『英雄譚』の始まり

第1話 『異世界転生』



皆さん初めまして。

西嶋明人にしじまあきとと申します。

さていきなりですが、僕はとある事情で最近巷で流行り(?)の『異世界転生』を果たしてしまったのですが、転生初日に早くもピンチを向かえております。

僕はどうやら、どこかの国の王子として生まれたようなのですが、1人ではなく2人だったのです。

所謂いわゆる双子ですね。

さて、これは問題ですね。

兄か弟で運命が180度変わりますが、それはさておき、この世界での常識がどうか、と言うのが一番気になります。

私、気になりますっ!

・・・すいません、ネタに走ってしまいました。

現代日本なら双子なんて「まあ、珍しいけど普通にいるよね。」って感覚ですが、昔は忌み嫌われていました。

良くても人知れず一生幽閉生活。

下手すると、今すぐにでも存在を抹消されるなんてのもザラだったと聞き及んでいます。

この世界でもそうなのではないか、と懸念しているのです。


「待ち望んだ男児が忌み子だと!?」


王様っぽい立派な身形の40歳くらいのおじさんが呟きました。

あ、これアウトっぽいですね。


「しかも、こっちの赤子は髪が黒いではないか!?」


僕を指差す金髪のおじさん。

もう1人の赤ちゃんは普通に金髪ですね。

遺伝についての知識などないでしょうから、これもアウトっぽいですね。


「エリスの事を考えると心苦しいが、この事が公になれば私の求心力にも影響が及んでしまう。一体どうするべきか・・・。」


嘆く様に呟き、思い悩むおじさん。

ギリギリセーフ?

スリーアウト、チェンジ?

どっちに転ぶか。

そもそも、どうしてこうなった?



◇◆◇



僕、西島明人にしじまあきとは日本のとある地方都市に住む30代の独身男性おっさんだった。

地元の市役所に勤める地方公務員で、趣味はアニメ・マンガ・ゲームと言う、所謂『オタク』だ。

僕らより下の世代は、オタク文化に寛容というか、両親がオタクってケースが多い。

したがって、子ども達もそれが普通として育ってきているが、僕らの世代は一段下に見られる風潮がまだあった。

だから、オタク趣味を隠している人も多い。

僕も特に隠しているわけではなかったが、「趣味は?」と聞かれて素直に答えたら「意外」とよく言われた。

まぁ、それはさておき。

その日は、翌日から三連休で、積みゲーになっていた新作タイトルをやっと楽しめると朝からウキウキしていた。

定時で上がれたし、普段はあまり晩酌の習慣がない僕だったけれど、一杯やりながらゲームもいいかなぁと、近所のスーパーに立ち寄った。

買い物を済ませた僕は、自宅の通り道にある公園を何気なく眺めながら歩いていた。

すると、子ども達が「バイバ~イ」と言いながら走ってきた。

その内の1人の子は、家が僕の向かう方向と同じなのか、僕の横を小走りで通り過ぎて行った。

よそ見していて危ないなぁ、と思っていたら、急に車道に飛び出してしまった。

間の悪い事に、2トントラックが走ってくる所だった。

トラックも急ブレーキをかけたが間に合いそうにない。

咄嗟に子どもを助けるべく駆け出した僕は、何とか子どもを突き飛ばす事には成功したのだが、自分自身は轢かれてしまった。

そこから先の事は覚えていない。

次に気が付いたのは、よく分からない場所だった。



◇◆◇



そこは何とも不可思議な所だった。

色々な景色がごちゃ混ぜになったような混沌とした場所なのに、何らかの秩序がある様なそんな感覚。

これは夢だなと、自覚するが目覚めず、自分をうまくコントロール出来ない。

自分自身を俯瞰して見ている様な感じだった。


「ああ、何とか介入出来たか。」


すると、突然『場』と『空気』が鮮明になった気がした。

見ると、煌めくような金色の髪を腰まで伸ばし、圧倒的な存在感を放つ12、3才くらいの美少女がいた。

正しく美少女であったが、残念ながら僕はロリではない。

僕の好みはスタイル抜群のお姉さんだ。

知的な感じの眼鏡の似合うタイトスカート姿のお姉さんだったら、今すぐにでも結婚を申込むレベル。

いや、幼女や少女も可愛いとは思うけどね?

おっさんやし、犯罪ですやん。

おっと、思考が逸れてしまったな。

金髪美少女も何やら僕を睨んでいるような・・・?


「あ~、意識はハッキリしてきたようだね。介入出来る時間も限られているし、ボクの姿の事は置いておこう。ただしっ!姿が本来のボクの姿ではない事をここに明言しておこう!!もうっ、見るのも憚るようなっ、大人のっ、超絶美女だからっ!!!」


何やら金髪美少女のプライドを痛く傷付けたようだ。

彼女は必死にそう訴えてきた。


「あ、ハイ。」

「む~、その反応は何だか腹立たしいが、本当に時間がない。簡単に色々説明するよ?」

「ハイ、オネガイシマス。」

「・・・。ま、まずは自己紹介からしておこう。ボクは『ルドベキア』。地球の一級管理神いっきゅうかんりしんさ。キミ達からしたら、まあ、『神様』だね。」

「へー、ソーナンダー。」

「・・・。まぁ、簡単に信じられないだろうけど、話はちゃんと聞いておく事を進めるよ?事は、キミ自身に関わる事だからね。」


急に真顔になる金髪美少女。

一瞬、ドキッとした事は内緒だ。


「はい、分かりました。続けて下さい。」


僕も彼女の様子に真面目に話を聞く事にした。


「うん、結構。で、まずはキミの今の状況だけど。交通事故で死んでしまった。これは何となく分かるかい?」

「え、マジすか・・・。まぁ、何となくそうじゃないかなー、とは思ってましたけど・・・。」


トラックに轢かれてから記憶が途切れている事ーーー。

現実ではありえない摩訶不思議な場所ーーー。

圧倒的な存在感を放つ金髪美少女ーーー。

オタク趣味を持つ僕としては、「もしかして、これって『異世界転生』のテンプレじゃね?」とか思っていた。


「その認識で、ある意味間違いではないが、正しくもないよ。本来『異世界転生』なんてものは起きないからね。」

「えっ、そうなの?」

「そっ、考えてもごらんよ。『魂』とはいわば貴重な『霊的エネルギー』だ。それを異世界に提供するメリットとはなんだい?等価交換ならともかく、一方的に流失したら戻ってくる保証もないんだ。仮に不慮の事故なんかで死んだ者がいても、ボクらは一々干渉したりしないよ。しばらくすれば『魂』は世界に還り、また別の生命に宿る。『異世界転生』なんてさせていたら、『魂』のサイクルを壊す事になる訳だからね。」

「・・・ふむ、そりゃまぁ確かに。」

「だからもし『転生』という緊急的手段を使うにしても、同じ『世界線』での『転生』になる。だから『異世界転生』など本来はありえない。」

「・・・つまり、例外もあると?」

「そう、今回のキミのようなケースだね。異世界側から干渉してくるケースさ。」


さて、と一息吐いて彼女は説明を続ける。


「ここで一旦話は変わるけど、神様には色々な『タイプ』がいるのは分かるかい?」

「タイプ・・・?・・・地震や雷のような自然崇拝からくるタイプとか、人々の願いや信仰を具現化したタイプ、とかですか?」


前者は『荒御魂あらみたま』、後者は『七福神しちふくじん』とかのイメージ。


「そうそう、ボクら『管理神』はまた別だけど、そこは割愛するね。今回異世界側から干渉して来たのは、その人々の願いや信仰を具現化したタイプの方さ。」


つまり、『七福神』系のタイプか。


「日本人のオタクなキミならイメージしやすいだろうけど、神様と言うのは本来理不尽の塊のようなモノだからね。ボクが言ったような『魂』のサイクルとか、キミの生命や都合は関係なく、『ある目的』のためにキミの『魂』を異世界に引っ張り込もうとしているんだ。」


えー、なにそれー、理不尽過ぎない?


「・・・しかし、何で僕のような一般人を?」


それが分からない。

彼女の発言を整理すると、


1、何らかの理由で死んでしまう。

2、神様との邂逅

3、異世界にチート能力やチート武器を持っての、『異世界転生』、あるいは『異世界転移』。

4、俺TUEEEE


と、いったようなテンプレが起こる事もなく、本来は普通に成仏(?)し、別の生命に『転生』するのが通常。

緊急的措置としての『転生』でも、異世界ではなく同じ『世界線』での『転生』。

この場合は、何らかの使命や役割を持っている為だと推察出来る。


「大体合ってるよ。」


地の文に相槌を打たないで下さいよー。

・・・そうなると、異世界側としては別世界の『魂』を引っ張ってきても自分ら側の『魂』の流失はないのでランダムで『魂』を盗んでいるだけ?

だから僕のような一般人でも構わない?

・・・いやいや、彼女は『ある目的』と言っていた。

そうなると、明確な選考基準がある筈である。 


「情報の整理はついたかい?キミが気が付いた様に、キミはある条件にヒットしたのさ。」


いやいや、グー〇ルじゃあるまいし。


「いや、逆によくヒットしたものだよ。その条件とは、『英雄の因子』を持ち、異世界側からの干渉で死んだ『魂』の事さ。」


何その素敵ワード。

僕の『厨二病』が再発しちゃいそう。


「『魂』って言うのは、さっきも言ったように放っておけば世界に帰化する。昔の『英霊』を召喚するのは莫大なエネルギーが必要だし、生前の記憶や知識、能力なんかは、伝承からの借り物さ。本人はとっくに世界に帰化しているからね。たまに謎のパワーアップをする『英霊』や性別さえ変わる『英霊』もいるけど、本人とは違い過ぎる召喚はさらに途方もないエネルギーが必要になってくる。」


おい、某作品の話はやめーや。

僕は結構好きよ?


「それは、この世界でも異世界でも変わらないから、現在いる『魂』を使う方が効率がいい。一度肉体を破壊して『魂』の状態にするのは、『英雄』に相応しい出自と器に『転生』させる為もあるんだけど、ぶっちゃけコストの問題だね。肉体を持ったままの『転移』って、実はもの凄いエネルギーを使うんだよ。同じ『世界線』でもそうだし、異世界ならなおさらにね。その点、『魂』は純粋なエネルギー体だから、干渉側に掛かる負担は最小限で済む。」


さっきから聞いていて何だか世知辛いなぁ。

でも、コストパフォーマンスは大事だよねー、うん。


「しかし、簡単に死なないから『英雄』は『英雄』なのであって、異世界の神の試みは失敗する筈だったんだよ。・・・キミの存在がなければね。」


確かに、『英雄』と呼ばれる存在が、何らかの偉業も果たしてないのに、「そこら辺で野盗に殺されました」では物語にならんしな。


「『英雄』を『英雄』たらしめているのは、『運命力』とか『確率変動の偏り』とか『超人的肉体能力』とか様々だけど、それを総合して『英雄の因子』と呼んでいるんだ。で、キミもその持ち主。」

「えっ?そんなカッコ良さげなモノ、持った覚えないんですが・・・。」


顔は人並みだし、頭脳も肉体も平均より少し上ってだけだし。

漢気溢れるカリスマ性の持ち主でもないし、特に思い当たる節はないが・・・?


「キミの能力の特徴は『生命の危機の時、なぜか奇跡的に助かる力』だよ。覚えがないかい?人生で何度か経験があるだろう?」


・・・。

確かに3回くらいあるな。

一つは物心付く前の事でよく覚えてないが、当時住んでいた団地の5階から落っこちたのに軽傷で済んだらしい。

都合よくクッションになる物があったとか、下が柔らかい地面だったとかではなく、普通にコンクリートに落っこちて。

母親は、心臓が止まるくらいビックリしたと、よく話していた。

奇跡だとか、強運の持ち主だとか言われたが、クジ運が良いとか、宝くじが当たった事があるとかはもちろんない。


一つは、小学生の頃の海水浴場での話。

浅瀬は大丈夫だが、沖の方はプロのダイバーでも溺れ死んでしまう事があるくらいに潮の流れが急に速くなるポイントがあった。

そこには絶対に行かないように注意されていたのに、遊ぶのに夢中になった僕は、父親が目を離した隙にそこに行ってしまったのだった。

僕がいなくなった事に気が付いた父親は、慌てて僕を探して例のポイントで流される僕を目撃したらしい。

すぐに見えなくなったので、急いで救出に向かおうとした父親を、ライフセーバーや地元の漁師達が止めた。

目撃者の通報で急いで駆け付けたそうだ。

捜索はこちらでするから、家族で待っているよう強く言われた父親は、二次被害の事は分かっていたが、暗澹あんたんたる気持ちだったそうだ。

捜索は数時間に及んだが、一向に発見の報告がない。

もうダメかと絶望していた所に、僕がひょっこり戻って来た。

確かに潮の流れにさらわれたが、運良く砂浜に流れついていて、しばらく意識を失っていたのだ。

気が付いた時には、もう日が暮れ始めていたので、急いで戻って来たのだった。

その後は、泣かれるやら喜ばれるやら怒られるやら。

お察しの通りである。

この件も普通なら助からないだろうなぁ。


最後の一つは、高校生の頃。

バイト帰りに暴走族に轢かれたんだよな。

あれは、確か土曜の夜9時まで働いての帰り道。

当時(今も?)週末になると大通りを暴走族がブンブンうるさかった。

関わりたくなかった僕は、大通りから一本入った道を歩いていた。

すると、調子に乗った1台が、


1、追跡(安全確保の為のむしろ護送)していたパトカーをおちょくり、

2、捕まえてみろと、急にスピードを上げて、確認もせずに僕が歩いていた通りに飛び込み、

3、前方に僕がいるのに、ブレーキをかけるどころかクラクションを鳴らし、

4、カッコいいドライビンクテクニック(笑)でギリギリ避けてやるぜって感じで、

5、もちろんそんな腕がある筈もなく僕を轢いた。


という、正しくアホな事を仕出かした。

僕は数メートル(もっとかな?)撥ね飛ばされ、アスファルトに体と頭を強打。

慌ててパトカーから飛び出してきた警察官が、応急救護をしたり救急車を呼んだりしたらしい。

例のバイクは怖くなって逃げたそうだ。

この時、僕は意識がなかった。

しかし、無傷とはいかなかったが、僕は無事だった。

打ち身と打撲くらいで済み、頭も検査に異常が見られなかった。

お医者さんも「奇跡だ」と呟いたらしい。

その後、例のアホは捕まり、大激怒していた僕の両親に相当やり込められたようだが、ここでは割愛しておく。


考えてみれば、よく生きていたもんだ。

あれ、でも死んだんだっけ?


「そう、それがキミのイレギュラーな所だね。『英雄の因子』の一部分しか発現していなかったのさ。さっき、キミの能力は『生命の危機の時、なぜか奇跡的に助かる力』だと言ったけど、『英雄の因子』を持つ者にとってはむしろデフォルトでついてる能力の一つに過ぎない。それ以外に、それぞれ特殊な能力を複数持っているのが普通で、それ故に、今回キミが死んでしまったとも言える。」

「と、言うのは?」

「今回のキミの件だけど、キミの能力を考えれば、本来は子どもを助けトラックに撥ねられたとしても助かる筈なんだよ。しかし、ここで異世界からの干渉が影響してくる。さっきも言ったように、異世界側は『ある目的』の為に、『英雄の因子』を持つ『魂』を欲している。だから、一時的に『英雄の因子』の持つ『運命力』を弱体化し、通常ありえない『英雄の因子』の持ち主の『意味の無い死』を演出しようとした。しかし、弱体化したとはいえ『英雄の因子』を持つ者は『奇跡的に助かる力』以外にも複数特殊能力があるので、ピンチになったとしても死なない。が、キミはその能力以外は一般人の域を出ないので死んでしまった、と言うことさ。」


う~んと?

・・・。

ち、ちょっと整理しよう。


1、まず、僕は『英雄の因子』の持ち主である。

2、しかし、デフォルトの能力しか発現していなかった。

3、事故りそうになった子どもを助けて、自分が轢かれる。

4、、その時異世界側からの干渉があり、『英雄の因子』の持ち主の能力が弱体化。

5、何人いるかは知らないが、他の『英雄の因子』の持ち主は、それぞれの特殊能力などで乗り切るだろうし、そもそも死ぬほどのピンチな場面に遭遇していた者は稀だろう。

6、しかし、デフォルトの能力しかない僕は、死ぬ。


・・・。

う~ん、もしかしてタイミング最悪だった?

異世界側の干渉がどれくらいの時間だったかは知らないが、これまでの話を考えるとそう長時間ではないだろうし・・・。


「だからよくヒットしたものだと言ったんだ。お察しの通り、異世界側の干渉は30分にも満たなかった。それ以上は向こう側のエネルギーが持たなかったとも言えるね。凄いタイミングだよ。狙い打ちでもしたみたいさ。」


すると、ピキッとこの不可思議な空間が音を立てた。


「急いで介入したから、もう持たないか。これから、キミの『魂』は異世界側に持っていかれる事になる。異世界側とキミの『魂』との間に『縁』が繋がってしまったからね。これは腹立たしいが、こちら側にとどめるにはかなりのエネルギーを使う。心苦しいが、『管理神』としてはそこまでの干渉は出来ないんだ。申し訳ないね。」


しゅんっとした表情が何とも可愛らしい。

イヤイヤ、ボクハロリジャナイ。


「しかしっ!『英雄の因子』所持者の『魂』のエネルギーをただ持っていかれるのは癪だし、勿体ない。キミ達の『魂』のエネルギーは、数百人分、場合によっては数千人分にもなるからね。これは成した偉業や影響によって変わる。一部分しか発現していないキミでさえ数人分あるし、異世界側で『英雄の因子』の『魂』を欲している事から、キミには何か『英雄』としての使命を与えられる事になるだろう。そうするとさらにエネルギー量が増す可能性もある。」


空間がかなりひび割れて来ていた。

彼女は、ゆっくりと僕に近づて来た。


「だから、キミとボクの間に『リンク』を繋ぐ。そうすれば、少なくとも向こうでの死後、こちら側に『魂』を戻す事が出来る。チート能力はあげられないけど、まだ目覚めてない『英雄の因子』の発現も促せるだろう。」


僕の目の前まで来た彼女。

背丈の違いから、彼女の頭は僕の胸くらいの高さしかない。


「さあ、いよいよ時間が無い。向こう側の詳しい事は、ボクの後輩の『管理神』に聞いてくれ。と言うか、担当部署が違うから、ボクはほとんど分からないんだ。」


お役所仕事かっ!?

いや、役人は僕でしたね、てへぺろ。


「流石に干渉は出来ないだろうが、助言くらいはしてくれるだろう。と言うか、『英雄の因子』を上手く使えば、それ以上の助力が望めるかもね。」


何だか、いいかげんだなぁ。


「結構いいかげんなモノさ、『英雄』や『神様』なんてモノはね。ご都合主義の具現化みたいなモノだしね。さ、腰を屈めてくれよ。届かないんだ。」

「ナニヲサレルンデショウカ?」

「古来から、契約行為は『キス』と相場が決まっているだろう?本来のっ、大人なっ、超絶美女の姿のボクとでなくて残念だろうけどね?」


まだ気にしていたようだ。

しかし、それでも相手はとんでもない金髪美少女だ。

僕はロリではないが、それでもドキドキする。

彼女の言うような大人の金髪美女姿だったら、うっかり結婚を申し込んで断られるレベル。

いや、断られちゃうのかよ。

何やら、急に機嫌の良くなった彼女の要望に応えて、僕は腰を屈めた。


「気持ちは嬉しいけど、ボクと結婚したかったら、最低でも世界を救うくらいの偉業は達成してよね。」


そう言って可愛らしく背伸びをした彼女は、僕の唇に軽くキスをした。

パリンッと澄んだ音がして、意識が遠くなって来た。


「じゃあ、頑張ってね。」


微笑む彼女が手を振る。

その姿が、意識を失う前に僕が見た最後の光景だったーーー。


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