第14話 紫の小花




「おはよう、スノウリリイ」


わたしの一日はわたしの友だちからのあいさつから始まる。


「うん、おはよう」


わたしがあいさつを返しただけでこの子はすごく嬉しそうな顔をしてくれる。だから、私も朝から嬉しい顔になってしまう。




前はすぐ食べ終わらなきゃという気持ちになった食事の時間も、好きだったけれどいつも下をむいていた勉強の時間も少しずつ楽しいに戻って来た。ずっとだんまりしていた頃より今の方が、毎日がずっと楽しい。きっとまだわたしのことを悪く言う人がいても大丈夫って思える。それをあの子に言うと、でもちゃんと今度は我慢しないで嫌なことがあったら教えてねってだって。たしかにみんながわたしのことを心配してくれるのは嬉しいけれど、自分のことは自分で守って、解決して、わたしのことを守ってくれていた人を助けてあげたいな。




わたしのお友達は名前がまだないと本人が言っていた。黒くてもふもふなわたしの友達。毎日もふもふ、なでなでしてる。あの子、本当はどこから来たのだろう。本人と女神様は生まれたばかりって言っていたけれど、どうしてもそうは思えないんだよね。


あの子が来てからわたしの毎日は変わった。わたしが返事をしないのにあの子は毎日話しかけてくれた。もちろん、今までわたしに話しかける人がいなかったわけじゃない。でも、わたしに対して普通の話をして来たのはあの子だけだった。皆、わたしには必要な時しか話しかけて来ない。そういう風にわたしがしたのだけれど、あの子が来てからまた皆と会話というものもしたくなった。


お兄様にもあの子を特別に触らせてあげた。お兄様とまた一緒に遊べるの嬉しい。本当は毎日あの子と三人で遊びたいけれどお兄様は忙しいからたまにだけ。お兄様には他にお友達がいるみたい。それを言うと、あの子は「リリも私以外の友達を作るといいよ」って言う。マリアとなら、お友達になれるかな。今度呼んでみよう。




今日はママがわたしに今度のお誕生日のためにドレスを選んでくれる。あの子はついていきたがったけれど、叔父様がどこかにいるもう一人の叔父様探しに連れて行ってしまった。もう一人の叔父様、最近全然進展がないみたい。

それと最近の叔父様はよく宮に来る。わたしは叔父様が大好きだから嬉しい。外国のお話をいっぱい聞かせてくれるもの。けれども、わたしに会いに来るより、ローラに会いに来ている気がする。気のせいかな。ローラはわたしがあの子以外で、久しぶりにお話ししたいと思った人なの。大好きな叔父様でも、ローラのこと泣かしたら、キンキンに冷やしちゃうんだから。




あの子がいない時にママと一緒なのは初めて。でも、もう前と違ってちょっとずつ大丈夫になっている。


「まあまあまあ、お似合いですよ王女殿下」


「こちらも着てくださいな」


「さあ、こちらも」


ぐるぐる着せ替え人形にされて吐きそう。いっぱいの知らない人はやっぱり苦手。ドレスを見るのは綺麗だから好きだけど、着せ替えは疲れるからあんまり好きじゃない。でも、みんな嬉しそうだから少しだけ我慢。わたしのお誕生日のドレスだからね。


「気に入ったものはありますか?」


どれかな・・・。全部可愛いなー。あ。パッと一つのドレスを指さした。


「いいものを選びますね。あちらは『星』の国で流行りのフラワーモチーフシリーズです」


わたしが選んだのは「violet(スミレ)」というドレス。鮮やかな紫は上品。袖と裾が広がる形をしている。肩が出ているのにセクシーというより清楚な雰囲気になるのが不思議だ。わたしのドレスが決まったので、今度はママのドレスを選ぶのが始まった。ママは気合が入っているから時間かかりそう。ひまだから、他の商品を見て回る。アクセサリーや小物もいっぱい来ているな。


「王女様、何か気に入ったものがありますか?」


げ。話しかけられた。いつも近くにいる人とはしゃべれるけれど、初めて会う人はまだ少し苦手。でも、一つ欲しいものがある。


「あの・・・」


わたしは気になっていたリボンを指さす。濃い青にキラキラした小さなビーズが縫い込んである。


「まあ、こちらですね。少々お待ちを」


「少し切ってくださるかしら?」


ママがこちらにやって来た。切られたリボンを受け取ると、わたしに目の前に座るよう言った。


「ふふ、完成。似合うわよ~スノウちゃん」


鏡を見るとリボンがわたしの髪を二つに結んでいた。白い髪の中では青はよく目立つ。


「ありがとう」


「わっ、可愛いね」


いつの間にか来ていたあの子が、鏡の中に写り込んだ。


「用事終わった?」


「うん。ドレスも決まった?」


「あの紫のだよ」


「へーいいね。すごく綺麗」


「あのね・・・これ・・・」


わたしはあらかじめ切っておいた先ほどのリボンを差し出す。


「プレゼント。こっち来て」


ママがわたしにしてくれたみたいに、あの子の首につけてキュッと結んであげる。にこにことして、


「ありがとう、おそろいだね」


と言って鏡の前でくるくる回った。喜んでくれたみたい。


「ねえ、前に名前決めていいって言ったの覚えている?」


「ん?そういえばいったね、私」


「すごく時間かかったけれど・・・考えたのがあるから聞いてくれる?」


「!!教えて教えて」


「あなたの瞳の色とあなたの好きな花から取ってビオラ」


「・・・。」


スンと黙っちゃった。嫌だったのかな。


「あのね、気に入らないなら別に・・・」


「・・・・え、あ。ううん、違うよ。少し驚いただけ。私の好きな花覚えていてくれたんだなって」

「ありがとう。じゃあ私の名前今日からビオラね」


「うん、改めてよろしくね。ビオラ・・・ううん、ヴィー」


「それが愛称ってやつね!素敵」



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