第9話 『ルダ村』にて 2



『ルダ村』の『冒険者ギルド支部』を出た僕は、大通りの東側の『お肉屋さん』に向かった。

クロとヤミへの『お土産』の『高級肉』を、忘れない内に確保する為だ。

『アクエラ』における食肉は、所謂『生肉』の状態で『取引』する事はあまりない。

鮮度を保つ『冷蔵・冷凍技術』が、まだ発達していないからだ。

『魔法技術』を用いれば、一気に発展を遂げる可能性があるが、前述の通り『魔法』を扱える者は、『貴族』などの所謂『特権階級』に限られてくるので、それも難しい。

まぁ、『地球』でも、僕らの良く知る『冷蔵庫』が普及したのもわりと最近の話なので、これからの発展に期待だな。

『異世界転生』モノだと、こういう観点から『物』を開発して大儲け、なんて展開もあるが、これまでの経験から、特殊な知識でも無い限り、一般人には到底無理な話であると僕は感じている。

『冷却システム』の概要を正確に理解し、同じ物を再現する技術がなければならないし、「そこで『魔法』ですよ」って感じの『魔法万能説』は通用しない。

イメージすれば『魔法』が使える、なんて事はなく、『アクエラ』における『魔法』は『技術』なので、学習と研鑽を積まないとそもそも発動すら不可能だ。

『地球』時代の幼少の頃に読んだ『偉人伝』の様に、試行錯誤と挫折を繰り返せば、『冷蔵庫』を作る事は可能かもしれないが、その場合も10年、20年の長いスパンで物事を考えなければならず、そう簡単には億万長者には成れないだろう。

資金援助してくれる『パトロン』の存在も必要不可欠だしねー。

『地球』においても、そういう大金が動く様な事を、『根回し』などをせずにやろうモノなら、まず間違いなく面倒な目に合うだろうし、今の所僕はやるつもりはない。

同じ様に、『異世界転生』モノでお馴染みの『銃』を使った『チート』とかもやらない方が賢明だろう。

冷静に考えれば、この『世界』の『軍事事情』を一変させるだろうし、そもそも『銃』の構造を正確に理解し、かつ製造した事のある者は『日本人』にはまずいないだろうが、下手にそれっぽいのを作れちゃったりしたら、各国から狙われる事請け合いだ。

さらに、模倣でもされ様モノなら、『大量虐殺兵器の父』と言う、大変不名誉な形で『アクエラ』の歴史に名を刻む事になるだろう。

出来るか、出来ないかではなく、その行動の末にどんな『メリット』と『デメリット』があるかまで考えておかないと、自らの首を絞める結果になる。

なんでも、やれば良いというモノじゃないと僕は考えている。

まぁ、それはともかく。


「こんにちは~。」

「いらっしゃい!おうっ、アキトじゃねーか!」

「ハロルさん、こんにちは。今日のオススメはどれですか?」


『お肉屋さん』の店主、ハロルさんにオススメ品を聞く。


「おうっ、運が良いぜ、アキト!ついさっき、『冒険者』から持ち込みがあってよっ!偶然、『ワイルドボア』を狩れたんだとよっ!『加工』前だが、どうするっ?」


『アクエラ』では、『加工処理』した所謂『干し肉』が一般的な売買での状態だ。

しかし、その日に取れたモノならその限りではなく、しかも、『ワイルドボア』とは運が良い。

『ワイルドボア』は、『ボア』、つまり猪っぽい『魔獣』の事だが、非常に警戒心の強い『魔獣』で、めったにエンカウント出来ない。

しかし、その『肉』は非常に美味で、まごうことなく『高級肉』である。

ただし、素材としては、『牙』と『毛皮』が売れるが、そんなに良い値ではない。

『肉』はおいしい稼ぎになるが、前述の通り、めったにエンカウント出来ないので、狙って狩る『冒険者』はまずいない。

彼らにも生活があるからな。

ただ、『隠密技術』の高い『狩人』なら、必ずとはいかないまでも、かなりの頻度で狩れるそうだ。

『隠密技術』と聞くと、『暗殺者アサシン』を連想するが、『狩人』の『技術』でもある。

『技術』をどう使うかによるって事だね。

僕は、迷う事なくハロルさんに答えた。


「10kg下さい。『生肉』で良いので。」

「おぉ~、景気良いねぇ~!あいよっ、10kgなっ?」


ハロルさんは、確認する様に復唱した。

僕は、こくりと頷く。

ちなみに、『単位』については、『英雄の因子』の『言語理解』の効果か、自分の知る『単位』でも通じる。

僕の話す『言葉』や書く『文字』も、僕としては普通に『日本語』を話したり、書いている『感覚』なのだが、しっかり相手に理解されるのだ。

『アクエラ』は、あり得ない事だが、『日本語』が一般的な『言語』なのだろうか!?、などと思った事もあるが、それはなく、書かれた『文字』は見覚えのない、しかし、何故か『理解』出来る『文字』だったりする。

あまり考え過ぎても、答えは出ないので(アルメリア様に聞いたが、「深く考えるな」と言われた)、『英雄の因子』(ご都合主義)の『力』と無理矢理納得する事にした。

まぁ、個人的には便利なので、実際困らないしねー。


「毎度っ、金貨1枚だなっ!今夜はご馳走だな、アキトっ!」

「ええ、ありがとうございます。タイミングが良かったですよ。」


何個かの『ブロック肉』にしてもらい、金貨1枚(およそ10万円)支払う。

日常的にはあり得ない金額の買い物だが、クロとヤミの為にも、仕方ない。

けして、それを理由に『ワイルドボア』の『肉』が食べたかった訳じゃない(棒)。

ちなみに、『ルダ村』の一般家庭における1か月の『収入』は、およそ金貨3枚(30万円くらい)で、これは『ロマリア王国』でも、相当高水準らしい。

らしいと言うのは、僕は他の街や村には行った事がまだないので、伝え聞いただけだからだ。

他の街や村では、金貨2枚(およそ20万円)、下手したら金貨1枚(およそ10万円)なんてのもザラらしい。

そんな事を考えながら、僕はハロルさんに別れを告げ、店を出た。

さて、当初の目的は達したし、どうするか?

『生肉』を持っている状況だから、そう長居は出来ないし。

アルメリア様とアイシャさんの『お土産』でも見てから帰ろうかな?


「よお、アキト!珍しいじゃねーか!」


ふと、その時声が掛かる。

見ると、同い年くらいの男女数名がこちらに走ってきた。

彼らは、『ルダ村』の子ども達で、僕の幼なじみ(?)である。


「やぁ、みんな。『教学』は良いのかい?」


僕は、そう言うと、元気の良いツンツン頭の金髪男子が顔をしかめた。


「アキトだって行ってねーじゃん。それに、俺は将来『騎士』になるつもりだし、別にいーよ。」

「レイナード、何度も言うけど、多少は教養も必要だよ?」

「まぁ、レイナードの言う通り、体を動かしていた方が楽しいけどね~。」

「俺は、勉強も運動も苦手。『肉』食ってる方が好き。」

「テオはいつもそれじゃん。」


一気に騒がしくなったな。

子どもってこんな感じだったっけ?

僕も、肉体年齢的には6歳の子どもだが、精神年齢は40近いおっさんだし、多少戸惑うが、別に騒がしいのは嫌いではない。

ちなみに、『教学』とは、『ライアド教』が子ども達に教えている『学校』の事だ。

『学校』と言っても、『日本』の昔の『寺子屋』に近いモノで、基本的な読み・書き・計算などを教える程度だが。

この手の『異世界』にありがちな、『平民』が知恵をつける事は、普通は支配階級側が忌避するモノだが、前述の通り、その『壁』の役割は『魔法』がしている。

そうなると、『人材確保』の観点から多少の『教養』は必要だ。

こういう所から、優秀な人材が発掘されるのは、『歴史』を見れば明らかだしね。

僕にしてみれば、迷惑しかかけられていない『ライアド教』だが、『社会貢献』もしているのだ。

当然、思惑もあるんだろうけど、利用出来るモノは利用した方が良い。

まぁ、僕は行ってないんだけどねー。


「リベルトの言う通りだぞ、レイナード。『騎士』になるなら、剣の『腕』ももちろん必須だが、『礼儀作法』と『教養』も学んだ方が良い。まぁ、遊ぶのも良いけどね。」


レイナードは、『憲兵』のバドさんの息子だ。

バドさんは、元々『騎士団』に所属していた名のある『騎士』だったのだが、結婚を機に『騎士』を引退し、『憲兵』となった。

『騎士団』=軍、『憲兵』=警察、の様なイメージがあるが、そこら辺は結構曖昧だ。

軍と警察機構が渾然一体となっている事は、『地球』でも珍しい事ではない。

『騎士』は、若い『平民』の男子の憧れの『職業』の1つでもある。

まぁ、レイナードの場合はバドさんに憧れているんだろうけどね。


「まぁ、いいじゃん!それよりもさ、アキトは今何してんの?」


短い栗毛の元気少女、バネッサが僕に訊ねる。

後ろでは、「アキトもリベルトもそう言うけどさ、俺勉強苦手なんだよな~。」と、レイナードがブツブツ言っている。


「僕は、マナー知らずの『冒険者』パーティーを捕まえて、『冒険者ギルド』に連行した帰り。で、今はハロルさんの所で『ワイルドボア』の『肉』を買ってたトコ。」


そう言うと、テオの目がキラーンと輝いた。


「『ワイルドボア』の『肉』ですとっ!?」

「・・・いや、そこじゃないでしょ。アキト、危ない事は止めてよね。レイナードにはよく注意するのに、貴方の方がよっぽど無茶をするわ。」

「ケイア、僕は大丈夫だよ。これでも結構強いんだぞ?」


テオは、同年代に比べてポッチャリした印象がある男子で、『肉』に目がない。

ケイアは、『受付嬢(年輩)』ケイラさんの遅めの娘で、黒髪ロングの心優しい女の子だ。

同じ黒髪同士、親近感があるのか、よく小言を言われる。

ちなみに、『アクエラ』では、『黒髪』は別に忌避されてはいない。

特に『日本人』は勘違いしがちだが、『地球』でも『黒髪』はどこの民族にも見られる珍しくもない特徴で、それは『アクエラ』でもそうである。

僕の場合は、『双子』なのに、髪色が違った為、忌避されたのだが。


「アキト、ケイアが言いたいのはそういう事じゃないよ。・・・ハァ、レイナードもアキトも鈍感だよなぁ・・・。」

「「うんっ?」」

「・・・なんでもない。」


『ルダ村』村長の所の次男坊・リベルトは、兄と妹に挟まれているので、自然とバランス感覚に優れた利発な男子だ。

この『アクエラ』には、『メガネ』は無いが、あれば必ず着けているであろう『優等生タイプ』である。


「で、『教学』をサボって何してるの?」

「それより、『ワイルドボア』の『肉』の件でお話が・・・。」

「じゃなくて、『冒険者』パーティーの件の話を・・・。」

「テオもケイアも落ち着いて。アキトならレイナードと違って無茶はしないからさ。ア、アルメリア様もいらっしゃるんだから・・・。」

「そう言えば、お姉さま最近見ないなぁ。」

「おい、リベルト。俺がバカみたいじゃねーか。」


やいやい、好き勝手に騒ぎ出す。

テオはブレんなぁ。

あと、リベルトはアルメリア様に憧れを抱いているらしい。

結構マセてるよな。


「まぁ、いっか。アキトも、ちょっと付き合えよ。父さんに聞いた穴場があるんだ。」


この集団のリーダー格のレイナードが僕にそう言う。


「へぇ、面白そうだな。」


バドさんは、意外と昔は悪ガキだったらしく、息子のレイナードにもちょっと悪い遊びを教えるのだ。

それでよく奥さんに怒られている様だが。

ちょっと行ってみようか。

僕の失言もあり、テオの目がマズイ事になってるし、少しオヤツ替わりに『ワイルドボア』の『肉』を食わせてやろう。

僕も、実は味が気になっていたしねー。



それから、僕らは『ルダ村』の東南のとある場所に来た。


「父さんの話だと、ここら辺に・・・。おっ、あったあった。」


レイナードが見つけたのは、木製のバリケードの綻び部分。

バドさんがレイナードに教えたのは、『検問所』を通らない『ルダ村』の抜け出し方だった。

おい、『憲兵』!

しかし、水堀は?と思ったのだが、そこもクリアしている。

水堀は水深3mほどの深さがあり、『人間種』も『モンスター』も『魔獣』も、歩いては渡れない。

跳ね橋を使わない強行突破の場合、泳ぎになる訳だが、そうなると弓矢の格好の的である。

『モンスター』や『魔獣』の中には、水に濡れるのを嫌がる種もいるし、季節によっては、水に入るだけで体力を消耗する。

体温を奪われるからね。

籠城戦には適した水堀だが、当然ながら脱出する為の『抜け道』もなければならない。

その1つが、ここと言う訳だ。


「水で見えないけど、破棄された堤防があって、歩いて渡れるんだってさ。」

「ほぅ、知らなかったなぁ。」


靴を脱いでレイナードは先行して、堤防を渡っていく。

バネッサとテオも楽しそうに後に続くが、リベルトとケイアは慎重派なので、『ルダ村』の周辺とは言え、外に出る事に迷いがある様だ。


「お~い、置いてくぞ~!」


レイナードは、後ろを振り返り2人に声を掛ける。


「2人とも、あんまり心配するな。『村』の周辺はまず安全だし、万が一の時は僕が何とかするから。」


僕が2人に言うと、リベルトもケイアも後に続いた。

外に出ると、近くの『雑木林』に身を隠す様に移動する。

大人に見つかれば怒られるからな。


「うん、いいんじゃないか?大型の動物もいないみたいだし、剣や弓の練習をするには良い穴場だな。」


軽く、『雑木林』を見渡した僕が、枯れ木を拾いながらそう言う。


「へっへ~。だろ~。父さんも、ここら辺なら大丈夫って言ってたし、俺は今度からここで剣の『秘密特訓』をするんだ~。」

「私も、弓矢なら使えるよ!」

「小型の動物なら、俺でも狩れるかな?」


まぁ、バドさんもちゃんと根拠があってレイナードに教えたんだろうし。

ここは『村』の外だが、周辺の田畑で働く人達もいるし、『雑木林』は所謂『人工林』なので、危険性の高い『モンスター』も『魔獣』もいない。

小声で、リベルトとケイアにはそう教えておく。

慎重派の2人には、理論的に説明した方が納得しやすいからな。


「なるほど。そういう事か。」

「納得したわ。ところで、アキトはさっきから、何をしているの?」


僕は、集めた枯れ木を1ヵ所にまとめている。


「焚き火の準備。『ワイルドボア』の『肉』を焼こうかなって。」

「マジっすか、アキトさんっ!?」


その体形からは想像も出来ない素早い動きで、テオが詰め寄ってきた。


「う、うん。良い穴場を教えてもらったお礼、かな。みんなで食べようよ。と、言っても、夕飯が食べられる程度の量だけだよ。親御さんに不審がられるからね。」

「やったーっ!アキト、ありがとうっ!!」

「落ち着けよ、テオ。」

「そうだよ~。ってか、『ワイルドボア』って何?」


若干引きぎみにレイナードとバネッサが言う。

あ、バネッサの奴、言ってはならん事を。


「『ワイルドボア』を知らないのかいっ!?・・・いいかいっ?『ワイルドボア』ってのはね・・・。」


テオの『オタク』特有の早口&説明が始まってしまったな。

バネッサと、ついでにレイナードも巻き込まれる形でテオに捕まってしまった。

まぁ、こちらとしては助かるが。


「アキト・ストレリチアの名において命じる。

大気と炎の精霊よ。

古の盟約に基づき、恵みの火を与えたまえ。

『ファイア』!」


『魔法』で枯れ木に火を着ける。

僕は、腰に差した片刃の短剣で、『串』を作るべくその辺の木材を拾い、まず水で汚れを拭き取り、火で炙って殺菌し、加工していく。

出来上がった『串』に、『ワイルドボア』の『ブロック肉』を一口サイズに切って差していく。

それを、塩で少し味付けして炙っていく。

その様子を、リベルトとケイアが興味深そうに眺めていた。


「ん?どうかした?」

「いや、流石に手馴れているなと思って・・・。」

「私は、『魔法発動』がスピーディーでスムーズだなぁって思ってた。」

「リベルトもケイアも大袈裟だよ。慣れだよ、慣れ。」


2人は、微妙そうな顔をして見合わせている。

仲良いな。

そろそろ、良い感じで焼けてきたな。

いつの間にかテオが傍らに居り、少しびっくりした。

こいつは、好きな事が絡むとスペックが跳ね上がるタイプだからなー。

レイナードとバネッサも、ウンザリした様子で焚き火を囲む。

・・・お疲れさん。


「もう大丈夫だよ。食べてみよっか?」

「「「「「いただきま~す!!!!!」」」」」


一斉に頬張る。

いや、熱いぞ。

ハフッハフッしながら、テオが叫んだ。


「うめぇぇぇぇ~!!!」

「確かに、こりゃうめぇ!今までこんな『肉』食った事ねーよ!!」

「テオが力説するだけあるねっ!すごく美味しいよっ!!」

「うん、これは美味しい!塩だけでこんなに美味しいのか!!」

「この手の『高級肉』は、余計な味を着けない方が美味いのさ。」

「アキトは色々良く知ってるね。」


しばらく、他愛のない会話をしながら、『肉』を食べる。

量としては、たいして多く出さなかったのですぐに食べ終わってしまったが。

全然食べ足りないだろうが、夕飯か食べられなくなるから、これで終わりだ。

テオだけでなく、みんなも残念そうにしていたが、仕方ないだろう。


「今日は、たまたま手に入ったが、1kg大銀貨1枚はするだけの事はあるな。ハロルさん所に持ち込んだ『冒険者』の運に感謝しよう。」

「1kg大銀貨1枚!?」

「めちゃくちゃ高いね~!」

「そんなにするのか!?悪かったな、アキト。」

「アキト、ありがとう。」

「いいさ。僕も、どんな味か興味あったからね。」

「・・・決めたっ!」


突然、テオがガバッと立ち上がった。


「どうした、テオ?」

「俺、『冒険者』になるっ!そして、『ワイルドボア』を一杯狩るんだっ!!」

「あのなぁ・・・。」


レイナードが、呆れた様に言う。

他のみんなも、同じ様な表情だ。


「テオ、『ワイルドボア』は『冒険者』でも滅多にエンカウントしないぞ?『隠密技術』に優れた『狩人』の方が、まだ可能性があるそうだけど。」

「じゃあ、『狩人』になるっ!」

「一番テオには不向きだろ、それっ!」


レイナードが突っ込みを入れる。

どっとみんなで笑い合う。


「まぁ、じっくり考えろよ。まだ、時間はあるからな。さあ、そろそろ戻ろう。僕も『シュプール』に帰らないと。」


火の後始末をして、僕はそう言う。


「そっか・・・。アキト、たまには遊びに来いよ。俺はここで『秘密特訓』してるし。」

「ああ、分かった。」

「ここを私達の『秘密基地』にしようよっ!」

「それもいいかもな。」

「俺も少しは『狩り』の練習しようっと。」

「それ、本気だったの?」


騒がしくも、楽しい幼なじみ達である。

来た道を戻り、こっそり『ルダ村』の中に戻る。

僕の場合、雑木林から『シュプール』に帰る方が早いのだが、『検問所』を通って来た関係上、次に訪れた時にまだ『村』の中にいるという記録上訳の分からない状態になるので、面倒でも一度『村』の中に戻り、正規のルートで出なければならない。

大通りまでは、皆と一緒に戻り、そこで別れる。


「じゃあ、みんな、またな。」

「またなっ!」

「バイバ~イ!」

「気をつけてな。」

「『ワイルドボア』うまかったぞ!」

「じゃあ、気をつけてね。」


時間は、もう夕方である。

急いで出ないと、跳ね橋を上げられてしまう。

少し早足で、僕は北側の『検問所』に向かう。


「おう、アキト。これから帰りか?」


バドさんに声を掛けられる。


「ええ、レイナード達と少し遊んでいたので。」


そう言うと、バドさんはニヤリと笑った。


「そうか・・・。アキトなら大丈夫だとは思うが、。」

「・・・はい、それでは。」


何に対して言ったのやら。

バドさんにも困ったモノだな。

奥様の苦労が偲ばれるな。

さて、『シュプール』に戻ろう。

こうして、『ルダ村』での1日は終わりを告げたのだった。


帰ると、腹を空かせたクロとヤミに「「ガウッワウッ(おそ~いっ!)」」と文句を言われたが。


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