2/魔術大学校 -24 アンデムリカ大聖堂

「ね、ね、旅人狩りとか大丈夫だった?」

「ああ、うん。なんとか」

 嘘です。

 抗魔の首輪をバッチリ嵌められました。

「まあ、それはよいではないか。そのアンデムリカ大聖堂とやらに案内してくれ」

「おっけー! では、シオニアお姉さんについてくるんだぞ!」

「はあい」

「ぴぃ!」

「楽しみでしねー、シィちゃん」

「あまり、お姉さんという風体ではないがな」

「おうおーう! 中等部の小娘ちゃんがよー!」

「はっはっは、言いおるわ」

 言いたい。

 その人、本当は二十二歳ですよって言いたい。

 ヘレジナとシオニアが火花を散らす横で、ドズマが右手を上げた。

「アンデムリカ大聖堂なら、こっちだ。行こうぜ」

「あー! アタシが案内するの!」

「すんなら、しろ」

「はーい。ではゴーゴー!」

 シオニアの先導で、ネウロパニエの街を行く。

 道端の露店から焼き貝の香りが漂っていた。

 歌いながら舞台のチラシを配っている男性に、シオニアが握手を求めていた。

 ネウロパニエの外周スラムから来たであろう物乞いの子供たちは、案外儲かっている様子で、割れた瓶の中の銀貨を数えては、にんまり笑っていたりした。

 中央区から郊外へ逸れることしばし、無数の建造物の向こうに先の尖った屋根が見えてくる。

「──お、あれかな」

「カナト君めざとーい! そう、あれこそが、ネウロパニエが誇るアンデムリカ大聖堂! の、さきっちょ!」

「ここから見えるのなら、かなり大きそうかも」

 ユラに、イオタが言葉を返す。

「大きいですよ。ネウロパニエでいちばん大きな建造物じゃないかな」

 ヤーエルヘルが、目をぱちくりさせる。

「あれだけビルがあるのに、でしか!」

「ビルはほら、高いだけだし」

「ビル建てた人に怒られろ」

 しばらく歩くと、アンデムリカ大聖堂の威容が白日の下に晒される。

「ほわー……!」

「お、大きいね!」

「これは、なかなかのものだな……」

 三人娘が大聖堂を見上げる。

 高さ数十メートルに及ぶ巨大建築。

 直線と流線とが混じり合う独特な装飾の狭間を、見事な彫刻が彩っている。

 嵌め込まれたガラスはすべて、海のような澄んだ青色だった。

 ユラが、感心したように口を開く。

「デムリカだから、やっぱり青なんだね」

「入ったらねー、もっとびっくりするよ!」

 シオニアの言葉で、察する。

「ああ、そういうことか」

 ガラスが青いせいで、大聖堂の中は青く染まっているのだろう。

 ラーイウラで真っ赤な教会を見たから、わかる。

「ちょちょちょ、カナト君なに察してるのさ! 察しちゃだめ!」

「そう言われても……」

 わかってしまったものは仕方がない。

「中はどうなってるのかな」

「楽しみでしねー」

「まったくであるな」

「でしょ!」

「気ィ遣われてるよ」

「ささ、ごあんなーい!」

 シオニアの後を追うように、アンデムリカ大聖堂へと入堂する。

 大聖堂の中は、やはり真っ青だった。

 青いガラスを刺し貫いた陽光が、白い壁を波のようなムラと共に染め上げている。

 その様子は、想像していたより遥かに荘厳で、美しかった。

「──これは、すごいな」

 思わず嘆息が漏れる。

「連れて来てくれてありがとう、シオニア。これは一見の価値があるよ」

「でっしょー! でしょでしょ! いろいろ迷ったけど、まずはここだって思ったんだ!」

「し、シオニアさん、声響いてますよ……!」

 イオタの言葉に周囲を見れば、他の観光客や礼拝者が、こちらに迷惑そうな視線を向けていた。

「!」

 シオニアは、自分の口で両手を押さえると、

「やっちゃったー……」

 と、小声で言った。

「シオニアお姉さん、一生の不覚です」

「お前の一生は何度あんだ、おい」

 ドズマの突っ込みは的確だ。



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