ダメ少女の遺言


 松下は落ちたディスクをしばらく見続けていたが、やがてケースを開けて、パソコンに入れた。すると、真琴の姿が映し出された。恐らく自撮りした動画なのだろう。美咲と千早の箇所は見るのを憚られたので、その部分は早送りにした。


「あー……松下さん。聞こえますか?」

「……聞こえてるよ」

「聞こえてますか?」

「だから……聞こえてるっての。しつこいな」

「しつこいって言ったって、しょうがないじゃないですか!? こちとら、そっちが見えないんですから」

「え……」

「言ってなかったら、まあ、甘んじて叱責を受けてください。日頃の行いということで」

「くっ……な、なんてヤツだ」

「えーっと……なにから話しましょうか。この動画は、京都に行く前に撮ってます。多分、近いうちに私が動けなくなると思うので、今の自分の気持ちを言っておこうと思いました」

「……」

「ストーカーの松下さんのことだから、多分、デリカシーもないので多分一番この動画を見つけるんじゃないかなって思ってます」

「ふ、ふざけんじゃねーぞ」

「なので、本命はお母さん宛と千早宛なので、二人には絶対にこの動画を見せてください」

「……現世に強く影響のある行動を死神は禁じられている」

「はいはい。どーせ、現世に強く影響のある行動を死神は禁じられているとか言うんでしょ? ケチ」

「くっ」

「なので、この動画はついでです」

「つ、ついで……」

「突然、余命が49日って言われた時は、本当にふざけんなと思いました。得体のしれない死神が突然やってきて、正直不審者かと思いましたし」

「……なんて女だ」

「事実です」

「聞こえてんのか!? おい」

「でも、そんなに死ぬの自体は怖くはなかったんです。正直、やりたいことがあったって、どうせやれないってあきらめてて。だから、恋がしたいって言った時も、なんとなく簡単にやれそうだからって思って」

「……そうだったな」

「あー……」

「どうした?」

「今から言うことは、軽めに聞いてください」

「……なんだよ」

「軽めの遺言です」

「重いよ!」

「うー……」

「なんだよ? さっさと言え」

「……それでも、恋をするために、ずっと松下さんと話したこと。松下さんがなぜかインコになったこと。携帯電話を聞くことすら断られたこと。むしゃくしゃして、映画館に一人で行ったこと。そこで、困っている松下さんが駆けつけてくれたこと。渡会さんを紹介してくれたこと。イメチェンして、学校に行ったこと」

「……」

「ふふっ……今、思い出しながら笑いが込み上げてきました」

「……泣いてんじゃねーか」

「恋以外にも、思い出すと楽しかった。松下さんが、駅前に連れ出してくれなかったら、私はあんなに楽しい想いもできなかったと思うと、不本意ですけど、大変感謝しております」

「……なんで不本意なんだよ」

「歌を歌うことが、こんなに楽しいことだったなんて。私はずっと曲を作ってて、披露することなんてもうないんだって思ってた。それから、雨宮君にも会えて。それで、雨宮君をいいと推してくれた松下さんを見ながら、途中で、なんだか辛くなってきたのを覚えてます」

「……」

「最初は、なんで気持ちになるのかわからなかったです。私、雨宮君をカッコいいと思ってたし、彼は実際すごくいい人でした。私にとって、すごくキラキラ輝いていて、まるで王子様みたいな人」

「……だから、雨宮にしろって言ったんだ」

「でも……なんでかな。私の視線にはいつも松下さんがいて。私の心にも……いつも松下さんがいて」

「……」

「そして、私は松下さんに恋をしていました」

「……」

「好きです。松下さん」

「……」

「あらためて、私の人生は幸せだったんだなって思いました。大好きなお母さんがいて、大好きな千早がいて。大好きには少し負けるけど……ついでに好きな、松下さんがいて……」

「……」

「自分が死にたくないって心から思えるくらいには、私の人生は幸せだったんだって思えました。だから……」


















「ありがとう、松下さん」



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