3/地竜窟 -7 あなたの御許へ
【黄】左肩を下げる
【白】右足を五センチ前に出す
【白】首を右に傾ける
【白】左肘を立てる
【白】右膝を僅かに曲げる
【青】短剣を真上に放り投げる
【白】右足を軸にして、反時計回りに七十度回転する
【黄】右腕を払う
【白】上半身を右に二十五度ひねる
【白】上半身を後ろに三十度倒す
【青】ルインラインの右肘に掌底を入れる
【白】前傾し、頭を下げる
【青】左足を軸にして、反時計回りに五十度回転する
【白】二十センチ腰を落とす
【白】後ろに二歩飛び退く
【白】上体を僅かに左にひねる
【白】左腕で顔の前を払う
【白】右足を十センチ引く
【白】左手で拳を握り締める
【青】三歩、大きく踏み込む
【青】右足の踵と左足の爪先の距離を二十センチに保つ
【白】両膝を小さく曲げる
【白】後ろに一歩飛び退く
【赤】左脇腹の前で両手を合わせる
【黄】上半身を左にひねりながら、両手で挟んだ神剣を左に九十度倒す
【白】ルインラインの左膝に右足で蹴りを放つ
【青】ルインラインの膝を足場にして二メートル十センチ後ろに飛び退く
【白】着地と共に屈む
【青】前傾し立ち上がり、ルインラインの顎に頭突きを入れる
【白】右足を軸にして、反時計回りに二百七十度回転する
【青】左手で裏拳を入れる
【白】上半身を六十度前傾する
【白】右膝をつく
【白】首を左に傾ける
【黄】右手で真上に掌底を放つ
【白】立ち上がる
【白】両膝を僅かに曲げる
【白】全力で垂直に跳ぶ
【白】頂点で正面に蹴りを放つ
【白】左足で着地し、即座に上半身を右にひねる
【黄】ルインラインの右脇腹を左手で殴る
【白】目蓋を閉じる
【白】左に二歩飛び退く
【白】上半身を反る
【白】右手を握り締める
【黄】上半身を左にひねりながら、右の拳を左前方へ放つ
【白】その場で屈む
【白】真正面にタックルを見舞う
【青】ルインラインを組み伏せる
【青】両手を開き、真上に突き上げる
【青】真上に放り投げてあった短剣を両手で掴み取る
目蓋を開く。
「──馬鹿、な……」
気が付けば、俺は、仰向けに倒れたルインラインを組み敷き、馬乗りになっていた。
針穴に糸を通すかの如く、無数の黒枠に埋もれた正しい選択肢を選び続けたのだ。
自分でも信じられない。
まるで、何度も、何度も、何度も、何度も、やり直し続けたかのようだった。
「はッ、はあッ! はあ……ッ!」
炎の神剣によって、無数の部位が焼け焦げている。
特に両手と脇腹の熱傷がひどい。
指など、二、三本が炭化、欠損しており、短剣を振りかぶるのもやっとの状態だった。
ルインラインが、呆然と呟く。
「……そうか。儂は、間違っていたのだな」
「気──づくのが、遅いんだよ……」
「すまない」
息を乱しながら、油断なく短剣を構える。
首筋に短剣を振り下ろせば、ルインラインは死ぬ。
竜の血を引いていると言えど、まさか不死身ではあるまい。
「……殺さんのか」
「俺、……は、あんたとは違う。間違いを、認めたん、……なら──」
「甘い」
ルインラインの裏拳が、俺の短剣を弾き飛ばす。
絨毯の上に落ちた短剣が、軽い音を立てた。
視界がぐるりと反転し、上体を起こすと、ルインラインが既に炎の神剣を構えていた。
しまった。
千載一遇の好機を逃したことに、思わず歯噛みする。
ルインラインが、神剣を振るう。
だが、
「──我が神を愚弄する者を、儂は赦さない」
炎の神剣が斬り裂いたものは、俺ではなく、ルインライン自身の腹部だった。
「うッ……、ぐ、づあああッ!」
「ルイン、ライン……?」
内臓の焼け焦げる音が大広間に響く。
「我が……、神よ。あな、たの、御心を見誤った、儂──を、愚かな下僕を、それ、で、も、どうか──、どうか、あなたの御、許──……」
ルインラインがその場で膝をつき、倒れる。
しばらくして、神剣から炎が掻き消えた。
「──…………」
終わった。
プルの身の安全は確保できたはずだ。
だが、俺も他人事じゃない。
脇腹がえぐられ、内臓の一部が炭化している。
張り詰めた糸が切れ、俺は仰向けに倒れ伏した。
意識が失われていく。
ああ、
何故だろう。
死の瞬間が、こんなにも懐かしいのは。
「──……たな」
声が聞こえる。
「か、……な……」
あたたかい。
「かた……、い、言った……、ね……」
言った?
俺は、何を言ったっけ。
「生き……、んだって、言って、…………」
生きたいんだって、言ってくれ。
「……したら、きっと、……、せるから、……って……」
そうしたら、お前を、きっと助けてみせる。
いつか、俺が言った言葉だ。
「生きたいんだ、……って、言って! そしたら、わたしは、……あなたを助けてみせるから……ッ!」
暖かい光に包まれながら、俺は、その言葉を口にする。
「……生、……きたい、な……」
プル、お前と一緒に。
「──っ! わかった! 絶対に助けるから!」
痛みが消えていく。
ずっと感じていた暖かさは、プルの治癒術だったらしい。
ゆっくりと目を開くと、ぼろぼろと涙を溢れさせたプルが、俺の顔を覗き込んでいた。
プルの頬に手を伸ばし、親指で涙を拭う。
「……ぐしゃぐしゃだぞ、顔……」
「かたな!」
身を起こそうとして、主に腹部に激痛が走る。
「いでででで……」
「わ、わ、まだ起きたらだめ……!」
プルが、俺を赤絨毯の上にそっと寝かせてくれる。
「き、傷は塞いだ、けど、一ヶ月は安静! 陪神級の治癒術士ならともかく、わ、わたしの腕だと、内臓機能までは回復できなくて。あ、あとは、自然治癒にまかせるしか……」
「……あの状況から生きてるだけで十分だわな」
いやマジで。
「そう言えば──」
ヘレジナの姿を探す。
彼女はルインラインの傍に膝をつき、その手をそっと握っていた。
ルインラインは死んだ。
内臓へのダメージは、俺の比ではない。
どれほどの超人だって、死を免れない自傷行為だったはずだ。
末期の別れを惜しんでいるのならば、声を掛けるべきではないだろう。
ヘレジナがこちらを向いたのは、それから五分ほどしてからだった。
「カタナ、よく生きていた」
彼女は力なく笑みを浮かべている。
「なんとか、な。ヘレジナも無事でよかった」
「ああ」
ヘレジナが、あえてプルをからかうように言った。
「ほら、プルさま。カタナに褒美をあげねばなりますまい」
「ほうび……」
「褒美と言ったら膝枕に決まっているではないですか」
「!」
プルが、迷いなく俺の頭を持ち上げる。
「ま、待て待て待て! 今の自分の恰好を思い出せ!」
「あ」
スーツ上着の下全裸などという刺激的な衣装で膝枕なんぞをさせられては、性癖がねじ曲がってしまいかねない。
「き、き、着てきまっす……!」
「そうしてくれ……」
「私もプルさまに同行する。なるべく早く戻るゆえ、危険があればすぐさま叫んでくれ」
「ああ、わかった」
ヘレジナがプルの後を追って駆け出す。
「──……ふあ……」
疲れが出たのか、急に眠気がやってきた。
もう、ルインラインはいない。
飛竜騎団の第二陣は大丈夫だろうか。
心配ばかりが脳裏をよぎる。
普段であれば眠れなくなるような不安ばかりだが、今回ばかりは相手が悪かった。
意識を失う一秒前、俺は思った。
俺、さ。
頑張ったかな。
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