第12話 潜入
その後、少し冷静になった僕だったが、燻っている『怒りの炎』は消えてはいなかった。
この『怒り』は、自分の愛する『原作』が『アニメ化』や『実写化』されたおりに、『愛ある作品』などではなく、『利益を求めた作品(しかも駄作)』にされた『オタク』の『怒り』の様なモノだ(意味不明)。
商業的に、それらを全て否定するつもりもないが(お金が掛かる事だから、『利益』を求めるのは当然だし)、そこには『愛』があって欲しい。
まぁ、言ってしまえば、ある意味『ワガママ』なのだろうが、その辺も踏まえないと『
『人間関係』にも繋がる話だが、『愛情』なき『行動』は、いずれ身を滅ぼす事になると僕は考える。
何より、『古代魔道文明』の『遺産』を悪用されるのが腹立たしい(怒)。
まぁ、何のかんの言っても、『人』は最終的には『感情』で動いてしまうって事かねー。
まぁ、それはともかく。
今回の件は、僕にとって許せる事ではない。
ここで大事なのは、他の人がどうかではなく、『
ティーネ達と、『トラクス領』領主、フロレンツ・フュルスト・フォン・トラクスの屋敷に潜入しながら、僕はそんな事を考えていた。
◇◆◇
ティーネ達の『情報』によれば、ここ最近、『魔獣の森』に『冒険者』がかなりの数『誘導』される様に集結しているそうだ。
残念ながら、『エルフ族』の『奴隷』になっている『同胞』の所在は分からなかったらしいが、噂では一部『裏の組織』や、『貴族』の元にいるのでは無いか、との事だった。
ここで気になるのは、『冒険者誘導』の件だ。
『魔獣の森』は、比較的『冒険者』の訪問が多い『狩り場』ではあるが、難易度としては、『中級・上級冒険者』でないと厳しいステージでもある。
以前、アイシャさんに絡もうとしていた『冒険者』パーティーの様な未熟な『冒険者』達では、深部に行くのも困難な場所なのである。
しかし、『情報』によれば『初級・中級冒険者』が集結しているとの事。
そう言えば、あの件の後も『シュプール』に侵入しようとした『冒険者』パーティーが何組かいたなぁ。
『領域干渉』に阻まれていたので、僕らは相手にしていなかったが、今考えると少し違和感がある。
『冒険者』が集結してもおかしくない状況としては、
1、脅威度が高い『モンスター』・『魔獣』が確認され、討伐隊を募集している。
2、新たな『
3、『公共事業』の『人足』を募集している。
などが考えられるが、『3』以外は『上級冒険者』がいないのはおかしな話になってしまう。
また、『3』の場合でも、こんな
絶対に無いとは言い切れないが・・・。
故に、某かの
それならば、分かる者から『情報』を引き出せば良い。
巧妙に『情報操作』している様だが、その『黒幕』らしき者が『現領主』フロレンツ侯であると僕は当りをつけた。
僕は『推理物』はあまり得意な方ではないが、これだけ大掛かりな『裏工作』をしているのに、『現地トップ』が何も知らない筈がない。
明らかな『無能』ならその限りではないが、フロレンツ侯は『有能』な人物である事は噂で聞いている。
『情報』が不足しているので何とも言えないが、とりあえず調べてみる事にしたのだ。
『エルフ族』の件も、上手くすれば何か分かるかもしれないし。
「虎穴に入らずんば虎子を得ず」、である。
幸い、こちらには『隠密技術』に優れた僕とティーネ達がいる。
しかも、『魔法』と『精霊魔法』もあるので、相手に気取られる事なく潜入する事が可能だ。
唯一の懸念材料は、『
僕のこれまでの『失敗の経験』が役立つ筈だ。
「と、言う訳でフロレンツ侯の屋敷に潜入するが、アイシャさんとハンス・メルヒ・イーナはバックアップ要員だ。アイシャさんは『隠密技術』はあまり得意ではないし、全員で入ると見つかる可能性も高くなる。それに、退路の確保も重要なので、4人とも頼まれてくれるか?」
「任せてよ!」
「御一緒出来ないのが残念ですが、承りました!」
アイシャさんと、3人を代表してハンスが答える。
メルヒとイーナも深く頷いていた。
「よし。僕とティーネ・ジーク・ユストゥスは潜入チームだ。本来なら『
「ありません。
「「同じく。」」
ティーネとジーク・ユストゥスが答える。
まだ8歳の僕に指揮されるのは正直面白くないと思うが、これでも『リーダー』には慣れている。
当然、『前世』も含めて『軍隊』に所属していた経験はないが、『ゲーム』では良く指揮していたし、クロとヤミ、アイシャさんを含めたパーティーでの『狩り』の経験もある。
潜入となると勝手は違うが、ここでも『魔獣の森』の経験が生きるくるだろう。
なんせ、クロとヤミ相手に『鬼ごっこ』や『かくれんぼ』で勝ち越しているのだ。
純粋な『野生』の『魔獣』ではないが、『人間種』よりはるかに高い感知能力を持つ2匹より鋭敏な感覚の持ち主がそうそういるとは思えないからな。
考えてみたら、僕も大分『
しみじみと思いながら、僕は号令を掛ける。
「よし。では行動開始しよう!」
「「「「「「「うん!(はっ!)」」」」」」」
アイシャさん達は、フロレンツ侯の屋敷の近くの森に潜んで退路の確保を、僕らはフロレンツ侯の屋敷へと向かった。
フロレンツ侯の屋敷は、『ルダ村』よりもう少し南方に行った『シャントの街』の離れにある。
実物の洋風な『お城』を見た事はないが、『屋敷』と言うよりは『小城』といった感じだ。
『シャントの街』は地形上、『ルダ村』の様な『水堀』は無いが、その変わり石造りの堅牢な城壁で周囲を囲んでいた。
フロレンツ侯の屋敷も、離れとはいえ壁に囲まれ、潜入は困難そうに見えるが、僕らにとってはそこまででもなかった。
むしろ厄介なのは『見張り』であるが、それも僕の『魔法』で解決出来る。
「『イリュージョン』!」
『イリュージョン』とは幻術系魔法で、通常の様な『詠唱』や『印』を使用すると逆に使えない『無詠唱魔法』に属する『魔法』である。
『魔法』とは、『魔素』の力を利用し、物質世界に干渉する『技術』だが、未熟な内は物質世界に干渉出来ずにある種の幻想の様な現象(例えば『幻術の炎』の様にそこに炎がある様に見えるのだが、『実体』がない)、一般的には『魔法発動失敗』の状態になる事がある。
これは、『魔法使い』の『初心者あるある』なのだが、その現象を逆に利用したのが幻術系魔法である。
一般的な『魔法使い』達は、あまり使用していない『技術』だが、使い勝手は非常に良い。
なんせ、『イメージ』と『キーワード』だけで発動する即応性に優れ、応用性にも優れているからである。
今回の様に、認識を誤認させる奇術的な使い方も出来れば、戦闘時における『フェイント』にも使えるし、撹乱にも使える。
ただし、あくまで幻術なので、攻撃力は皆無であるが。
僕は、ティーネ達に無言で合図を送ると、『見張り』の男達に気付かれる事なく、屋敷内部の潜入に成功した。
◇◆◇
『
『
彼らが発見した『遺跡』には、今回発見された『
そうなれば、ニルとしてはここはもう用済みだった。
「ニル殿っ!これはどういう事ですかっ!?」
「御苦労様でした、皆さん。
妖しい笑みを浮かべて、ニルは解析チームの1人を何でもない事の様に
「さぁ、
解析チームが一斉に逃げ出したり、『魔法』を発動させ様とするが、その前に、ニルは隠し持っていた『暗器』で瞬く間に抹殺する。
まさに、一瞬の事であった。
解析チームの『処理』をし、『
「・・・これはっ!?フロレンツ侯が手を打ったのでしょうか?仕方ありませんね・・・。」
『裏側』が長いニルだからこそ気付けた些細な『違和感』が、彼の身を間一髪の所で助けた。
長く留まる事は危険と判断したニルは、急いで目ぼしいモノを回収するとすぐに離脱した。
ニルの気配に気付いていたアキトが、『ある細工』を施していたのだが、流石にその事までは気付けなかったが・・・。
「う~む、怪しいヤツの『気配』を察知したが、逃げられたなー。なかなか、腕の立つヤツだなぁ。まぁ、『保険』が効いてるから、とりあえず放置しよう。ソイツがいた所に何かあるかもしれんから、行ってみるか。」
「
「アイシャさんなら、遭遇しない限り手出ししないよ。彼女なら、『敵』を捕らえる事も出来るだろうけど、僕がワザと逃がした事に気付くからね。」
「そうですか・・・。
「あぁ、うん。まぁ、濃い時間を過ごしてきたからね・・・。」
一応、アイシャさんは僕の『押し掛け女房』みたいな関係にあたるのだが、まだ僕は第二次性徴前だから、実質は『姉と弟』みたいな関係である。
お互いの力量も把握済みだから、信頼は確かにしているが。
ティーネは、なぜか少し複雑な表情であった。
なんだろう?
しかし、今更だが『エルフ族』はやはり美形揃いだ。
ティーネは、所謂『モデル体型』のスタイルの良い美女だし、ジークとユストゥスは男だが、『美人』って感じの色男だ。
『鬼人族』ほどの身長は流石に無いが、スラッとしているので非常に絵になる。
許される事ではないが、『奴隷』としたくなるほどの『魅力』があるのは、分からんでも無い。
ティーネの表情を見て、ふとそんな事を考えてしまった。
「さっ、急ごう。」
「「「はっ!」」」
怪しいヤツの気配があった場所は、屋敷の東側の塔の一室であった。
そこからは、かすかに『血』のニオイが漂っていた。
「う~む、あまり入りたくないが・・・。」
見て気持ちのいいモノではない予感はするが、入らない訳にもいかず気持ちを切り替えて突入する。
もちろん、罠には警戒してだが。
最初に目に飛び込んできたのは、複数の『人間』の死体だった。
ただ、ある程度覚悟はしていたので、あまり衝撃はなかった。
『狩り』を通して、『モンスター』や『魔獣』の『解体』などは経験があったが、『人間』を殺した事もなければ、死体を見慣れていた訳でもないが、それでも自分でもびっくりするくらい冷静であった。
「ティーネ・ジーク・ユストゥス。大丈夫か?気分が悪ければ、部屋を出てても良いが?」
「だ、大丈夫です、
「いや、ティーネ殿とユストゥスは部屋を出て、周囲の警戒をして下さい。この部屋は、詳しく調べてみるべきでしょう。よろしいですか、
「あぁ、うん。ジークの言う通りだね。この惨状だから、確かに重要な事があったとみるべきだね。」
「分かった。ティーネ殿、行こう。」
「え、ええ。」
ユストゥスは、ティーネを連れて部屋を出る。
「優しいんだね、ジークは。ユストゥスもだけど。」
「はて、なんの事でしょう、
素知らぬ顔で返すジーク。
「いや、なんでもないよ。さっ、さっそく調べてみようか。」
「はっ!」
散乱していた書類を調べる。
重要そうな物は無いが、『侵入者』が回収したのだろう。
だが、断片的ではあるが、どうやら『
自分の住む『魔獣の森』に『遺跡』があった事に、僕は軽くショックを受けた。
しかも、ここのチームに先を越された事が悔しくもあったが、気を取り直して自分で後で調査してみる事にした。
彼らの興味は、あくまで『
それに、なにかしらの発見があるかもしれないし、見落としがあるかもしれないからな。
まぁ、今はそれどころではないが。
しかし、これでフロレンツ侯の『重要度』が僕の中でかなり高くなった。
この現状を見るに、結託していた『侵入者』側に裏切られた様だが、『情報』を多く持っている可能性が高くなったからだ。
「ふむ、こんなところか。ティーネとユストゥスと合流して、フロレンツ侯を探そう。『侵入者』は手練れだから、まだ『異変』に気付いてない様子だが、警戒しながら進むぞ。」
「はっ!」
◇◆◇
『トラクス領現領主』フロレンツ・フュルスト・フォン・トラクスは確かに『有能』な人物であった。
しかし、『有能』ゆえに、実際には自分の想像をはるかに越すレベルの存在がいる事には気付いていなかった。
ニルは、『冒険者』で例えると『S級冒険者』クラスの手練れであるし、しかも、『隠密技術』・『暗殺術』・『魔法』を使いこなす、対人戦に特化したタイプの存在である。
さらに、そのニルすらも凌ぐアキト(本人にはあまり自覚はないが)は、全ての『ステイタス』を高い数値で修めた『究極の万能型』タイプの存在だ。
フロレンツは、しっかり
『常識的』に考えると、過剰なくらいの対策と戦力ゆえに、フロレンツは油断していたのだ。
これは、フロレンツが『貴族』であるがゆえに、『現場』を知らないからの事だが、これまでの長い『政争』などで生き残って来た自負もあったのかもしれない。
自身の経験上、これを突発した者は皆無であったからだ。
そんな訳で、現在フロレンツは西側の塔の地下室、所謂『隠し部屋』に囲っている『エルフ族』の女達を無理矢理犯して楽しんでいた。
『隷属の首輪』の効果を使えば、完全な『肉奴隷』にも出来るのだが、彼の歪んだ性癖は、むしろ嫌がる女を犯す方が興奮する様で、『エルフ族』の女達は意識はあれど、体が言うことを効かない状態に置かれていた。
「いやぁ~~~~~~~~~~~~~~!!!!!」
「なにが『ライアド教』だ!あの優男め!!生意気な口を聞きおって!!!」
フロレンツは、表向きは非常に理知的かつ紳士的なのだが、生半可に高い能力ゆえに異常なほど『
それゆえに、ストレスが溜まるとよく『エルフ族』の女達に当たり散らしていた。
彼女達にはたまったモノではないが、これまではそれでフロレンツとしては上手くいっていたのだ。
そう、
「う~む、フロレンツ侯は『有能』な人物と聞いていたが、これではただのクズじゃないか・・・。ティーネ達の目的である『エルフ族』を発見出来たのは良いが、この場合は喜ぶべき事では無いなぁ。」
「だ、だれだっ!?あ、がぁっ!?」
ふと、声が響きフロレンツは
「まぁ、これで僕も気を使う必要が無くなったから、別に良いかな?君達、助けるのが遅くなってすまなかったな。もう大丈夫だよ。」
そこにいたのは、長い黒髪を後ろで結んだ、年の頃7、8歳くらいの子どもの姿であった。
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