第52話 『改革』のススメ



◇◆◇



「この度は、御迷惑をお掛けして申し訳ありませんでしたっ!!」


開口一番、僕は金髪イケメンに頭を下げられていた。

流石に“ジャパニーズ土下座”では無かったが、相手が相手なだけに、僕も驚きを隠せなかったーーー。



掃除人ワーカー』チーム・『ノクティス・フィーリウス』を首尾よく捕らえた僕らは、『リベラシオン同盟』を代表し、僕、アイシャさん、ティーネ、ハンス、ジーク、ユストゥスの6人で『トラクス領』の中央都市・『ルベルジュ』にある『ノヴェール家本邸』を訪れていた。

ノクティスフィーリウス』の身柄を引き渡す為だが、開門と同時に『ノクティスフィーリウス』は『ノヴェール家』の家人や『私兵』の方達に連れて行かれる。

まぁ、これから『掃除人ワーカー』達の内部事情を尋問するのか、はたまた『リベラシオン同盟僕達』と『ノヴェール家』の面談が終わり次第『処刑』するのかは知らないが、いずれにせよ『ノクティスフィーリウス』の命運はこれで終わりと言う訳である。

意外とアッサリしていると思われるだろうが、現実的にはこんなモノだ。

世間で話題となった『大人物』だろうと『大悪党』だろうと、死ぬ時は死ぬし、捕まる時は捕まる。

諸行無常は世の常なので、その事を忘れると僕もと肝に命じておこう。


「覚えてやがれ、『リベラシオン同盟アキト・ストレリチア』ッ!必ず復讐してやるっ!」


だと言うのに、『ノクティスフィーリウス』は今だにその『現実』が見えていない様だ。

いや、の機会なんて、もう永遠に来ないんだけど・・・。

バカなの?死ぬの?

僕、アイシャさん、ハンス達男組は、その往生際の悪い“捨て台詞”に呆れた表情をしたのだが、ティーネは真面目故に、それを真に受けて、容赦のない『殺気』を向けた。

・・・ふえぇ、怖いよぅ~。


「おい、下郎共、覚えておけ。貴様らにの機会など永遠にないが、万が一主様あるじさまの前に再び現れる様な事があれば、私は容赦なく貴様らを抹殺する。今、命があるのは、主様あるじさまの『お情け』だと言う事を忘れるな。」


僕とハンス達男組はガクブルしながらアイシャさんの影に隠れ、そんなではない『ノクティスフィーリウス』は『殺気』をモロに受けて情けなく失禁していた。

いや、まだ意識が“こちら側”にあるだけ大したモノか?

その余波を受けた『ノヴェール家』の家人や『私兵』の方達でさえ、中には腰を抜かす人達もいたので、見兼ねたアイシャさんがティーネを落ち着かせる。


「ま、まあまあ落ち着いて、ティーネ。の戯れ言だから真に受けないで。皆の迷惑になるしさぁ~。」

「そ、そうそう。僕の事を心配してくれるのはありがたいんだけど、もう終わった話だからっ!後は、『ノヴェール家』の皆さんにお任せすればもう大丈夫だからっ!ですよね、皆さんっ!?」


自己保身だと笑わば笑えっ!

しかし、僕も自分の身はかわいい。

水を向けられた『ノヴェール家』の方達も、首が取れるのではないかと思うほど、コクコクと縦に振っている。

万一『ノクティスフィーリウス』を取り逃がす事でもあったら、あの『殺気』が今度は自分達に向けられる。

それを本能的に察したのだろう。

これが、『ノクティスフィーリウス』に向けた『警告』であると同時に、『ノヴェール家』に対する『メッセージ』である、なんて“裏”が真面目系天然であるティーネにある訳もないが、結果的にそんな感じになってしまった。


「す、すいません、主様あるじさま、アイシャ殿。『ノヴェール家』の皆さんも・・・。」


圧倒的強者S級冒険者クラスからの『殺気』を受け放心した『ノクティスフィーリウス』を、『ノヴェール家』の方達はいそいそと引き摺って行った。

ノクティスフィーリウス』が見えなくなってから、ようやく『殺気』を四散させて、ティーネは皆に謝罪した。

とは言え、『武力』による『抑止力』も時には必要だ。

不良のケンカじゃないが、“ナメられる”と僕らはまだ良いが、僕らの周辺にも迷惑が掛かる訳だからなぁ~。

今回も、その事でレイナード達にも迷惑を掛けたし、僕としてはそういうのはどちらかと言うと苦手な分野だが、ティーネだけを矢面に立たせるのは、彼女の仲間としては恥ずかしい事だろう。


「いいさ。ティーネの対応は別に間違ってはいない。ただ、何度も言うが、『高レベル者』の『殺気』は一般の人達には『恐怖』でしかないから、そこは気を付けよう。『ノヴェール家』の皆さんも、すいませんでした。」

「いえ、アキト殿。今回の件は我々の落ち度ですからな。お叱りを受けるのはもっともな事です。『リベラシオン同盟あなた方』は今回は穏便に済ませて下さいましたが、再び同じ事があれば、『ノヴェール我々』は『リベラシオン同盟あなた方』に可能性がある。その事を肝に命じておきましょう。」


まぁ、本来は今回の件だけで普通はアウトだからねー。

とは言え、なぜこうなったのかの『原因』が分からない内から判断するのは時期尚早だ。

単純なジュリアンさんの『暴走』と言う線も捨てきれないが、『第三者』が裏で手を引いてる可能性もあるし。


「それでは皆様こちらに。ガスパール様とオレリーヌ様、それにジュリアン様がお待ちです。」

「はい。」


流石に『ノクティスフィーリウス』を引き渡して、はいおしまいとはいかない。

先程言及した報告やら、謝罪やらがあるのだろう。

それに関しては、僕にも『プラン』があるので、まぁ、何とかなるだろう。

本来なら『政治的』な事は、正直面倒だからダールトンさん達に丸投げしたいのだが、ダールトンさんもドロテオさんも重要ポストの長なので、色々と都合もあるしねぇ~。

まぁ、そうした意味では僕らは動かしやすいのだろう。

先導するフェルマンさんを追いかけて、僕らは例の『応接室』に通された。

で、話は冒頭に戻る訳だが・・・。



「私からも『リベラシオン同盟』に謝罪させてほしい。ジュリアンを止められなかったのは『ノヴェール家我々』の失態だ。申し訳なかった。」

「申し訳ありませんでした。」


ジュリアンさんに追従して、ガスパールさんとオレリーヌさんも頭を下げた。

僕の勝手な『イメージ』で、『貴族』の方々が簡単に頭を下げるとは思ってなかったので、僕も慌ててしまった。

しかし、よく考えてみれば、『前世』でも何かしらの『スキャンダル』があれば、偉い人達も『謝罪会見』を開いていた訳だし、それはこの世界アクエラでも変わらないのかもしれない。

致命的な『ダメージ』になる前に対策を打つのはごく当たり前の話だもんなぁ。


「頭を上げてください、ジュリアン様、ガスパール様、オレリーヌ様。ロマリア王国この国。そういう『筋書き』にしませんか?」

「ほう・・・?」

「アキト殿・・・?」

「それは、どういう・・・?」

「まぁ、とりあえず落ち着いてお話をしましょうか、ガスパール様、オレリーヌ様、ジュリアン様。」


僕の言葉を切っ掛けに、フェルマンさんや侍従の皆さんが動き出し、ガスパールさん達や僕らにも着席を促してきた。

その後、ティーネが僕と同席する事を渋る場面もあったのだが、ここは僕らの『ホーム』ではないので自重して貰った。

ティーネを除くハンス達は、僕が『主従関係そういう事』が苦手な事を既に理解しているので、必要以上に気を使わないのだが、ティーネだけは今だに慣れない様子である。

僕は、どこぞの『社長さん』でも、『一国一城の主』でもないのだから、そんなに気を使わんでも良いのだが・・・。

侍従の皆さんがテーブルに飲み物を用意して、後ろに下がったタイミングで僕は口を開いた。


「お話を始める前に、ジュリアン様とは初めてお会いしますし、ガスパール様もオレリーヌ様も知らない顔があるかと存じますので、先にご紹介させて頂きます。まずは僕から、アキト・ストレリチアと申します。僭越ながら『リベラシオン同盟』・『実行部隊』の『リーダー』を賜っております。以後お見知りおきを。」


言って、一礼する。


「続きまして、『実行部隊』の『メンバー』、『鬼人族』のアイシャ・ノーレン・アスラです。」

「初めまして。『アスラ族』族長・ローマンの子、アイシャ・ノーレン・アスラと申します。」

「続きまして、『実行部隊』の『メンバー』、『エルフ族』のエルネスティーネ・ナート・ブーケネイアです。」

「お初にお目に掛かります。エルネスティーネ・ナート・ブーケネイアと申します。」

「続きまして、『実行部隊』の『メンバー』、『エルフ族』のハンスフォード・ナート・ダルケニアです。」

「ハンスフォード・ナート・ダルケニアです。」

「続きまして、『実行部隊』の『メンバー』、『エルフ族』のジークハルト・ナート・フィルメールです。」

「ジークハルト・ナート・フィルメールです。」

「最後に、『実行部隊』の『メンバー』、『エルフ族』のユストゥス・ナート・アングラニウスです。」

「ユストゥス・ナート・アングラニウスです。」


次々と一礼するアイシャさん達。

こちらの挨拶が済んだので、流れでガスパールさん達も返礼してくれた。


「お初にお目に掛かる。『トラクス領』の『領主代行』、ガスパール・フォン・ノヴェールです。」

「初めまして、皆さん。オレリーヌ・フォン・ノヴェール=ヴィルジュです。」

「お初にお目に掛かります。『ノヴェール家』の『当主代行』、ジュリアン・フォン・ノヴェールです。」


僕らと違って、ガスパールさん達は『貴族』らしく、優雅な所作で挨拶をする。

やはり、育ちが違うなぁ~。

しみじみ思いながらも、ガスパールさんが口火を切った。


「それでアキト殿。先程の話だが・・・。」

「ええ、ご説明します。しかし、その前に今回の件の詳細をお聞かせ下さい。先程のジュリアン様のご様子から、伺っていたお話との齟齬が御座いますから。」

「承知した。ライル。」


打てば響く様にガスパールさんは、一人の従者に合図した。

これまた中々のイケメンだなぁ~。

僕が今まで会ってきた高貴な人達は、(性格はともかく)美男美女が多い。

まぁ、でもウチのハンス達の方がイケメン度は上だけどねっ!

・・・親バカみたいで格好悪いから止めておこう。


「ハッ!お初にお目掛かります、アキト様、『リベラシオン同盟』の皆様。ジュリアン様の筆頭執事のライル・モンブソンと申します。僭越ながら、私から今回の件の詳細をご説明させて頂きます。」

「よろしくお願いします、ライルさん。」


こうして、僕らは今回の件の詳細を知る事となった。



「ふむ、『ライアド教』の関与の可能性があるのですか・・・。」

「・・・我々が言うのも何ですが、こんな曖昧なご説明でご納得頂けるのですか?」


まぁ、確かに「“誰か”に唆されたのですが、それが“誰か”は覚えていない」などとは、なら『言い訳』にもならないと一蹴する所だが、これが事『ライアド教』が関与している可能性が浮上すると、事情は変わってくる。

僕の見た限りだと、ジュリアンさんも『暴走』するほど愚かな人物には見えないし、『ハイドラス派』が何らかの『手段』を講じて『ノヴェール家』と『リベラシオン同盟』の仲を悪化させようとした『陰謀論』が一番しっくりくる様に思う。

騙したり誤魔化したりするなら、もっと尤もらしい『理由』をでっち上げてくるだろうし・・・。

まぁ、もっとも、ガスパールさんとオレリーヌさんがそんな愚かな選択肢を取る筈もないが。


「ええ、むしろそちらの方が真実味がありますよ。極少数の家人の方だけがうっすらと覚えていたと言う事も含めてね。皆さんには馴染みのない『言葉』かもしれませんが、『集団催眠』を仕掛けられていた可能性が高くなりました。」

「「「「『集団催眠』?」」」」

「ええ。実を申しますと、“人を操る術”には僕も心当たりがありますし、僕もその心得があります。『幻術系魔法』と言うのですが、とは言え、これはそこまで強力な代物ではありませんが・・・。他の可能性としては、未知の『能力』、『失われし神器ロストテクノロジー』、『隷属の首輪』の様な『魔道具マジックアイテム』などが考えられますし、いずれにせよ全く荒唐無稽な話とも僕には思えませんね・・・。」


本来の『催眠術』や『洗脳』には、これほどまでに強力な『強制力』があるとも思えないが、『失われし神器ロストテクノロジー』や『隷属の首輪』の驚異的な力を知る僕としては、今回の件の裏にそうした存在があったとしても納得がいく。

アルメリア様の見解でも、今現在の『ハイドラス派』には僕を含めた仲間達に“真っ向”から挑む『武力』が無いとの事なので、それならば逆に『搦め手』を使ってくるのは想像に難くない。


「ならばこそ、先程の僕の『筋書きプラン』で事を収めた方が都合が良さそうですね・・・。」

「ふむ。私には何となくアキト殿の考えが分かったが、理由を聞かせて貰っても?」

「ええ、勿論です。」



◇◆◇



母上の仰った通り、英雄アキト殿は非常に若く、失礼を承知で申し上げれば幼い少年だったが、私が見て来たどの人物よりも神秘的で美しい容姿をしていた。

お連れの仲間達も、他種族である事を抜きにしても、人間族とは一線を画した美しく気高い雰囲気を漂わせている。

この方達を前に、圧倒されないのなら、それはその人の見るが曇っているのだと言う母上の発言には私も納得がいった。


「私からも『リベラシオン同盟』に謝罪させてほしい。ジュリアンを止められなかったのは『ノヴェール家我々』の失態だ。申し訳なかった。」

「申し訳ありませんでした。」

「頭を上げてください、ジュリアン様、ガスパール様、オレリーヌ様。ロマリア王国この国。そういう『筋書き』にしませんか?」


私の為にガスパール様と母上にまで頭を下げさせたのは非常に心苦しいが、この件はノヴェール家全体に関わる話になる可能性がある。

今回の件で私が犯した罪は重い。

よく覚えていないが、“誰か”にとは言え、実際にリベラシオン同盟彼らに危害を加えようと指示を出したのは私だ。

こんな事で許されるとは思っていないが、私にはリベラシオン同盟彼らに誠心誠意謝罪をする事しか出来なかった。

だと言うのに、英雄アキト殿はあっけらかんとそう言った。

どういう事か?

そう疑問に思っていると、話は進んでいった。

お互いの挨拶から始まり、ライルから今回の詳細を聞き、考え込む英雄アキト殿。

ライルも、私を公私共に支えてくれる部下であり、私としては頼りになる“兄上”の様に感じているが、そのライルをして英雄アキト殿の醸し出す雰囲気オーラには圧倒されている様子である。


「ふむ、『ライアド教』の関与の可能性があるのですか・・・。」

「・・・我々が言うのも何ですが、こんな曖昧なご説明でご納得頂けるのですか?」


私もライルも、母上からノヴェール家とリベラシオン同盟が協力関係を結ぶ事となった経緯は聞いている。

大変残念な事だし、私としてもショックが大きかったのが正直な所だが、明示された『証拠』の数々から、父上が『裏』で良からぬ行いをしていたのは覆し様の無い事実だと理解している。

もちろん、父上が遺した『功績』自体が無かった事になる訳でも無いが、だからと言って父上一人の為にノヴェール家全体を巻き込む訳にはいかない。

もしかしたら、父上にはそこまでの思惑が無かったかも知れないが、結果的にエルフ族とロマリア王国この国の戦争になっていたら、ノヴェール家の責任は免れないだろう。

知らぬ存ぜぬを貫き通せないだけの資料をリベラシオン同盟に握られているし、確かに見方を変えるとリベラシオン同盟がノヴェール家我々を脅して協力を迫った様にも見えるが、一方でノヴェール家我々をしてくれているとも捉える事が出来る。

リベラシオン同盟にも思惑があるのだろうが、エルフ族を抑え込んでいるのは事実なのだから。

実際英雄アキト殿の仲間にエルフ族がいらっしゃるのだから、これは疑い様が無い。

そして、ライアド教である。

宗教と言うのは、時に我々貴族以上に権力を持つ事があるので、その結果として暴走する事も、これは歴史的にも枚挙に暇がない。

だからと言って、ライアド教全体が悪い訳では無いが、結果としてノヴェール家がライアド教と距離を置いていたのは正しい判断だった様に思える。

リベラシオン同盟の主張だと、失われし神器ロストテクノロジー・召喚者の軍勢を用いて旧ルダ村のパンデミックモンスター災害に引き起こしたそうだし、これは私も報告を受けているが、自然発生的に1000が解き放たれる事は、専門家の見解としても通常ありえない事な様なので、これも事実なのだろう。

しかも、その後の“予測”が現実的で恐ろしい。

私も貴族の端くれとして、今現在のハレシオン大陸この大陸の平和が仮初めのモノである事は重々承知している。

もちろん、表立って争う事態にはなっていないが、元々主義主張が食い違っているからこそ別の組織となっている訳なので、水面下での謀略や計略があるのは無理からぬ事だ。

だが、それほどの脅威となる失われし神器ロストテクノロジーが、強国と名高いロンベリダム帝国に持ち込まれたとしたら、その仮初めの平和が崩れ去るのは時間の問題だろう。

政治の世界に身を置く者なら、かの帝国の皇帝が野心家である事は有名な話だ。

それも、その失われし神器ロストテクノロジーの話にも父上が一枚噛んでいるのだから、どちらにせよ、これをノヴェール家我々が知らずに放置していれば、御家取り潰しどころか、無能の謗りを受けるのは想像に難くない。

しかし、事前にそれを知り、名誉挽回の機会を得られた事はノヴェール家としては有り難い。

だと言うのに、私は・・・。


「ええ、むしろそちらの方が真実味がありますよ。極少数の家人の方だけがうっすらと覚えていたと言う事も含めてね。皆さんには馴染みのない『言葉』かもしれませんが、『集団催眠』を仕掛けられていた可能性が高くなりました。」

「「「「『集団催眠』?」」」」

「ええ。実を申しますと、“人を操る術”には僕も心当たりがありますし、僕もその心得があります。『幻術系魔法』と言うのですが、とは言え、これはそこまで強力な代物ではありませんが・・・。他の可能性としては、未知の『能力』、『失われし神器ロストテクノロジー』、『隷属の首輪』の様な『魔道具マジックアイテム』などが考えられますし、いずれにせよ全く荒唐無稽な話とも僕には思えませんね・・・。」


しかし、英雄アキト殿の意見は違う様だ。

我々貴族以上の、下手すれば魔術師ギルド以上の知識を有している故に、私が“誰か”に操られた事が現実的にありえると言ったのだ。


「ならばこそ、先程の僕の『筋書きプラン』で事を収めた方が都合が良さそうですね・・・。」

「ふむ。私には何となくアキト殿の考えが分かったが、理由を聞かせて貰っても?」

「ええ、勿論です。」


流石はガスパール様だ。

私は、まだいまいち英雄アキト殿が何を仰りたいのかが分からないが、既に察していらっしゃる様だ。

母上の落ち着いた様子から、母上も英雄アキト殿がノヴェール家我々の責任を追求しない事を確信していたのだろうか?

いや、そう言えば王都でもそんな事を仰っていたな。


「今回の件は、『ライアド教』、もっと言ってしまえば『ハイドラス派』が『リベラシオン同盟僕達』と『ノヴェール家』の関係を悪化させる為に仕組んだ事だと思います。これはあくまで僕の推測ですが、『ノヴェール家』の方の“証言”もあるのでそう遠くないと思います。そして『ハイドラス派』が何らかの『手段』を講じてジュリアン様達を操り、『掃除人ワーカー』チームを『リベラシオン同盟僕達』に差し向けさせる事に成功。本来なら、この時点で両組織の関係悪化は免れません。『リベラシオン同盟僕達』としても『掃除人ワーカー』達を捕らえる過程で、死人こそ出しませんでしたが、負傷者や無関係な者達を巻き込んでしまいましたからね。『ハイドラス派』としては、どちらに転んでも『リベラシオン同盟僕達』への『妨害工作』は成功する、筈でした。しかし、『ハイドラス派』はミスを犯しましたね。僕が“人を操る術”に心当たりがある事です。ただ、これも確証が無かったのですが、『ノヴェール家』からの報告で、『証言者』がいる事により確信に変わりました。」


ふむ、英雄アキト殿の言葉によれば、最初から疑惑を持っていた様子だ。

後、負傷者を出した事や無関係な方達を巻き込んだのくだりの時に私が表情を曇らせた事を察してか、英雄アキト殿は手で制された。

「大丈夫。」

そう言っている様に、勝手ながら私は感じた。


「だとすると、ここで『リベラシオン同盟僕達』と『ノヴェール家』が対立する事はの思う壺ですが、かと言って、『リベラシオン同盟僕達』が『掃除人ワーカー』チームを『ノヴェール家』から差し向けられたのもまた事実。我々当事者同士が手打ちしても、いずれ『第三者』からそこを突かれる可能性もあります。ならば、この件自体を『利用』してやりましょう。」

「なるほど。それが、先程アキト殿が言った事だね?」

「そうです。大変残念な事ですが、『掃除人ワーカー』と言う“職業”がまかり通っている現状を鑑みれば、『ロマリア王国この国』の一部『特権階級』の方達の中には『既得権益』に固執する者達がいるのは疑い様がありません。まぁ、『国』でも『組織』でも、そうした“膿”が出来る事は仕方のない事ですが、とは言え、『自浄作用』が上手く機能しているとも思えません。そこで僕達は、その現状を憂い、と言う『シナリオ』にしてしまうのです。その事により、『掃除人ワーカー』を捕らえる事に成功し、彼らを尋問したと言う『事実』を全面に出す事により、そうした者達への牽制、『裏社会』に対する『圧力』になります。上手くすれば、『ノヴェール家』が民衆の味方である事、ひいては『ロマリア王家』に対する己の『有用性』をアピール出来ますし、『リベラシオン同盟僕達』としても、『動脈硬化』を起こしている『国』より、『循環』が上手く機能している『国』の方が、後ろ楯を得るとしても有り難いですからね。」

「「「「・・・。」」」」


・・・彼は本当に10歳の少年なんだろうか?

言うなれば、王家も我々貴族も手をこまねいていたロマリアの“改革”とも呼べるモノを、今回の件を逆手に取って行おうと言うのだ。

しかし、これは上手い手ではある。

そもそもの前提として、掃除人ワーカー達との接触は非常に困難を極めた。

これは、掃除人ワーカー達がロマリア王国この国の暗部を数多く目にしているので、掃除人ワーカー達自身が慎重である事もあるだろうが、一部貴族達からの圧力の比重も大きい様に感じる。

なぜならば、掃除人ワーカー達が捕らえられると、そうした者達の行いが白日の下に晒されるからだ。

だが、今回は私達が、ノヴェール家が本気でリベラシオン同盟を排除しようとしている様に見える。

それ故、掃除人ワーカー達もそのにいる者達もそれを疑わない。

なんせ、

しかし、ノヴェール家がリベラシオン同盟に掃除人ワーカー達を差し向けたのは、リベラシオン同盟を排除する為ではなく、リベラシオン同盟として、中々捕まえるに捕まえられない掃除人ワーカー達を捕らえる“作戦”の一貫であった様にしてしまおうと言うのだ。

事実として、確かには我々は掃除人ワーカー達を捕らえる事に成功し、彼らの口を割らせる事で、腐敗した貴族の情報を得られ、に対する牽制になり、


1.ロマリア王国この国は風通しが良くなる。

2.ノヴェール家は功績をアピールする機会を得られる。

3.リベラシオン同盟は停滞していた富が循環する事により、より国力の高いロマリア王国この国の後ろ楯を得られる。


と言う訳か。

ノヴェール家とリベラシオン同盟の関係悪化から一転して、とんでもない策略を思い付くモノだ。

母上の仰った通り、英雄アキト殿のその知性は、脱帽と言わざるを得ない。


「いかがですか?これなら、今回の一件は『リベラシオン同盟僕達』と『ノヴェール家』の“共同作戦”であったと説得力を持たせられますし、“共同作戦”なので『ノヴェール家あなた方』を罰する必要も無くなります。『既得権益』にすがり付く方々には申し訳ありませんが、民を蔑ろにする方々ですので、むしろ弱ってくれた方が僕としては有り難いですし、『ロマリア王国この国』にとっても、『リベラシオン同盟僕達』にとっても、『ノヴェール家あなた方』にとっても、悪くない話だと思いますが・・・?」


そう言葉を締めて、英雄アキト殿は静かに私達を見る。

すると、ガスパール様が可笑しそうに笑った。


「ワッハッハッハッ!いや、参ったよ。アキト殿は我々貴族以上の恐ろしい『策略家』だね。の『計略』をとんだ『茶番』にし、一方で『リベラシオン同盟』に取っても、『ノヴェール家我々』に取っても、『ロマリア王国この国』に取っても『損』の無いにしてしまうとは・・・。いやはや、もはや侮ってないつもりだったが、君は知れば知るほど底知れないモノを持っているなぁ~。」

「もちろん『ノヴェール家我々』としては、アキト殿の提案に反対する理由は御座いませんわ。ジュリアン。貴方はどうですか?」

「私としては言葉も御座いません。私の失態を帳消しにするどころか、汚名返上の機会まで得られるのですから。アキト殿には感謝しか御座いません。」

「いえ、ご提案を受けて頂けて良かったです。それに、これは『リベラシオン同盟僕達』としても『メリット』のある話ですからね。それと、『催眠術』や『洗脳』に対する対抗手段も考えませんとね。」


英雄アキト殿はもうすでにの展望まで考えていらっしゃる様子だ。

母上が仰った通り、英雄アキト殿に取ってはこの程度の事は難事にすらならないと言う事か。

私は密かに彼に対するを覚えていた。

お仲間の方々も同じなのだろうが、私は彼の放つ強力な『カリスマ性』に魅せられた様であるーーー。


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