Ⅰ 爆弾と爆裂

ハイウェイをしばらく走ると、

道路の右側に原色のネオンサインが見えてくる。

日の暮れかけたオレンジ色の空。

もうすぐ日が沈んで

あたりは光のない世界へと変わっていく。

バイクのヘッドライトに照らされた路面。

すっかり荒れてしまった路面に気を配りながら

バイクはゆっくりとしたスピードで進んでいく。

男はナミに何か話しかけているようだったけれど、

ナミには男の声が聞こえなかった。

聞こえるのはエンジン音と風を切る音だけ。

バイクはスピードを緩めて

ネオンサインの前で止まった。

バイクを降りたナミは

フルフェイスのヘルメットを脱いで

遠くの山際を見た。

そして、紫色の空を見た。

星が瞬き始めている。

ヘルメットを抱えて、

ナミは男の後に続いて店に入っていく。

「久しぶりだね」

店のマスターが男に声をかける。

「爆弾さん、こんにちは」

ナミの声を聞いたマスターは、

満面に笑みを浮かべ

ナミと男を席に案内した。

店内には他に客が何組かいた。

いつもの角の窓際の席は

すでに別の客が占拠している。

「いつもの爆弾かい」

男がナミに聞いた。

「爆裂はどうです」

ナミが無言でうなずこうとしたとき

店のマスターがナミに告げる。

「爆裂?」

ナミの不安そうな顔を見て

店のマスターが微笑む。

「それにしたらどうだ」

男がそう言い、ナミがうなづく。

「それじゃ、爆弾と爆裂、それにポテトをたっぷり」

「ライスもつけてくれ」

「かしこまりました」


窓から外をのぞいても

ナミには店の奥の様子と

自分の顔が見えるだけだった。

見えたところで、

店の前を横切るハイウェイと

限りなく続く、乾いた大地が見えるだけなのだけれど。

「運が良ければ、走り去る車が見える」

男はニヤついた顔で山盛りのフライドポテトを頬張る。

ナミも、ポテトをひとつつまんで口の中に入れた。

そして、細かく刻んだステーキに

チーズをたっぷり絡めて食べる。

「うまいか、爆裂」

「美味しいよ」

「爆弾も食べていいんだぜ」

「さっきちょっと食べたよ」

「そうか」

男はライスに爆弾のソースをたっぷり染み込ませて、

フォークですくって口の中へ。

「ねえ、この先には何があるか分かる」

「ちょっとした町があるのさ」

「ほかの客はみんなそこから来ている」

「行ってみたいな」

「そうか、行ってみたいか」

男はそう言ったまま、考え込んでいる。

「別にいいんだよ、どうしても行きたいわけじゃないし」

「ちょっと時間をくれるか」

「わかった」

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