第11話 『英雄』と『エルフ族』



『エルフ族』の、エルネスティーネ・ナート・ブーケネイアは、『同胞』達と共に『ロマリア王国』に密かに潜入していた。

『エルフ族』の『神』、『ナートゥーラ』の『神託』を受け、『英雄』に付き従う為である。

『エルフ族』にとって、『英雄』は特別な意味を持つらしい。

僕の何代前の『英雄の因子』所持者かは知らないが、『奴隷』として迫害を受けていた『エルフ族』と『獣人族』の『解放』に尽力した者がいたらしい。

僕とは、直接的に関わりがある訳ではないが、『英雄の因子』所持者という点では同じである。

『ナートゥーラ』の預言では、「30年ぶりに生まれた『英雄』が、『エルフ族』に『真の解放』をもたらすだろう。」、との事で、『エルフ族』としては正に活動の時を迎えたのだ。

しかし、『エルギア列島』に逃れた『エルフ族』達は、『ハレシオン大陸』の情勢には詳しくなかった。

『エルフ族』にとっては、数年ぶりくらいの『感覚』でも、『人間』にとっては、数十年が経っている。

そうなると、当然色々と状況も変わってくる。

その為、まずは情報の収集に務めたのだった。

極秘に潜入をしているので、慎重に行動していたのは言うまでもないが。

『森の民』として、『狩人系』の『隠密技術』を修得しているエルネスティーネ達は、都市部郊外の森林地帯に潜んでいた。

本来なら、王都内や都市部内に潜入し、情報収集に務めるべきなのだろうが、『エルフ族』は外見的特徴、所謂『エルフ耳』の為非常に目立つ。

フードなどを利用し、あまり顔を晒さない『冒険者』もいるにはいるが、怪しい風貌である事は間違いない。

そうした『冒険者』を装う事で、情報収集する手段は頻繁には使えない。

その為、『商人』や『冒険者』の比較的往来のある都市部郊外の森林地帯を拠点として活動していたのだった。

もちろん、拠点のキャンプは常に変更しながら。

『アクエラ』では、『商人』と『冒険者』が一番『情報』に敏感だ。

彼らにとっては、それ如何いかんで『商売』に直結するからである。

その為、彼らの雑談を分析するだけでも、かなり有用な『情報』が入手可能だ。


(余談だが、王都や大都市には、『失われし神器ロストテクノロジー』を利用した『結界』がある。『シュプール』の『領域干渉』と違い、『人間種』の侵入は比較的容易であるが、『モンスター』や『魔獣』などの侵入は防いでいる。この『失われし神器ロストテクノロジー』は、代々受け継がれている王家の『秘宝』で、新規に発掘・発見された物ではない。)


そうした地道な活動の末、エルネスティーネ達は『英雄アキト』の居場所を突き止める事に成功した。

折しも、ニルとフロレンツによる情報操作の為、大量の『冒険者』達が『魔獣の森』に集結している時の事だった。



◇◆◇



アイシャさんが、『魔闘気』に気付いたのは、ごく最近の事だ。

僕との稽古の最中に、感覚的に白いモヤの様なモノ、『魔素』を感じ取ったらしい。

アルメリア様によれば、『魔素』とは『魔法』の『素』となる『エネルギー』で、『マナ』とか『精霊ジン』とも呼ばれているそうだ。

僕も、『魔法技術』の訓練の際に一番最初にした修行が、『魔素』の感知だったなぁ。

『魔法使い』は、『師匠』の存在により、『魔素』の感知を比較的容易にマスター出来る。

すでにマスターしている『師匠お手本』が、すぐ近くで指導してくれるからである。

だが、アイシャさんの様に、『魔法技術』を学んで来なかった者が、『魔素』の感知を行うのは非常に難しい。

高レベル者の中には、『魔素感受性』が50を越える者も出てきて、条件的には『魔闘気使い』になれる素質があっても、必ずしも覚醒する訳ではないのはこの為だ。

第一段階として、まず『魔素』の感知は必須条件で、第二段階で、『魔素』を収束させ、第三段階で、『魔素』のコントロールを行い、最終的に『魔闘気』発動に至る。

『魔法使い』は、第二・第三段階を『詠唱』や『魔法陣』・『印』などで補助し、最終的に『キーワード』を唱える事で、物理世界に干渉する『魔法』が発動する。

『魔闘気使い』は、『魔法使い』とは違い、個人的な資質に依存するので、修得が非常に困難なのだ。

もちろん、修得出来れば非常に強力な武器になる事は言うまでもない。

最近は、もっぱらこの『魔闘気』の訓練に勤しんでいるアイシャさんなのであった。


「う~ん、『魔素』の感知は出来る様になったけど、『収束』はまだ難しいなぁ~。」

「いやいや、十分っスよ。『収束』と『コントロール』は『基本』であると同時に『奥義』でもあるっスから。『感知』をマスターして、『収束』と『コントロール』のコツをある程度掴んだら、後は個人で極めていくモノっス。『魔闘気』をどう使うかは、個人の『戦闘』スタイルによるっスからね。」


アイシャさんは、アルメリア様に『魔闘気』の指導を受けていた。

しかし、この『おっぱい女神』ノリノリである。

「『管理神』は、『世界』に対して不干渉だ(キリッ)。」とか、カッコいい事言っていたが、『身内』にはかなり甘い様である。

知らない内に、口調が『素』に戻っていたり、アイシャさんを『アイちゃん』と呼んでいたりする。

ちなみに、余談だが、僕も一応『魔闘気』を使えたりする。

と言うか、『魔法使い』はみな使えるのだが、ある意味で『使』だろう。

『魔法』と『魔闘気』の同時使用は不可能だし、『魔闘気』の特性は『身体強化』にある。

『近接戦闘』が得意な『魔法使い』は、高レベル者に限られてくるし、『ガス欠』状態になったら、しばらくは「『弱体化』+『魔法』使用不可+『魔闘気』使用不可」という状況である。

『ゲーム』的には、『前衛職』が『ガス欠』を起こしても、『後衛職』がフォローを出来るが、逆は厳しい(まぁ、『前衛職』が崩れたら、総崩れになる可能性もあるので、場合によるが)。

『敵』が少なければその限りではないが、『魔法』の強みは『遠距離』からの『範囲攻撃』にあるので、多数の『敵』を相手にしていた場合は最悪である。

『ゲーム』でさえ、不味い状況になるのに、命の懸かった『アクエラ』でそんな選択をする者はまずいない。

そもそも、僕の様な『おっぱい女神チートめがみ』の『加護』がない者達が他の『技術』に手を出したとしても、『ステイタス』的に中途半端な状態になるだけだしねー。


「アキトはもうマスターしてるんでしょ?」

「一応、ね。まだまだだし、使い所は限られてくると思うけど。僕の基本スタイルは『魔法使い』だし、ソロでもパーティーでも『魔法使い』が多用する『技術』じゃないしね。」

「そうっスね。『魔闘気』は、アイちゃんの様な『アタッカー』こそが使うべき『技術』っスからね。」


雑談を交わしながら、『魔闘気』の訓練を続けていると、最初はアルメリア様が、続いて、僕とアイシャさんも『気配』に気付いた。


「おや、『領域干渉』に進入して来た人達がいるっスね。アイちゃんとレルフさん以来のお客さんっスよ。」

「すごい『隠行おんぎょう』ですね。こんな近くに来るまで気が付きませんでしたよ。」

「うん、でも、『敵意』は無いよ。って言うか・・・。」


アイシャさんが何か言い終わる前に、数体の影が僕らの前に忍び寄って来た。

咄嗟に戦闘体制に意向しつつ、様子を窺う。

『敵意』が無いと言われても、『魔獣の森』に暮らす者としての習慣ゆえだ。

しかし、そこに現れたのは、所謂『忍者』の様な衣装に身を包んだ『エルフ耳』の面々だった。

しかも、僕の前で『土下座』の如く頭を下げていた。


「えっ!?」


突然の事に戸惑う僕に対して、代表格らしき銀髪の女性が頭を下げながら言葉を発した。


「お側に控えるのが遅くなり、まことに申し訳ありません。エルネスティーネ以下5名、今日より主様あるじさまの家臣として末席に加えて頂けますよう、伏して御願い申し上げます。」


なんじゃこりゃ?

助けてを求める様に僕はアルメリア様とアイシャさんに目線を向ける。

アルメリア様は、ニコニコと『淑女モード』に入り、アイシャさんは何故か僕の腕を掴んで威嚇している。

いまだに頭を下げ続ける『エルフ族(?)』の人達に、僕は途方に暮れてしまった。


「と、とにかく、顔を上げて下さい。状況が分からないので、説明をお願いします。」



◇◆◇



その後、やたらと恐縮する彼らをなんとか説得し、『シュプール』の『応接間』にて訪問の理由を聞いていた。

エルネスティーネさんと名乗った女性はソファーに座り、他の方々はその後ろに見事な直立不動の構えを取っている。

何だか『軍人』みたいだなー。

僕はもちろん彼らにも座る様に促したが、彼らは辞退し、この形に落ち着いた。

彼らとしては、敬意を示している様なのだが、こういう扱いに慣れていない僕としては困ってしまった。

圧がすごいからね?

なんか、逆に叱られている気分だし。


「つまり、『ナートゥーラ』様の『神託』を受け、ここに来たと?」

「その通りでございます、主様あるじさま。」

「その『主様あるじさま』ってのは止めてもらえませんか?アキトでいいですから・・・。」

「何を仰います、主様あるじさま。我らは主様あるじさまの家臣です。主様あるじさまをお名前でお呼びするなど畏れ多い。」


こんな感じで、僕は『上から目線』ならぬ、『下から目線』で辟易してしまっていた。

しかし、『エルフ族』の『神』、『ナートゥーラ』か・・・。

『ナートゥーラ』様が何を考えているかは知らないが、エルネスティーネさん達が『結界』に進入して来た以上、『害意』や『悪意』が無い事は明白である。

僕に某かの『役割』を期待しているのだろうが、それは『エルフ族』と『人間族』の『外交問題』だろう。

『英雄』としての『役割』があるとは思えない。

『独立戦争』とか『解放戦争』と位置付けての『旗印』、あるいは『御輿』になれと言うのなら分からない話じゃないが。

いずれにせよ、『奴隷解放』は僕も賛成だが、ただの『正義感』とか『使命感』で動ける単純な話でもないだろう。


「お話は分かりましたが、僕に出来る事がそうあるとは思えませんが?お力を貸す事はやぶさかではありませんが、『エルフ族』側としては納得し難いでしょうけど、これは最早『外交問題』です。早急に『使節団』を立てて、『交渉』なりをする『案件』だと思えますが?」

「アキトさん。『エルフ族』の皆さんも、その事は分かっておいでですよ?皆さんがアキトさんに望んでいるのは、そう言った『政治的』な事ではありません。」

御母堂様ごぼどうさまの仰る通りです。我らも『エルギア』にて『建国』は済んでおります。『外交』をするにしても、『戦争』をするにしても『使節団』を派遣する段階までは来ております。しかし、我らの『時』は長いとは言え、『国同士』の『外交』では『同胞』の『解放』には時間が掛かり過ぎる可能性があります。」


おや、『とある国』と『日本』の話に似た様なモノがあったな・・・。

確かに『外交交渉』は正規の方法だが、水掛け論になる可能性は往々にしてある。


「『同胞』を返してくれ。」

「いえ、『お仲間』はもう亡くなっていて、お返しできませんよ。」

「嘘を言うな。では命懸けで『亡命』した『同胞』は、どう説明するのだ。」

「おや、情報が錯綜してしまっていたのでしょう。誠に遺憾です。しかし、他の方々はもうおりませんよ。」

「そんな言葉が信じられるか。直接調査させて頂きたい。」

「『内政干渉』になる可能性があるので、お断りします。」

「・・・。」


てな感じ。

素直に非を認める訳ないよねー。

だとすると・・・。


「つまり、『国同士』の交渉ではなく、極秘で『解放』してゆくのに協力してほしいと?」


そうなのだ。

『公然の秘密』であるとは言え、現在の『ロマリア王国』では『奴隷』は違法である。

つまり、『国』としては『奴隷』はもういないと声明を出せるのである。

実際にはいたとしても、それは『奴隷』所持者の過失になる。

逆に言うと、お互いおおやけに動けないが、武力で『奴隷』を『解放』したとしても、『奴隷』所持者は『国』の後ろ楯を得られないと言う事でもある。


「まさしく。」

「なるほど。」

「アキト、力を貸してあげようよ。私は同じ『他種族』として黙ってられないよ。」


先程とは、うってかわってアイシャさんはそう訴えてきた。


「はぁ、まぁ、分かりました。お力になりましょう。どこまで出来るか分かりませんが。」


僕も心情的には、『奴隷制度』には反対だしねー。

一般的なイメージの『奴隷』と、実際の『奴隷』では、扱いが違ったりするが、『人権』を無視している以上擁護は出来ない。

あまり、気乗りはしないが・・・。


「しかし、『人間族』よりスペックの高い『他種族』を、どのようにして『拘束』し、『服従』させているのでしょう?皆さんの力量を見るに、逃げ出す事は比較的容易に思えますが?一般的な『エルフ族』の力量は分からないので、何とも言えませんが。」

「アキトさん。『人間族』は、『古代魔道文明』の『遺跡』から発掘された『失われし神器ロストテクノロジー』、『隷属の首輪』の『模倣品レプリカ』を大量に製造し使っているのです。」

「なん・・・だと・・・!?」


いや、『オタク』的には良く聞く様な『魔道具』だが、それが『古代魔道文明』から発掘され、しかもあまつさえその様な用途に使われている事に、何故だか無性に腹が立った。

『歴史』のロマンを土足で踏みにじられた様な感じさえする。


「よろしい、ならば『戦争』だ。速やかに『奴隷』などとくだらない事をしている輩を殲滅しよう。奴等には生きる価値はない。いや、逆に『隷属の首輪』の解除方法を調べ上げ、それを利用した方が効率的だろうか?そういう輩は、横の繋がりもあるだろうし、『隷属』状態にある『エルフ族』もかなりの数がいるとみないと危険だし・・・。無闇にそういう連中を殲滅してしまうと『駒』として使えなくなるし、『隷属』状態にして使う方が建設的かもしれんな・・・。」


とたんに饒舌になる僕。

頭もフル回転状態だ。

先程までは、ある意味『大人』としてあらゆる事を考え、慎重に、言い方はアレだが、消極的賛成だったが、『オタク』特有の『謎ブチギレスイッチ』が入ってしまった僕は、今はむしろ超絶に積極的だった。


「おお、主様あるじさま。我らの為にそこまでお怒りに・・・。我ら一同、主様あるじさまに感謝すると共に忠誠をここに誓います。」


エルネスティーネさんと、『エルフ族』の皆さんは感動にうち震えている。

勘違いなのだが、この時の僕には耳に入っていなかった。


「ちょっ、アキト。落ち着いて。」

「大丈夫だよ、アイシャさん。僕は何時だってクールさっ。」

「あらあら、アキトさんったら、『熱血漢』なんですから・・・。」

「いやいや、アルメリア様。貴女がアキトの『スイッチ』を入れた様に思えますがっ!?」

「よし、では『情報』を整理しよう。エルネスティーネさん、貴女方の持っている『情報』を教えて下さい。」

主様あるじさま、ティーネとお呼び下さい。そして、敬語など不用です。」

「うん?そうかい?ならば、ティーネ、そして君達も、力を貸してくれたまえ。」

「「「「「「はっ!!」」」」」」

「みんなも、落ち着いて~!!!」


普段なら、一番『猪突猛進』と言う言葉が当てはまりそうなアイシャさんが『ツッコミ』に回るほど、カオスな状況だった。


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