第19話 『英雄譚』には語られない裏側
僕は、今『モンスター』達の大量の死骸を火葬していた。
今回の『
直接的にはニル、ひいては『ライアド教』や『至高神ハイドラス』が起こした『事件』であるが、遠因は僕にもある。
ある意味では、『ルダ村』を巻き込んだのは僕の責任だろう。
論理的に考えれば、あのまま何もせず『シュプール』や仲間達だけを守っていたら、『ルダ村』や周辺の村や街にこれ以上の大変な被害が出た事だろう。
故に、自分の行動を間違いだとは思わない。
しかし、心情的には、自分の友人や知り合いを危険に晒し、負傷者を出した事は納得出来る事でもない。
そんな訳で、懺悔、と言う訳ではないが、こうして事後処理に名乗りを上げたのだった。
これだけ大量の死骸があると、『素材』を剥ぐとか、肉を剥いで保存食にするとかの選択肢は消える。
早めに処理しないと、死肉を漁る為に『モンスター』や『魔獣』が集まってしまうからだ。
そうなれば当然二次災害の恐れも出てくる。
なにより、腐敗臭がもの凄い事になるし、不衛生になり、感染症の懸念も出てくる。
そうした訳で、僕らは『モンスター』達を素早く火葬すべく奮闘しているのだった。
こういう時は、『ゲーム』の様に『
アイシャさんやティーネ達も手伝ってくれているが、僕も含めて昨日の晩から不眠不休の状態である。
レイナード達は『ルダ村』に無事に帰したが、その前に改めて『秘密基地』の使用許可を取り、僕らは交代で仮眠や休憩を挟みつつ、事後処理に奔走していたのだった。
もちろん、『ルダ村』の有志の皆さんも、自分達の『
周囲の田畑にはさして被害が及ばない様に尽力したので、事後処理さえ済んでしまえば、いつもの日常に戻れるだろう。
まぁ、しばらくは警戒体制は維持するだろうが。
それはそれとして、僕らは一つ不審な点に気が付いていた。
先程言った『ゲーム』の仕様ではないので、本来『
もちろん、僕も含めて、今回の『
これに関しては、引き続き調査する必要がある。
アルメリア様の意見も聞いておきたい所だ。
黙々と、『魔法』を使い火葬をしていると、ダールトン村長とドロテオギルド長が姿を見せた。
彼らも、事後処理で色々と奔走していたのだろう。
疲労の色が顔に表れていた。
ちなみに、火葬しているのは『ルダ村』から離れた小高い草原である。
そこに、大きな穴を掘り、火葬して灰にして埋める。
ティーネ達の提案で、木や植物の種や苗などをその後に植える予定だ。
なんでも、『エルフ族』の習慣なのだそうだ。
『狩り』で奪った
「アキトくん。今回は、君に本当に助けられたね。『ルダ村』の代表として、お礼を言うよ。本当に、ありがとうっ!」
「ったくっ、むちゃくちゃしやがって!確かに助かったが、オメーやり過ぎだぞっ!!一部のヤツらからメッチャビビられてるぜっ!?」
ダールトン村長は頭を下げ、ドロテオギルド長は口調とは裏腹に心配気な様子であった。
「すいません。死者を出さない為にも、一気に戦況を決める必要があったモノで・・・。皆さんを怖がらせてしまいましたか・・・。」
まぁ、『地球』で言う所の『大量破壊兵器』を使用した様なモノだからな。
規模自体はそれにははるかに及ばないが、個人の持つ武力としては度が過ぎている。
僕も、無闇に使用するつもりは無いが、他の人からしたらこの『力』を持っているだけで脅威となるだろう。
「まぁ、俺からも礼は言っておくがよ・・・。フォローするこっちの身にもなれってんだっ!」
ドロテオギルド長は、そう続け、自分の頭を撫でた。
「えっ・・・?」
「オメーにビビってんのは『冒険者』の連中、つまり『外』の連中だけだ。『ルダ村』の連中は、オメーがどういうヤツか知ってるからな。」
「ドロテオさんは、『冒険者』の皆さんにアキトくんが危険な人物で無い事を諭して回ったんだよ。ある意味能天気な我が村の人々と違って、『冒険者』の皆さんはシビアな感覚の持ち主が多いからね。今回は大きな助けとなった君の『力』も、平時では『脅威』となる。『冒険者』の皆さんの懸念もある意味では的を得ているよ。君が我々に牙を剥いたらどうするのか、とね。」
「お気持ちは理解出来ます。しかし、僕は・・・!」
「ああ、分かっているよ。君がそんな事をしないって事は。しかし、要は『責任』の所在を明らかにしたいのだよ、大人と言うのはね。万が一君が何か仕出かした場合、誰が『責任』を取るか?それをハッキリさせる事で、安心したいのさ。」
「だから、俺がケツ持つっつってやったのさ。・・・勘違いすんなよっ!?俺は、『冒険者ギルド』の利益を考えてそう言っただけだからよっ!!」
オッサンのツンデレなど、誰得とも思ったが、今回は助かったので、僕は素直に礼を言った。
「ありがとうございます、ドロテオギルド長。ダールトン村長も。」
「いやいや。」
「ふん。良いって事よっ!」
ふっと誰ともなく笑い出した。
ここにきて、ようやく気が緩んだのかもしれないな。
元よりそのつもりであったが、お世話になったこの二人には出来るだけ嘘は言いたくない。
この『
「・・・お二人には、話しておかなけれはならない事があります。・・・ですが、今はお互い忙しい身。後日、改めて面会を求めたいのですが、お二人の都合はいかがですか?」
「私の方は、アキトくんの作業が済み次第時間を作る事は可能だよ。忙しいのはいつもの事だからね。」
「俺もいつでもいいぜ。しばらくは『ギルド』も暇になるからな。」
肩をすくめるダールトン村長とドロテオギルド長。
通常の『パンデミック』とは今回は異なるが、それでもその影響により、『モンスター』や『魔獣』の攻撃性が高まってしまう恐れがある。
討伐を逃れた一部の『モンスター』や『魔獣』が流入し、縄張り争いや食糧の奪い合いが起こるからだ。
その為、『冒険者ギルド』や『冒険者』達は外での依頼を自粛し、しばらくは森などの調査に力を入れる。
ある程度落ち着いたと判断しない事には、活動を再開出来ないのだ。
その為、『冒険者』の中には別の村や街に拠点を移す者達も出てきて、開店休業状態を余儀なくされる。
そんな訳で、一時的に暇な状態になるのだ。
まぁ、その後は、その反動で一気に忙しくなるのだが。
「わかりました。では後日改めて連絡します。それと、その席に『彼ら』も同席させたいのですが、よろしいでしょうか?」
僕は、一緒に作業している『
「ああ、彼女達にも世話になったからね。問題ないとも。」
「俺もだぜっ!ってか、『
討伐に尽力していた事で、心証が良かったのか、打てば響く様に答えが返ってきた。
ドロテオギルド長に至っては、子どもの様にはしゃいでいる。
『冒険者』の
「感謝します。では、また後日。」
「ああ。」
「おうっ!」
話が終わると、二人は去っていった。
作業の邪魔になると考えたのかもしれないな。
何でもそうだが、準備と後片付けが一番時間が掛かる。
団体の長として、その事を心得ているのだろう。
まぁ、そうでなくとも長居したい場所じゃないしねー。
陰鬱な気持ちになる様な『死体の山』を見ながら、僕は溜め息を吐いた。
『
例の『ポイント』に『設置』していた『
ちなみに、フロレンツ侯の『屋敷』に『設置』した『
当然の事ながら、『結界術』を使用すると、『
天然物の『
その為、使用すればする程劣化が早くなり、(使用頻度にもよるが)すぐに使い物にならなくなる。
そうした事情も、『結界術』の『術者』が少ない理由だ。
よほどの大金持ちか、よほど凄腕の『冒険者』で無ければ『
『
せいぜい『おまじない』や『気休め』程度である。
まぁ、アルメリア様が用いる『領域干渉』は『
自分自身が『結界術』を学び、身に付けたからこそ分かるが、『悪意や害意』といった『感情』や『精神』にまで反応する『術式』など訳が分からない。
そういったモノを『祓う』とか、『浄化』するのなら、まだ少しは理解も出来るのだが・・・。
『
(まぁ、そう名付けたのは僕だし、そう呼んでるのも僕だけだが)。
ちなみに、アルメリア様の『領域干渉』は『龍脈』の『力』を直接使用している為、彼女自身が解除しない限り、この
まぁ、それはともかく。
僕は、独自に『
『魔法』と『結界術』を組み合わせて使った場合の『効果』は先日の討伐の通りだし、手持ちの『
人々の脅威にもなるので、僕もなるべく使用しない様心掛けてはいる。
今回の作業に関しては、『モンスター』の死骸の数が桁違いだし、『ルダ村』周辺のまともな『魔法使い』は、アルメリア様を除けば僕とケイラさんしかいないので、使わざるを得なかったが。
その甲斐あって、何とか死骸の処理は終了した。
「アキト、お疲れ様っ!」
「
灰にした死骸を全て土に埋めた所で、アイシャさんとティーネが声を掛けてきた。
ティーネ達『エルフ族』も、『精霊魔法』を使い、火葬や埋葬に『力』を貸してくれた。
アイシャさんは、例の『ポイント』からの死骸運搬に、死肉を漁る『モンスター』や『魔獣』の警戒、迎撃に『力』を貸して貰った。
アルマ達は、一足先に、メルヒとイーネに護衛して貰いつつ『シュプール』に戻り、療養中だ。
あちらは、アルメリア様に任せておけば問題ないだろう。
戻ってきたメルヒとイーネの報告では、事情も概ね説明してきたとの事だし。
そんな事せずとも、あの『
「アイシャさん達もね。助かったよ、ありがとう。」
「うんっ///!」
「そ、そんなっ!勿体無いお言葉・・・///!」
アイシャさんとティーネは、僕が微笑みかけると、テレた様にうつむいてしまった。
ハンス・ジーク・ユストゥスの男組は、苦笑しながらそこに近付いてきた。
メルヒとイーネも一緒だ。
「
「後は、木や植物の種や苗を植えるだけですので、よろしければ休んでいて下さい。我等がやっておきます。」
「つーか、ほとんど
「良いのか?」
「おー、あとはたのむぞー、ダンシショクンー!」
確かに火葬と埋葬はほぼ僕が一人でやってしまったが、それは『魔法』も『結界術』も使える僕が適任だっただけだ。
しかし、ユストゥスの言葉も最もだ。
頼れる仲間や『ルダ村』の有志の皆さんもいるのだから、任せられる事は任せた方が良いだろう。
「そうかい?助かるよ、三人とも。じゃあ、任せる。君らも適度に休憩を挟むようにね。君らが大丈夫でも、『ルダ村』の皆さんが付いて来れないかもしれないからね。」
自分で言っておいて、これは自分にも言える事だと気が付いた。
誰かが働いているのに、自分だけ休憩する訳にはいかないもんなぁ。
それが、先輩とか上司なら、なおさらに。
「・・・いや、これは僕もそうだったね。ごめん。これからは気を付けるよ。」
「そうだよ、アキトっ!アキトは凄いけど、まだ8歳なんだからねっ!
「・・・はい。」
アイシャさんのツッコミに、皆で一斉に笑い出した。
照れ隠しの様に、僕は頭をポリポリと掻くのだった。
◇◆◇
その後、植栽作業を終え、一旦僕らは『シュプール』に戻って来た。
アルメリア様に報告と顔を見せに来たのだ。
あの『
そうなると、途端に淋しがり屋な一面も覗かせ、しばらく『狩り』や採掘・採集などで『シュプール』を空けると、帰ってくると
最近は、アイシャさんがいるので、彼女に
男としては嬉しくもあるが、正直、面倒でもある。
そういう訳で、定期的に顔を見せた方が後々楽なので、一旦帰って来たのだった。
「お帰りなさい、アキトさん、アイシャさん、皆さん。」
「ただいま。」
「ただいま~、アルメリア様!」
「御母堂様、ただいま戻りました。」
ティーネ達は、代表してティーネが挨拶をし、ハンス達はキビキビと会釈をしている。
今は、ティーネ達『エルフ族』がいるから、『淑女モード』だが、彼らの目が無い所に行くと『素』に戻るだろう。
ティーネ達が『身内』認定されたら、彼女達も困惑する程の『甘々モード』が見られる事請け合いだが。
「アキト様、皆様、お帰りなさいませっ。」
「「お帰りなさいませっ。」」
「あぁ、アルマさん達もただいま。『シュプール』には慣れましたか?」
「は、はいっ!『ホブゴブリン』さん達や『白狼』さん達、アルメリア様には良くして頂いています。」
「それは良かった。」
アルメリア様はもちろんだが、『
元々『森の民』である彼女達には『モンスター』や『魔獣』は隣人の様なモノだから、脅威でなければ、慣れ親しんだ存在なのかもしれないな。
「ワンッ(アキトくん、おかえり~!)」
「ガウッ(お土産は~?)」
「クロ、ヤミ、ただいま。お土産は無いんだ、ごめんよ。」
「ワンッワンッ(じゃあじゃあ、『ブラッシング』をっ!)」
「ガウッガウッ(いや、クロ、久しぶりに『フリスビー遊び』の方がっ!)」
「わかったわかった、後で遊んでやるから。」
2匹とも、もう成体なんだから大人になるかと思ったが、まだまだ遊びたい盛りな様子だ。
デカイモフモフの体で、僕にじゃれついてくる。
『ステイタス』由来の身体能力で僕は受け止められるが、普通なら押し潰されてるぞ?
しばらく2匹の相手をしていたら、皆はそれを微笑ましく眺めていた。
端から見たら子どもと動物がじゃれあっている風景に見えるのだろうが、僕の中身はおっさんだから、少し恥ずかしい。
それに、アルメリア様に報告と相談もあるので、2匹には悪いが、後で遊んでやるからと、ようやく僕は『シュプール』内に入る事が出来たのだった。
応接室には、僕とアルメリア様、アイシャさんにティーネ達が顔を揃えていた。
『ホブゴブリン』達は、お茶とお茶菓子を置いて、『シュプール』内の家事に戻っていった。
彼らは基本自由で、『家』に住み着く『妖精』なので、必要以上には僕(家主側)の事を心配したり、構ったりしないので、僕としては逆に有り難い。
アルマ達は、クロとヤミと遊んでいる。
今の彼女達には『癒し』が必要だ。
その意味では『アニマルセラピー』は最高の『癒し』になるだろう。
2匹はプライドの高い『白狼』だが、アルマ達には優しくする様に言ってある。
まぁ、僕が言うまでもなく、アルメリア様に『お願い』された様なので、嬉々として触らせたり、背に乗せたりしているみたいだ。
僕以外では、アイシャさんとクロとヤミだけは、何となくアルメリア様の『正体』に気が付いている様子で、彼女に『お願い』されると喜んで引き受けてくれる。
まぁ、ある意味『
まぁ、それはそれとして。
僕は、アルメリア様に今回の『事件』の内容を説明していた。
「なるほど、フロレンツ侯は『
ことりと、お茶をテーブルに置きながら、アルメリア様は一拍間を置く。
彼女なら、事情はすでに把握していると思うが、彼女の『正体』を正確に知っているのは僕だけだ。
故に、面倒だが、アイシャさんやティーネ達の手前、事後報告はしっかりしておく。
「幸い、フロレンツ侯を
「『
「アキトっ!アルメリア様っ!『ライアド教』は野放しには出来ないよっ!?」
「アイシャさん、落ち着いて。・・・その意見には賛成だけど、規模が違い過ぎるよ。少しずつ切り崩していくしかないし、『召喚者の軍勢』も脅威だ。しかも、『ライアド教』自体は決して悪いモノでは無い。『至高神ハイドラス』と『ニル』の様な一部が問題なのであって、その全てを敵に回すのは得策じゃないよ。」
「そうですね。今の所、場当たり的な対処しか出来る事はありません。地道に『国』や『有力者』を味方に付けて行くしかありませんね。『
「そうなると、我が『エルフ族』と同盟を組むべきでは?」
「『鬼人族』ともねっ!」
「その意見にも賛成だけど、すぐには無理だよ。少しずつ国交を開くなり、交流を深めるなりして、『下地』を作っていかないとね。」
「その意味では、初めの一歩としては、ダールトン村長やドロテオギルド長との『会談』は、重要な役割を持つでしょう。まずは、対抗勢力を築かなければ、『争い』も『交渉』も出来ませんからね。」
「そうですね。あまり『宗教』や『戦争』などには
「・・・アキトさん、それは思い違いですよ?彼らも『
「っ!!!!・・・そ、そうですね。分不相応な『力』を身に付けた事で、知らない内に
僕はハッとした。
確かに、この所僕は一人で背負い込んでいたかもしれない。
それだけの『力』を持つに至ったが、だとしても、僕だけで解決出来る事でもないし、する事でもない。
『誰か』に与えられた『平和』など、本当の『平和』ではないのだ。
自分達の事は、自分達で決めるべきだろう。
「アキトさん、かつて私は言いましたよね?『
「はい・・・。」
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