ダメ少女の恋愛偏差値


 3時限目、そして4時限目の間、先生の言葉をガン無視して、あーでもない、こーでもないと、いろいろと議論した結果、同じ組の牧野亮雅にすることにした。


『素行よし。成績よし。性格よし。今どき珍しいおばあちゃん子で、母性本能をくすぐるタイプとして、ちまたで噂だと言う』

『……女子高生に母性本能があるかどうかはわかりませんが、私もいいと思います。人当たりもいいし、明るいし』


 何より、外見がカッコいい。


 少女漫画を読んでいればわかる。恋をするには、特殊能力持ち以外は、イケメン必須なのだ。真琴が知る限り、顔面偏差値の低い男には恋は発生しない。

 主人公のイケメングループを彩るお調子者の脇役でさえ、イケメン。むしろ、それ以外のモブキャラは、人権保障がされていない。


 これが少女漫画のメインストリームであり、すべてだ。


『……まあ、そこが君の恋愛偏差値の低さを物語ってるんだけどな』


 そんな真琴の意見に、半ば呆れ気味の松下。いったい、なにが不満なのかよくわからないが、正直黙ってほしくはある。


『でも、現実問題としてほとんどの人が外見から入るでしょう?』

『……まあそうだけど。ともあれ、決まったら声かけろよ。次の休み時間な』

『ええっ! まだ、心の準備的なものが……』

「そんなもん、気の持ちようだろうが。こういうのは勢いが大事だから、なんか強引にでも共通点見つけて話しかけにいくのがいい」

『……共通点』


 そもそも男子が苦手な真琴にとって、それは結構ハードルが高かった。牧野のことも、よく知ってるわけではない。ただ、第一印象がよかったから、急かされたから、なんとなく決めただけで。


「いいか? 情報まとめるぞ。牧野亮雅。誕生日3月23日。サッカー部。グループは1軍(真琴調べ)。だな、3軍の相澤真琴さん」

『し、失礼な。2軍半です』


 千早だっているし……と、真琴は心の中で付け加えた。


『まあ、普段属さないグループに入っていくんだから勇気がいるだろうが、応援してる』

『勝手に応援しないでくださいよ、無理。ぜーったいに、無理』


 余命宣告されたからと言って、自分なんて、そんなに簡単に変わるもんじゃない。真琴にとって、一軍のグループに声をかけにいくのは、旧日本軍が米国に万歳攻撃バンザイアタックかますのと同じくらいの勇気が必要だ。


 いや、それは勇気じゃない。無謀というのだ。


『はぁ……しょうがないな』

『わかってくれました? だから、違う作戦を考えましょう』

『いや。少しだけ、君に力を貸すことにする』

『……なにをしてくれるんですか?』

『きっかけをつくるために、実体化してこの教室に潜り込む』

『えっ!? それって、転校生になって、このクラスの一員になるってことですか?』

『まあ、似たようなもんだ』


 この発言には、真琴も大いに驚いた。会話にいちゃもんをつけるだけの簡単なオシゴトが、死神の業務だと認識していたのに。実体化なんて、すごい。


『……そんなこと、できるんですか?』

『ふっ……死神をナメるなよ。ちょっと、待ってなさい』

『松下さん。ねえ、松下さん』


 それから、何度も念話で呼びかけるが、一向に応答がない。待っている間の時間は、不安とワクワクでいっぱいだった。いきなり現れた松下にみんなはどんな反応を示すのだろうか。


 そして、次の休み時間が終わった後、先生は教室のドアを開けて入ってきた。そこには、引率する死神の姿はなかった。てっきり、転校生みたいな立ち位置で乗り込んでくるのかと思ったのに。


 しかし、代わりに先生は、鳥籠を持っていた。中には、小さなインコが一匹。妙にふてぶてしい佇まいをして、心なしか真琴の方をジッと見ている。


 あいつ……まさか、


「授業始まる前に。このインコを教室で飼うから」



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