろう。

もし、安定的にそれを生産する事が出来れば、『魔術師ギルド』にまさしく莫大な“利益”をもたらす事だろう。

もちろん、それを『魔術師ギルド』が『技術投資』を容認すれば、ではあるが。

そこは、ヴィアーナさんの手腕次第である。

当然、『リベラシオン同盟』としても『魔術師ギルド』との『技術提携』は色々とメリットのある話だ。

例を挙げれば、『魔術師ギルド方式』の『魔法技術』は純粋な『魔法使い』よりも、僕の様な所謂『魔法戦士』タイプの方が使い勝手の良い『技術』であるとかである。

まぁ、ぶっちゃけ今現在の僕の『技術』と『知識』ならば、観察を重ねればその『技術』を盗む事も可能なのだが、それでは後々に争いの種を遺してしまう。

それ故に、堂々と手を組んだ方が良いと判断したのである。


「もちろん、『リベラシオン同盟僕ら』としても、『魔術師ギルド方式』の『魔法技術』を学ぶ事は大きな意味がありますが、一番の理由は『魔術師ギルド』と“友好関係”を結ぶ切っ掛けになる事です。今はまだ理由を明かせませんが、『リベラシオン同盟僕ら』としてはより多くの人々と“友好関係”を結びたいのですよ。まぁ、それは本格的に“協定”を結んでからの話になりますけどね。それで、ヴィアーナさんとしては如何ですか?」

「・・・先程も申しました通り、『技術提携』はこちらとしては有り難い話です。『魔術師ギルド』との“橋渡し役”は私にお任せ下さい。」


ヴィアーナさんは、少し考えて頷いた。

僕らは、笑顔で握手を交わした。


「ええ、よろしくお願いします。」

「こちらこそ。」

「では、難しい話はまた今度にするとして、僕らも中庭に合流しましょう。かなりの『ストック』はありますが、食べ盛りなレイナード達彼らに食べ尽くされてしまってはかないませんからね。」

「フフフッ。そうですわね。」


『精霊の眼』に映る映像を指し示しながら、僕らも中庭に合流するのだった。


こうして、後に『魔術師ギルド』との本格的な“協定”に先駆けた合意が『シュプール』にて密かに交わされたのであったーーー。


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