第52話 『改革』のススメ
◇◆◇
「この度は、御迷惑をお掛けして申し訳ありませんでしたっ!!」
開口一番、僕は金髪イケメンに頭を下げられていた。
流石に“ジャパニーズ土下座”では無かったが、相手が相手なだけに、僕も驚きを隠せなかったーーー。
『
『
まぁ、これから『
意外とアッサリしていると思われるだろうが、現実的にはこんなモノだ。
世間で話題となった『大人物』だろうと『大悪党』だろうと、死ぬ時は死ぬし、捕まる時は捕まる。
諸行無常は世の常なので、その事を忘れると僕も
「覚えてやがれ、『
だと言うのに、『
いや、
バカなの?死ぬの?
僕、アイシャさん、
・・・ふえぇ、怖いよぅ~。
「おい、下郎共、覚えておけ。貴様らに
僕と
いや、まだ意識が“こちら側”にあるだけ大したモノか?
その余波を受けた『ノヴェール家』の家人や『私兵』の方達でさえ、中には腰を抜かす人達もいたので、見兼ねたアイシャさんがティーネを落ち着かせる。
「ま、まあまあ落ち着いて、ティーネ。
「そ、そうそう。僕の事を心配してくれるのはありがたいんだけど、もう終わった話だからっ!後は、『ノヴェール家』の皆さんにお任せすればもう大丈夫だからっ!ですよね、皆さんっ!?」
自己保身だと笑わば笑えっ!
しかし、僕も自分の身はかわいい。
水を向けられた『ノヴェール家』の方達も、首が取れるのではないかと思うほど、コクコクと縦に振っている。
万一『
それを本能的に察したのだろう。
これが、『
「す、すいません、
『
とは言え、『武力』による『抑止力』も時には必要だ。
不良のケンカじゃないが、“ナメられる”と僕らはまだ良いが、僕らの周辺にも迷惑が掛かる訳だからなぁ~。
今回も、その事でレイナード達にも迷惑を掛けたし、僕としてはそういうのはどちらかと言うと苦手な分野だが、ティーネだけを矢面に立たせるのは、彼女の仲間としては恥ずかしい事だろう。
「いいさ。ティーネの対応は別に間違ってはいない。ただ、何度も言うが、『高レベル者』の『殺気』は一般の人達には『恐怖』でしかないから、そこは気を付けよう。『ノヴェール家』の皆さんも、すいませんでした。」
「いえ、アキト殿。今回の件は我々の落ち度ですからな。お叱りを受けるのはもっともな事です。『
まぁ、本来は今回の件だけで普通はアウトだからねー。
とは言え、なぜこうなったのかの『原因』が分からない内から判断するのは時期尚早だ。
単純なジュリアンさんの『暴走』と言う線も捨てきれないが、『第三者』が裏で手を引いてる可能性もあるし。
「それでは皆様こちらに。ガスパール様とオレリーヌ様、それにジュリアン様がお待ちです。」
「はい。」
流石に『
先程言及した報告やら、謝罪やらがあるのだろう。
それに関しては、僕にも『
本来なら『政治的』な事は、正直面倒だからダールトンさん達に丸投げしたいのだが、ダールトンさんもドロテオさんも重要ポストの長なので、色々と都合もあるしねぇ~。
まぁ、そうした意味では僕らは動かしやすいのだろう。
先導するフェルマンさんを追いかけて、僕らは例の『応接室』に通された。
で、話は冒頭に戻る訳だが・・・。
「私からも『リベラシオン同盟』に謝罪させてほしい。ジュリアンを止められなかったのは『
「申し訳ありませんでした。」
ジュリアンさんに追従して、ガスパールさんとオレリーヌさんも頭を下げた。
僕の勝手な『イメージ』で、『貴族』の方々が簡単に頭を下げるとは思ってなかったので、僕も慌ててしまった。
しかし、よく考えてみれば、『前世』でも何かしらの『スキャンダル』があれば、偉い人達も『謝罪会見』を開いていた訳だし、それは
致命的な『ダメージ』になる前に対策を打つのはごく当たり前の話だもんなぁ。
「頭を上げてください、ジュリアン様、ガスパール様、オレリーヌ様。
「ほう・・・?」
「アキト殿・・・?」
「それは、どういう・・・?」
「まぁ、とりあえず落ち着いてお話をしましょうか、ガスパール様、オレリーヌ様、ジュリアン様。」
僕の言葉を切っ掛けに、フェルマンさんや侍従の皆さんが動き出し、ガスパールさん達や僕らにも着席を促してきた。
その後、ティーネが僕と同席する事を渋る場面もあったのだが、ここは僕らの『ホーム』ではないので自重して貰った。
ティーネを除くハンス達は、僕が『
僕は、どこぞの『社長さん』でも、『一国一城の主』でもないのだから、そんなに気を使わんでも良いのだが・・・。
侍従の皆さんがテーブルに飲み物を用意して、後ろに下がったタイミングで僕は口を開いた。
「お話を始める前に、ジュリアン様とは初めてお会いしますし、ガスパール様もオレリーヌ様も知らない顔があるかと存じますので、先にご紹介させて頂きます。まずは僕から、アキト・ストレリチアと申します。僭越ながら『リベラシオン同盟』・『実行部隊』の『リーダー』を賜っております。以後お見知りおきを。」
言って、一礼する。
「続きまして、『実行部隊』の『メンバー』、『鬼人族』のアイシャ・ノーレン・アスラです。」
「初めまして。『アスラ族』族長・ローマンの子、アイシャ・ノーレン・アスラと申します。」
「続きまして、『実行部隊』の『メンバー』、『エルフ族』のエルネスティーネ・ナート・ブーケネイアです。」
「お初にお目に掛かります。エルネスティーネ・ナート・ブーケネイアと申します。」
「続きまして、『実行部隊』の『メンバー』、『エルフ族』のハンスフォード・ナート・ダルケニアです。」
「ハンスフォード・ナート・ダルケニアです。」
「続きまして、『実行部隊』の『メンバー』、『エルフ族』のジークハルト・ナート・フィルメールです。」
「ジークハルト・ナート・フィルメールです。」
「最後に、『実行部隊』の『メンバー』、『エルフ族』のユストゥス・ナート・アングラニウスです。」
「ユストゥス・ナート・アングラニウスです。」
次々と一礼するアイシャさん達。
こちらの挨拶が済んだので、流れでガスパールさん達も返礼してくれた。
「お初にお目に掛かる。『トラクス領』の『領主代行』、ガスパール・フォン・ノヴェールです。」
「初めまして、皆さん。オレリーヌ・フォン・ノヴェール=ヴィルジュです。」
「お初にお目に掛かります。『ノヴェール家』の『当主代行』、ジュリアン・フォン・ノヴェールです。」
僕らと違って、ガスパールさん達は『貴族』らしく、優雅な所作で挨拶をする。
やはり、育ちが違うなぁ~。
しみじみ思いながらも、ガスパールさんが口火を切った。
「それでアキト殿。先程の話だが・・・。」
「ええ、ご説明します。しかし、その前に今回の件の詳細をお聞かせ下さい。先程のジュリアン様のご様子から、伺っていたお話との齟齬が御座いますから。」
「承知した。ライル。」
打てば響く様にガスパールさんは、一人の従者に合図した。
これまた中々のイケメンだなぁ~。
僕が今まで会ってきた高貴な人達は、(性格はともかく)美男美女が多い。
まぁ、でもウチのハンス達の方がイケメン度は上だけどねっ!
・・・親バカみたいで格好悪いから止めておこう。
「ハッ!お初にお目掛かります、アキト様、『リベラシオン同盟』の皆様。ジュリアン様の筆頭執事のライル・モンブソンと申します。僭越ながら、私から今回の件の詳細をご説明させて頂きます。」
「よろしくお願いします、ライルさん。」
こうして、僕らは今回の件の詳細を知る事となった。
「ふむ、『ライアド教』の関与の可能性があるのですか・・・。」
「・・・我々が言うのも何ですが、こんな曖昧なご説明でご納得頂けるのですか?」
まぁ、確かに「“誰か”に唆されたのですが、それが“誰か”は覚えていない」などとは、
僕の見た限りだと、ジュリアンさんも『暴走』するほど愚かな人物には見えないし、『ハイドラス派』が何らかの『手段』を講じて『ノヴェール家』と『リベラシオン同盟』の仲を悪化させようとした『陰謀論』が一番しっくりくる様に思う。
騙したり誤魔化したりするなら、もっと尤もらしい『理由』をでっち上げてくるだろうし・・・。
まぁ、もっとも、ガスパールさんとオレリーヌさんがそんな愚かな選択肢を取る筈もないが。
「ええ、むしろそちらの方が真実味がありますよ。極少数の家人の方だけがうっすらと覚えていたと言う事も含めてね。皆さんには馴染みのない『言葉』かもしれませんが、『集団催眠』を仕掛けられていた可能性が高くなりました。」
「「「「『集団催眠』?」」」」
「ええ。実を申しますと、“人を操る術”には僕も心当たりがありますし、僕もその心得があります。『幻術系魔法』と言うのですが、とは言え、これはそこまで強力な代物ではありませんが・・・。他の可能性としては、未知の『能力』、『
本来の『催眠術』や『洗脳』には、これほどまでに強力な『強制力』があるとも思えないが、『
アルメリア様の見解でも、今現在の『ハイドラス派』には僕を含めた仲間達に“真っ向”から挑む『武力』が無いとの事なので、それならば逆に『搦め手』を使ってくるのは想像に難くない。
「ならばこそ、先程の僕の『
「ふむ。私には何となくアキト殿の考えが分かったが、理由を聞かせて貰っても?」
「ええ、勿論です。」
◇◆◇
母上の仰った通り、
お連れの仲間達も、他種族である事を抜きにしても、人間族とは一線を画した美しく気高い雰囲気を漂わせている。
この方達を前に、圧倒されないのなら、それはその人の見る
「私からも『リベラシオン同盟』に謝罪させてほしい。ジュリアンを止められなかったのは『
「申し訳ありませんでした。」
「頭を上げてください、ジュリアン様、ガスパール様、オレリーヌ様。
私の為にガスパール様と母上にまで頭を下げさせたのは非常に心苦しいが、この件はノヴェール家全体に関わる話になる可能性がある。
今回の件で私が犯した罪は重い。
よく覚えていないが、“誰か”に
こんな事で許されるとは思っていないが、私には
だと言うのに、
どういう事か?
そう疑問に思っていると、話は進んでいった。
お互いの挨拶から始まり、ライルから今回の詳細を聞き、考え込む
ライルも、私を公私共に支えてくれる部下であり、私としては頼りになる“兄上”の様に感じているが、そのライルをして
「ふむ、『ライアド教』の関与の可能性があるのですか・・・。」
「・・・我々が言うのも何ですが、こんな曖昧なご説明でご納得頂けるのですか?」
私もライルも、母上からノヴェール家とリベラシオン同盟が協力関係を結ぶ事となった経緯は聞いている。
大変残念な事だし、私としてもショックが大きかったのが正直な所だが、明示された『証拠』の数々から、父上が『裏』で良からぬ行いをしていたのは覆し様の無い事実だと理解している。
もちろん、父上が遺した『功績』自体が無かった事になる訳でも無いが、だからと言って父上一人の為にノヴェール家全体を巻き込む訳にはいかない。
もしかしたら、父上にはそこまでの思惑が無かったかも知れないが、結果的にエルフ族と
知らぬ存ぜぬを貫き通せないだけの資料をリベラシオン同盟に握られているし、確かに見方を変えるとリベラシオン同盟が
リベラシオン同盟にも思惑があるのだろうが、エルフ族を抑え込んでいるのは事実なのだから。
実際
そして、ライアド教である。
宗教と言うのは、時に我々貴族以上に権力を持つ事があるので、その結果として暴走する事も、これは歴史的にも枚挙に暇がない。
だからと言って、ライアド教全体が悪い訳では無いが、結果としてノヴェール家がライアド教と距離を置いていたのは正しい判断だった様に思える。
リベラシオン同盟の主張だと、
しかも、その後の“予測”が現実的で恐ろしい。
私も貴族の端くれとして、今現在の
もちろん、表立って争う事態にはなっていないが、元々主義主張が食い違っているからこそ別の
だが、それほどの脅威となる
政治の世界に身を置く者なら、かの帝国の皇帝が野心家である事は有名な話だ。
それも、その
しかし、事前にそれを知り、名誉挽回の機会を得られた事はノヴェール家としては有り難い。
だと言うのに、私は・・・。
「ええ、むしろそちらの方が真実味がありますよ。極少数の家人の方だけがうっすらと覚えていたと言う事も含めてね。皆さんには馴染みのない『言葉』かもしれませんが、『集団催眠』を仕掛けられていた可能性が高くなりました。」
「「「「『集団催眠』?」」」」
「ええ。実を申しますと、“人を操る術”には僕も心当たりがありますし、僕もその心得があります。『幻術系魔法』と言うのですが、とは言え、これはそこまで強力な代物ではありませんが・・・。他の可能性としては、未知の『能力』、『
しかし、
我々貴族以上の、下手すれば魔術師ギルド以上の知識を有している故に、私が“誰か”に操られた事が現実的にありえると言ったのだ。
「ならばこそ、先程の僕の『
「ふむ。私には何となくアキト殿の考えが分かったが、理由を聞かせて貰っても?」
「ええ、勿論です。」
流石はガスパール様だ。
私は、まだいまいち
母上の落ち着いた様子から、母上も
いや、そう言えば王都でもそんな事を仰っていたな。
「今回の件は、『ライアド教』、もっと言ってしまえば『ハイドラス派』が『
ふむ、
後、負傷者を出した事や無関係な方達を巻き込んだの
「大丈夫。」
そう言っている様に、勝手ながら私は感じた。
「だとすると、ここで『
「なるほど。それが、先程アキト殿が言った事だね?」
「そうです。大変残念な事ですが、『
「「「「・・・。」」」」
・・・彼は本当に10歳の少年なんだろうか?
言うなれば、王家も我々貴族も手をこまねいていたロマリアの“改革”とも呼べるモノを、今回の件を逆手に取って行おうと言うのだ。
しかし、これは上手い手ではある。
そもそもの前提として、
これは、
なぜならば、
だが、今回は私達が
それ故、
なんせ、
しかし、ノヴェール家がリベラシオン同盟に
事実として、確かには我々は
1.
2.ノヴェール家は功績をアピールする機会を得られる。
3.リベラシオン同盟は停滞していた富が循環する事により、より国力の高い
と言う訳か。
ノヴェール家とリベラシオン同盟の関係悪化から一転して、とんでもない策略を思い付くモノだ。
母上の仰った通り、
「いかがですか?これなら、今回の一件は『
そう言葉を締めて、
すると、ガスパール様が可笑しそうに笑った。
「ワッハッハッハッ!いや、参ったよ。アキト殿は我々貴族以上の恐ろしい『策略家』だね。
「もちろん『
「私としては言葉も御座いません。私の失態を帳消しにするどころか、汚名返上の機会まで得られるのですから。アキト殿には感謝しか御座いません。」
「いえ、ご提案を受けて頂けて良かったです。それに、これは『
母上が仰った通り、
私は密かに彼に対する
お仲間の方々も同じなのだろうが、私は彼の放つ強力な『カリスマ性』に魅せられた様であるーーー。
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