3/ラーイウラ王城 -7 予選第十三組

 九名全員の視線が、俺を射抜く。

 推測通り。

 まずは弱そうなやつから、というわけだ。

 十歩先に立っていた双剣使いの男が、俺に肉薄した。

 神眼は既に発動している。

 双剣使いの一挙手一投足が、手に取るように把握できた。

 恐らくは師範級下位。

 双剣使いとしては、ヘレジナの足元にも及ばない。

 俺は、双剣の連撃を紙一重でかわすと、双剣使いの喉仏を柄の先で思い切り突いた。

 嫌な感触が手に伝わる。

 双剣使いが武器を取り落とし、喉を押さえる。

 死にはすまい。


 ──五秒。


 顔を上げると、二人目と三人目が駆け寄ってくるところだった。

 その顔には、驚愕が浮かびかけている。

 だが、遅い。

 革鎧を着込んだ二人目のこめかみに向けて、柄を振り抜く。

 無警戒の方角から矢が無数に飛んでくる戦争ならばともかく、たかだか十名程度の混戦で厚い鎧を着込むのは愚策である。

 敵は、鎧で覆われていない場所を狙うだけだ。

 守る場所を限定できるメリットはあるが、それ以上に動きが制限される。

 手の痺れをゆっくりと感じながら、三人目の動向を確認する。

 武器はフレイル。

 軌道の読みにくい武器ゆえに、警戒は怠らない。

 三人目が、フレイルを全力で振り下ろす。

 殺意が高すぎる。

 一撃で殺せば反撃はない、という考えなのだろう。

 だが、大振りゆえに避けやすい。

 体操術を使用しているが、それでも師範級上位程度だ。

 少々動きが速くなったところで、どうということもない。

 フレイルの一撃を避けて体勢を崩し、膝裏に蹴りを叩き込む。

 三人目が、顔面から地面へ倒れ込む。

 俺は、そのタイミングに合わせて跳躍すると、三人目の後頭部を両足で思いきり踏みつけた。

 四人目は、まだ距離がある。

 革鎧を着込んだ二人目がまだ立っていたので、同じところに一撃を打ち込み、今度こそ昏倒させた。


 ──十秒。


 徒手空拳の四人目が来る。

 速い。

 体操術による身体強化のレベルが、三人目とは段違いだった。

 恐らく、奇跡級下位。

 以前の俺であれば、苦労する相手だ。

 だが、相手は拳術士。

 ジグと幾度も手合わせをしている以上、油断さえしなければ勝てない相手ではない。

「──?」

 違う。

 拳術士の動きではない。

 流派が異なるとか、そういう次元の問題ではない。

 剣術士の動きなのだ。

 俺は、即座に理解する。

 操術──恐らくは切断術だ。

 食事や調理の際に使われる魔術を、攻撃手段へと昇華しているのだろう。

 体操術と二術同時展開とは、魔術士としても一流だ。

 目に見えぬ刃。

 あまりに堂々とした暗器。

 四人目が振りかぶった位置から、切断術の長さを推測する。

 推測の倍の距離を後退し、その一撃をかわした。

 初見殺しに余程自信があったのか、四人目の双眸が驚愕に見開かれる。

 体勢を崩したところに一撃を叩き込もうとして、


 ──空気を裂く音が聞こえた。


 左に視線を向ける。

 投げナイフ。

 それも、二本だ。

 受け止めることも、避けることもできるが、四人目と同時に対処するのは難しい。

 ならば、どうすべきか。

 僅かに思案し、答えを導く。

 俺は、四人目の襟首を引っ掴み、その肉体で以て投げナイフから身を隠した。

 投げナイフが、四人目の背中に刺さる。

 一石二鳥というわけだ。


 ──十五秒。


 残りの五人が警戒を始める。


 ──二十秒。


 来てくれたほうが手間がないのだが、仕方ない。

 俺は、両手でメイスを握り締めた女へと距離を詰めた。

 燕双閃は使わない。

 ジグが見ていたら、対処法を考える時間を与えてしまう。

 柄を振りかぶると、女がメイスで頭を防ごうとした。

 顔が下を向いたので、そのまま膝蹴りを叩き込む。

 鼻の折れる感触。

 後ろへ倒れていく女の腹部に、内臓を破壊しない程度に突きを入れる。

 徒弟級上位。

 手加減したことを後悔する。

 弱いふりをしているかもしれないからだ。

 もっと、非情に徹するべきだった。


 ──二十五秒。


 炎の神剣なしでこのペースならば、悪くはない。


 ──三十秒。


 残り三人。


 ──三十五秒。


 残り二人。


 ──四十秒。


 最後の一人に近付いていく。

 残ったのは、俺に絡んできた奴隷の男だった。

 奴隷の男が両手を上げる。

 降参の合図だろう。

 神眼を解く。

「──ま、参った」

「──…………」

 降参するのであれば、無理に戦闘不能にする必要はない。

 兵士にその旨を伝えようと振り返ったとき、奴隷の男が動いた。

 投げナイフ。

 あのナイフは、この男のものだったのか。

 即座に神眼を再発動し、投げナイフを指で受け止める。

 俺にはジグのような剛指はないが、鍔があるので容易に止められる。

 奴隷の男が、驚愕の表情を浮かべる。

 再び両手を上げようとするが、遅い。

 俺は、奴隷の男の頭部を、柄で思いきり振り抜いた。


 ──一分。


 今度こそ、神眼を解く。

 そして、全員が戦闘不能であることを確認し、

「ふー……」

 と、息を吐いた。

 観客席が、ざわめく。

 俺は、ユラたちのほうを向くと、笑顔で手を上げた。

 ユラたちが、大きく手を振り返してくれる。

 それを確認し、兵士へと近付く。

「終わりました」

「あ、ああ……」

「戻っていいですか?」

「……ああ、構わない」

 控え室へ通じる階段を下りると、銅鑼が三度打ち鳴らされた。


「──勝者、カナト=アイバ! ネル=エル=ラライエの奴隷、カナト=アイバ!」


 死者は出なかっただろうか。

 治癒術が間に合えば死なない程度に攻撃を加えたつもりだが、打ちどころが悪ければわからない。

 殺す覚悟はできているが、決して殺したいわけではない。

 あとは、祈るばかりだった。



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