Ⅱ コーンビーフとジンジャエール
「あなたの居場所を知りたいなら黙って尾行するわよ」
男は女に誘われるままに、
近くの立ち飲み屋に行った。
「俺は飲まないぜ」
「別にいいじゃない、取り締まる奴なんていないんだから」
「死にたくないだけだよ」
「あの子のため」
「そんなんじゃないさ」
女はビールをグラスに注いで、
半分に切ったライムを絞る。
「ジンジャエール」
そして、バーテンにそう告げる。
「でいいんでしょ」
男は自分を見ている女に向かって笑みを浮かべる。
バーテンがジンジャエールを男の前に置いた。
女はその上からライムを絞った。
「何が望みだ」
「缶詰」
「いくつ」
男は麻袋から缶詰を出す。
「それじゃないの」
「コーンビーフ」
「今はない」
「小屋にはあるけど」
「行く。でも、いいの」
「俺は隠れてるんじゃない」
「あいつが俺の居場所に興味がないだけだ」
女はビールをグイっと飲んだ。
「ねえ、あの子はあんたの子」
「違うよ、冬の寒い朝にあいつから預かった」
「というより、俺のアパートの前に捨てられてた」
「それからずっと」
「いや、三つか四つぐらいまで育てて返した」
「というより、あいつが連れ戻しに来た」
女はビールを飲み干して、立ち上がった。
「ついてくるのはいいが、メットぐらいかぶってくれよ」
女は男を見て微笑んで、親指を立てる。
「死ぬのは、商売が終わってからだ」
海の人 阿紋 @amon-1968
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