第58話 ユストゥス教官のブートキャンプ(+α) 4



◇◆◇



あれから二週間が経過した。

レイナード達も、かなり『訓練』に慣れた様子で、明らかに当初よりも全てにおいて『レベル』が上がった様に見受けられる。

とは言え、ずっと『シュプール』に籠って『訓練』をしている訳にもいかない。

僕達にも『リベラシオン同盟』の“仕事”があるし、レイナード達にも『ルダの街』での生活があるからである。

その為、ユストゥスを中心にこの二週間でのレイナード達のデータを参考に、自主練で出来るトレーニング方法を検討しているのだった。


「とりあえず、“下半身強化”は継続するとして、後はどうするっスかね?」

「う~ん、そうだねぇ~・・・。」

「『体術』・『剣術』・『弓術』も自主練は出来るんじゃない?“素振り”をするとかさぁ~。」

「“素振り”は良いのですが、下手に仲間同士で『模擬戦』をしない様に注意するべきじゃないでしょうか?」

「そうですね。『模擬戦』も『稽古』においては重要な要素ですが、『指導者』がいない状況でそれをやられるのはちょっと・・・。もうちょっと彼らも成長すれば話は別ですが、現時点で下手に『対人戦』に慣れてしまっても問題ですし。」

この世界アクエラでは『対人戦』だけを想定して『技』を磨くと、手痛いしっぺ返しがありますからね。」

「とは言え、“ルール”を知らない内の『狩り』もあまりオススメ出来ませんからね。」

「“シゼンハカイ”はわたしたちとしてもみすごせないよねー。」

「う~ん、ここでもやはり『教育問題』がネックだよなぁ~。」


あーでもないこーでもないと議論するのだが、最終的にこの世界アクエラの『教育』の根幹に関わる話になってくるので、僕らだけで話し合っていても、埒が明かないと言うのが現状だった。

まぁ、基本的に休日を利用して『訓練』出来るので、レイナード達に関しては、かなりのレベルまで“仕上げる”事は可能だろう。

なので、彼らの自主練自体は“下半身強化”と『体術』・『剣術』・『弓術』の反復練習をさせ、後は各々の得意分野を好きに伸ばしたら良いとの事で、僕の中では一応の結論は出ている。

しかし、問題なのは、まぁこれは僕らが気にする事ではないかもしれないが、別のアプローチからも『教育』にメスを入れる必要があるのではと考えてはいる。

そもそも、本来なら『教育』と言うのは、『国』が主導するべき『国家事業』である。

高い能力を持つ人材育成は、『国家』の発展に取ってはなくてはならない重要な要素だからな。

しかし、この『教育』と言うのは、『権力』側からしたらなかなか難しい問題を孕んでいるのである。

『地球』でも、『一般市民』が高い『教育』を受けられる様になったのは結構最近の事だ。

今現在では、特に『先進国』では、当たり前の様に最低でも『義務教育』は受けられる環境は整っている。

まぁ、中には諸々の事情でそれすら受けられない者達も一定数いるが・・・。

しかし、これは以前にも言及したと思うが、『政治体制』によっては『一般市民』が高い『知識』や『教養』を持つのは『権力』側からしたら好ましくないと言う事もあるのだ。

それ故、(悪い意味で)『職業』が『世襲』され、『能力』が一定のレベルに達していないのに『政治』や『経済』を牛耳る『貴族』がいたり、逆に非常に有能なのに『一般市民』であるが故に一生陽の目をみない生活を送ると言った様な『アンバランス』な状況になったりする。

まぁ、これに関しては『リベラシオン同盟』と『ノヴェール家』とで協議の末、『ロマリア王家』に働きかけるつもりなので、『ロマリア王国この国』に関しては少しずつ改善される事だろう。

もっとも、その『成果』で出るのはかなり時間を要するだろうが。

これとは別に、僕が注目している点が、レイナード達の『訓練』から着想を得た『冒険者ギルド』の“改革案”であった。

『騎士団』や『憲兵』の場合は、所謂『職業軍人』あるいは『軍属』故に、給金や活動資金は『国』から出る。

お金を出す以上、彼らに簡単に死なれては『国』に取ってはマイナスだ。

それ故、新兵は『訓練課程』を経て、配属される“システム”となっている。

つまり、ある程度のレベルに達する事を義務付けられているのである。

しかし、『冒険者ギルド』では、そうした“システム”がない。

言うなれば現状の『冒険者ギルド』は『人材斡旋所』としての意味合いが強いからであり、もちろん『冒険者ギルド』としても『助言アドバイス』はしているし、『冒険者』の『実力』や『経験』から算出した“階級”、すなわちS、A、B、C、D、E、Fを各々に振り分ける事により、斡旋する仕事を選別してはいる。

ただ、この見極めは難しく、特に『冒険者』達の“強さ”にもバラつきがあるので、推奨階級が合致しているからと特に疑問に思わず仕事を『斡旋』し、その結果特に『若手冒険者』達がアッサリ死んでしまうと言う“事故”が後を絶たない。


(例えば、『地球』で言う所の『冒険者』を『フリーランス』、『冒険者ギルド』を『仲介業者』とすると分かりやすいだろうか?

当然ながら、『冒険者ギルド仲介業者』としては、信用問題に関わるので来た『依頼』を失敗させる訳にはいかない。

しかし、『冒険者ギルド仲介業者』と『冒険者フリーランス』は直接的な『雇用契約』を結んだ間柄ではない、つまり『冒険者』は『冒険者ギルド』の『職員』ではないので、『冒険者』の『実力』を推し量る判断基準は、『冒険者フリーランス』の『プロフィールステイタス』しかないのである。

それ故に、実際にはそんな腕がないにも関わらず、経歴だけ見て判断し、『依頼』を『斡旋』し、最終的に失敗してトラブルに発展、と言う話と似たようなモノである。)


もちろん、そうならない様に様々な対策を打っているが、現状では焼け石に水といった状況である。

これは、ある意味『冒険者ギルド』、『冒険者』の“強み”、つまり“フットワーク”の軽さに関わる話なので、なかなかに難しいのだが、せめて『訓練所』や『養成所』を創設すべきではないかと僕は考えている。

まぁ、ぶっちゃけ、『冒険者ギルド』も慈善事業ではないので、『実力』もないのに無茶な『依頼』を引き受けて、それで死んだとしても最終的には『冒険者』側の自己責任だ。

それに、これはある意味“選別方法”の一つでもある。

ベテランや一流の『冒険者』ともなると、情報の重要性をしっかり認識している。

それ故に、『依頼』の難易度と自分、チームの『実力』を客観的に判断して、最終的に出来る出来ないを判断する。

しかし、特に『若手冒険者』はそれが出来ない。

経験不足、以前に知識不足なのだ。

それ故、前述の通り、無茶な『依頼』を引き受けて、帰らぬ人になるケースが多いのである。

しかし、せめてその割合を少しでも減らす為にも、『冒険者になる為の“知識”を学ぶ学校』を創設するのは悪くない提案だと思う。

そうした『若手冒険者』の中には、熱意と才能があっても成長する前にその命を散らした若者も多い事だろう。

直接的な『雇用契約』を結んでいる間柄ではないとは言え、人材の損失は『冒険者ギルド』としてもマイナス要素だ。

とは言っても、当然これはお金が掛かる話だ。

それ故に、現状ではそこまで『冒険者』にお金を割けないと言うのが『冒険者ギルド』側の本音だろう。

なので、まずは『冒険者ギルド・ルダの街支部』で実験的に行う事をドロテオさんに提案するつもりである。

『冒険者』、特にベテランや一流の『冒険者』のスキルは様々な事に転用が効く。

その“強さ”もさる事ながら、その経験や知識は、例え『冒険者』を引退したとしても、各所で“アドバイザー”として活躍する事だろう。

つまり、この提案は『冒険者ギルド』・『冒険者』双方、どころか各所にも『メリット』のある提案なのだ。

『資金』に関しては『リベラシオン同盟』と『ノヴェール家』に要相談である。

上手くすれば、『若手冒険者』達の“事故”を減少する事が出来るだけでなく、安定的な有能な人材の供給が可能となり、その“噂”が広がれば、各所でも模倣する流れになるかもしれんしな。

ま、それはともかく。


「まぁ、自主練は“下半身強化”と『体術』・『剣術』・『弓術』の反復練習で問題ないだろ。後は、注意事項を伝えて、各々の判断に任せよう。」

「そうっスね。」


僕の最終的な判断に、皆からも特に異論は出なかった。

レイナード達の“指導責任者”たるユストゥスも、納得顔でそう頷いた。

話し合いも一段落つき、僕は『合宿最終日』である今日の予定を確認していた。


「ところで、今日は『実戦訓練』の日じゃなかったっけ?」

「あっ、いっけねっ!坊主達を待たせたままだったぜ。あるじさん、皆も、助言アドバイスありがとなっ!」


そう僕がユストゥスに話を振ると、ユストゥスは慌てて出て行ってしまった。

大丈夫かね?


「申し訳ありません、主様あるじさま。ユストゥスにはよく言い聞かせておきますので・・・。」

「まぁ、あまり気にしないでいいよ、ティーネ。ユストゥスはよくやってるさ。」


ティーネは、ユストゥスの“ラフさ”に恥ずかしげにしたが、これもまた経験である。

僕は『前世』で経験があるが、皆はすでに超一流の『使い手』であるが、その『実力』に反して年若く(ティーネ達も『エルフ族』としてはまだまだ若輩だからな)、後輩や弟子を持つ機会があまりなかったのだろう。

自分以外の他者を育成するのも、当然“慣れ”が必要なので、最初から上手くは行かない。

これも、僕達がサポートしてやれば済む話だ。


「今日は“ゴブリン”の集落の掃討だったっけ?」

「そうだよ。今のレイナード達なら問題ないでしょ。“ゴブリン”は『初心者』が相手するにはちょうどいい相手だからね。ま、数は相当膨れ上がっているみたいだから、油断すると殺られちゃうと思うけど。」


あっけらかんとそんな事を言っているが、もちろん僕としてもレイナード達の事を心配していない訳じゃない。

しかし、今現在の彼らの『実力』なら、その程度の『困難』は乗り越えられると確信している。

まぁ、万が一の場合に備えて、ユストゥスも“引率”として同行するしね。


「まぁ、ユストゥスもヴィアーナさんもいるし、心配ないよ。」

「そのヴィアーナ殿は、本当に信用出来るのでしょうか?」

「何で?ヴィアーナさん、いい人だよ~?」

「あ、いえ、アイシャ殿。私も彼女の“人となり”はすでに把握していますし、主様あるじさまの判断に異議を唱えるつもりもありません。ですが、彼女は『魔術師ギルド』の人間ですし、彼女を一緒に『訓練』に参加させたのは、少々とやり過ぎなのではないか、と・・・。」


ヴィアーナさんの話題に出たのでティーネはそう疑問を呈してきた。

これは、まぁ言わんとする事は分かる。

しかし、もちろん僕一人でこの“流れ”を作ったのではないが、その“キッカケ”を作った一人としては、むしろ心配していない。


「大丈夫さ。以前ならともかく、今現在やこれからの事を正しく考えられれば、僕一人を排した所でこの“流れ”を止められるなんて、少なくともヴィアーナさんはもう思ってないよ。むしろ、『既得損益』にしがみついていたら、『魔術師ギルド』の方が“時流”に飲み込まれて衰退するとヴィアーナさんは考えている事だろう。そうなれば、少しでも良い条件で『魔術師ギルド』が生き残れる方法を模索するハズだから、『魔術師ギルド』の『リベラシオン同盟』への参入も候補に入ってくるだろう。『リベラシオン同盟僕ら』としても、『魔術師ギルド』が合流してくれる事は歓迎すべき事態なので、その『参考資料』としても、『説得材料』とする上でも、ある程度の『知識』をヴィアーナさんに公開する事は『メリット』がある。なので、ヴィアーナさんが『訓練』に参加するのは、その上でもむしろ推奨すべき事だからね。」

「・・・そこまでお考えでしたか。主様あるじさま、差し出口お許し下さい。」

「別に気にしてないさ。ティーネの疑問も尤もだと思うしね。」


諜報活動スパイかつどう』と言えば聞こえは悪いが、『情報化社会』で生きていた僕としては、『情報収集』するのはむしろ当たり前の行為だと思う。

それ故、『魔術師ギルド』がヴィアーナさんを僕の『監視者』として派遣した経緯は理解出来なくもない。

『魔術師ギルド』としては、『魔法技術』の流出は、『魔術師ギルド自分達』の『優位性』を守る意味でも避けたい事態だろうからね。

しかし、今現在の、特に『ロマリア王国この国』では状況が一変し、“変革の波”が押し寄せている。

それ故、このまま『保守的』に何もしなければ、間違いなく『魔術師ギルド』は衰退の一途を辿る事となるだろう。

それが理解出来てるからこそヴィアーナさんも僕らに接触してきた訳だしね。

まぁそもそも、『領域干渉けっかい』に進入しているし、僕の『悪感情感知スキル』にも引っ掛からなかったし、レイナード達も懐いているし、“直感”の優れたアイシャさんも警戒していないので、少なくともヴィアーナさんは信用出来ると思う。

まだ、彼女から直接的なアプローチを受けていないので何とも言えないが、もし彼女が助けを求めるなら僕は拒むつもりはない。


「それより、今はレイナード達の事が気になるな。ユストゥスに“仕込んで”おいた『精霊の眼』を通して、様子を見てみようっか?」


少し重くなりかけた空気を払拭する様に、僕はわざと明るい口調でそう言った。

基本、特にティーネは真面目なので、ちょっとした意見を言うのも重く捉えてしまう傾向にあるからなぁ~。

僕としては、異なる視点から発言してくれるティーネ達の意見は有り難いんだけど・・・。

もうちょっと、ユストゥスの“ラフさ”を見習っても良いと思うけどねぇ~。

ちなみに、『精霊の眼』とは、以前『白狼』達の『聖地』での『選定の義』を覗き見した時の『結界術』と『魔法技術』を応用した『画像投影』と、その後発掘した『通信球つうしんきゅう』を模倣した『通信石つうしんせき』とを組み合わせてさらに発展させたモノである。

まぁ、ここからは『魔法陣(魔法式)』とか、『精霊石せいれいせき』、『魔素周波数』とか『精霊石振動子せいれいせきしんどうし(クォーツ)』などなど、僕のうんちく、苦労話、製作秘話になるので割愛するが、要はユストゥス“仕込んだ”物がワイヤレスカメラで、今僕が持っている物が受信機である、と思って頂ければ良い。

これは、先程話題に上がったヴィアーナさんはもちろん、他の人達には明かせないたぐいの『知識』・『技術』故に、今まで陽の目を見なかった。

もちろん、欠点もある。

まず、材料の点からも、とにかく入手が困難(とんでもなく高額)な事。

送受信出来る範囲も今だに極限定的な事。

“ドローン”の様な『無人偵察機』はこちらの世界アクエラには現状ないので、その現場に実際『精霊の眼ワイヤレスカメラ』を持った誰かを派遣する必要がある事、等々である。

まぁ、これはほとんど僕の趣味の産物なので、そこまでシビアに考える必要もないのだが、もうちょっと改良しないと使い所が限られてくるとは考えている。

知り合いには、こうした『魔法科学』・『魔道科学』に精通している人(アルメリア様は除く)がいないので、他の人の意見が聞けないのが現在の僕の(割とどうでもいい)悩みであった。

ま、それはともかく。


「おおー、まえのはくろうたちのときとおなじようなモノだー。」

「・・・いつの間にこんな物を作っていたんですか?」

主様あるじさまのご趣味だ。気にするだけ損だぞ、ハンス。」

「それはそれとして、これはかなり画期的な物ですね。偵察などにかなり使えるのでは?」

「発想としてはメルヒの言う通りの使い道もあるけど、今はまだそこまでの範囲をカバー出来てないんだ。ま、ちょっとした遊び道具だと思ってくれ。」

「確かに、『体術』を教えている私としても、レイナード達の成長は気になる所だよねぇ~。」

「それは、私もです。それに、これなら大勢で押し掛ける必要もないので、『森の生命』達に気を使う必要がないのも良いですね。場合によっては、“ターゲット”である“ゴブリン”達をイタズラに警戒させてしまいますから。」


皆もレイナード達の事は気になっていたのか、すぐに食い付いてきた。

さて、向こうの様子はどうだろうか?



◇◆◇



“ゴブリン”と言うのは、この世界アクエラの『人間族』・『鬼人族』・『エルフ族』・『獣人族』などの『人間種』の『近親種』である『亜人種デミヒューマン』である、とされている。

しかし、“ゴブリン”は『ホブゴブリン』と同じく『妖精』なので、厳密には『亜人種デミヒューマン』ではないのだが、ではなぜそう見なされているのかは、彼らの“見た目”が『人間種』に近いからである。

『ゲーム』でもお馴染みな彼らだが、身長は100cm足らず(『ホブゴブリン』より少し大きい程度)の子どもの様に小柄で醜悪な外見をしている。

性格は臆病ながらも弱い者には残忍で狂暴、ある程度の『知能』を有しているので、集団になると極々初歩的な『文明』を持つ事がある。

雑食で繁殖力が非常に強いのだが、一部界隈で有名な『人間種』の女性をさらって犯す事で子を成す事はない。

まぁ、当たり前なんだけどね。

『地球』で言う所の『猿』と『人間』の間に子どもは生まれないのと同じである。

『遺伝子情報』が異なっているのはもちろん、そもそも彼らは『妖精』だし。

ただ、だからと言って危険がない訳ではない。

雑食故に、『人間種』も彼らの『食糧』になりうるからだ。

ただし、まぁ、その『森』の『力関係』にもよるのだが、総じて身体能力はそこまで高くないので、自作の『武器』(木の棒、石の斧、石の槍など)を持ってしても、所謂『食物連鎖』の『底辺』に甘んじている事が多い。

それ故、『初心者』が『経験』を積むには、格好の相手なのである。

ただ、何事にも例外は有り、中には高い『能力』を持つ個体が現れる事もある。

そうした者は、仲間達を束ねて一大勢力を築き、『食物連鎖』の“バランス”を崩して『パンデミックモンスター災害』を引き起こす要因となりうるので、『冒険者ギルド』としては、“ゴブリン”は見つけ次第『討伐』する事を推奨している。

ただ、『魔獣の森この森』での彼らの立場は非常に厳しい。

何と言っても、僕の『弟分』であるクロとヤミが『白狼』達の『ボス』の座に就いてからは、『白狼』達も全体的に滅茶苦茶強くなっているので、森の秩序を大きく乱す者達は容赦なく排除されるからである。

なので、最近は僕らも“ゴブリン”を見る機会があまりなかったのだが、レイナード達の『訓練』の為にも“ゴブリン”達はちょうどいい相手だったので、『白狼』達と話をつけてしばらく放置して貰っていたのだった。

僕らだからこそ可能な“裏取引”である。

その放置されて、数を増した“ゴブリン”の集落に、現在レイナード達は迫っていた。


「よし、ここからはお前達に任せる。自分達で作戦を練って“ゴブリン”達を『討伐』しろ。基本的に俺は手を出すつもりがないので、俺の事をアテにはするなよ?ヴィアーナ殿は、彼女次第だが、戦力とする事は許可しよう。」

「もちろん、私も協力するわ。」

「サンキュー、ヴィアーナ姉ちゃん。」

「んで、どうしよっか?」


バネッサが水を向けると、皆一斉にリベルトを見た。

元々その傾向にあったが、レイナード達のグループの実質的なリーダーをレイナードとするならば、一番こうした『頭脳労働』を担当するのはリベルトであった。

特に、“鬼ごっこ”にて『戦略』の重要性にいち早く気付き、この二週間で様々な作戦を立案していたリベルトは、レイナード達のグループの『作戦参謀』の“立場”を磐石なモノとしていた。

パーティーとしての『役割分担』でも、リベルトのこの“立ち位置”は理にかなっていて、『壁役・盾役』の前衛を得意とするレイナードとテオ、中~遠距離からの襲撃、迎撃を得意とするバネッサとリベルト、遠距離からの範囲攻撃が可能で『砲台役』のケイア(とヴィアーナさん)、この中でやや後方よりに位置するリベルトが『司令塔』として全体を見ながら指示を出すのである。

もちろん、各々の得意分野での意見にはしっかり耳を傾ける。

特に、テオの『狩人ハンター』系の『トラップ』の知識と、ケイアの『魔法技術』の知識は、作戦を立案する上でも大いに参考になった。


「そうだなぁ~。この“ゴブリン”達のすみかは“洞窟”か・・・。本来なら、“全体像”がはっきり見えて、おおよその総数を把握してから『討伐』したい所だけど、“洞窟”内部を斥候するにはリスクがある。機動力が阻害されるし、遠距離からの僕らの攻撃、そして『火力』の高いケイアとヴィアーナさんの攻撃が制限されるからね。なので、“洞窟”内から釣り出して、一網打尽にするのがベストだと思う。レイナード。」

「OK。『トラップ』に警戒しながら、適当に釣り出してくればいいんだろ?」

「ああ。その後、散漫的な攻撃を加えて、ヤツらの注意を引き付けながら、『トラップ』を設置した“ポイント”に誘導。テオ。」

「この場合は、そう難しい『トラップ』を設置する必要はないよ。特に、俺達にはケイアとヴィアーナさんがいるから、少し足場の悪い場所に誘導してやれば、『魔法技術』で“ぬかるみ”を作ってやるだけで相手の足を止める事が出来るよ。」

「水系術式と地系術式を併用すれば、即席の『トラップ』をすぐに作れるって事だね。」

「そうしたら、後は各自連携して『討伐』しながら、ケイアとヴィアーナさんの範囲攻撃でトドメを刺す。ただし、森の中なので、二人とも火系の『魔法』は使わない様にお願いします。森林火災でも発生したら、僕らも煙や火に巻かれて危険ですからね。」

「うん、了解。」

「ええ、分かったわ。」

「ただ、皆想定外の事が起きたら各自の判断で後退してくれ。くれぐれも無茶しない様にな。」

「おうっ!」「りょうか~いっ!」「ああっ!」「了解っ!」「分かりました。」


ふむ。

なかなか良い作戦だね。

自分達の特性・現在のレベル・情報の不足を補う戦略・想定外の事態に置ける対応の確認。

特に、“場”の特徴を踏まえた『魔法』の選択は僕としては高く評価したい。

火系術式は、副次効果を含めて非常に優秀な攻撃魔法だが、当然ながらその影響は自分達にも及ぶ。

なので、閉鎖的な環境下でこれを使うのは自殺行為である。

意外と『科学的知識』を持っていても、こうした事は頭から抜け落ちる事があるので、それに気付き注意を呼び掛けたのは『司令塔』としては十分及第点である。

まぁ、後はやってみない事には分からないけどね。

レイナード達の今現在の『実力』では、『討伐』は出来ても、『隠密技術』を駆使して相手に気付かせないまま『壊滅』させる事はまだ難しいからな。


「結構良い作戦じゃない?」

「ええ。『座学』の『知識』も上手く生かしている様ですね。」

「基本的に、“ゴブリン”達は高度な『知性』もないし、大して強くないからな。」

「今の彼らなら、何も考えずに突撃しても何とかなると思うが・・・。」

「そこは慎重だね。確実に『トラップ』に掛けて仕留める事を選択したよ。」

「このぶんなら、もりのなかの“カリ”もちゃんとおしえればこなせるようになるヒもチカイかもねー。」

「ただ、強いて言えば、“ゴブリン”達の事想定していない事がマイナスポイントかな?『想定外の事態』も“ゴブリン”の『上位種』を意識しての発言の様だしね。」

「・・・それは、ちょっと厳しすぎるんじゃない?」

「まぁね。でも、皆も知っての通り、『狩り』でも『討伐』でも、他の『モンスター』や『魔獣』が横やりを入れる事もあるから、そこはちゃんと理解しておかないと、結構痛い目に合うと思うよ?ま、今回はユストゥスが一緒にいるから、そんな命知らずはいないと思うけどねー。」


全体的には悪くないんだけど、まだまだ経験不足は否めない。

『森』も

それ故、『ゲーム』の様に敵と『エンカウント』中には『第三者』が介入しない、なんて『ルール』は当然なく、所謂『ハイエナ』の様な存在が虎視眈々と『獲物』の横取りを狙っている可能性も考慮せねばならない。

まぁ、それ故の『危機察知』スキルだったり、『気配察知』スキルなのだが、残念ながらレイナード達はまだその二つを体得してはいない。

先程も言った様に、ユストゥスと言う『魔獣の森この森』でも『最上位』に位置する『強者』が一緒なので、そんな事をする命知らずはいないと思うが、ユストゥスが一緒でなければ、『獲物』を掻っ攫かっさらわれる、だけならまだしも、最悪戦闘中に『バックアタック』を仕掛けられる事もあるので要注意なのだ。

まぁ、アイシャさんの言う通り、まだまだ経験の浅いレイナード達には厳しすぎる意見だが、それでも今の内にしっかり諭しておいた方が後々の為にも良いと思う。

まぁ、ユストゥスが指導するかもしれんがな。


「おっ、仕掛けるみたいだよっ!」


アイシャさんの言う通り、レイナードとテオが“洞窟”付近に先行した。

さて、どうなるかな?


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