第10話 暗躍する者達



『ライアド教』は、『アクエラ』において1、2を争う『宗教』である。

その『教義』は、要約すると「『至高神ハイドラス』の元に人は皆平等である。」と言った様な、ありふれた、かつ当たり障りの無いモノである。

また、『ライアド教』の『神官』は、『秘術』たる『回復魔法』を使う事が出来る。

『アルメリア・ストレリチア』と『アキト・ストレリチア』の両名も使用可能だが、彼女等は例外で、『回復魔法』は『ライアド教』の専売特許であった。

もちろん、『魔法』に依存しない『医術』や『薬学』も存在するが、以前述べた通り『回復魔法』の効果は目に見えて分かりやすく、その『奇跡』は、『ライアド教』への人心掌握に一役買っていた。

大半の『信者』達は、善良で博愛主義的な傾向にあるが、中には『ライアド教』以外は『邪教』だとする者達や、『他種族』に対して排他的な考えを持つ者達も存在する。

これは、『宗教』とはいえ、『組織』である以上仕方の無い側面であるが、1つのモノを信じる集団でさえ、様々な考え方があると言う良い例だろう。

そんな、一枚岩では無い『ライアド教』の中でも、最も暗部な『組織』が『血の盟約ブラッドコンパクト』であった。

血の盟約ブラッドコンパクト』は、『ライアド教』の中でも、一部の者達にしかその存在を認識されていない『組織』で、要人の暗殺や脅迫、諜報活動から情報操作に至るまで、所謂後ろ暗い事を主に活動内容としている。

今現在は、『英雄の因子』所持者たるアキト・ストレリチアの『保護』に失敗し、『神の力』を大きく失ってしまった『至高神ハイドラス』は、別の手段で信仰を獲得をする為に、『神託』を下した。

それが、『古代魔道文明』の『遺産』、『失われし神器ロストテクノロジー』の発掘であった・・・。



血の盟約ブラッドコンパクト』の一員、『ニル』は、とある国の『元・貴族』であった。

ニルとは、所謂『コードネーム』で、彼の元々の名は、『血の盟約ブラッドコンパクト』に所属した時から永久に抹消されている。

ニルは、元々破滅的な願望の持ち主で、『元・貴族』と言う出自の故の高い知能と『魔法技術』、そして、変質的な『狂気』を併せ持っていた。

『至高神ハイドラス』は、そんな彼を『駒』として見初め、『神託』を下す事で、彼を非常に危険な『狂信者』に仕立て上げた。

肉体を持たない『アストラル体』の『至高神ハイドラス』であるが、その『声』を聞ける者は何も『巫女』と言う特殊な存在だけではない。

『至高神ハイドラス』に、『』者は、その声を聞く事が出来るのだ。

その事は、ある種の『優越感』を与え、『狂信』をその者に与えるのだが、『至高神ハイドラス』がその事まで分かった上で行動しているのかは不明である。

それはともかく。

ニルは、家が『ライアド教』だっただけで、元々はあまり熱心な信者では無かった。

しかし、『至高神ハイドラス』の『神託』を受けた事で、一気に『ライアド教』に傾倒していったのである。

血の盟約ブラッドコンパクト』のメンバーは、ニルの様な高い『能力』を持つ『狂信者』の集団で、『至高神ハイドラス』が直接『神託』を下す事で活動している『組織』なのであった。

アキト・ストレリチアの『保護』に失敗したモルセノ司祭も、彼らの手により『殉教』している。

ニルが今現在抱えている『案件』は、『魔獣の森』に眠る『古代魔道文明』の発掘と調査であった。

と、言っても彼自身が直接指揮している訳ではない。

『トラクス領』領主、フロレンツ・フュルスト・フォン・トラクスが、秘密裏に指揮しているのだ。



『トラクス領』は、『ロマリア王国』と、北側の国『トロニア共和国』との間を挟む様に存在する『領地』である。

所謂『緩衝材』的な『領地』である故に、フロレンツは、『侯爵』の爵位を賜っている有力な『貴族』である。

と、言っても、『トロニア共和国』との間には、『ノーレン山』を始めとした高い山々が存在する為、実質的にはそこまで危険度の高い『領地』では無い。

とはいえ、『他国』との『国境』にある『領地』ではあるので、軍事的には、重要な拠点である事には変わりない。

そこを治める『領主』フロレンツは、非常に優秀な『為政者』であった。

『領地』の一部である『ルダ村』の例でも分かる通り、生活水準は『ロマリア王国』でも高水準で、税率も他に比べて低く、その『税金』も、治水や街道整備といった形で『領民』に還元されている。

一方で、『ビジネスマン』としても辣腕をふるい、鉱山開拓・経営や、高地に適した茶葉の生産にも成功している。

王都『ヘドス』で、『中央政治』に関与している間も、彼の元にはひっきりなしに人々が訪れるほど多忙だったモノだ。

その間の『領地経営』を肩代わりしていた『代官』も、彼の弟子の1人で、フロレンツ不在の『領地経営』を立派にこなしてみせた。

フロレンツの息子も、後継者として研鑽を積み、今ではフロレンツの変わりに、『中央政治』にて頭角を表し始めている。

息子も、弟子も1人立ちした事で、フロレンツはそろそろ引退かと、『領地』に戻っていたのだった。

そんな、地位も名声も持つ超人の様なフロレンツだったが、彼には1つだけ、どうしようもない『趣味』があった。

それが、『エルフ族』の『愛玩奴隷』を囲う事であった。

『ロマリア王国』では、今現在では『他種族』を『奴隷』とする事は違法である。

しかし、それは表向きの事で、一部の『組織』や『貴族』の間では、今でも『奴隷』は存在する。

フロレンツの様な、『高潔』なイメージのある『貴族』にとっては致命的な『スキャンダル』に成りうる『秘密』ではあるが、彼の影響力を恐れ、ちょっかいをかける者はこれまで居なかった。

フロレンツの力は、表にも裏にも広がっており、彼に表立って対立する者は皆無だったのだ。

敵に回した瞬間、自分の身も危ういからである。

しかし、そこに現れたのが『血の盟約ブラッドコンパクト』のニルであった。

『ライアド教』と言う、ある種の『治外法権』を持つ者には、フロレンツの持つ力は通用せず、逆に『狂信者』たるニルは『道理』とか『法』で動く者では無い為、フロレンツは窮地に立たされてしまった。

ニルにとって、唯一の行動原理は『至高神ハイドラス』の『言葉』であり、フロレンツに『秘密』保持の為に『協力』を迫ったのだった。

所謂『脅迫』ではあったが、フロレンツにとっても『メリット』のある提案でもあった。

フロレンツも『貴族』の1人である為、『魔法技術』を一応修得している。

これまでは、『魔法』に関する事にはあまり関与せずにここまで来たが、晩年を『古代魔道文明』の発掘に費やす事で、『魔法技術』発展に大きく貢献する事になるだろう。

『為政者』として『ビジネスマン』としての『計算高さ』ゆえに、フロレンツはニルの提案を呑んだのだった。

実際、やっている事自体は後ろ暗い事では無い。

『古代魔道文明』の発掘や調査は、諸々の事情により後回しにされる事が多々あるが、『魔法使い』としては歴史的にも文化的にも非常に意義のある事である。

本来なら、『国家事業』レベルの『案件』だ。


「しかし、良いのか、ニル殿。やっている事といったら、未熟な冒険者を『魔獣の森』に呼び寄せ、一方で私の私兵が密かに『古代魔道文明』の『遺跡』の発掘と調査をするだけだが?」


50代半ばながらも、ガッシリとした体格の生命力にあふれたフロレンツは、線が細い不気味な魅力を放つ20代後半のニルに訊ねる。


「心配いりませんよ、フロレンツ侯。しゅはおっしゃいました。「『失われし神器ロストテクノロジー』は、人類の発展に大きな力となるだろう。人々を導く者として、時間が掛かろうとも、必ず手に入れるのだ。」と。本来なら、国を挙げて大々的にやるべき『事業』なのでしょうが、そうすると、『利権』を求めた者達の横やりが出ないとも限りません。あくまで『ライアド教』が『主導』した、フロレンツ侯がそれに『協力』をした、と言う筋書きでなければならないのです。俗な話ですが、人々を納得させられる『成果』が無ければ、いくら『ライアド教』と言えども信仰を集める事は出来ませんからねぇ。」


ニルは、人格に問題はあるが、非常に理知的な側面もあった。

『脅威』の排除には躊躇は無いが、その理由もある意味納得のいくモノだった。

全ては『ライアド教』、ひいては『至高神ハイドラス』の為である。

フロレンツも、『貴族社会』で揉まれてきた男である。

そこに、『陰謀』や『策略』があるのは当然で、それが自身や『家』にとって、『メリット』があるのか『デメリット』があるのかの『リスクマネージメント』は即座に出来て当たり前なのだ。


「それに、『古代魔道文明』の『遺跡』自体は、もう発見されているのですよね?ならば、『失われし神器ロストテクノロジー』の発見も、時間の問題でしょう。まぁ、『失われし神器ロストテクノロジー』の解析と研究の方が、時間も資金も掛かりますので、フロレンツ侯にとっては、そこからが本番ですがねぇ。今後とも、お力添えを、よろしくお願いしますねぇ。」

「ふむ、ここまで来たら一蓮托生でしょう。まぁ、こちらとしても、『秘密』の件は別としても、色々と『利』のある話ですから、力を貸す事は吝かではありませんよ。」

「それは、有り難い。」


お互い、相手を利用し合う関係だが、利害が一致している内は協力するだろう。

こうして、歪で不安定な関係が続く中、『失われし神器ロストテクノロジー』発見の報が届いた。

アキト・ストレリチアが7歳の半ばを過ぎた時の事だった・・・。



◇◆◇



『エルフ族』と言えば、『ファンタジー』作品においては、『竜種ドラゴン』と並んで有名な『種族』であろう。

作品によって、様々な違いがあるモノの、概ね「男女共に見目麗しく、『魔法』との『親和性』が高く、自然を愛する『森の民』で、長い寿命を持つ」と言う様なイメージがある。

しかし、それ故に悪い『人間』に狙われやすく、『奴隷』として辛酸を嘗める作品も多い。

エ〇同人的には、『姫騎士』であったり、『くっころ』だったり、『オーク』だったり、『ゴブリン』だったりする。

おっと、いかんいかん。

煩悩退散!!!

そんな『エルフ族』だが、ここ『アクエラ』にも『エルフ族』が存在する。

『オタク』な僕としては、是非とも会ってみたい『種族』である。

しかし、『ロマリア王国』には過去に『エルフ族』と『獣人族』を『奴隷』としていた歴史があり、迫害を恐れて『獣人族』は『ハレシオン大陸』の『人類未踏』の深い大森林の中に、『エルフ族』は『ハレシオン大陸』から離れた島国に姿を消したのだった。

僕としては、非常に残念な事に、気軽に会える様な状況では無かったのだ。

しかし、そんな『エルフ族』が、僕が8歳になった頃、突然『シュプール』に現れたのだった。



『エルフ族』は、『ロマリア王国』から東の『エルギア列島』に逃れた。

そこは、まだ『人類未踏』の地であった為、『エルフ族』としては長い迫害の歴史に終止符を打てたのだっだ。

『森の民』と言うイメージがあるが、『エルフ族』の中には、海に精通した『部族』も存在する。

『地球』における『伝承』にも、遠い島国に『エルフの国』を持つ、なんて言い伝えもあり、『海の民』としての側面もあったりする。

『人間』も、『海洋技術』を一応持ってはいたが、『航海術』や『造船技術』においては『エルフ族』には遠く及ばなかった。

また、『エルフ族』は『精霊魔法』を駆使する事で、海上においては敵無しであった。

『精霊魔法』とは、『エルフ族』固有の『魔法』の一種で、『エルフ族』なら誰でも扱えるモノである。

しかし、『魔法』とは『技術』であるので、学習と研鑽がなければ『奥義』とか『秘術』と言われる『上位魔法』は使えない。

それは『精霊魔法』とて例外ではなく、『精霊魔法』とはせいぜい『初級』の『魔法』を学ばずに扱える程度に過ぎないのだ。

それでも大きなアドバンテージだが、それよりも『上』の段階に進むには、どうしても『師』の存在は不可欠である。

しかし、『魔法使い』達は『技術』の『秘匿』が常であるし、『エルフ族』は迫害を受ける『他種族』だ。

もちろん、『ハレシオン大陸』全土で迫害を受ける訳ではないが、そんな『他種族』に『魔法技術』を伝授しようとする者は皆無だった。

それゆえ、『エルフ族』の『精霊魔法』は、まだ未熟な『技術』なのであった。

しかし、それでも『精霊魔法』は有用である。

何より、全ての『エルフ族』が扱えるのが強みだ。

『人間』側の『魔法使い』は、絶対数が少ないからである。

『人間』と『エルフ族』の『全面戦争』となれば、『エルフ族』側の圧倒的不利だが(人口総数の桁が違い過ぎる為)、局地的な戦闘、海上での戦闘なら、『人間』は『エルフ族』に敵わない状況であった。

そうした事情もあり、『ロマリア王国』では、『奴隷制度』撤廃となったのだった。

全ての『エルフ族』が『エルギア列島』に逃れた訳では無いが、それまでは、『部族単位』で森に暮らしていた『エルフ族』が、1つにまとまる契機となったのだ。

将来的に『エルフ族の国家』が誕生する可能性は高く、外交上、相手国に『大義名分』を与えるのは悪手でしかない。

そうした思惑とはうらはらに、『エルフ族』側は沈黙を続けていた。

散発的な『遭遇戦』はあったモノの、不可侵条約を締結する為の『外交』をする訳でも、奴隷解放を求めた『戦争』をする訳でも無かった。

『何か』を待っている様でもあり、全てを忘れて引きこもっている様でもあった。

それが数十年も続けば、『人間』側の警戒感も薄れてくる。

公式には認められていないが、一部の『組織』や『貴族』が『エルフ族』の『奴隷』を扱っていても、『黙認』する様な状況にまでなっていた。

しかし、当然『エルフ族』は何もしていない訳では無かった。

捕らわれた『同胞』を解放すべく、水面下で力を蓄えていたのだった。

そして、待ち望んでいたのだ。

『エルフ族』の『神』が告げた、『真の解放』をもたらしてくれる『英雄』の誕生を・・・。



――――――――――――――――――――



現時点でのアキトとアイシャのステイタス。



名前:アキト・ストレリチア

性別:男

種族:人間

職業:自宅シュプール警備員(無職)

年齢:8歳


レベル:369

HP:3221

攻撃力:3349

防御力:3217

力:3266

耐久:3132

器用さ:3414

敏捷性:3542

素早さ:3503

知性:3997

精神:4006

運:982

魅力:4186


魔素感受性:71

魔法習熟度:702


(特記事項:『英雄の因子』所持者

発現能力:九死一生・言語理解・神格化カリスマ事象起点フラグメイカー)



◇◆◇



名前:アイシャ・ノーレン・アスラ

性別:女

種族:鬼人族

職業:押し掛け女房(無職)

年齢:15歳


レベル:361

HP:4013(☆)

攻撃力:4007(☆)

防御力:3968(☆)

力:3842(☆)

耐久:3766(☆)

器用さ:3654(☆)

敏捷性:3020(☆)

素早さ:2947(☆)

知性:2031

精神:2096

運:3681

魅力:3015


魔素感受性:51

魔法習熟度:0


(特記事項:『鬼人族』固有の能力→身体能力にプラス補正)



◇◆◇



補足

・レベルMAXは500(未限界突破時)。

・数値のMAXは5000(未限界突破時)。※ただし、レベルを500まで上げたとしても、必ずしも5000まで上昇する訳ではない。

・『運』の数値は個人の資質に寄る。

・おおよその強さ

レベル200未満→一般人

レベル200~250→『初級冒険者』クラス

レベル250~300→『中級冒険者』クラス

レベル300~350→『上級冒険者』クラス

レベル350~400→『S級冒険者』クラス

レベル400~500→『伝説上の領域』

・『魔素感受性』は100がMAXで、『魔法技術』などを学ぶ事で上昇する。

・『魔法習熟度』は、1000がMAXで、『魔法技術』などを学ぶ事で上昇する。

・高レベル者の中には、『魔法技術』などを学ばずに、『魔素感受性』が50を越える者もいる。そうした者は、『魔闘気使い』となる。

・『魔闘気』とは、『魔法技術』に依存しない『魔素』の使用技術である。『魔法使い』が『魔素』を利用して、『魔法』を発動させるのに対し、『魔闘気』は『魔素』を身体強化などに使う。爆発的に各パラメータが上昇するが、運用には注意が必要である。運用効率が悪いとすぐに『ガス欠』状態になり、一時的に『弱体化』のペナルティがある。

・『魔素』とは、『アクエラ』の大気中に満ちている未知の『エネルギー』である。『魔法技術』に必要不可欠の『魔法』の『素』。


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