第6話 『鬼人族』



アイシャさんが、なぜ『シュプール』に来たかと言うと、僕の『血』が欲しかったかららしい。

と、言っても『吸血鬼バンパイア』的な話ではもちろん無く、『鬼人族』に『英雄』の『血』を引き入れる為、ぶっちゃけ『子作り』の為である。

しかし、僕は現在6歳。

アイシャさんも、14歳。

アイシャさんはともかく、僕の今の体ではまだ『子作り』は出来ない。

それなのに、なぜこのタイミングで僕と接触したのかと言うと、確実に僕が『シュプール』にいる内に接触したかったかららしい。

考えてみれば当たり前の話で、現代の『地球』ですら、人探しなど非常に難しいのに、『アクエラ』ではもはや無理ゲーである。

通信手段は人伝か手紙くらいしか無いし、写真どころか、そもそも顔を知らない相手を探すのは、僕が『英雄の因子』所持者で、『英雄』として『偉業』を重ねたとしても相当に難しいだろう。

実際、アルメリア様の事情により、僕は14、5歳になれば、必然的に『シュプール』を去る事になるので、アイシャさんや『神々』の『使徒』達が早い段階で接触しようとした事を僕は、至極もっともな話として納得していた。

まあ、それと『害意』や『悪意』を持って近づく事は別問題だが。

さて、では誰が僕の所在を認識しているのか?と言う話だ。

『神々』の『使徒』達は、言うまでも無く『神々』であるが、アイシャさんはどうやって知ったのか?

それには、『鬼人族』の過去から紐解かなければならない。



『鬼人族』は、高地に住む『少数種族』である。

僕らの住む『ハレシオン大陸』(地球で言う所のユーラシア大陸で、『アクエラ』最大の大陸)にも、部族単位(およそ、500~1000くらい)で点在していた。

見た目は『人間』に近く、特徴的な『角』、大柄な身長(男性平均2m、女性平均180cm)、圧倒的な身体能力を持っている。

性格は、好戦的な面もあるが、竹を割ったようなさっぱりした者が多い。

豪快かつ分かりやすい『脳筋』タイプなのだが、意外と手先が器用で、『ドワーフ族』とは別ベクトルで『金属加工技術』に優れていた。

『ドワーフ族』が武器類を作る『鍛冶職人』だとしたら、『鬼人族』はアクセサリーや調度品を作る『細工師』である。

似通った部分がある『ドワーフ族』と『鬼人族』であるが、意外と仲は悪くない。

まぁ、それはともかく。

かつては、『鬼人族』は『人間の領域』のすぐ近くで暮らしていた。

『鬼人族』の『金属加工技術』に目を付けた『人間』は、その『秘宝』を求めて『鬼人族』に戦いを挑んだ。

『力比べ』も好きな『鬼人族』は、それを受け入れ、勝ったら『秘宝』を譲ると提案。

ここに、『鬼人族』と『人間』の『力比べ』が始まった。

しかし、『鬼人族』の圧倒的な強さに対抗出来るのは、一部の強者達だけだった。

それでは、微々たる量の『秘宝』しか手に入らず、『人間』は策を巡らす事にした。

ある意味で、非常に『人間』らしいのだが、『鬼人族』とは性格的に合わなかった。

最初こそ、強い『人間』と戦えて満足だったが、『嘘』や『騙し討ち』などの『計略』に嫌気が差して、その内に『人間』に興味を無くした。

こうして、『鬼人族』はいつしか『人間の領域』から姿を消したのだった。

そうした末に、『鬼人族』は高地に移り住むようになったのだ。



『鬼人族』にとって、山はある意味『理想的な環境』だった。

分かりやすい『生存競争』の場であるし、鉱脈なども多く存在する。

『酒好き』でも知られる『鬼人族』には、山の良質な水も都合が良かった。

しかし、『種族的』に良くとも、『生物的』には、100年ほど前、ある問題が浮上してきたのだった。

つまり、『血が濃くなり過ぎてしまった』のだ。

部族単位で、山に『引きこもって』しまった為に起きた問題だった。

生物として、本能的に『他部族』の血が必要と感じた彼らは、『他部族』を捜索し、交流する事を考えた。

その後、紆余曲折がありながらも、『ヤクシャ族』・『ラクシャサ族』・『アスラ族』の3部族が、交流を持つ事に成功し、その問題は一応の解決を見た。

しかし、いずれ同じ様な事態になるのではと危惧した彼らは、3部族以外の『他部族』の捜索と、『人間』の強者の『血』を引き入れる事を考える。

ここ『アクエラ』では、『人間』と『人間種』である『他種族』の『交配』が可能である。

ただし、なぜか『他種族』同士(例えば、『ドワーフ族』×『鬼人族』、『エルフ族』×『鬼人族』など)は『交配』が出来ない。

しかも、強者である『人間』とで無いと、産まれる子どもが虚弱で極めて短命であると言うオマケ付きである。

産まれる子どもの『種族』は母体側(女性側)に偏る傾向にあるので、必然的に『人間』の強者の『血』を引き入れる為には、強者の元に『鬼人族』の女性を派遣する必要があった。

しかし、30年ほど前から『英雄』はここ『アクエラ』では不在であり、『英雄』に近い強者となると『上級冒険者』だけである。

そうした事もあり、3部族で交流しながら、『他部族』の捜索と、『人間』の強者の捜索の為、『冒険者』となった一部の『鬼人族』が、再び『人間の領域』に姿を現す様になったのだった。



アイシャさんこと、アイシャ・ノーレン・アスラは、『アスラ族』族長・ローマンの末娘である。

彼女は、幼い頃から『外の世界』に対する憧れが人一倍強かった。

近所に住んでいた『冒険者』のおじさんが、たまに帰って来ては聞かせてくれる『冒険』の話も、彼女の憧れに拍車をかけた。

父・ローマンも、母・ネイシャも、そんな彼女がいつか山を下りてしまうであろう事は察していた為、かなり早い段階から、強くなれる様に鍛えてくれていた。

『ヤクシャ族』・『ラクシャサ族』・『アスラ族』の3部族の交流も、5年に1度くらいの頻度で続いていた。

最近だと、結婚適齢期の男女のお見合い的意味合いが強いが、『鬼人族』は強者に惹かれる傾向があるため、男女共に、この日に備えて自らを高める事に余念が無かった。

『3部族合同交流会』は、まず、男女別に『力比べ』をして異性にアピールし、その後の『大宴会』で交流を深める。

そうして、『つがい』になる者達が出るのを待つ流れだが、『婚姻』も含めて、『交流会』は『鬼人族』に取って『神事』に近い神聖なモノであった。

『交流会』の開催は、毎回持ち回りで、3部族が拠点にしている山で行われる。

今回の開催地は、『アスラ族』の拠点の山、『ノーレン山』である。

現代日本でも、何かしら開催する場合『神様』に安全祈願やら成功を願ったりする風習がある様に、『鬼人族』にも『山の神』に、報告と安全祈願をする儀式があった。

『山の神』とは、『自然崇拝』から発生した『神々』の末裔で、その『山』のヒエラルキーの頂点に君臨する『ドラゴン』の事である。

『自然崇拝』から発生した『神々』は、『人々の願いや信仰から』発生した『神々』(便宜上『人神』とする)との、『概念上』の『神々の戦い』に敗れ、肉の体に身をやつしてしまったのだった。


(例えば、『火の神』が在るとする。

1、『自然崇拝』側に『火の神』が存在。

2、『人神』側にも『火の神』が存在。

3、要するに『宗教概念』の違う文化がそれぞれ存在し、

4、『宗教概念』の違う民族同士による『戦争』が起こる。

5、結果、『人神』側の民族が勝利し、

6、『人神』側の『火の神』が、『自然崇拝』側の『火の神』の立場や役割を、簒奪さんだつ・吸収。

7、『自然崇拝』側の『火の神』は、『概念』としての『アストラル体』だけでは『存在』をたもてなくなるので、自身の眷族で『下位互換』の『炎竜』の中に身を潜め、『存在維持』を図ったのである。

8、元々『最強種』であった『竜種』であるが、その事により、高度な知性を持つ個体が現れる。

9、が、生物である以上、『死』と言う『制約』を『自然崇拝』側の『神々』は持つようになった。)


その儀式の時に、アイシャさんは『英雄』の存在を知ったのだった。

儀式は、3部族の族長とその家族、若手の代表数名で行われる。

『竜種』の習性上、『鬼人族』は非常に相性が良かった。

供え物として献上される『貴金属』のアクセサリーや調度品。

そして、上質な大量の『酒』。

(『竜種』は、『貴金属』をコレクションする習性があり、『酒』に目がない。)

『強者同士』の『力比べ』を肴に、『ノーレン山』の『山の神』は『人化』した姿で気分良く呟いたのだった。


<うむ、よいぞよいぞっ!やはり戦闘は良いな。・・・そういえば、6年ほど前、『英雄』が久方ぶりに誕生したんだったか?儂もお主らのように、『英雄』の様な『強者』と戦り合ってみたいものよの~。>


アイシャさんを含めて、数名が『山の神』の元に残り、お酌と話相手を務めていた。


「『山の神』よっ!!『英雄』が誕生していたのですかっ!!??」


アイシャさんは、『外の世界』の憧れから『英雄譚』にも目がなく、興奮気味に尋ねた。

他の者達に叱られながら・・・。

しかし、他の者達にとっても、『英雄』の情報は聞き逃せないモノだった。


<ハハハッ。良い良い。『英雄』の話であったな。儂も詳しくは知覚出来んが、『ロマリア王国』の北部、『魔獣の森』におるようだ。まだ歳若いが、強き気配を感じるのぅ。近くには、儂ですら計り知れない存在もおるようだし、興味深いモノよの~。儂も『山』に縛られておらねば、会ってみたいモノよ。お主らも、興味があれば訪ねてみるが良かろう。>


その後、『力比べ』が終わり、『大宴会』になる頃にアイシャさん達は、『山の神』の元を辞した。

アイシャさん達は、『英雄』の情報を各部族長にすぐ報告した。

30年ぶりの『英雄』の情報は、各部族長にとっても重要な情報だった為、すぐに会合が開かれ、その時アイシャさんは『英雄』の元に行く事を強く志願した。

紆余曲折はあったが、結局先に言及した様に、『英雄』こと僕の所在が分かっている内に接触したかった事、僕の歳が6歳くらいである事、アイシャさんが『族長』の娘と言う確かな血筋の持ち主だった事もあり、最終的にアイシャさんが選ばれた。

『ヤクシャ族』も『ラクシャサ族』も、当然『英雄』の『血』を自らの『部族』にも引き入れたかった様だが、大勢で押し掛けるのは心証が悪いし、何より急な情報だった事もあり、今回は見送る事となった。

アイシャさんが接触に成功すれば、その後は連絡も取りやすくやるという訳だ。

しかし、ここで問題になるのが、『外の世界』に詳しい者は『冒険者』となった者しかおらず、彼らが戻らない事には、アイシャさんは出立する事が出来ない事だった。

だが、非常に運が良い事に、アイシャさんの家の近所に住む『冒険者』、『S級冒険者』のレルフ・ノーレン・アスラが、『交流会』目当てに帰省していたのだ。

すぐに呼び出されたレルフさんは、集まっていた面々を見て目を丸くし、説明を受けてようやく納得した。


「なるほど、『英雄』が・・・。『英雄』誕生の噂は聞いていたが、まさか、そんな目と鼻の先に居るとはな。灯台下暗しと言う事か。」

「レルフおじさん。場所が分かるの!?」

「ああ、ここ『ノーレン山』からそう遠く無い場所だ。」

「すまんが、レルフ。アイシャをそこまで案内してやってくれないか?」


『アスラ族』・族長のローマンさんが皆を代表して、レルフさんに要請する。


「もちろんだとも。俺自身、『英雄』には会ってみたかったからな。出立はいつにする?」

「準備する時間も必要だし、今は『交流会』の最中だ。そうだな、3日後でどうだ?」


ローマンさんは、レルフさんとアイシャさんに問う。


「俺はいつでも構わん。」

「私も異論ありません。レルフおじさんに、色々アドバイス貰いながら出立の準備をします!」

「そうだな。レルフ、重ね重ねすまないが、頼まれてくれるか?」

「分かった。」


そうして、3日後、皆に見送られながら、レルフさんとアイシャさんは『ノーレン山』を出立したのだった。



アイシャさんにとって、『外の世界』は未知に溢れていた。

現れる『モンスター』は、強さこそ『山』に比べれば大した事はないが、多種多様な戦い方に面食らった。

特に、搦め手の戦法を得意とする『モンスター』は、アイシャさんにとって相性が良くなかった。

しかし、レルフさんは流石に『S級冒険者』であった。

タイプ的に、『鬼人族』はアタッカー、近接戦闘に特化したタイプで、しかも、なまじ身体能力が優れている分、武器類を使う事を不得意にしている者達が多い。(武器類の方が身体能力についていけず、消耗・損耗が激しい。)

アイシャさんも、その例に漏れず武器類を使う事が苦手だったが、レルフさんより譲り受けた『手甲』は、非常に使い勝手が良かった。

レルフさんは『手甲』に加え、『飛び道具』も巧みに使い、アイシャさんに『戦術』をレクチャーした。


「アイシャ、『外の世界』には、『搦め手』を得意とする『モンスター』や『人間種』もいる。『手甲』による『攻撃力』と『防御力』の強化に加え、『飛び道具』を上手く使えれば『戦術』の幅が大きく広がる。『飛び道具』と言っても、その辺の石ころを投げ付けるだけでも、俺たち『鬼人族』なら十分な殺傷力を持つし、俺の様に『毒』を使った『暗器』も非常に使い勝手が良いぞ。」

「私は、『手甲』は気に入ったけど、『飛び道具』は苦手だなぁ。」

「まぁ、気持ちは分かる。ただ、そういう手段もある事は覚えておけ。」


実際、レルフさんは見事な『使い手』だった。

近・中距離を己の間合いとし、非常にバランスの良い戦士であった。

『冒険者』としての生活が長い為、柔軟な思考を持っているのだ。

ただ、アイシャさんに見られる様に、『鬼人族』は自分たちの身体能力に自信を持っている『脳筋』が多い為、『飛び道具』に対して忌避感を持っていた。

それゆえ、レルフさんはレクチャーはすれど、無理には勧め無かった。

自分自身で経験し、必要性を理解しなければ、助言は大して役に立たない事を知っているからだ。



『ノーレン山』と『魔獣の森』は、比較的近い所にあった。

『ロマリア王国』と北側の国『トロニア共和国』を挟む山脈の一番高い山が『ノーレン山』だった。

位置関係上、アイシャさんは『トロニア共和国』に入らずに『魔獣の森』に入ってしまったが、レルフさんは『トロニア共和国』に一度寄っておきたかった。

と、言うのも、『ロマリア王国』は『ドワーフ族』以外の『他種族』との関係が良いとは言えないからだ。

歴史的に、『ロマリア王国』は、『他種族』の主に『エルフ族』と『獣人族』を、『奴隷』としていた過去がある。

『鬼人族』との因縁が直接的にある訳では無いが、『ロマリア王国』側に負い目がある為、『他種族』に敏感になってしまうのだ。

今でこそ『奴隷』制度は廃止されたが、非合法な組織や一部の『貴族』の間では、今だに『奴隷』は存在していた。

それゆえに、『他種族』の『冒険者』は、『ロマリア王国』にはあまり近づかない。

面倒ごとに巻き込まれる危険性があるからだ。

レルフさんも、『冒険者』登録したのは『トロニア共和国』であった。


「『冒険者』に登録すれば便利なのは分かるけど、私の目的はあくまで『英雄』だからね。必要になったら登録するよ。」


アイシャさんはそう言い、レルフさんも納得した。

そう言った事情もあり、ルダ村で情報収集する際も、一応『鬼人族』と分からない様にフードを被って行った。

ルダ村では、『魔獣の森』に関する情報を集めたが、村人達は慣れた様子で、


「ああ、アキトちゃんの所に行きたいのかい?アンタらで何組目かねぇ。別にアキトちゃんは所在を隠してる訳じゃないから、教えてやるけど、入れなかったら諦めなよ?」


と、軽く答え、2人は訝しげな表情を浮かべたそうだ。

結構頻繁に僕はルダ村に行っているから、顔馴染みも多い。

僕の所在に関する事で、村人達が揉め事に巻き込まれるのは悪いと思い、情報は秘匿していない。

僕自身も、どんな『神々』の『使徒』が来るかは興味があったのだが、今までは『結界』内に入って来れた人達はいない。

『シュプール』の詳しい情報を手にしたアイシャさんとレルフさんは、とうとう僕の元へと到達した。

僕は、その時クロとヤミと遊んでいたが。



◇◆◇



突然だが、ここ『アクエラ』で最も『レベル』の高い人達は『冒険者』である。

『アクエラ』では、『職業』によって『レベル』の上がり方や、『パラメーター』の数値の振り分けにバラツキがある。

と、言っても『職業レベル』が存在するのでは無く、『職業』によって、やる作業が違うのが『レベル』や『パラメーター』のバラツキを引き起こす要因である。

最も容易で早く『レベル』が上がるのが、『モンスター』との戦闘で勝利する事なので、『冒険者』が最も『レベル』の高い人達になるだけである。

しかし、やる作業が偏ってしまうと、ある一定の『レベル』に到達すると『レベル』の上がり方が極端に落ちてしまう。

作業に『慣れた』のが原因で、それは悪い事では無いのだが、それにより、ある種『完成』してしまうので、実は世界最高峰たる『S級冒険者』でさえ、『レベル』は400前後で落ち着いてしまう。

アルメリア様によれば、カンストは500なのだが、『アクエラ』は『ゲーム』に似ていても、『ゲーム』では無いので、僕が実践している様に、様々な事を学ぶ事で『レベル』を上げる方法は現実的ではないのだ。

言うなれば、カンストするには何かの『職業』を極めた上で、別の『職業』も極める様なモノで、『ゲーム』なら可能であっても、実際に生活が掛かっている状況で、そんな事を出来る者はそうはいない。

しかも、400から490までは、表面上は一切数値が上がらないので、モチベーションも維持出来ない。

実際には、490から500までの間にそれまでの累積していた数値が爆発的に上がるのだが、先に述べた様にモチベーションが維持出来ないし、生活もあるので、500までカンストした者は、『アクエラ』の歴史上数えるほどしか存在しなかった。

そう言った意味では、僕は非常に良い環境にいる様だ。

前に言及したが、『魔法』を学べる者は選別されているが、僕はアルメリア様直々に指導を受けているし、生きる為にも『モンスター』との戦闘は必須である。

僕は、『冒険者』ではないが(『アクエラ』において、『冒険者』登録は13歳になってから。)、『職業』として置き換えた場合、『魔法使い』であり、『戦士』であり、『魔獣使い』であり、『狩人』であり、『薬師』であり、『農民』でもある。

これは、『魔法使い』と『魔獣使い』は別にしても、『魔獣の森』で暮らす以上必須事項なので、なにも僕が特別という訳でもない。

食べる為に狩りをし、農業をし、山菜や薬草を収集しているに過ぎない。

もっとも、本来ならアルメリア様の『加護』が無ければとっくに死んでいるだろうが、僕にはアルメリア様がいて、こうして生きている。

そんな訳で、僕は5歳を過ぎた時点で、すでに『レベル』300を越えていた。

『レベル』だけで言うと、『S級冒険者』にはまだ及ばないが、ゲームと違い『レベル』=『強さ』では無いのが『アクエラ』の深い所だ。

ここ『アクエラ』にも、『ゲーム』で言う所の『パワーレベリング』が存在する。

『レベル』の高い者と『レベル』の低い者がパーティーを組み、『レベル』の高い者が弱らせた強敵に、『レベル』の低い者がトドメを刺すなどの手法で、裏技的に『レベル』を上げる方法だが、当然ながらそこには『経験』が無いので、その手法で『レベル』を上げた者と地道に『レベル』を上げた者では、『パラメーター』にも『経験値』的にも差違が出てくるので、前者は後者に勝てない。

主に『貴族』が使う『パワーレベリング』だが、『冒険者』もそれに近い状況になりがちである。

むしろ、当然とも言えるが、パーティーを組むと前衛と後衛に別れたり、役割が細分化する事が往々にしてあるので、前衛と後衛が近接戦闘した場合、前衛が勝つし、遠距離戦闘の場合は後衛に軍配が上がる。

安全かつ効率的に狩りをする為の知恵であるが、それにより得意不得意が出来る為、『レベル』=『強さ』では無いと言う訳である。

もちろん、『S級冒険者』や『上級冒険者』は、その弱点を熟知しているので、前衛であろうが、遠距離に対応する術を持ち、後衛であろうと、近接戦闘を普通にこなす。

が、専門家には一歩譲ると言う訳である。

僕の場合は、また『冒険者』で無いし、パーティーを組んでる訳でも無いので、戦闘における不得意な距離は無い。

そうならざるを得なかっただけで、自慢出来る事では無いが。

ぼっちじゃないからね?

本当だよ??

クロとヤミの攻撃を受け流しながら、僕は誰に言い訳をしているのだろうか、と疑問を感じてしまった。

一見戦闘しているように見えるが、これは僕らのただの『遊び』である。

『白狼』とのじゃれあいは、一般人から見たら戦闘行為に見えるだろうが、追いかけっこであり、かくれんぼであり、『狩り』の練習なのだ。

クロとヤミは、まだ子どもだしね。

まぁ、僕もだけど・・・。


「ほらほら、こっちだぞ~。」

「ワウッ(くそっ~!)」

「ガウッガウッ(全然捕まんないよっ~!)」

「・・・んっ?誰かが『結界』内に入ってくるな。クロ、ヤミ、分かるかい?」

「ワンッワンッ(ん~、何か軽く『敵意』を感じるような~?)」

「ガウッ(かなり素早いね~。)」

「『結界』内に進入出来る以上、悪い存在じゃないと思うんだけど・・・。」


すると、クロとヤミにそれぞれ向かう人影が見えた。

結構速いな。

まぁ、クロとヤミの『瞬発力バネ』なら、かわすのはそう難しくは無いだろうが。

案の定、二匹は余裕を持ってかわし、僕の前に着地した。


「あれをかわしたっ!?」

「流石は『白狼』だな。牽制程度じゃ当たりもしないか・・・。」


見ると、『角』のある男女が、油断無く2匹の動向を窺っていた。


「そこの君っ!早くそいつらから離れてっ!!」


女の子の方が、僕に向かって叫んだ。


「・・・何か勘違いしてるみたいだなぁ。」

「グルル、ワウッ(強いよ、この人達っ!)」

「グルル、ガウッ(どうする、アキトくんっ、クロっ!)」

「まぁ、任せてよ。クロとヤミは、大人しくしててね。」


僕は、警戒する2匹をモフモフしながら、男女に答えた。


「あの~、何か勘違いされてる様ですが、この2匹は僕の家族ですよ?別に襲われていた訳じゃないので。」

「へっ!?」

「か、家族だとっ!?黒い『白狼』は、危険種だぞっ!?」

「ですが、御覧の通りです。」


2匹は、僕にモフモフされて少し警戒を解き、僕に甘えている。

男女も、それには驚きながらも、納得していた。


「勘違いだったのね・・・。」

「俺も、最初は様子を窺うつもりだったけど、子どもが襲われてると思って、飛び出しちまったからなぁ~。」


男女も、戦闘体勢を解き、近づいてきた。


「お2人は、『鬼人族』の様ですね。僕も初めて見ました。ここへは、どんなご用で?」

「あっ、そうだったっ!君っ、ここに『英雄』がいるらしいんだけど、何か知らないっ!?」


女の子が興奮ぎみに尋ねる。


「『英雄の因子』所持者なら、僕ですけど・・・。」

「「へっ!?」」


ポカーンとした顔で僕を見る男女。

それが、アイシャさんとレルフさんとの初めての出会いであった。


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