ダメ少女の友人
「真琴……どうしたの!?」
「いや、どうしたって言うか……」
千早が待ち合わせ場所に来て、顔が真っ赤で言い淀む真琴に、グイグイと近づいてくる。少々の追及は覚悟していたが、まるで新聞記者のような形相に、思わず数足、後ずさる。
「ははーん。例の彼氏さんに言われたんでしょう? もっとお洒落しなさいって」
「か、彼氏じゃないって! 断固として」
全力で否定するが、千早はその言葉の一切を信用しない。ニヤニヤ、ニタニタ、生暖かい視線を送ってきて、実に嫌な感じである。
「まさか、牧野君に携帯番号聞いて玉砕してたのは知ってるけど、そんな展開になってたとは」
「えっ! なんで知ってるの!?」
「まあ、狭いクラスだからね。噂が広まるのも早いよ。牧野も、悪気なく言いふらしたりしてるから」
「あ、あの野郎……」
やっぱり、もっと懲らしめておくべきであったか。千早も気遣っていて黙っていたのだろうが、それなら墓場まで持っていって欲しかった。あっけらかんと本人の前で暴露してしまうところが、まあ彼女らしい。
「でも、あの松下さんて何者? めちゃくちゃイケメンだったけど。歳上よね?」
「えっと……まず、イケメンではない」
『おい』
と念話でのツッコミを無視して、そこは即座に否定する。確かに映画感で突然現れた時は、不意にも、不埒にも、前後不覚にも、格好よく見えたのだが、やはりよく見たら松下は松下だった。真琴はイケメンとは認めてはいない。
いや。認めてはならない。
「またぁ。あんた、男の趣味悪いよ? 牧野君なんかより、よっぽどカッコよかったし、内藤君より」
「あ、あんた自分の彼氏捕まえて」
「事実だもん。大人な大学生って感じ。で、どうやって、知り合ったの?」
「えっと……」
真琴は、思わず言い淀む。まさか、本当のことを言う訳にはいかないし、言って信じて貰える訳がない。そんな風に困っていると、隣で浮遊していた死神が、仕方なさそうに……いや、まんざらでもなさそうに口を挟む。
『大学病院で知り合った研修医だって言え』
『死神なのに?』
『千早ちゃんの、俺に対するイメージを崩したくない』
『褒められてめちゃくちゃ調子に乗ってる!?』
松下のイメージを上げるのは癪だったが、言い訳としてはかなりまともだったので、採用して千早に説明した。
「す、凄すぎっ! そんなドラマみたいなこともあるのね。素敵」
「いやいやいや。本当にただの知り合いだって」
「真琴に好意はないってこと?」
「1ミリもない!」
「ふーん……まあ、そう言うことにしといてあげよう」
なんだか意味深で、含みのあることを言う千早だったが、からかい、からかわれるのはいつものことだ。
「でも、悔しいけど本当に可愛いわね。おでこだして、メイクするだけでそんなに変わる? 整形したんじゃない?」
「し、失礼な……」
なんと口の悪い親友だろうか。こともあろうに、整形とは。
『君は以前、初対面の俺に同じような発言をしたけどな』
『き、記憶にございません』
『政治家か!?』
と時折、会話に入ってきそうとする死神の妄言を無視して、真琴はあらためて自分の外面が大きく変わったのだと認識する。髪を切って、メイクをしただけ。それだけで、こんなにも見え方が変わるなんて。
「髪の色もいい感じだし。どこの美容室? レモン美容室では、この色は出せないわよね?」
「えっと……知り合いのとこ」
「松下さんに紹介してもらった?」
「まあ、そうなんだけど、違うよ?」
と事実なのだがニュアンスが異なるので真琴は頑張って否定する。それでも、全然響かない親友は、相変わらずニヤニヤが止まらずに、『へー』とか、『ほー』とか、とにかくうるさかった。
『いい親友だな。特に君と違って、見る目もある』
『ウザっ』
とにかく上から目線が気に入らない真琴は、死神の発言を暴言で潰しにかかる。
「でも……よかったね」
「ん? なにが」
「最近の真琴、なんかいいよ。ルックスが変わったのもあるけど、最近ずっと、なんか楽しそうだよ」
「……そう?」
自分では気づかなかった。でも、確かに最近は自分の身体を気にせずにやろうと思ったことをやれている。言いたいことを、おかしな死神にぶつけている。
そう言う意味では、松下のお陰なのか。
……でも。
「どうしたの、真琴? 早く、早く」
「う、うん。ごめん」
不意に立ち止まったところを注意された真琴は、慌てて小走りで千早に追いつく。自分が楽しかったのだとわかった瞬間、違う感情が、少しだけ隙間に割り込んできた。
でも、死んじゃうのか、と。
真琴の心がズキっと痛んだ。
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