第2話 『英雄』の生誕イベント



◇◆◇



と、言う事があって、僕は通常ありえない『異世界転生』を果たしたんだっけ。

やっと記憶の混乱から脱したようだ。

と言うか、なんで『前世(?)』の記憶があるんだろうか?

てか、なぜ異世界の言語を理解してるのだろうか?

そもそも、生後間もない赤子が目も耳も機能してるのはおかしいし。

これも『英雄の因子』(ご都合主義)の力か!?

などと混乱している僕をよそに、僕の生誕イベントは進行していた。


「お待ち下さい、王よっ!マルク王よっ!」


僕の処遇についてあれこれ考えていた王様に、突如現れた1人の男がそう制止した。

見ると、どこかの宗教のお偉いさんのような立派な法衣を身に纏ったおじさんだった。


「これはこれは、モルセノ殿。困りますぞ。いくら、『ライアド教』の司祭とは言え、私の寝所にまで押し掛けられては。」

「ええ、それについては非礼をお詫び申し上げます。しかし、火急の用事なれば、それも致し方無き事。事は、この国の、世界の命運に関わる話なのです。」


一応の謝罪はしたものの、まったく悪びれた様子もなく法衣姿のおじさんは続けた。


「エリス様は、産後の療養に入られている様ですな。お姿が見えませんが?」

「今は、奥の間にて療養しております。して、火急の用事とは?」


確かに、僕の意識がはっきりした時には、母親らしき女性は見ていない。

ここにいるのは、王様と執事っぽいおじいさん、女官っぽい人が数人僕達双子を世話しているだけだった。


「エリス様には、お話ししておきたかったが、致し方ない。マルク王よ。まずは、人払いを。余人に聞かせられる話ではない。」


訝しげな表情をしつつ、王様は使用人の人払いをする。

他の人が出ていき、王様と法衣姿のおじさん、僕達双子だけが残された。

いや、僕らは?

赤子だし、喋れないし、物心もついていないから、いいのかもしれないが、一緒に連れて行けばいいのに。

もう一人の赤子はスヤスヤ寝てるけど、僕なんか、バッチリ目を覚ましているし、意識まであるですけど?

しかし、2人は気にした様子もなく、司祭はぶつぶつと何か呟いていた。

手に持っていた杖を掲げると、何か場の空気が変わった気がした。


「風の『魔法』・・・!?空間を一時的に、遮断したのですか?」

「左様。どこに『耳』があるかも分かりませんからな。」


今の『魔法』だったのかっ!

いや~、『異世界』って感じだなぁ~!

僕も、『魔法』使えるかなぁ~?

などと、僕は1人テンションを上げていたが、そんな僕に気付く事なく2人は会話を続けていた。


「よほどの用事のようですな?」

「ええ、我がライアド教の巫女が『神託』を受けたのですよ。『忌み子の王子』についての、ね。」


意味有り気に僕の方を見る司祭。

王様も、ハッとして僕を見る。

何だか照れるなー///。


「マルク王も頭を悩ませていたように、忌み子は『お隠し』にされるか、幽閉されるのが通例ですが、今回は、『神託』があります。それ故、王が決断される前に、急いで駆け付けたのですよ。」

「その『神託』とは・・・?」

「『マルク王の黒き王子が、この世界アクエラを救うだろう。』『至高神ハイドラス』様からの『神託』です。」


ごくりっ、と王様は唾を飲んだ。

芝居がかった2人の会話を、僕はただただ聞いていた。

って言うか、『転生』ってのはこんなに暇なんだねー。

僕が、この時点で明瞭に意識があるからかもしれないけど、赤子だから、まだよく分からない『異世界』の事を聞けないし、自分ではまだ行動も出来ない。

自分自身に関わる事でも、ぼーっと話を聞いてる事しか出来ないのだ。


―まあまあ、もうしばらく我慢するっスよ。―


こいつ、直接脳内にっ・・・!?

とか、アホな事言ってないで、どちら様でしょうか?


―(えっ?ファミチキください?)―


いやいや、ネタはいいので。

僕と、謎の声が遊んでいると、何やら緊迫した様子の2人は会話を続けていた。


「長らく沈黙を続けていた『至高神ハイドラス』様からの『神託』です。ライアド教としては、マルク王が決断される前に、『黒き王子』の保護をするべく行動した次第です。」

「なるほど、火急の用事と言う事は理解しました。・・・して、私はどうすれば良いのですか?」

「『至高神ハイドラス』様は、もう1人の王子については『神託』を与えてはいません。ならば、王として育てられれば良かろう。しかし、『黒き王子』はこちらで引き取りたい。『神託』を授かった以上、『お隠し』になるのも、幽閉されるのも困りますからな。」

「・・・正直、この赤子の処遇には頭を悩ませていた所だ。エリスには申し訳ないが、ライアド教が引き取ると言うなら是非も無い。ただし、おおやけにはは存在しない事になる。此方が某かの援助をする事は出来ないが、それでもよろしいか?」

「ええ、もちろんですとも。この子の出自については、捨て子を我がライアド教が保護し、孤児院で育てた。そう言う事になります。」


―今の会話を分かりやすく説明すると、


1、この世界では双子は忌み子として扱っている。

2、なので、弟もしくは妹の方は、殺されるか幽閉されるなどして、存在を抹消している。

3、その双子がマルク王の元に生まれてしまった。

4、通例通り、弟の方を殺すか幽閉するか悩んでいた所に、

5、『神託』を受けたライアド教が介入。

6、ライアド教は弟を保護すると宣言。

7、マルク王はこれ幸いと、その宣言を受諾。

8、しかし、公式には弟の存在は抹消されるので、資金援助などはしないと宣言。

9、ライアド教はその宣言を受諾。


と、言う流れっスよ。

ちなみに、幽閉される場合と言うのは、同性の一卵性双生児の場合っスね。万が一の時のスペアに使えるっスから。分かったっスか?―


分かりやすい解説ありがとうございます、謎の声さん。

それでは、現場のリポートをしている西嶋にしじまさんに中継を繋ぎましょう。

西嶋にしじまさ~んっ?


はい、こちら西嶋にしじまです。

現場は、大分緊張感がありますね。

それだと言うのに、双子の兄の方は今だにスヤスヤ寝ています。

将来大物になりますよ、この子は。

ところで、ワタクシの主観なのですが、『神託』を受けた弟の方は、将来偉業を達成された後、某かの政治的にライアド教に利用されるのではないかと、懸念しております。

宗教に対して偏見を持っている訳ではありませんが、影響力のある政治的カードを持った団体がやる事はだいたい同じようなモノではないでしょうか?


―良いところに気が付かれたっスね。―


あ、解説の謎の声さん。

アナタモノルンデスネ。


西嶋にしじまさんの懸念は、ごもっともだと思うっス。なので、話が纏まって行動に移される前に、こちらも介入を始めるっス。―


ほう、と申しますと?


―まあ、見てて下さいっス。―


そう言うと、『魔法』で遮断されていた筈の空間に、突如1柱の『神』が降臨した。

神々しい存在感を放つ、赤毛の髪を持った女神であった。


え~、現場は大分混乱しているようです。

ワタクシも大分混乱しております。

しばらく、事態の経過を見ていく事にしましょう。


そうする事が当然といった感じに、王様も司祭も跪き頭を垂れた。


〈お待ちなさい、マルク王、モルセノ司祭よ。〉


あ、謎の声と同じ声ですね。

もっとも、口調は威厳と慈愛に満ちた感じだが。


「貴女様は・・・!?」


どちらが上げた声か、呻く様な、震える様な言葉が呟かれる。


〈私は『忘れられた神』・アルメリア。かつて、この世界アクエラを統べていた神です。もっともライアド教としては、納得し難い事でしょうが。〉

「そ、そのような事は・・・。」

〈良いのです。さて、マルク王、モルセノ司祭よ。『至高神ハイドラス』の『神託』は概ね正しい。その赤子には、使命が与えられています。しかし、だからこそ、私のような『忘れられた神』が介入する事となったのです。〉

「・・・と、申しますと?」

〈『至高神ハイドラス』や『他の神々』が思っている以上に、その赤子の使命と運命は、重く困難なモノなのです。万にひとつも不備は許されない程に。赤子を強く立派に育て上げねばなりません。しかし私以外の『神々』では、直接育て上げる事は出来ないでしょう。『神々』には、人々の為にやらねばならない事が無数にありますからね。『使徒』にその役目を果たしてもらうのがせいぜいでしょうが、それでは困ります。〉

「それでは、貴女様がその役目を担うと?」

〈そうです。私は『忘れられた神』。人々に忘れられた存在であるからこそ、赤子を育てる事が出来ます。〉


重々しく、アルメリア様はそう告げて、僕を抱えた。

ああ、柔らかい、良い匂い。

思わず、その豊満な胸元に顔をうずめた。

赤ちゃんだし、いいよね?


―ちょっ、くすぐったいっス。もうすぐ終わりますから、大人しくしてて下さいっス。―


あ、ハイ。

スミマセンデシタ。


〈15年後、ヘドスの街に1人の若者が現れるでしょう。その若者は、この『希望の首飾り』を身につけています。その若者こそ、成長したこの赤子です。こちらは、模造品ですが、エリスに持たせておきなさい。〉


そう言うと、アルメリア様の手元に2つの首飾りが出現した。

そのうちの1つが、ひとりでに浮かび上がりマルク王の手元に収まった。


〈それでは。〉


そう言うと、アルメリア様と僕は忽然と姿を消した。

後には、呆然としたマルク王とモルセノ司祭、『希望の首飾り』と今だ眠っている双子の兄だけが残された。



◇◆◇



―一応、母親の方にもフォローを入れておくっスよ。―


そう言うと、今度は産後の療養をしていたエリス王妃の元に現れた。

すると、マルク王やモルセノ司祭と同じように、ベッドに寝ていたエリス王妃や彼女の世話していた女官達は、跪き頭を垂れた。

エリス王妃は、20代後半くらいの金髪の女性で、これがお母さんかぁ~と、僕はマジマジと見ていた。

産後疲れもあって、やつれた表情と、着崩したマタニティードレス(?)を身につけていたが、優しそうな女性だった。


〈エリス、産後間もないのです、楽になさい。貴女達も、エリスがベッドに戻る様に手伝いなさい。〉


凛とした態度で、アルメリア様は告げる。

畏れ多いといった態度だったが、ゆっくりとエリス王妃はベッドに戻り、女官達もそれを手伝う。

エリス王妃がベッドに戻り、頭を垂れると、再び女官達は跪き頭を垂れた。


〈私は『忘れられた神』・アルメリア。エリス、詳しい事はマルク王に聞きなさい。しかし、貴女の懸念している様な事にはなりません。貴女の赤子の1人は、私が預かるからです。〉


そう言うと、アルメリア様は僕をエリス王妃に抱かせた。


「ああ、私の赤ちゃん・・・!」


感極まった様に、エリス王妃は涙を流した。

何故か安心する。

これが母親の『音』と言うモノだろうか?


〈この子には、大変な使命を授けられていますので、貴女の元に置いておく事は出来ませんが、安心しなさい。私が責任を持って立派に育て上げます。〉

「・・・状況はよく分かってはおりませんが、何もなければマルク王はこの子を『お隠し』になるか、幽閉されるであろう事は察しておりました。事情は分かりませんが、貴女様がお預かりになられるのでしたら、安心です。さびしくはありますが。」


優しく僕に微笑むと、エリス王妃は僕をアルメリア様に戻した。


〈互いに『母』、『子』を名乗る事は叶わないでしょうが、この子の成長を見てあげる事は出来るでしょう。15年後、ヘドスの街に1人の若者が現れます。その若者は、この『希望の首飾り』を身につけています。その若者こそ、成長したこの子です。これの模造品は、マルク王に預けてあります。エリス、貴女が持っていなさい。〉


僕を優しく抱いたアルメリア様は、神々しい微笑みを浮かべ最後にエリス王妃に告げた。


〈貴女はもう1人の我が子を立派に育てなさい。『英雄』の友人に相応しい『王』とする為に。〉


母親としての『宣戦布告』とも取れる言葉を残し、僕とアルメリア様は姿を消した。


〈それでは。〉


後には、呆然としたエリス王妃と女官達だけが残された。



◇◆◇



「ふぅ~、疲れたっス。」


王城を出た僕とアルメリア様は、高速で空を飛んでいた。

いつの間にか、アルメリア様の神々しい雰囲気は四散していて、服装も目立たぬ町娘のようになっていた。

いや、でも空飛んでるし。

そこは気を使わないんかいっ!?

とか、思っていると、アルメリア様が答えた。


「大丈夫っスよ~。人々の認識外で『魔法』使ってるだけっスから。まあ、そんな真似出来る人なんて、世界でも片手で数えられる程いないっスけど。」


いや、凄くねっ!?

でも、神様なんだし、パーって『転移』とかさー。


「あれ?ルドベキア先輩に聞いてないっスか?『転移魔法』なんてモノは存在しないっスよ?『魔法』でなくても、『転移』にはもの凄くエネルギーが必要だから、ポンポン使えないっス。」


えっ!?

そういえば、そんな事言っていたような・・・?

ってか、何となくそうだと思っていたけど、アルメリア様ってルドベキア様の後輩?


「あ、ハイ。そういえば、言って無かったっスね。ワタシは、この世界『アクエラ』の一級管理神、『アルメリア』っス。ルドベキア先輩の後輩やってるっス。」


あれ、でも、『忘れられた神』がどうたら・・・。


「まあ、嘘では無いっス。『管理神』ってのは、その惑星の『土着の神』より高次元の存在なので、人々には知られてないっスから。」


・・・。

聞きたい事は色々ある。

突っ込み所も。

なんでアンタ舎弟みたいな口調なんだー、とか。


「今さらっスか!?クセなんですよ、この口調。」


しかし、今はそんな事より、

ハラヘッタナー。

赤ちゃんの体ってこんなに燃費悪いんだー。

と、言う事でおっぱいを所望するっ!

具体的には、アルメリア様の豊満なおっぱいをっ!!


「えっ!?こ、困ったっスね。ワタシ母乳出ないし。」


エリス王妃と約束したでしょ?

この子は、立派に育てるって。

なので、出なくてもいいので、とりあえずおしゃぶりだけでもっ!

ゼヒ、オネガイシャース!!


「出なかったら、ただのプレイじゃないっスか!?」


シャス、シャス、オナシャス!


「い、いや~!!!」


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