ご利用は計画的に。
世の中の全ての企業に当てはまるものではないが、私の勤める会社には経費を現金で精算する日が週に一回ある。一般社員にとっては手持ちの領収書を現金化するそこそこ重要な日。それが経費精算日。
それ以外に集金だったり、コンビニ払いだったり、切手や収入印紙を購入したりと現金は必要になるので、小口現金を一定の金額にするのも経費精算日だったりする。
そんな経費精算作業も午前中に終えた昼休み。
徐に部長が立ち上がって経理の私の席の横に立ち一言。
「今日、外国人研修生を六人健康診断に行かせたいんだよね。お金ある?」
健康診断は会社近くの医療機関で予約なしに受診出来るが、一人一万円かかる。
六人ということは単純計算で六万円。
「ないですよ」(きっぱり)
小口現金が少額しかないことは全社員に周知していて今更だ。何故聞く。
「必要なら、経費精算が終わる前に言っていただければ用意しましたけど」
ない袖は振れない。言わなかった自分が悪いのだ。部長が立て替えるしかないでしょうと話を切ってお弁当に戻る。
午後一番で社長が現金を追加で引き出してきた。
なんだかんだ言っても甥である部長がかわいいのか、激甘な社長……。
また我儘を聞いてあげちゃったのねと呆れつつも、いつものことなのでため息をつきながら業務に戻る。
そしてその三十分後。件の部長の直属の部下、課長が私の席の横に立った。
「今日、研修生六名が健康診断を受けたんですけど、明日三名受けさせたいんでお金ください」
「はぁ? あるわけないじゃないですか」
唖然茫然で言葉も自然ととげとげしくなる。さっきのいきなり六万円から一時間もたってないのに追加で三万円とかアタマ沸いてるのかって話だ。
「ですよねぇ……」
ですよねぇじゃない! そもそも午前中に健康診断用に十万円くらい用意してと指示があれば何の問題もなかったわけで。何故終わったあとにバラバラと言ってくるのか。当然のように私はお断りだ。そして一回目は許せても二回目を許すほどは社長も甘くはない。多分。
部長のイエスマンである課長は部長に指示されて言わされたであろうことは理解できるが、こういう話はちょくちょくあるので全く同情出来ない。
社長にも断られ、お説教され、肩を落としてしょんぼりと事務所を出て行った。
四十代の管理職が揃いも揃ってたった半日先のことを見通せないとは。
事務所内にいる数人。呆れて言葉がなくなっていた。もうやだこんな会社。
どこかのクレジット会社のCMではないが「ご利用は計画的に」だ。
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