ダメ少女のデート(2)
雨宮は黒の革ジャンと黒のジーパンを着ていて、なんだかロックな感じの出立ちだった。金髪が今日も派手に輝いていて、やはり松下とは正反対のイケメンだ。
「ごめん、待った?」
「ううん。全然。待ち合わせ時間前だし」
と全然強がる真琴だったが、実際には結構待った。その時間は、来なかったらどうしようとか、場所を間違えたかもとかなりソワソワしたので、次は待ち合わせ直前に来ることにしようと思った。
やっぱりデートは待つより、待たせるものである。
「じゃあ、行こうか」
「うん」
雨宮と二人して歩く。こうして、松下以外の男の子と歩くことは初めてだったので、なんだか不思議な気分だ。気持ちがなんだかフワフワするし、横顔を見ながら歩くのが、落ち着かない。
「動物園だけど、よかった?」
「えっ、なにが?」
「いろいろと迷ったんだけど、あんまりこういう経験がないからさ」
「……その割には、サラッと誘ってくれた気がしたけど」
なんせ、会って2回目での誘いだ。非リア充の真琴にはちょっと考えられないフットワークだ。そもそも、電話番号もサラッと聞かれたから、結構な遊び人なのかなとも思ったが。
「あー……あの時は、内心ドッキドキだったんだ。ちょっとだけ焦ってたしね」
「え?」
「い、いや、なんでもない。忘れて」
雨宮はアタフタした様子で答える。その様子を見て、大人に見えていた彼が以外にも同い年くらいに感じて、肩の力が抜けてきた。格好は割と奇抜だが、その温厚な性格とのギャップが見ていて面白い。
「ふふっ。私、動物園好きよ。一度、行ってみたかったし」
「本当に? よかった」
雨宮は安心したかのように、ニカっと笑う。その笑顔はやはり眩しくて、イケメンだ。二人は電車に乗り込んで並んで座る。話題はやはり音楽が多かった。
「真琴ちゃんはいつから作曲を始めたの?」
「んー……6歳くらいかな」
「早っ!」
「元々お母さんが音楽をやってて、最初は真似事で、ピアノとかギターとかを習ってやってたんだ」
「えっ? もしかして、お母さん有名な歌手の人?」
「ないない。そんな訳ないじゃん。単なるシングルマザーの看護師よ」
「……そうなんだ」
若干、雨宮の表情が曇った時、真琴はしまったと思った。日常の会話はもっぱら母の美咲とか、親友の千早とか、松下である。その3人はよくも悪くも会話に遠慮がない。なので真琴自身、相手が引いてしまうような話題もポンポンと口から出てしまう。
雨宮が引っかかったのは、恐らくシングルマザーというワードだろう。気を使わせてしまっただろうか。
「あの、でもすごく面白いお母さんなんだよ。お父さんはいないけど、全然寂しくないと言うか、むしろ寂しさを全然感じさせないほど騒々しいというか」
フォローになっているのかいないのか、よくわからない言い訳を真琴が言い始める。こんな時には、いつも松下が助け舟を出してくれるが、今日ばかりは物陰に隠れている。次になんて言おうかと右往左往していたところで、雨宮が神妙な様子で口を開いた。
「……わかるよ。俺も片親だから」
「えっ?」
「こっちは父親だけだからむさ苦しい限りだけどね。母親がいなくて寂しい想いをしてないって言えば嘘になるけど、それでも精一杯育ててくれた。感謝してる」
「そうなんだ」
思わぬ共通点が見つかって、なんだかホッとしてしまった。そして、王子様みたいなルックスをした雨宮が、なんだか身近に感じた。それに、同じく片親とわかったことで、なんだか話すことのハードルが低くなった気がする。だんだんと心の鎧が脱げてくる。
「カッコいい親父でさ。ギターをしてて、俺も見様見真似で音楽を習ったんだ。逆に勉強が全然できなかったんだけど、そんなの全然気にするなって。偏差値の低い学校だけど、まあ服装も髪型も自由だから楽しんでやってるよ」
「あっ、雨宮君てどこの高校なんだっけ?」
「四乃門高等学校の夜間でさ、昼はバイトして夜に高校通ってるんだ」
「そ、そうなんだ。すごいね」
「すごい?」
「あっ、ごめん。気に障った?」
「ううん。でも、なにがかなと思って」
「えっと……昼にバイトして夜に勉強でしょ? それで、土日で音楽やって。休む時間あるかなぁと思って」
真琴は素直にそう思った。普通科の高校に通ってる身だと、そんな風に違う生活をしている高校生には驚きを覚える。そう言うところが、雨宮が自分より少し大人に見える原因だろうか。
「……プロのミュージシャンになりたいからさ、お金貯めたいんだ。でも、高校だけは出ておけって親父に言われて泣く泣く。本当は、ずっと音楽やってたいんだけど」
「やっぱり、すごいなぁ」
照れながら話す雨宮を見ながら、真琴は心の底から感激した。彼は堂々と自分の夢が語れて、それに向かってひたむきに真っ直ぐ行動している。思えば、自分もそうであればよかったとも思う。
「真琴ちゃんは、プロを目指さないの?」
「プロ? プロ……プロかぁ……」
密かに目指していた事実は言えないので、適当に発言を濁す。余命がわかってからは、もう考えないようにしていたことなので、蒸し返されるとちょっと辛い。
「絶対に目指した方がいいよ! それだけすごい才能なんだから」
「あはは。そう言ってくれるのは雨宮君だけだって」
「松下さんは? そんな風に言ってない?」
「全然。むしろ、お前なんか駄目だ。まだまだ、まだまだだって」
「き、厳しいね」
「ね。死神のくせに」
「死神?」
「あっ! えーっと……あだ名。あの人、死神って言うあだ名なの。ほら、暗いでしょ? それに皮肉ばっかり言うし」
「そうなの? すごくいい人に見えるけど」
「それは、激しく勘違いだから」
慌てて誤魔化しながら、『松下いい人説』を断固否定しながら、二人は電車を降りた。
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