第16話 集結する仲間達 1
ユストゥスは、囚われていた『同胞』を『シュプール』に護送しているアイシャとティーネ・メルヒ・イーナの元に向かっていた。
『魔獣の森』から『シャントの街』に向けてとんぼ返りする形だが、そんな事に文句を言っている状況ではなかった。
『エルフ族』は、『他種族』と比べ『仲間意識』が非常に強い。
『他部族』の『同胞』でも、『友人』や『家族』の様に大切にするのだ。
これは、『エルフ族』の生態に関係するらしい。
『エルフ族』は寿命が長い。
具体的には、『人間』は一年で一歳歳を重ねるのに対し、『エルフ族』は五年で一歳歳を重ねるくらいの感覚だ。
『人間』の平均寿命が、60歳くらいと仮定して、同じくらい『エルフ族』が生きるとしたら300歳は生きる計算になる。
これが、『エルフ族』が寿命が長いと言われる要因である。
しかし、その一方で『エルフ族』の出生率は極めて低い。
と言うのも、『エルフ族』の女性はなかなか妊娠しにくい体質なのだ。
これはある意味で、良くできた自然の『システム』なのかもしれない。
高い能力と寿命を持つ『エルフ族』が、高い出生率まで誇っていたならば、今頃は『エルフ族』が『
だが、そんな事にはなっておらず、『人間』と『他種族』は微妙なバランスの上で共存しているのだった。
低い出生率もあって、『エルフ族』は新たに誕生した子どもを部族皆で大切にし、そして、それは『他部族』の『同胞』も大切にする事にも繋がって行ったのである。
それゆえに、『エルフ族』にとって『英雄』は特別な意味を持つのだ。
アキトの何代か前に、『エルフ族』及び『獣人族』の『奴隷解放』に尽力した者がいた。
(実は、それぞれの『種族』に『英雄』の『称号』を持つ者は結構いたりするのだが、『英雄の因子』所持者ではない事が多い。
だからと言ってその『英雄』達が『偽者』と言う事ではないが、『英雄の因子』に由来する『特殊な能力』を持つ訳ではない。
高い『能力』を持っていた事は間違いないが、『英雄の因子』所持者ではないので、『神々』も『認識』するのに時間が掛かるのだ。
具体的な『武勇』が噂されて、初めて『神々』も知るところとなる。
それゆえに、『信仰』集めの『道具』とされる事もなく、『名』を残す者が多い。)
その『奴隷解放』に尽力した人物は、『英雄の因子』所持者であった。
その件があり、『同胞』を大切にする『エルフ族』にとって、『英雄』は『恩人』であり、紆余曲折を経て、仕えるべき『
そうした事もあり、ティーネ達は『エルフ族』の『神』・『ナートゥーラ』が『英雄』であると認めたアキトを『
ユストゥスも、そうした疑念を持つ者の一人だったが、アキトと実際に接触する事により、その考えを改めた。
アキト本人は自覚していないのだが、『英雄の因子』の『能力』、『
ーこの人は、特別な人なのだ。ー
そう、納得してしまうくらいに。
ユストゥスに限らず、一緒に『シュプール』を訪れたティーネ達は、アキトの不思議な『
「
ユストゥスは、そう独り言を呟き、移動しながらアイシャ達を探していた。
その時、ふと、目にかすめるモノがあった。
まだ、辺りは薄暗いが確かに移動する集団の『気配』を感じたのだった。
「おお、いたな。意外と早く移動して来たんだな・・・。」
「ユストゥス、かっ!?どうしてここにっ!?」
「ああ、ティーネ殿。合流出来て良かった。」
ユストゥスの『気配』を感じたティーネは、斥候として集団から先行して様子を見に来たのだった。
近付いた事で、ティーネはユストゥスであった事に気付き、安堵すると共に、困惑もしていた。
アキトと共に、ニルを追っていた彼がなぜここにいるのか、と。
「
「なんですって!?」
ユストゥスの報告に驚くティーネ、とは別に、アイシャが声を上げた。
知らない内に、後ろにいたアイシャ達も合流を果たしていたのだ。
「それで、アキトは、皆は無事なのっ!?」
取り乱したアイシャは、ユストゥスの胸ぐらを掴んで詰問する。
「あ、ああ、アイシャ殿。
「ああ、ごめんっ!」
ユストゥスの胸ぐらを掴んでいたアイシャは、自らの状態を省みて、手を離しながら謝罪した。
「
「なるほど・・・。」
「アキトの事だから、何か考えがあるんだよ。とにかく、私達も『ルダ村』に向かおうよ。幸い、ここからならすぐだから、皆ももう少し頑張ろうねっ!!」
アイシャは、囚われていた『エルフ族』の女性達を笑顔で鼓舞する。
『
こうして、一行は行き先を『シュプール』ではなく『ルダ村』に変更するのだった。
◇◆◇
ハンスとジークは、その場にある物や地形を利用しながら、時には『精霊魔法』を巧みに使いながら、『モンスター』達を『ルダ村』に『誘導』していた。
正確な『職業クラス』というモノが存在しない『
纏っている服装も、(迷彩柄とまではいかないが)森に溶け込む様な色合いの物である。
『身体能力』的には、『鬼人族』と『獣人族』には劣るが、こと『森』と言うフィールドにおいては、『エルフ族』の独壇場である。
『森の民』たる所以だ。
『
『狩り』ならば、遠くからも狙える『弓』が有効なのだが、今回は、フロレンツの屋敷への『潜入』がメインであった為、現在は携帯していない。
その為、ハンス達の手持ちの武器は腰に携えた『短剣』と隠し持った『暗器』、それと『精霊魔法』のみである。
だが、それでもハンス達に焦りは無い。
その辺の石を投擲したり、長い木の棒を簡易的な武器として、ヒット&アウェイを繰り返しながら、『モンスター』達の『ヘイト』を集めていた。
「炎の精霊よ。彼の者を燃やせ。」
時には、『モンスター』を倒したりして、彼らの注意を引き付けた。
本来ならば、これほど多数の『モンスター』達を『誘導』する事は非常に困難なのだが、『
そんな事もあり、流石に全てとはいかなかったが、『モンスター』達の『誘導』に成功していたのだった。
「なぁ、ジーク。我々は一番大変な任務を言付かったのではないか?」
「それは言うな、ハンス。
「ハッハッハッ。お前がこれしきでへたばる訳が無かろう。流石にこんな状況ではなかったが、子どもの頃は、よく『森』で『追いかけっこ』をしたモノではないか。」
「うん、まぁ、言ってみただけだ。大変だが、難しくは無いしな。この『モンスター』達は、『理性』が吹き飛んでいる様だから、読みやすいし捌きやすい。」
「確かにそうだな。あの『
「飛行するタイプがいないのも含めて、な。」
飛行するタイプの『モンスター』や『魔獣』も、当然存在するが、このタイプで強力な『種』はあまりいない。
まぁ、その中でも『竜種』は例外的に強力、どころか『最強種』の一角だったりするが、その他は『強さ』と言うより、『厄介さ』の方が比重が大きい。
当たり前だが、飛行するタイプは『制空権』を支配しているので、頭上からの攻撃に注意をしなければならないし、こちらの攻撃はなかなか当たらない。
耐久力自体は大した事がないので、攻撃を当てる事さえ出来れば倒す事は容易いのだが、そもそも当たらないのだ。
これ程厄介なモノはない。
しかも、そのクチバシとか爪は鋭利で、放置する事も危険だ。
『遠距離』から『コンボ攻撃』を決める腕前があれば、然したる脅威ではないが、飛行タイプは『群れ』で行動する事が
純粋な『アタッカー』タイプの者とは、相性が非常に悪い。
前に、レルフがアイシャに『遠距離攻撃』の手段を持っておいた方が良いと助言していたのは、こういう事も想定しての事だ。
今回の『事件』では、呼び出された『モンスター』達の中に飛行タイプはいなかった。
これは、ハンスとジークにとっては幸運な事で、もし飛行タイプが混じっていたら、この任務の『難易度』は更に困難なモノとなっていただろう。
「ようやくここまで移動して来たな。奴らは動きが単調だから、かなり時間を費やしてしまったかな?」
「まぁ、良いのではないか?
「ならば良いが・・・。そろそろ『ルダ村』が視界に入る頃か?」
「そうだな。我らも実際に訪れた事は無いが、記憶によればそろそろだろう。」
フロレンツの屋敷への『潜入』の際にも、『シャントの街』に向かう道すがら通り過ぎたが、その時は真っ暗であった。
今は、朝日が眩しい時間帯なので、見える景色も違うが、『エルフ族』は『森の民』故に、比較的夜目が効く。
『森』の中は薄暗い事も多いからだ。
その為、昨夜の記憶を頼りにそろそろ開けた場所に出るとジークは読んだのだ。
そして、その読みは当たっていた。
「ハンス、ジーク。ここまでご苦労様。」
「「
「おかげで『仕込み』も済んだ。ちょっと問題もあるけど、君達は離脱して休んでいてくれ。あそこの『雑木林』が見えるかい?あそこまで後退してくれ。ティーネ達がいるから。」
「
「僕は、『ポイント』まで『モンスター』達を引き付けて『討伐』を開始するよ。『ルダ村』の協力も得られたから、『討伐隊』も控えているし、心配いらないよ。」
「分かりました。少し休憩したら、我らも『討伐』に参加したいと思います。」
「うん、助かるよ。じゃ、よろしくね。」
アキトは、愛用の杖を携えて、『モンスター』達の『ヘイト』をハンスとジークから引き継ごうとした。
しかし、アキトの『
一瞬、驚いた表情を浮かべたアキトだったが、それはそれで都合が良いので、『ポイント』に向けて駆けて行った。
その光景を尻目に、ハンスとジークは、アキトに示された『雑木林』に後退した。
流石に疲労感が押し寄せて来たのだ。
「ハンス、ジーク、任務ご苦労様でした。」
「お疲れ様っ!」
そこには、ティーネ・メルヒ・イーナ・ユストゥス・アイシャと共に、『解放』した『
そして、この場に似つかわしくない子ども達の姿も・・・。
◇◆◇
慌ただしく飛び出して行ったバドを、レイナードは起き抜けにぼうっと見ていた。
『アクエラ』の『平民』の子ども達は、『地球』の先進国の子ども達と違い、家業の手伝いなどをする関係で比較的早起きだ。
まぁ、レイナードの場合は、父親が『憲兵』で、しかも日勤なので、『商家』や『農家』の子ども達に比べると遅めに起きるが、今日は、家が、村が慌ただしい感じがしていつもより早く目が覚めたのだ。
そうしたら、バドが妻・ニーナに何やら告げて慌ただしく飛び出して行ったのだった。
日勤のバドの出勤時間には、まだかなり早い。
その様子に、レイナードは異変を感じ取ったのだった。
「母さんっ!父さんはどこに行ったのっ!?」
「っ!レイナード、起きていたのっ!?」
「それより、父さんの事だよっ!出勤時間には、まだ全然早いよねっ!?何かあったんでしょっ!?」
レイナードの剣幕に、ニーナは戸惑っていた。
しかし、どうせ知られる事だし、意を決してニーナは答えた。
「レイナード、良く聞きなさい。村に『モンスター』の軍勢が押し寄せようとしているの。お父さん達は、その『討伐』に向かったのよ。」
「えっ!?」
レイナードは、一瞬何を言っているか理解出来なかった。
わんぱくボウズなレイナードだが、これまでの人生で『生きたモンスター』を見た事は無い。
勝手に『秘密基地』にしている、村の外の『雑木林』には小動物しかいないし、それより外の『世界』となると未知数である。
実は、レイナードが知らないだけで、村に脅威が迫った事は何度かあった。
その度に、『憲兵』や『冒険者』、果ては一般市民までもが『水面下』で『討伐』を繰り返して来たのだ。
『
ところが、今回は『モンスター』の軍勢が押し寄せようとしていると言うのだ。
この事態は、レイナードにとって想像の範疇を越えていた。
「私達も支度をして、中央広場へ向かうわよ。万が一の場合は、村から避難しなければならないから・・・。」
「そ、そんなっ!?」
「いいから急いで支度をしてきなさい。大丈夫よ。お父さんは強いんだから。」
気丈に振る舞うニーナであったが、手が微かに震えていた。
レイナードは、そんな母の心の機微を敏感に察知して、部屋へと支度をすべく戻った。
「父さんがいない今、母さんは俺が守らなくちゃっ!」
子ども特有の、『
そして、こちらも子ども特有の思い込みと先走りで、避難するのなら自分の知っている『抜け道』を使うかもしれないと考え、まずは現状を確認しなければならないと思い至った。
しかし、ここで家を抜け出すと母を一人にしてしまうと思い直し、中央広場までは一緒に行く事にした。
中央広場に行けば、知り合いもいるだろうし、少しは安心だろう、と。
「お待たせ、母さん。さぁ、中央広場に急ごう。」
「ええ、急ぎましょう。」
そうして、二人は中央広場に向かうのだった。
中央広場は、まだ人もまばらであった。
バドは、『憲兵』のネットワークで状況を素早く知ったが、一般市民はそうもいかない。
ダールトン等が触れ回り、人伝に伝わるので、行動は緩慢になりがちなのだ。
それでも、少し経つとぞろぞろと人が集まり始めていた。
「レイナードっ!」
「バネッサっ!テオ、リベルト、ケイアも。」
「おはよー。何があったか知ってる?訳も分からずここまで連れて来られたんだけど・・・。」
「『モンスター』が『ルダ村』に向かっているらしいよ。父さんも、朝から大慌てだった。」
「ウチも、母さんが『冒険者ギルド』に慌てて向かって行ったわ。」
「『モンスター』っ!?」
「え、ええっ!ホントなのっ!?」
「リベルトんトコがそんな感じなら、マジなんだろうな。ウチも父さんが慌ただしく飛び出して行ったのを見たし。」
レイナード・バネッサ・テオ・リベルト・ケイア。
この中で、バネッサとテオの両親は正に『一般市民』であった為、状況を知らずにここまで来ていた。
レイナードの父は『憲兵』だし、リベルトの父は『村長』で、ケイアの母は『冒険者ギルド』の『受付嬢』だ。
それゆえに、状況はある程度把握している。
しかし、リベルトもケイアも、レイナードと同じく、本当の意味での『現状』が分かっている訳ではなかった。
だからだろうか、普段なら『慎重派』のリベルトとケイアが、レイナードの提案に反対しなかったのは・・・。
「みんな、聞いてくれ。俺は、『秘密基地』の様子を見てくる。」
「どうして?」
「母さんが、万が一の場合は村から避難するかもって言ってたんだ。あの『抜け道』を使うかもしれない。けど、そこにもしかしたら『モンスター』がいるかもしれないだろ?万が一『モンスター』がいたら、討伐するなり別の手を考えるなりしなきゃならないし、まぁ、所謂『偵察』だよ。」
「なるほど・・・。今は、大人達も大慌てだし、僕らが『偵察』だけでもして来たら、手間が省けるかもね。」
「って、お前も来るつもりか、リベルト?」
「レイナードだけじゃ心配だからね。」
「私も行くよっ!」
「『モンスター』の中に、『ワイルドボア』っているのかな?」
「テオ、いても私達じゃ倒せないよっ!?」
「お前らまで・・・。」
レイナード達は、この『非日常感』に、ある種の興奮を覚えていたのだ。
『嵐』の日に、何故かテンションが上がるアノ状態である。
ちょうど、中央広場も人で溢れかえって来た。
こっそり抜け出すなら、今をおいてない。
「じゃあ、みんなで行こうっ!けど、ヤバそうだったら戻るからなっ!?」
「「「「うんっ!」」」」
こうして、彼らは例の抜け道から『ルダ村』の外に出たのだった。
『ルダ村』の周囲は、いつもの様に静まり返っていて、レイナード達は拍子抜けしていた。
だが、これは好都合なので、『秘密基地』にしている『雑木林』に向かう事にした。
「思ったより、静まり返ってるね。」
「もう、『討伐隊』に倒されちゃったのかな?」
「異変が無いなら、いいんじゃないか?」
「そうだね。これで、問題なく『抜け道』も使えるしね。」
「とりあえず、『秘密基地』の様子だけ見て戻ろうか。」
子どもの好奇心と緊張感がいつまでも保つ筈もなく、彼らはいつもの調子で騒がしく『雑木林』に入った。
「お前らっ!?なんでこんな所にっ!?」
「「「「「アキトっ!?」」」」」
しかし、そこには先客がいた。
アキトと、『
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