ダメ少女の交流


 チャイムが鳴って、昼休憩の時間になった。真琴はめでたく飼育係を拝命したので、インコ(松下)のいる鳥籠に近寄る。


『うわっ……めっちゃフンしてるじゃないですか』

『ご、誤解するな。俺は一時的にこのインコの思考を奪っているだけで、排泄云々は勝手にやっていることだ』

『あっ、そうだったんですか。てっきり、変身したかと思ってました』


 それはそれでと真琴は安堵する。さすがに、松下の顔を思い浮かべながら、フンの掃除をするのは屈辱以外の何物でもない。


『それだと、ずっと檻の中にいなくちゃいけないからな。たまたまペットショップから逃げ出したインコがいたんだよ。このままだと、飢え死にするから思考を奪ってここに連れてきたんだ』

『……で、檻を作って、先生を操ってですか? それだけのことができるんだったら、もっと手伝ってくれてもいいのに』

『それはできない。何度でも言うが……』

『わかってます。現世に強く影響の及ぼす可能性のある行為を死神は禁止されている、でしょ?』


 真琴は籠の檻を空けて、インコの頭を2回つついた。正直、鳥自体は苦手な部類に入るのだが、これが松下だと思うと、なんとなく憎たらしくなってくる。


「ずいぶん懐いてるね。そのインコ」


 その時、後ろから声がした。真琴が振り向くと、そこには牧野が立っていた。途端に、胸の奥の鼓動が大きくなる。そもそも、活発な行動ができないので、昔から男子が苦手だった。なので、男子と会話するだけでも結構緊張する。


「えっ……なんでだろう……ねぇ」


 まさか、中に死神(役立たず)が入っているとは言えない。一生懸命に言い訳を考えていると、その前に牧野が口を開いてくれた。


「俺も3羽飼ってるんだけど、鳥って小さい頃から教育しないとなかなか懐かないんだよ。この大きさだと結構、月日も経ってるし、飼い主以外にも触れさせるってことは、相当可愛がられて育てられている証拠だよ」

「そ、そうなんだ」

「相沢も、鳥好きなんだ?」

「……えっ、うん。動物の中では」


 牛、豚、鳥……この中では一番ヘルシーで、リーズナブルで好き、と心の中で付け加えた。


「ふーん。じゃあ、どうする? 交代で世話しようか?」

「えっ……と」


 それはマズイと、インコ(松下)が必死に羽をバタつかせる。真琴も、言わんとしていることはわかっている。意図していることは、交代じゃなく、一緒にやることだ。でも、なんと言ったらいいのか。


 まさか、一緒にいたいなんて、いきなり告白をかますわけにも。


「あの……ごめん、鳥は好きだけど、世話したことはなくて。もし、よかったら。もし、よかったらなんだけど、やり方教えてもらってもいい?」

「別にいいよ。じゃあ、当分は一緒にやろうか」

「う、うん」


 真琴は嬉しそうに頷いた。まさか、こんなにも早くお近づきになれるなんて、予想外だ。いや、生まれてから今まで、こんな展開はなかった。これも、やはりこの奇妙な死神のおかげなのだろうか。


「餌は基本的には3回。朝、昼、帰る前。多く出すといくらでも食べて肥満になるから、水も同じタイミングで変えてあげるのがいいかな」

「なるほど」

「でも、本当はもっと大きい鳥籠の方がいいんだ。これだけ小さいと運動不足になっちゃうから」


 牧野は、手際よく敷かれた段ボールを取り替えながらつぶやく。やはり、家に3匹飼っているだけあって、慣れている。というか、それだけで家の大きさが想像できるので、結構裕福な家庭なのかと邪推したりもした。


「かなり賢いインコだったら、放課後にうさぎ小屋なんかに離してしばらく飛ばしてもいいんだけど。俺の指にも乗るかな……」

「乗ると思うよ」


 と言いながら、真琴はインコにウインクをした。意外と役に立っている死神。こうなれば、徹底的に利用させてもらう。

 牧野は鳥籠の檻を外して、インコ(松下)に指を近づける。


「おおっ……乗った」

「飼い慣らされてるんだよ、きっと」


 そう言うと、キッとインコが殺意を向けた視線を浮かべた。冗談が通じない死神だと、その視線を外しながら、真琴は優しくインコの頭をなでる、牧野の顔を見つめていた。





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