ダメ少女の悩み
午後5時。雨宮とのデートを終えて、真琴は家に帰宅した。母の美咲は夜勤勤務を終えて爆睡していた。2階の部屋に入ると、いつも通り松下がいた。
「どうだった?」
「……見てたんじゃないんですか?」
「最初はな。でも、昼飯あたりのところは見てない」
「……そうですか」
バッグをおろしながら、ベッドの上に座ってため息をつく。とにかく、怒涛の1日だった。
「話しは盛り上がったか?」
「もちろん、めちゃくちゃ盛り上がりましたよ」
「フラミンゴとフラメンコを間違えてたところは、壮大に一人で盛り上がってたように見えたけど」
「ふ、ふざけないでくださいよ! あんなこと言うためにわざわざ出てきて」
「……あれは、出てこざるを得なかった」
「どう言う意味で!?」
恐らく、ツッコミたくてツッコミたくて仕方がなかったのだろう。なんて、嫌味な性格をした死神だろうか。ミスター嫌味と言っても過言ではない。いや、過言じゃなさ過ぎる。
「とにかく、その後もお弁当を一緒に食べたり、動物園を一緒に見たりして楽しかったですよ」
「そうか……でも、それにしちゃ浮かない顔だな」
「……実は告白されました」
「……そうか、よかったじゃないか」
「……」
なんとなく松下はそう言うんじゃないかと思っていた。死神の仕事は対象者に『思い残し』をなくさせること。真琴の願いは『恋がしたい』だったし、実際に気になる男子に告白までされたのだから、願ったら叶ったらと言うところだろう。
「どうした? なんでそんなに沈んだ表情をしてる?」
「ちょっとだけ……考えてみようって思うんです」
「考えるって、なにを?」
「……雨宮君と付き合うかどうかです」
そう言った時、松下が真琴の方を見た。表情からはどんな気持ちでいるのかは想像できない。
「なんで?」
「……上手く言えないんですけど、いいですか?」
「ああ」
真琴は自分の気持ちに問いかけながら、言葉を探る
「その……自分の気持ちを確認したいって思ったんです。もちろん、雨宮君はすごくカッコよくて、素敵な人だけど、本当に私はこの人が好きなのかがよくわからなかったんです」
「……」
「私は好きな人と恋がしたい」
「……」
それが、偽らざる真琴の想いだ。好きな人と恋がしたい。今、考えると、それはすごく贅沢な願いだった気がする。本当に自分が好きな人に好きでいてもらえること。それは、すごい奇跡だったりするのに。
「もちろん、松下さんは私のことを思って、力を貸してくれている。そのことはわかってます」
「そんなことはどうでもいい」
「どうでもよくないですよ。だって、それだって私の気持ちなんですから」
「……言っている意味がわからない」
「松下さんにも感謝してるってことです……不本意ながら」
「……不本意だと言うのが、もっとわからない」
「要するに、私は私の気持ちに素直になりたいってことです」
誰のものでもない。心というのは、真琴のものだ。だから、周囲の人たちの想いも大事にしたい。今までそうやって、生きてきた。だから、これからもそうやって生きていきたい。
それが、たとえ残り少ない余命だったとしても。
「松下さん」
「ん?」
「……ありがとうございます」
「なんのお礼だよ」
「なんのお礼でもありません」
「なんだそりゃ?」
「わかんなくたっていいんです」
「あのな……さっき上手く言えないんですけどって言ってたけど、本当に意味がわからないぞ?」
「わかんなくっていいですって言ってるじゃないですか」
「いつも以上に意味がわからない」
「わからないですよ……松下さんなんかには」
「それだと意味が変わってくる!?」
「……ふふふ」
いつも通りのツッコミを入られて。思わず真琴は笑ってしまった。そうだ、この感じがいい。いつも通りに生きるのだ。いつも通り、朝起きて、学校に行って、夜に駅前で歌って。
そうやって過ごすことが一番幸せであることに気づけた。
恋をしてもしなくても、そうやって過ごす日常が愛おしい。そうやって、過ごす人たちが大切だ。たまに、デートなんてのもあってもいいけど、こっちの生活だって自分には大切なのだ。
「さっ、そうとわかれば駅前に行きましょうよ」
「ええっ!? 今から行くのか」
「歌いたいんです。すっごく」
真琴はすぐに支度を始める。雨宮から告白されたことも、それを受けて自分がどう感じたかを、歌に込めたい。きっと、違う声になっている気がする。きっと、違う抑揚になってる気がする。
「さっ、松下さん。ギター持ってください」
「頼み方が雑!」
「さっさと持ってくださいよ。せっかく、雨宮君の前で、松下さんは優秀な荷物持ちだって誉めたんですから」
「それ全然褒めてないだろ!」
「……誉め称えたんですから」
「訂正すべきとこはそこじゃない!」
と松下の不満を華麗にスルーしたところで、真琴は笑いながら歩き始めた。
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