第31話 歯車を回す子どもたち
しばらくして、近くフラム帝国から皇帝と皇太子が来るという報告を受けた。スノウリリイは嬉しいのだか、悲しいのかわからないようだ。アーサーに会えるのは嬉しいのだろうが、婚約の話を聞いてしまったから身構えているのかもしれない。
「もし、その子ともう出会っていてわたしのこと嫌いになってたらどうしよう」
「何もしてないのに嫌いになったりしないよ」
ネガティブが止まらない・・・。せっかく謹慎も解けたんだし、元気でいて欲しいのになぁ。そう思い、彼女と二人気分転換に部屋の外に出た。
私が元いた所に比べるとこの国は夏も暑すぎなくて過ごしやすい。庭に出ると、爽やかな風が私たちを包んだ。
「ん~、風が気持ちいいね」
「そうだね。外に出たは良いけれど、何しようか」
「木陰で本でも読む?それともお花でも見に・・・。あれ、なんか聞こえない?」
「聞こえるね?何かな」
何やら賑やかな声が少し遠くから聞こえてくる。どの声も高いから、女性か子どもだろうか。
「行ってみる?」
「行こうか」
庭の奥まった方にいたのは複数人の子どもたちだった。全員かなり身なりのいい服を着ているので貴族の子どもたちだろう。何やら言い合いをしているようだ。その中に見知った顔を見つけた。
「マリア?」
スノウリリイの声を聞いて、紫色のツインテールが振り向いた。怒った顔が一瞬で満面の笑みに変わる。
「スノウ様!お久しぶりです!」
彼女はぱっと駆け寄ると、スノウリリイに抱き着いた。咄嗟のことに少しふらついたが、彼女の体を抱きとめた。
「うん、久しぶり。一体何をしているの?」
問いかけに口を開こうとした彼女の首元を引っ張り、スノウリリイから引きはがす人間がいた。
「お前は何をやっているんだ?!姫様に失礼だろうが!」
少年はがみがみと彼女を叱りつけた。マリアと同じ紫色の髪、切れ長の目に少し神経質そうだが整った顔立ち。あれ、この子もしかして・・・。
「王女殿下、神獣様、失礼いたしました。すぐにこの馬鹿を連れて立ち去りますので」
「ちょっとお兄様!スノウ様を誘って遊ぼうって言ったじゃない」
「ダメだ。そんなのは許されないだろう。殿下だって、王女様は人見知りだから誘わない方がいいと言っていただろう」
周りの他の子どもたちは二人を見て、困った顔をするばかりだ。お兄様ということは、やっぱりこの男の子は攻略対象のディアゴ・アルバス。まさかこんなところで会うとは。あれ?というか他の子たちも見覚えがあるような・・・。
「おい、ディアゴもういいだろう。姫様が困っている」
二人の言い合いの間に入ったのは、金髪の気の強そうな少年だった。この子は・・・あっ、ツンデレ担当の二コラだ。確かお母さんが大公様の娘さんだから、スノウリリイとも親戚にあたる。
「申し訳ありません」
「ごめんなさい、スノウ様」
二人がすぐさま頭を下げると、構わないというように手を振った。
「それより、皆ヴィーと初めて会うだろうし、自己紹介をしてもらえる?」
ディアゴ・アルバス、二コラ・カロリス、ハイーネ・デュラン、クリスティナ・ガーディニア、そしてエミリオ・アルバス。見たことある顔ばかりなのは当たり前だった。全員ゲームの主要人物たちだったのだ。マリアも合わせて半分はゲームの主要キャラがそろっているのではないだろうか。
「それで、貴方たちはわたしを誘いに行くかどうかで迷っていたと?」
スノウリリイがそう言うと、彼らは気まずそうに頷いた。
「わたしは誘ってくれたら嬉しいけれど、わたしがいると気を遣うだろうし、楽しくないと思うよ」
「そんなことありませんわ!」
マリアはスノウリリイの手を取った。驚く周りを横目に、熱く語り出した。
「スノウ様は自分に自信がなさすぎますわ!わたくしはスノウ様が好きだから、誘いたかったのです。もっとたくさんの人とお話をして、お友達になりましょう!スノウ様は素敵な人なのですから!ハイーネもクリスティナも謝って仲良くなりたいと言っていたではないですか。手始めにほら、うちの堅物兄貴とへなへな兄貴はどうですか?」
「堅物だと?」「へなへななんて酷いよ」
彼女の兄たちが抗議する。しかし、彼らの言葉で場の空気は和んだようで緊張していた少年少女は、話を始めた。今度はスノウリリイも交えて。こんな展開は恐らくゲームにはない。彼女はいつも一人だったのだ。それがマリアのおかげで、無くなった。マリアも将来悪役令嬢にならない可能性だってあり得る。二人がお互いずっとそう思ってくれればいいんだけどな。
『堅物兄貴』ことディアゴ・アルバスは、アルバス家の長男。ゲームではクールなメガネ男子担当だった。宰相の息子がメガネでクールとは何ともまあべたなことだが、彼はそこに謎のオカン属性があって人気だった。妹のマリアとは険悪ということだったが、今のところは口喧嘩が多いだけといったところか。アルベルトと同い年で彼ととても仲が良かった。
ツンデレ担当こと二コラ・カロリスは武の公爵家のカロリス家の長男。金髪で王家特有の瞳の色を受け継いだ美少年だ。彼の剣の腕は相当なものらしく、現時点でも神童と有名だ。
ただ、彼は将来身長が伸びないことで悩んでいる。子どもの今の時点では周りとそう大差ないが、将来は170の壁を越えられないと嘆いていた。他の攻略対象がデカすぎるのがな・・・。どうしてこう、乙女ゲーの男子ってデカいのかな。日本なら二コラそんなに小さくないと思うけれど。
ハイーネ・デュランはあの氷漬け事件に参加していた王家派の令嬢で、スノウリリイの護衛のアスカ二オの妹だ。彼女もまたゲームのライバルキャラで、影の薄いスノウリリイや嫌われ者のマリアと違い、人気のあるキャラクターだった。彼女ははきはきとした気持ちのいい令嬢で、普段は男装をしていて女性に人気がある。彼女の家は第二騎士団の団長をしていて、彼女は男だらけ三人の一番下の妹であった。
その影響もあって男前な彼女だが、可愛いものが好きな趣味がある。二コラの婚約者なのだけれど、彼女の将来の身長は174センチと女性にしてはかなりの長身に育ってしまい、二コラとは少し気まずくなってしまう。彼女もまた剣の名手として知られている。
クリスティナ・ガーディニアはハイーネと同じく例のお茶会の参加者でかつライバルキャラ。通信面を管理する名門、ガーディニア侯爵家の令嬢だ。彼女はディアゴの婚約者なのだが、余り仲が良くない。クリスティナの方はディアゴが好きなのだが、彼女は少しぶりっ子というか・・・可愛らしすぎるために彼の方はどうも気に食わないらしい。でもプレイヤーにはこの性格だが、割と好かれていた。ハイーネとクリスティナはライバルキャラでも、友人になることが可能だからだ。それに彼女には実は秘密があるのだ。そこもまた人気の一つだろう。
そして『へなへな兄貴』こと、エミリオ・アルバスなのだが・・・。この彼がまた問題というか何というか。彼はアルバス家の次男で、将来はアルベルトの側近として活躍することになる。今でこそまるで少女のように中性的な彼だが、確かゲームでは一番背が高かったはずだ。実は私の前世の最推しキャラなのだが・・・。
「・・・・、・・・・・・。」
「なに?」
「?!いいえ!!何も!」
エミリオは、顔を真っ赤にして俯く。しかし、その目はちらちらとスノウリリイの方を見ている。
そうか・・・、やっぱりそうなるのか・・・。たぶん出会ったタイミングは変わっただろうが、これだけは変わらなかったらしい。
エミリオは作中で一番スノウリリイのことを気にかけていた人物であり、スノウリリイに対して唯一恋愛感情を抱いていた人物であり、スノウリリイを最も死に至らしめた人物であるからだ。
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