第13話 『解放』、そして・・・。
ティーネの顔色が、怒気に溢れたモノになっていた。
『同胞』の、しかも同じ女性が、『奴隷』として
今にもフロレンツ侯を殺しそうな勢いだったので、僕はその前に手を打った。
「ティーネ。『
僕は畳み掛ける様に指示を飛ばす。
ティーネは、ハッとして、僕の目からはまだ10代前半に見える『隷属』状態にある『
僕は、ジークとユストゥスに目配せをすると、2人も頷き、さりげなく距離を置いて警戒状態に入った。
ぶっちゃけ、ここは所謂『隠し部屋』なので、警戒する必要性はあまり無いのだが、2人にはむしろティーネの動向に注意を払ってもらいたいのだ。
今、フロレンツ侯を殺されては敵わないからな。
「さて、お待たせしました、フロレンツ侯。もう、ある程度察しているかもしれませんが、敢えて言わせて頂きましょう。貴方はもう
「な、何をワケの分からん事を言っているのだ、小僧っ!私を誰だと思っているっ!?」
「存じ上げておりますが、ここにいるのはただの
僕は、敢えてフロレンツ侯の拘束を解いた。
彼が
すぐに、再び拘束し、ユストゥスを呼ぶ。
僕の中で、フロレンツ侯の『評価』を下方修正した。
「ジークはそのまま警戒を維持。ユストゥスは、フロレンツ侯を抑えて置いてくれ。このままでは、話も出来ない。」
「くそっ、離せっ!!」
「噂程、貴方は『有能』な人物では無い様ですね。僕らと貴方では、『レベル』が違う事に気付いて下さいね。抵抗は無意味ですよ?」
「小僧が!舐めた口を聞きおって!!」
「あぁ、何か『手』があるんですかね?無駄ですよ。ここには誰も来ません。何らかの手段で連絡する事も出来ませんので、あしからず。」
「はぁっ!?」
「ですから、『魔法』的手段でも、『アイテム』的手段でも、貴方からは助けを呼ぶ事が出来ない、と言っているのです。まぁ、東側の塔の『現場』を発見して家の人達が騒ぎ出したら、その限りではありませんが。」
その言葉に、ようやくフロレンツ侯は、サッと顔色を青ざめさせた。
「ひ、東側の塔、だと!?」
「先に言っておきますけど、僕らの仕業ではありませんからね?謎の『侵入者』により、『
「な、なにっ!?ま、まさかっ!?」
「謎の『侵入者』に心当たりは?僕は、貴方と『共謀』していた者の仕業ではないかと考えていますが。」
「う、嘘だっ!完璧な対策を施していたのだぞっ!?」
「いえいえ、フロレンツ侯。僕らが実際
「なっ、まさか、本当に、ニルが・・・!?」
ようやく、僕の言葉が徐々に浸透してきたのか、フロレンツ侯は混乱しながらも、何とか頭を働かせ様としていた。
今のタイミングなら、大丈夫かな?
『ヒュプノ!』
僕は、『無詠唱魔法』を唱える。
『ヒュプノ』は幻術系魔法の一種で、所謂『催眠術』である。
ただし、闇雲に使っても、当然ながら上手く『暗示』に掛からない。
精神的余裕を無くし、心に『隙』を作ってやらなければならないのだ。
「ほう、『侵入者』はニルと言う人物なんですか。その人物は何者なのでしょう?」
「・・・本人は、『ライアド教』の関係者を名乗っていた。」
フロレンツ侯は、目が虚ろになり、僕の質問に素直に答え始めた。
どうやら、上手く『暗示』に掛かった様だ。
本来なら、『催眠術』とは『施術者』と『患者』が信頼関係を構築した上で行うべきモノだ。
心の中をさらけ出す、一種の『コミニュケーション』だから当然であろう。
それ故に、僕としては一方的な尋問の『ツール』としてはあまり使いたくない手段なのだが、彼の様なタイプの者なら僕も心が痛まないから、まぁ良しとしよう。
「『ライアド教』、ですか・・・。はぁ、はた迷惑な『集団』だなぁ。それで、『
「・・・ニルの方からだ。私の『秘密』を掴み、それを盾に協力を迫って来た。」
「なるほど、『脅迫』ですか・・・。」
フロレンツ侯が、『エルフ族』の『奴隷』を囲っている事を調べ上げ、『脅迫』の材料にしたのだろう。
『遺跡』の発掘や、『
「そのニルなる人物は、『
「・・・詳しくは知らないが、『至高神ハイドラス』の『神託』を受け行動していた様だ。『信仰』がどうとか言っていた。」
「ふむ、『信仰』集めの為か・・・。『
まだ確定情報ではないが、僕の中では『ライアド教』の評価は際限なく落ちていた。
もちろん、『ライアド教』の全ての者が悪い訳ではないだろうが、その『信仰』の対象たる『至高神ハイドラス』には『異世界転生』をさせられた借りもある。
しかも、今度は『古代魔道文明』の『遺産』、『
アルメリア様によれば「いずれ衰退する」との事だったので、あまり関わらずに放置しようとしていたが、こうなってくると放って置く訳にもいかんか。
「それで、貴方はどんな行動を?」
「・・・ニルは、カモフラージュの為に『冒険者』を利用すると言っていた。何の為かは詳しく知らないが、『英雄』がどうとか言っていたな。後は、私の私兵による『遺跡』の調査と発掘。『
「『
最近、『神々』の『使徒』ではなく、『冒険者』が頻繁に『シュプール』を訪れていた理由がようやく分かった。
『
と、言う事は、当然ニルと言う人物は『
その上で、計画の邪魔になる事を嫌い、その様な対策を講じたのか。
その狙いは、ある意味成功している。
時間を稼ぎ、『
そして、その後『
しかし、ここで想定外の事が起きた。
『
それにより、『
これも『英雄の因子』の能力によるモノだろうか?
・・・いや、今はそんな事を考えている場合じゃない。
ニルなる人物が、今後どの様な行動に出るか分からないし、『至高神ハイドラス』に力を取り戻されたら、さらに厄介な事になる。
『
幸い、ニルなる人物の所在は捕捉している。
一刻も早く彼を捕らえた方が良いかもしれないな。
しかし、その前に・・・。
「フロレンツ侯。『隷属の首輪』の解除方法を教えて下さい。」
時間を掛ければ、自分達でも調べられるだろうが、今は時間が惜しい。
『隷属』状態の『
「・・・『隷属の首輪』は、この『主人の指輪』で支配している。これを使えば、『命令』する事も『解放』する事も可能だ。」
そう言うと、フロレンツ侯は自分の手を見せる。
そこには、じゃらじゃらと高価そうな装飾品に混じって、無骨な指輪が1つあった。
「それは、他者に譲渡する事は可能ですか?」
「・・・可能だ。」
「では、僕に所有権を譲渡して下さい。」
「・・・分かった。」
『ヒュプノ』の効果は一時的なモノだ。
フロレンツ侯が、僕に『主人の指輪』を手渡した所で、彼の意識が戻りかけていた。
「おっと、少し急ぐか。『主人の指輪』よ、『隷属』状態を解除せよ。」
僕がそう唱えると、『主人の指輪』が反応し、『隷属』状態にあった『
彼女達は、たった今『解放』されたのだ。
「ティーネ、すまないが『隷属の首輪』を1つ僕に渡してくれないか。」
「は、はいっ!
ティーネは、落ちた『隷属の首輪』を拾い、僕に渡した。
「・・・ハッ!こ、小僧っ!なぜ貴様が『隷属の首輪』と『主人の指輪』を持っているっ!」
フロレンツ侯は、完全に意識を取り戻した様子だ。
まぁ、今さら遅いんだけど。
「貴方が自ら僕に譲渡してくれたのではないですか。」
「そ、そんなバカなっ!?」
真っ青な顔色をし、フロレンツ侯は慌てふためく。
僕は、そんな彼に有無を言わさず『隷属の首輪』を着けた。
「な、何をしているっ!?」
「いえ、貴方にはまだ『ツケ』を支払って頂かなければならないので、もう少し働いて貰いますよ?」
「な、なんだとっ!?小僧っ!貴様、自分が誰に手を出したか分かっているのかっ!?」
「貴方の方こそ、自分が何をしていたのか分かっていますか?『エルフ族』と『ロマリア王国』の『全面戦争』の発端と成りうる危険な行いをしていたのですよ?僕がこのような手段に出なければ、貴方はもう今頃命は無いのですから、逆に感謝してほしいモノですよ。」
ちらっ、と『
いや~、凄い
フロレンツ侯は、小さく悲鳴を上げ、息を飲んでいる。
失禁してないよね?
彼が今まで感じた事もないモノだろうから、気持ちは分かる。
まぁ、同情の余地はないけど。
「まぁ、僕としても不本意ですが、使えるモノは使いましょうと言う事で。恨むなら、せいぜい今までの自分の行いを恨んで下さいね。」
「あっ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~!!!!!!!!!!」
「と、言うワケで、悪いがこの人を殺さない様にね。彼には、他の『エルフ族』の情報を調べて貰うから。『政治的』にも君達が手を下すべきじゃないし、君達の手をこんな男の為に汚すべきじゃない。君達の気持ちを考えると心苦しいが、どうか堪えてほしい。何、全て終われば、必ず報いを受けさせる。」
「・・・!はっ!
「うん、結構。さぁ、とりあえず彼女達を『シュプール』まで連れて行こうか。外のアイシャさんと合流しよう。」
「「「はっ!」」」
脱出は、潜入よりも大変だった。
ニルなる人物の『犯行現場』を発見した家人達が、慌てて屋敷中を捜索したり、フロレンツ侯に報告に来たりしたからだ。
中途半端に『命令』しても意味は無いので、一旦フロレンツ侯は解放してきた。
勿論、『隷属の首輪』と『主人の指輪』の『リンク』は繋がっているが。
表向きは、フロレンツ侯は今現在『自由意思』で動いているが、実際には僕の支配下にある状態だ。
僕らと接触した事や、『
『
ある程度落ち着いたら、頃合いを見計らって、フロレンツ侯には他の『エルフ族』の件で、『強制的』にだがご協力頂こう。
ちなみに、『隷属の首輪』は、『ある細工』により、誰にも認識出来ない様にしてある。
『首輪』なんてしていたら目立つからな。
フロレンツ侯に使った物以外は回収して来たし、とりあえずこの場でやるべき事は終わった。
「アキトっ!良かった、無事だったんだね!!」
「アイシャさん。ハンス・メルヒ・イーナもご苦労さま。そっちは、何かあったかい?」
「こっちは、怪しい奴が1人逃げていっただけだよ。アキトの事だから、何か考えがあると思って見逃したけど、良かったかなぁ?」
「あぁ、うん、大丈夫だよ。彼は、わざと逃がしたからね。けど、事情が変わったからすぐに追わないと。」
『侵入者』ニルが、『ライアド教』関係者だと分かり、しかも『
『至高神ハイドラス』ははた迷惑な『人神』なので、『
『侵入者』の動向を調べる為、わざと逃がしたが、裏目に出てしまったな。
早めに捕らえておかないと、後々面倒な事になるのは目に見えている。
僕は、素早く状況を説明しながら、指示を出す。
「と、言うワケで、ニルを追うチームと、『
一応、『応急処置』として、『ヒュプノ』を応用したカウンセリングをして、『体力回復ポーション』を薄めた物を服用させた。
効果の高い物は、いくら良い物でも、弱っている体には毒でしかないからな。
『体力回復ポーション』は、所謂『栄養ドリンク』で、各種栄養をバランス良く配合されている。
また、『アクエラ』ならではの効果で、『HP』を回復する効果もある。
それにより、自ら歩行する事が可能になっているが、弱っている心身を一時的に誤魔化しているに過ぎないので、『シュプール』にて時間を掛けて療養させなければならない。
まぁ、『
アイシャさん達が一緒なら、戦力的にも安全面の心配はいらないし。
「分かった。アキトも、心配いらないと思うけど、気を付けてねっ!」
「
「
「あるじさま、ありがとー。」
アイシャさんに続いて、ティーネ・メルヒ・イーナも口を開き、移動を開始した。
『
僕は力強く頷くと、女性チームを見送り、ハンス・ジーク・ユストゥスに向き直る。
「さぁ、僕らも行こう。『
「何を仰います、
「我らは、
「
ハンス・ジーク・ユストゥスは、良い顔で頷く。
美形揃いの『エルフ族』がやると絵になるなぁ。
「ありがとう、皆。では、行くぞっ!」
「「「はっ!!!」」」
僕達は、ニルを追って闇夜を駆け出すのだった。
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