第51話 『伝道師』の誤算 5



◇◆◇



ユストゥスがシュマイトを確保ボコボコにした同時刻、アキトはギールを



誤解なき様言っておくが、これは『埋葬』ではない。

ギールにした僕だったが、ギールはその『性質』故、『シュプール』内にて拘束しておく事が不可能だったのだ。

ギールが『領域干渉』の『壁』を通り抜けられなかった為だが、その事をうっかり忘れてた僕は、ギールを連行して普通に『シュプール』に戻ろうとしたら、『領域干渉』の『壁』に引っ掛かってしまったのである。

僕も悪気があった訳じゃないが、結果的に僕の『ステイタス』由来の身体能力の『パワー』と『壁』の抵抗との“引っ張り合い”に巻き込まれたギールは、それはそれは見るも無惨な状態で気絶している。

一応僕も、今回の件の『実行者』である彼ら・『掃除人ワーカー』チームを勝手に『処分』するのはマズイと分かっている。

それ故、『回復魔法』を施してを図り、苦肉の策として自然の力を借りた拘束を実行しているのだった。


「皆は上手くやってるかなぁ~?」

「それはいいけどさ、ダーリン。流石にその人、可哀想じゃない?」

「いえいえ、リサ殿。主様あるじさまを狙った以上、命があるだけでも感謝するべきです。本来なら、即刻“打ち首”にすべきなのですが・・・。」

「こらこら、僕を何だと思っているんだ、ティーネ。物騒な事言わないの。この人は『ノヴェール家』の方達に引き渡す必要があるか、僕らが勝手に『処分』する訳にはいかないんだ。後々『ノヴェール家』と『リベラシオン同盟』との間で『遺恨』が残ってもアレだからねー。」


ギールの頭だけ出し、せっせと身体を埋めながら僕はリサさんとティーネにそう応えた。

本来なら、『ノヴェール家』のジュリアンさんが『リベラシオン同盟僕ら』に対して『掃除人ワーカー』チームを差し向けた時点で両組織の関係悪化は避けられない話だ。

まぁ、場合によってはこの件を理由に『主導権』を握る事も可能だが、それは『リベラシオン同盟僕ら』としても望む所ではない。

と、言うのも、これは『リベラシオン同盟僕ら』の都合だが、『ノヴェール家』には『ロマリア王家』との『パイプ役』として働いて貰わなければならないので、こんな事でツブれてもらっては困ると言った事情もある。

それに、半ば『脅す』様に『協力』を迫った負い目もあるし、ここは穏便に済ますのがベストだろう。

そんな感じで、『保険』としてハンス・ジーク・ユストゥスも派遣してるし、特に問題なく立ち回ってくれる事だろう、多分、メイビー。

ただ、唯一心苦しいのは、僕のせいでレイナード達が狙われた事か。

まぁ、直接的に悪いのは『掃除人ワーカー』達であるが、だからと言って僕に責任がない訳でもない。

レイナード達とは、これを機に少し距離を置いた方が良いかもしれないな。

『リベラシオン同盟』を危険視する者達もいるだろうし。

幼馴染みレイナード達を危険な目に合わせるのは、僕としても本意ではない。

ちなみに、レイナード達と一緒の時に『掃除人ワーカー』の『』や『』を感じたので、高確率でレイナード達が狙われるであろう事は予測出来た。

と、言うのも、僕の『人間関係』の中で、一番狙いやすいのは“子ども”であるレイナード達だろうし、悪しき者なら一番与しやすい所から躊躇なく狙うだろう。

それに擁護する訳ではないが、相手の優位に立つ為に相手の『弱点』を突くのは、『戦術的』にはある種『セオリー』だ。

僕も、『前世』での『スポーツサッカー』でも、散々使った『手』だし、使われた『手』だ。


「しっかし、この人も運の無い人だねぇ~。まさか、たまたまアキトが“にいるなんてさ~。」

「半分はアイシャさんのせいでしょ・・・。まぁ、僕も調子に乗った所はあるけどさぁ~・・・。」

「まぁ、でもコイツ悪いヤツなんだろ~?何か知らないけど、『キョーハクジョー』を持ってたらしーじゃん。」

「『キョーハクジョー』ってなに~?」


ギールの頭を木の枝でツンツンしているアランとエリーが興味津々で僕に問い掛けてきた。

先程まで、僕とアイシャさん・ティーネは日課の『組手』をしていたのだった。

最近では、そこにリサさんも加わり、見学でアランとエリーもその光景を眺めていた。

で、子ども達の手前調子に乗った僕が、「アイシャさんの『膂力りょりょく』は(人を)どこまでの『距離』飛ばせるのか?」と合間の休憩中にふと疑問に思い、ちょっとした遊びに興じていたのだが・・・。

いやぁ~、思った以上に飛びましたよ。

特大ホームランかって言うくらいかっ飛んだので、僕も慌てたのだが、ここが『魔獣の森』の浅い場所とは言え、木々に囲まれた場所で助かった。

咄嗟に『魔法』を使う事すら出来なかったので、木の枝なんかを緩衝材に、その勢いを殺す事に成功したのだ。

何だか『野性動物』みたいだが、こちらの世界アクエラから、もう10年以上『森』で暮らしているので、この程度の事はもう慣れたモノだ。

まぁ、この世界アクエラには『ステイタス』由来の身体能力もあるので、今現在の僕の『レベル』なら、で着地しても平気だったかもしれんが、流石に恐ろしくて試す気にはならんかった・・・。

ま、そんな訳でどうにか着地したのだが、運悪くそこにギールがいたと言う訳である。

一瞬、殺っちまったか!?と思ったが、どうにか生きていた。

だが、その懐からこぼれ落ちた書状、所謂『脅迫状』の存在を確認し、ギールが『掃除人ワーカー』チームの一人であると確信したのだった。

で、こうして“確保”している訳なのだが・・・。



◇◆◇



※『掃除人ワーカー』・ギールの場合



シュマイトがレイナード達を襲撃した同時間帯、ギールは『シュプール』近郊に来ていた。

時系列順に行くと、予定では、


1.シュマイトとギールの『合同』で『人質』を使ってアキトを暗殺

2.ドゥクサスが単独でドロテオを暗殺

3.アルファーが単独でダールトンを暗殺


となり、その後各々撤退と言う流れである。

まぁ、しかし、すでに『ノクティスフィーリウス』は『前提条件』で失敗していた。

前述の通り、『掃除人ワーカー』達の現状では、十分な『情報』を得る事が困難なのである。

それ故、事前に一応の『下調べ』をギールは徹底させているが、それでもアキト達相手では不十分である。

まぁ、もっとも、ギール達に、『リベラシオン同盟』の過剰とも言える『戦力』を予測する事も難しいだろう。

そもそも、アキト・ダールトン・ドロテオの『リベラシオン同盟』の主要メンバーだけでもこの世界アクエラでもかなり高いレベルの人材なのに、それ以外にもアキトに匹敵する『レベル』を持つ仲間達が10人近くもいるのだ。

アキトの仲間達は今現在、リサを除く全員が『レベル』400越え。

今の所『冒険者』ではないが、『冒険者』の等級で言うと『S級冒険者』クラスの猛者ばかりである(『S級冒険者』と言うのは、言わば『生ける伝説』である。その『実力』は『神話』や『伝説』の『英雄』達とも肩を並べるクラスの、“現代”の『人間種最高峰』の一角である。下手をすれば『国』を相手取って戦えるほどの『戦力』が、ここ『シュプール』に集結している事になる)。

アキトが“こっそり”『派遣』したハンス・ジーク・ユストゥスに加え、アイシャ・ティーネ。

更に、今現在は『シュプール』を離れているがメルヒとイーナもいる。

リサは、アキト達に比べたらまだまだ劣るが、最近はアイシャやティーネ達に『武術』の手解きを受けているし、『ドワーフ族』特有の『膂力りょりょく』も侮れない。

そうした『戦力』を、『掃除人ワーカー』達の存在に勘付いたアキトが即座に隠してしまったのだから、『ノクティスフィーリウス』がある種のも無理からぬ話である。

さて、ではギールだが、シュマイトの『メッセンジャー』としてアキトに『脅迫状』を届ける役目を担っていた。

もちろん、その後は『指定場所』に先回りし、万が一の場合の『サポート』に回るつもりであった。

しかし、ここで『シュプール』の『領域干渉』が行く手を阻んだ。


「なんだ、これはっ!?」


遠目に建物が確認出来る地点にて、不可視の『壁』にぶつかったギールは、驚愕の声を上げていた。

『領域干渉』・『結界術』の副次効果として、その『フィールド』には物理的な所謂『防御結界』が形成される。

先程も言ったが、不可視の『壁』が存在するので、殴ろうが蹴ろうがビクともしない。

それどころが、『攻撃』を加えた方がダメージを受ける、『壁』を殴っている様なモノである。

これを強行突破するには、『フィールド』効果を上書きするか、『防御結界』の強度を上回る『エネルギー』をぶつけるしかないが、残念ながらギールにはそのどちらも不可能であった。

自分の想定を遥かに上回る事態に、ギールは一抹の不安を感じていた。

しかし、『襲撃計画』はすでにスタートしていて、事ここに至れば引き返す事は不可能である。

己の『勘』を信じて、この件から手を引けば、まだ生き残る道もあったかもしれないが、ギールは『プロ』としての『プライド』を優先し、その『不安』から目を逸らしてしまった。

しばらく、『壁』の“切れ目”を探っていたギールだったが、ふと、馬車のわだちらしきモノを発見した。

これは、以前に言及したドニとリサが『アントム工房』から依頼されていた日用品や『鉱石類』を運ぶ為にアキトが馬車を使用したアトなのだが、ギールはそれを発見し、建物付近に近寄れないなら、ここに『脅迫状』を置いておくしかないかと考えていたのだった。

想定外の事ばかり起こる中で、それでも何とか『軌道修正』しようとしたギールだったが、さらにそれを嘲笑あざわらうかの様な事態に巻き込まれる。


「これで気付けば良いが・・・。んっ?」


簡易的に“目印”になりそうな物と一緒に『脅迫状』を置いておく事にしたギールだったが、ふいに誰かの『叫び声』が聞こえた気がした。


「うおぉぉぉぉっ!こ、こえぇぇぇぇ~!!」

「な、何だっ!?」


ガサッガサッとした音を聞き、ギールは咄嗟に身構えた。

『冒険者』が『モンスター』や『魔獣』に追われて逃げているのかと思ったのだ。

しかし、アキトはギールの予測の斜め上を行っていた。

木々を揺らす音が大きく多くなり、臨戦態勢を整えていたギールのアキトが

当然ながら、頭上と背後は人の死角にあたる。

しかも、いくら今現在のアキトの体重が軽く、木々を緩衝材に勢いを殺しているとは言え、『運動エネルギー』+『位置エネルギー』+『アキトの重量』+『死角』からの『アタック』を受けたギールが、いくら『上級冒険者』相当の『実力』を誇っていても、受け止められる筈もない。


「ギャアァァァァッ!?」

「あれっ!?ヤベッ、こんな所に人がいるなんてっ!!もしも~し、大丈夫ですか~!!??」


王都『ヘドス』の『裏社会』でその名が知られ、恐れられているギールも、アキトの前では形無しである。

予想外の方向から、予想外の衝撃を受け、即座に意識を失うギール。

下手すれば死んでもおかしくなかったのだが、そこは腐っても『掃除人ワーカー』の中でもトップクラスの『実力』を誇るギールである。

軽く見積もっても全治一ヶ月のダメージを受けていたが、どうにか一命は取り止めていた。


「ああ、良かったっ!息はしているみたいだ。すぐに“介抱”しますねっ!!・・・ん?何だこれ?」


まさか着地地点に人がいると思わなかったアキトは、慌てて“応急救護”を施していた。

気道確保、意識の有無、呼吸の有無を確認する過程で、アキトはギールの懐からこぼれ落ちた書状を見付けていた。

他人の『プライバシー』を侵害するのはアレだが、本人に意識がないので、所持品から『身元確認』するのは、緊急時ならよくある話である。


「アキト・ストレリチアの名において命ずる。

水と原子の精霊よ。

古の盟約に基づき、彼の者の傷を癒せ。

『ヒール』!」


ギールの呼吸を確認し、アキトはとりあえず『回復魔法』を使い、彼の意識が戻るまでにその書状を確認する事にした。


「すいませんね~っと。っ、これはっ!?」


それは言うまでもなく『脅迫状』であった。

アキト達以外の者達は『通信石つうしんせき』を所持していない。

となれば、当然『情報』は“直”にやり取りするか、『早馬』を走らせるか、『伝承鳩』を使うかくらいしか選択肢はない。

つまり、こうして“確保”してしまったギールが『メッセンジャー』役の『掃除人ワーカー』の一人なのだとアキトは察した。


「運のない人だなぁ~。」


そうと分かれば、ギールを逃す訳にはいかない。

まぁ、もっとも、ギールは傷は癒えたが、今だに意識は戻っていないが。

とりあえず、ここに放置する訳にもいかないので、『シュプール』に連行する事とした。


「アキトッ~!」

主様あるじさまっ~!」

「ダーリンッ~!」

「おや、皆で探しに来てくれたのかな?」


アイシャ達の声を聞いて、アキトは何の気なしにギールを担いで、急ぎ足でその声に応えた。


「お~いっ、こっちだよ~!うおぅっ!?」

「ブフゥゥゥゥッ!?」


ビターンッ!

と、ギールは『領域干渉』の『壁』に強かにぶつかった。

折角『回復魔法』で癒したギールを、再び“事故”で傷付けてしまったアキトは、流石に悪い気持ちになった。


「ああっ、『領域干渉』の事忘れてたっ!す、すいませ~ん・・・。」


白目を通り越して“死相”すら出ていたギールに、アキトは再び『回復魔法』を施すのだったーーー。



◇◆◇



「あっはっはっはっ!流石だよっ!|ギールも災難だけど、ま、自業自得だよねぇ~。」


ニコラウスの『拠点』にて、『神の眼』を眺めなからヴァニタスは腹を抱えて笑っていた。

一方のニコラウスは、冗談の様なでギールを捕らえてしまったアキトにうすら寒いモノを感じていた。

ジュリアンの件も、アキトが贈っていた『アイテム』が、歪められた『事象』を“修正”してしまったし、今回の件も、アキトを『罠』に嵌めて危害を加えようとしたギール達の目論見を事前にツブしてしまった。

実は、フロレンツもニルも、アキトのこの『事象起点フラグメイカー』の『影響』を受けていた。

そうでなければ、事前に『下調べ』をしたのならともかく、調べに入った先で『エルフ族アルマ達』を発見する事など出来ないし、そのタイミングで『失われし神器ロストテクノロジー』が強奪される“イベント”に遭遇する事などありえない。

大変残念な事に、『地球』でもこの世界アクエラでも、『権力者』や『無法者』が幅を利かせる事は良くある事だ。

弱肉強食が自然界の掟とは言え、そうした事で割を食うのはいつも女性や子供の様な弱者である。

しかし、現実的には『勧善懲悪』や『因果応報』・『自業自得』などの様には、そうそう都合良くはいかないモノだ。

それ故に、悪党や外道を世にのさばらせておく事態になるのだが、事これがアキトが関わると事情は一変する。

アキトも、『前世』も含めて精神年齢的には40オーバーのおっさんなので、今さら自分が絶対的な『正義』などとは思っていないし、世の中は“理不尽“な事が溢れかえっている事を理解している。

しかし、一方で一般的な『倫理観』や『道徳心』などは多少なりとも持っているので、自分の出来る範囲、手の届く範囲なら、救いの手を差し伸べる事もやぶさかではない。

まぁ、それが『事象起点フラグメイカー』の『影響』でアキト本人も予想外の事態になる事もままあるし、アキトに『敵対』する者にとったら『悪夢』の様な事態ともなるのだが・・・。


「・・・怖い?」

「ひっ!?」


冷や汗を流しながら固まるニコラウスに、ヴァニタスは冷徹な笑みを浮かべながら聞いた。


「アハハハッ、安心してよ。僕はに来ただけだから、ニコラウスくんに危害を加えるつもりはないよ?ただ、君はすでににちょっかいかけちゃったから、どんな“しっぺ返し”があるかも分かんないし、それを助ける義理は僕にはないからねぇ~。」


他人ひとの『人生』を散々ひっかき回してきたニコラウスだが、その『ツケ』が今回は本人に還ってきただけの事。

今見た様に、自分にもこの“理不尽”なで自滅・破滅させられるのではとニコラウスは、戦々恐々としていたのだった。


「おや?ちょっと気を失ってしまうなんて、『トリックスター』や『扇動者アジテーター』を名乗るわりには情けないなぁ~。まっ、いっか。じゃあ、その“役割”は僕が変わってあげるよっ!流石ににちょっかいかけるのは僕でも危ないけど、『試練』を用意しとけば、『英雄の因子『彼』』の『覚醒』も促せるだろうし、『彼』が目覚めれば『お母様』もお喜びになるだろうし。」


『魔眼』やら『催眠術』を使い、策を労して立ち回るニコラウスは、元々はただの『小心者』である。

それ故、今までは安全圏からの『高みの見物』を決め込んでいた自分が、まさか『当事者』になる事を予想もしていなかったのだ。

『魔眼』を『フルパワー』で使った『影響』もあるが、その極度の緊張感から、ニコラウスは意識を失ってしまい、残されたヴァニタスはブツブツと呟いていた。


「おっと、その前に・・・。君には過ぎた『力』だから、『魔眼』と『神の眼』はしてくねぇ~。うんうん、僕ったら優しいなぁ~!ちゃんと、自分の『力』で乗り越えないと、君のためにならないからねぇ~。」


そう言って、ヴァニタスはニコラウスに取っての『生命線』とも言える『魔眼』を、『神の眼』をして、来た時と同じ様に、に溶けていった。


「じゃあねぇ~。いやぁ~、これは良い“拾い物”したかも。『神の眼これ』があればに張り付いてなくてもいつでも様子が眺められるし、に感謝かもっ!よ~し、これからは『トリックスター』として頑張るぞぉ~!アハハハッ!」


こうして、謎の少年・ヴァニタスは、誰にも気取られる事なく、闇から闇へと消えて行ったのだったーーー。



◇◆◇



「いやいや、皆ご苦労様。どうやら『掃除人ワーカー』チームは全員“確保”出来たみたいだねぇ~。」

「・・・はぁ。」

「・・・まぁ。」

「・・・そいつは良いけど、なんでソイツ埋められてんの、あるじさん?」


掃除人ワーカー』チームの襲撃から一夜明けて、ハンス・ジーク・ユストゥスは、それぞれ『掃除人ワーカー』達を連行して『シュプール』に戻って来た。

『ルダの街』にある『リベラシオン同盟』の本部兼施設には、“投獄”しておく様な設備はないし、それは『シュプール』も同じ事だが、こうして『掃除人ワーカー』チームを集めて、まとめて中央都市『ルベルジュ』にある『ノヴェール家本邸』に連行する為である。

しかし、ハンス達はギールの状況を見て呆れた様に僕を見ていた。

結構良い案だと思うのだが・・・。


「いやぁ~、こうして置けば滅多な事では逃げられないだろ?『シュプール』には入れなかったからねぇ~。縛り上げて木に吊るして置いても良かったんだけど、それだと『モンスター』や『魔獣』に食べられちゃうかもしれないし、かと言って一晩中見張るのも面倒だしねぇ。」


いくら『ステイタス』由来の身体能力があるとは言え、土砂の『重量』を排除するにはそれなりに大変だし、そもそもギールは謎のでそれどころではないだろう。

いや、見た目の傷は癒してあるし、『栄養補給』はしてあるし、死にはしないだろうけど。

こちらも、実害があった訳でもないが、一応命を狙われた身なので、所謂『犯罪者』にかける慈悲はない。

まぁ、(こちらの都合だが)今すぐ殺されないだけありがたく思ってほしいモノだ。

僕はともかく、ティーネは僕の害となる者には容赦ないからなぁ~。


「まぁ、主様あるじさまだしなー。」

「けど、そっちの方が酷いのでは?」

「軽く拷問みたくなってっからなぁ・・・。」


何か変な納得のされ方をした気がするが、まぁ、言わんとする事は分かる。

所謂“一流”の『殺し屋』と呼ばれるだろう『掃除人ワーカー』としては情けない末路であり、そのプライドもズタズタだろう。

面白がってアランとエリーに木の枝でツンツンされるし、リサさんからは同情されるし、ティーネからは尋常じゃない『殺気』を向けられるし・・・。

とは言え、『自業自得』なので、これまでの自分達の行いを恨んで欲しいモノである。

まぁ、『掃除人ワーカー』達の事は、正直どうでもいい。

捕まえさえすれば、僕らとしては後は『ノヴェール家』に引き渡せばそれまでの付き合いだし・・・。

そんな事より、僕としては気になる事があった。


「あ~、それよりそちらのは・・・?」

「いや、その・・・。」

「なんか、着いてきちゃって・・・。」

「ハンスもジークも何してたんだか・・・。」

「誤解だっ、ユストゥスッ!僕は(ちょっと失敗しそうだったけど)ちゃんと『任務』をこなしていたぞっ!?」

「私だってそうだっ!ちゃんとこうして連行して来ているだろうっ!?主様あるじさま、遊んでたワケじゃありませんからっ!」

「いや、それは分かるんだけど、なんで御一緒しているかの“説明”が欲しいんだけど・・・。」


ハンス達は、『掃除人ワーカー』達と共に、この間助けた『人間族』の女性二人を伴って来たのだ。

顔には見覚えがあるが、そういえば僕はお二人の名前を知らないや。


「突然押し掛けて申し訳ありません、『若き英雄』様。私の名前はリオネリア。この間は、助けて頂いてありがとうございました。」

「こ、こんにちは。私はフィオレッタと申します。そ、そのありがとうございました。」

「あ、はい。僕はアキト・ストレリチアと申します。その、わざわざお礼を言う為にここまで?」

「いえ、この度、一度ならずも二度までも助けて頂いたハンス様に御奉公する為にこちらに来た次第で・・・。」


リオネリアさんとフィオレッタさんのお話を要約すると、今回の『掃除人ワーカー』チーム襲撃に巻き込まれてしまったお二人は、ハンスとジークに助けられたそうな。

その事に恩義を感じたお二人は、少しでも力になれる事があるならと、ダールトンさん達に掛け合い、『シュプール』行きを熱望して今に至るらしい。

ま、本人達が望んでるなら僕の口出しする事じゃない。

それに、『解放』した人達が『リベラシオン同盟』の『協力者』になるのは今回が初めての事でもないし・・・。

まぁ、もっとも、『シュプール』にまで押し掛けた人達はいなかったけどね。

おそらく、僕の勘では“ただの恩義”だけじゃないと思う。


「そうですか・・・、分かりました。確かに僕らも『シュプール』を空ける事も多くなりましたから、留守を任せられる人がいてくれると安心ですし、歓迎しますよ。」

「はいっ、よろしくお願いいたします、アキト様っ!」

「よろしくお願いします、アキト様っ!」

「はい、改めてよろしくお願いします。それと、僕の事はアキトでいいですから・・・。」

「「それはいけません。ハンス様(ジーク様)があるじと戴いている方を呼び捨てなど出来ませんっ!!」」

「は、はぁ・・・。」

「ホント、お前ら何したの・・・?」

「いやぁ~?」

「ただ助けただけだけど、ねぇ~?」


この無自覚イケメン共、どーしたモンかね?

どう見ても君らを慕って着いて来たと思うんだけど。

この分だと、そう言うユストゥスもどこかで『フラグ』を立ててる様に感じるなぁ~。


「あれぇ~、リオネリアさんとフィオレッタちゃんだ~!」

「どうしてお二方がこちらに?」

「・・・ダーリン、また何かした?」

「・・・またって何が?」

「おや、賑やかだねぇ~。」

「何だか、男子の比率がどんどん低くなってくなぁ~。」

「こんにちは。アラン、八才です。」

「こんにちは。エレオノール、四才です。」

「何だか知らない内に人が多くなって来ましたわねぇ~。」


とまぁ、こうして新たな仲間も増えて益々『シュプール』は賑やかになって行くのだった。


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