第18話 『英雄譚』の始まり



僕は、『ポイント』に『モンスター』達を『誘導』する事に成功していた。

振り返り、『成果』を確認すると、予想よりも多くの『モンスター』達が『枠内』に収まっている事が分かる。

これは非常に幸運ラッキーであった。

懐から、僕は『精霊石せいれいせき』を取り出す。


「『精霊石せいれいせき』よ。

繋がりし『龍脈の欠片』よ。

我に力を与えたまえ。

『結』っ!』


僕はアルメリア様直伝の『領域干渉』の簡易版、『結界術』を発動させた。

すると、『モンスター』達は、その『結界内』に閉じ込められる。

これで準備は整った。

僕は、『モンスター』達を一望出来る地点まで後退し、『結界内』の『フィールド効果』を『変質』させる。

そして、『魔法』を『発動』させるべく、『詠唱』を開始したのだった。



ここで、フロレンツ候の『屋敷』で行った細工の『ネタバレ』をしておこう。

『特定の条件下』で使用可能な、遠距離の人物の『索敵』、遠距離の人物の『意識誘導』、『索敵』した人物の『個人情報パーソナルパターン』のデータ記録。

この『特定の条件下』と言うのが、『精霊石せいれいせき』を『利用』した『結界術』の事である。

『バフ・デバフ』と言う言葉に聞き覚えがあるだろうか?

『ゲーム』をやり込んだ者なら知っているかもしれないが、簡単に言うと、『バフ』とは自分や味方に取って有利な状況にする『術』や『魔法』や『スキル』などの総称の事である。

『攻撃力アップ』や『防御力アップ』がこれに当たる。

逆に、『デバフ』とは相手に取って不利な状況にする『術』や『魔法』や『スキル』などの事である。

『攻撃力ダウン』や『防御力ダウン』がこれに当たる。

実際は、もっと複雑だったり、味方敵問わずに『適用』される『効果』だったりするが、とりあえずはそう認識して貰えれば良い。

フロレンツ候の『屋敷』に潜入する前に、僕は『屋敷』を囲む様に『精霊石せいれいせき』を『設置』していたのだった。

これは、懸念材料だった『失われし神器ロストテクノロジー』や『魔道具マジックアイテム』を警戒しての『保険』で、任意に様々な『効果』を付随させる事が出来る為だ。

これにより、遠距離にいたニルの『索敵』をし、直接接触していなかったニルの『意識誘導』を行い、ニルの『個人情報パーソナルパターン』のデータ記録を可能にしたのだった。

ついでに、フロレンツ侯が『設置』していた『侵入者防止用の結界』の『効果』も上書きしていた様だが、それに関しては全くの偶然だし、そもそもあの程度の『結界』では『高レベル者』を阻むには『強度』が足りなかったが・・・。

『結界術』は、『この世界アクエラ』では『術者』が非常に少ない。

理由は様々あるが、一番大きいのは『結界術』に必要な『精霊石せいれいせき』がとても高価で希少な鉱石だからである。

精霊石せいれいせき』とは、『この世界アクエラ』の『龍脈』のみで採掘される鉱石である。

この『精霊石せいれいせき』の特性が、『魔素』を引き寄せる性質であった。

実は、それ単体では大した価値のある物ではない。

『魔法使い』は、自力で『魔素』を感知し、収束し、操作し、『魔法』を発動出来るからである。

この『収束』の部分を短縮出来ると言う意味では、無価値ではないのだが、集めた『魔素エネルギー』を全て使える訳でもない。

『魔法使い』には、『限界値リミット』が存在するからである。

限界値リミット』とは、『ステイタス』の『魔法習熟度』に当たり、その人物が一度に扱える『魔法』の『最大値』の事である。


(『この世界アクエラ』には、『魔力』とか『魔力保有量』と言う『概念』がない。

『魔法技術』はあくまで、『魔素』と言う外部の『エネルギー』を利用した『技術』なのだ。

例えば、一度に『10』の『魔法』を扱える人物が、『精霊石せいれいせき』を所持していたとしよう。

精霊石せいれいせき』は、一度に『100』の『魔素エネルギー』を集められる性能があったとしても、その人物は『10』しか扱えないので、残りの『90』は無駄になってしまう。

精霊石せいれいせき』にその残りの『魔素エネルギー』を蓄積・累積する性質があれば、残りの『90』を『貯金』として使えるが、残念ながらその様な性質はない。

『魔素』は時間経過と共に『自然』へと還ってしまうので、『精霊石せいれいせき』には、「魔法発動短縮以上の意味がない。」と一般的な『魔法使い』には認識されている。)


そうした訳で、『精霊石せいれいせき』は高価だが使い勝手の悪い『素材』として扱われていたのだった。

『地球』でもよくある話だが、『素材』はあっても、それを活かせる『技術』が追い付いて無い状況なのだ。

仮に『魔素』を『電池』の様に蓄える『技術』が開発されれば、また話は変わってくるが、前にも触れたが現在の『技術』では実用化には至っていない。

ここまでは、『魔法使い』としての話だが、『結界術師』としては、非常に重宝する物である。

一般的には、『結界術』とは『防御結界』を差す事が多い。

しかし、『結界術』の本質は『フィールド』を支配する事にある。 


(『線』を引くと言う行為は、最も簡単で単純な『結界術』の一種である。

『国境』などがそれに当たるが、当然ながら実際には『線』など引かれていない。

しかし、明確に『国境』の内側と外側では『ルール』が違う。

そう、『法律』である。

この世界アクエラ』の『結界術』は、『線』あるいは『境界』を定める事により、『線』の内側の『法律ルール』を掌握する事と言える。

当然ながら、『結界術』を施した者、『国境線』を引いた側が『法律ルール』を作れるので、(使い方次第だが)相手の優位に立つ事が出来るのだ。)


『加工』を施した『精霊石せいれいせき』を『設置』して、『線』を結ぶ事で、その『フィールド』を支配下に置く事が出来る。

前述の通り、『精霊石せいれいせき』には『魔素』を引き寄せる性質がある。

フィールド』を形勢する『魔素エネルギー』を自力で補ってくれるのだ。

さらに、その『フィールド』の『効果』を『変質』させる事で、様々な『効果』を付随させる事が出来る。

『防御結界』はその『効果』の一種に過ぎない。

この畑違いの『魔法技術』と『結界術』を組み合わる事で、通常ではありえない『力』を発揮する事が出来るのだ。


「アキト・ストレリチアの名において命ずる。

風よ、大気よ、炎の精霊よ。

創世にして原初の炎よ。

古の盟約に基づき、我が剣となりて敵を滅ぼせ。

顕現せよ、『ファイアーストーム』っ!!!」


『火』と『風』の『上級複合魔法』『ファイアーストーム』。

『爆炎の嵐』が襲いかかる恐ろしい『魔法』である。

『魔法』とは『物質世界』に『干渉』する『技術』であるが、『発現』した時点で『物理現象』に支配される。

この世界アクエラ』の『物理現象』が『地球』と全く同じかと言われると、否であるが(『魔素』が存在する為)、基本的に似た様なモノだ。

『火』の場合、『水』で消化したり、『二酸化炭素』による消化が可能で、それ故にその勢いを逆に増す事も出来るのだ。

ここが、『魔法技術』と『結界術』を組み合わせる事の『キモ』である。

『防御結界』の『効果』で、『密閉』されていた『フィールド』に『ファイアーストーム』が襲いかかる。

『ファイアーストーム』は『防御結界』に阻まれてしまうので、衝突寸前に『防御結界』を一時的に切る。

その事により、『密閉』されていた濃密な『酸素』に引火を引き起こし爆発的に一気に炎は燃え広がる。

すぐさま僕は『防御結界』を再構築する。

その結果、『結界』内の大量の『モンスター』達は、超高熱や酸欠などにより息耐えるのだ。

もちろん、周囲への影響も考慮している。

全くのゼロと言う訳には行かないが、『防御結界』により周囲への影響は少なく済む。

この『ポイント』は、周囲の畑などから距離を置いているので、農作物への影響はほぼ無いだろう。

まぁ、多少自然破壊をしてしまったが。


「上手くいったかな・・・?」


僕は、『結界術』を解除しながら様子を見る。

『結界』外の『モンスター』達は依然としてそこにいるが、『結界』内の『モンスター』達は全て死滅させる事が出来た様だ。


「うん、大成功だなっ!」


想定より多くの『モンスター』達を倒す事が出来た。

残りは2割と言った所か。

それでも予断を許さない状況だが、油断さえしなければ、こちら側に死者が出る様な事にはなりそうもない。

大量の『モンスター』達の死骸を作った張本人である僕も、手放しで喜べる程神経は図太くないが、殺らなきゃ殺られる。

弱肉強食は世の常だし、そう言った葛藤はすでに卒業している。

そうでなければ、『この世界アクエラ』では生きられないからな。

まぁ、これが『人間種』であったら、もう少し躊躇したりするかもしれないが・・・。

少し遅れて、アイシャさん達や『ルダ村』の『討伐隊』が残りの『モンスター』達を駆逐すべく突撃した。

さぁ、もうひと踏ん張りだ。

何にしても、安全確保が最優先だからな。



◇◆◇



『ルダ村』の『討伐隊』の面々は唖然としていた。


「なんだこりゃ・・・。」


その中でも、歴戦の猛者であるドロテオギルド長ですら、目の前の光景が信じられなかった。



決死の覚悟で、家族を、仲間を、『ルダ村』を守る為に決起した男達(一部女達)を引き連れて、ドロテオ達は『ルダ村』の外に出た。

遠くの方で、『モンスター』達の軍勢が押し寄せている『気配』を感じていた。

なるべく、距離がある間に数を削るべく、『弓』を扱える者達を前に出し、迎撃の準備をする。

『戦争』には、ある程度順番セオリーが決まっている。

『弓』→『騎兵隊(槍)』→『歩兵(槍・剣)』である。

この世界アクエラ』では、初手が『魔法』になる事もあるが、それは『国同士』の『戦争』に限定されてくる。

『魔法使い』=『貴族』だからだ。

まぁ、当然例外もいるが、少数の『魔法使い』に出来る事など微々たるモノだ。

いれば有利なのは事実だが、戦況を引っくり返せる程ではないのが『こちらアクエラ』の『常識』である。


(『織田信長』の『鉄砲隊』の様に『数』を揃える事で初めてその性能を発揮するのだ。

なぜなら、『魔法使い』には『詠唱時間』が必要になってくるし、『近接戦闘』は不得手としているからである。

少規模の『戦闘』なら『魔法使い』は脅威であるが、数千数万単位の『戦争』では一人の『魔法使い』の『力』は『焼け石に水』程度でしかない、と言う事である。)


実は、『ルダ村』の『冒険者ギルド』の『受付嬢』たるケイラも『魔法使い』で、それ以外にも初歩を少し学んだ程度の者が数人いる。

しかし、想定される『モンスター』達の数に対抗するには圧倒的に人数が足りていなかった。

故に、初手は必然的に『弓』となり、『魔法使い』達は逆に防衛の為に『ルダ村』に残して来たのだった。

『気配』だけでなく、目視で『モンスター』達が確認出来る距離まで迫って来る。

射程距離まで引き付けて、戦端が開かれるのを待つ状況だった。

緊迫した時間が流れる。

その時ふいに、誰かか声を上げる。


「おいっ!子どもが追われてないかっ!?」


視力の非常に良い者なのだろう。

ドロテオは、凝視する事でようやく目的の人物を発見した。


「っ!アキトかっ!?あのバカ野郎っ!!」


ドロテオは、アキトを視認すると、すぐに指示を出す。


「おいっ!足に自信があるヤツは俺に続けっ!!ガキを保護するんだっ!!」

「いや、待ってくれっ!様子がおかしいっ!!」

「あんっ!?」


見ると、アキトは『モンスター』達と距離を置いて対峙していた。

『モンスター』達はぼやけた空間に阻まれ、そこから先に進めないでいたのだ。

次の瞬間、アキトは複雑な『魔法陣』を展開していた。

『魔素』を利用し、『詠唱』や『印』、『魔法陣』を描く事で起こる『魔素』の『発光現象』である。

通常の『魔法』使用の際には起こらない『現象』で、『上級・奥義』級の『魔法』使用の際のみ観測される。

当然、ドロテオも長い『冒険者』生活の中で『魔法使い』に出会った事も、『魔法』を実際に見た事もあるが、この『現象』を見たのは数える程しかない。

もはや、誰もが何も発する事の出来ない状況で、アキトの姿にのみ目を奪われていた。

アキトが何事か大きく唱えると、凄まじい『爆炎の嵐』が『モンスター』達に向けて放たれた。

その『爆炎の嵐』が『モンスター』達に襲いかかる瞬間、ぼやけた空間が一瞬消えた様に見えた。

次の瞬間にはまたぼやけた空間は戻っていたので、気のせいか、などと考えられた者も、大爆発によりそんな事も思考から吹き飛んでしまった。

『爆炎の嵐』以上の熱波が『モンスター』達を襲ったのだ。

その威力の割に、音量も衝撃も自分達に大して影響が無かったのだが、その事も最早どうでも良い事だった。

煙が晴れ、ぼやけた空間もかき消えた後に現れたのは、大量の『モンスター』が息耐えた姿だった。


「なんだこりゃ・・・。」


呆然と呟くドロテオ。

他にも息を飲む音が響き渡った。

明らかに、壊滅状態だったのだ。

これが『人間種』であったなら、素早く『撤退』を選択するだろう。

しかし、今回の相手は『暴走バーサーカー』状態の『モンスター』達であった。

残った『モンスター』達は、なおも『ルダ村』に向かって侵攻しつつあった。


「ハッ!い、今はそんな事はどうでも良いっ!!これはチャンスだっ!!一気に攻め込むぞっ!!!」

「「「「「「「「「「お、応っ!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」


ショックからいち早く脱したドロテオが、大声でそう指示を飛ばした。

他の者達もそれに応え、突撃を敢行したのだった。



◇◆◇



その日、レイナード達は『神話』を目撃した。

幼馴染みで友人の、アキト・ストレリチアが起こした『奇跡』を、彼らは呆然と見ていた。


「すげぇ・・・!!!」


その一言に尽きる。


「これほどとは・・・!!!」


ティーネ達『エルフ族』も、感嘆の言葉を呟く。

アルマ達に至っては、感涙に咽び泣き、アキトに向けて頭を垂れる有り様であった。


「流石、アキトだねっ!!」


ただ一人、アイシャだけは興奮した様な、自慢気な様な感じであった。


「さぁ、皆っ!ここからは私達の出番だよっ!!まだ残っている『モンスター』達もいるからねっ!!!」


だからこそ、アイシャだけは段取りを忘れておらず、追撃を加えるべく仲間達を促す事が出来たのだった。

ハッとして、ティーネ達は煙が晴れた場所を凝視する。

壊滅状態の『モンスター』達だが、依然として『ルダ村』に侵攻する一団が確認出来た。


「そうですねっ!主様あるじさまのお役に立たなければっ!!」

「俺らも負けてられないぜっ!!」

「ああっ、行こうっ!!」

「そうだなっ!!」

「こちらは任せて下さいっ!!」

「みんなー、がんばってねー!!」


アイシャを先頭に、ティーネ・ユストゥス・ハンス・ジークが後に続き『雑木林』を飛び出して行った。

メルヒとイーナは、アキトの言付け通り、レイナード達とアルマ達を守るべく、彼らを見送った。

戦いはまだ続いているが、最早勢いはこちら側にある。

幼いながらも、そう感じたレイナード達はただただそれを見届けるのだった・・・。



◇◆◇



ニルは、驚愕を通り越し恐怖すら感じていた。

『魔法使い』として、目の前で起こった事が理解の範疇をはるかに越えた事だったからだ。

これが、所謂『魔法士部隊』が行った戦闘であったなら、まだ納得も出来た。

『魔法』には、『相性・相剋』などがあるので一概には言えないが、同じ系統の『魔法』を多数の者が同時使用することにより、『相乗効果』となり、目の前の状況と同じ事を起こす事自体はおそらく可能だろう。

相反する様だが、『魔法』と『科学』は密接な関係にあるので、これまでの歴史や研究からある程度の『物理学・化学』の知識も『この世界アクエラ』にはある。

最も、そうした知識は『魔法使い』達が秘匿・独占しているが。

しかし、それを持ってしても『個人』の『魔法使い』が目の前の現象を起こせる筈が無いのである。

『魔法使い』の『常識』としては。

それが、今、目の前で覆されたのだ。


「な、なんなのでしょうか、これは・・・!?」


ニルは、己の勘が正しかった事を痛感した。

あのアキトと名乗った『英雄』と対峙する事は非常に危険だ。

本来なら、敵対する事もなるべく避けるべきだが、すでに相手には悪感情を抱かせてしまった。

『至高神ハイドラス』の判断次第だが、ニルとしては少なくとも『ロマリア王国この国』で活動するのはこれ以上危険だと感じていた。


「おや・・・?」


ふと、違和感があった。

ニルは、ただ一人戦場から離れた場所で、『傍観者』であった故に気が付けた。


「死体が、消えている・・・!?」


のちに、アキト達もその事には気付いたが、その場面を目撃したのはニルだけだった。


「な、何だっ!?光の、粒子・・・?」


目を凝らし、『魔法』を使い『遠見』をする。

『水』の『魔法』を応用した『テレスコープ』である。

壊滅状態で、凄惨な状態の『モンスター』達の死骸を観察していた。

すると、一体の『モンスター』から光の粒子が溢れだし、最終的に『空気』に溶ける様に

もはや、ニルは驚き過ぎて感覚も麻痺してしまっていた。

その光景を、ポカーンと眺めているだけである。

全ての『モンスター』達がその様にして消えてしまった訳では無いが、明らかに数が少なくなっていた。


ーニルよ。ー

「はっ、こ、これはしゅよ。ど、どうされましたかっ!?」


ニルの頭に直接響く様な重々しい『声』により、彼は止まっていた思考を再開させた。


ーうむ。中々面白いモノが見れた。此度のお前の『失われし神器ロストテクノロジー』の勝手な使用の件は、不問としよう。これからも、『ライアド教』の為に働いて貰うぞ。ー

「は、はっ!有りがたき幸せっ!」


『至高神ハイドラス』から見捨てられるのではないかと考えていたニルは、深い安堵の溜め息を吐き、しゅの寛大な心に感謝した。


ーあれが『英雄』の『力』か・・・。我が物に出来なかった事が悔やまれるな・・・。しかし、最早我等の脅威となろう。ー

「仰る通りかと存じます。」

ー『ロマリア王国この国』で活動するのは危険だろう。『失われし神器ロストテクノロジー』の再使用にも時間が掛かる。ニルよ、これより『血の盟約ブラッドコンパクト』は『ロマリア王国この国』から即座に撤退せよ。ー

「はっ!して、『英雄』はどうされるので?」

ー今はヤツに対抗出来る者は『この世界アクエラ』にはほぼいないだろう。監視だけ付け、暫くは放置するしかない。しかし、今回の事で、『とある可能性』に気付いた。いずれ、ヤツに対抗する事も出来るだろう。ー

「なんとっ!?」


ニルの目からは、『化け物』の様に映ったアキトに対抗する手段を『至高神ハイドラス』は思い至ったと言うのだ。

これには、ニルも脱帽する他無かった。


ーしばらくは、静かに地道な活動に従事せよ。また、追って『神託』を下す。ー

「畏まりました。」

ーうむ。ではな。ー


ニルは、『至高神ハイドラス』との『リンク』が切れた事を感じた。

しばらく、誰も居ない虚空に頭を下げていたニルだったが、おもむろに顔を上げると、『至高神ハイドラス』の言葉通り『ロマリア王国この国』から撤退すべく行動を開始した。


「しばしの別れですな、『英雄』殿。個人的には、二度と会いたくありませんが、しゅの仰った通り貴方に対抗する事が出来るなら、貴方の絶望に歪む顔は是非とも見てみたいモノです。それまでは、どうかお元気で。」


今だ、討伐を続けているアキトに向かってひとりごとを呟くニル。

歪んだ笑みを浮かべ、そして去っていった。



全ての『モンスター』達が討伐されたのは、それから二時間後の事であった。


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