【番外編】ニーハイは好きですか?
七海は基本的には学校ではギャル系の格好、僕といるときは気分でギャル系や大人しめの服装を使い分けていたりする。
割と衣装持ちなのかなと思っていたんだけど、その辺はどうやら色々とやりくりしたり、同じ服でも小物のアレンジ等で雰囲気を違うように魅せているようだった。
あとは、行きつけの美容院のトオルさんからたまにスタッフの練習モデル? カットモデル? を頼まれたりするらしく、そのお礼としてお金だったり、お下がりの服をいただくことがあるらしい。
ちなみに今日はギャルの方の格好だ。チラリとおへその見える無地の白いシャツに、デニム生地の太腿が見えるショートパンツ、上着は丈の長い……なんて言うんだろうあれ?
まぁ、とにかくファッションに明るくない僕にそれが何て言うのか分からないけどそういう服を着て来ていた。ちなみに今はその上着は脱いでハンガーにかけてある。
でも、今日は随分と露出が多いなぁ。まだ夏前だから肌寒いだろうに……。あ、あの上着はスプリングコートとか言うやつかな?
七海はチラチラと僕の方を見ながら、ベッドに座って足をパタパタとさせている。
「どしたの七海、脚パタパタさせて? 今日って確か……僕の勉強を見てくれるっていう話だったと思うけど……」
「うーん、陽信。なんか気づかない?」
七海はちょっとだけ小首を傾げると、脚を引き続きパタパタとさせている。
実は僕は、見た目は陰キャでいかにも勉強だけはできますという雰囲気を出していながら勉強が基本的にできない。赤点は取らないけど平均点は下回る。そんな微妙な成績だ。
七海はギャルな見た目に反して……と言ったら怒られるかもしれないけど、かなり勉強ができる方だ。
いや、成績が良いからこそギャルのような恰好をしていても先生たちからは許されていると言った方が正しいだろうか。
先生方にもフレンドリーなので、好成績を維持している七海の格好にはほとんど言及しない。でも僕がたぶん校則違反と言うか、派手な格好をしたら色々言われるんだろうな。
良いか悪いかは別として、学生の本文を成していれば服装くらいはごちゃごちゃ言わない校風なのだ。
まぁ、そのおかげで七海と僕の付き合いと言うか、学校でのイチャイチャも許されている節がある。
話を戻すと勉強の話だ。
僕は今の成績でも今までは特に不満は無かったのだけど、七海と付き合うようになって状況が変わった。僕が意識的に変えたというのが正確か。
七海と同じ大学に行くためには僕は今の成績で満足してはダメなのだ。だから今はこうやってたびたび七海に勉強を見てもらっていたりする。
あれ、そういえば……。
「僕の勉強を見てくれる日なのに、そういう格好なの珍しいね。ちょっと脚が出過ぎで心配だけど……うん、可愛いよ?」
「えへへ、ありがと。でも脚出過ぎかな? 陽信、私に膝枕されるの好きだからちょうどよくない? 生足で」
「うん、それは嬉しい……っていや、僕の事はいいというか、僕の本音を引き出すの止めてくれないかなぁ?」
足をプラプラさせながら七海は自分の太腿辺りをぺちぺちと叩いている。軽い音が僕の部屋に響いた後で、七海は少しだけ意地悪な笑顔を僕に向けた。
「じゃあもう膝枕してあげなーい♪」
「ごめんなさい、七海の膝枕大好きです」
「どうしよっかなぁ……?」
「許してくれないなら僕も七海を膝枕することを止め……」
「ごめんね陽信、ちゃんと膝枕させてあげるからね」
何だこのやり取り。ちょっと楽しいけど、七海は何が言いたいのだろうか?
「実はね、こんなものをトオルさんから貰ったんだー」
七海は持参したカバンから黒くて細長い何かを取り出した。紐とは違うし、細さからマフラーにも見えない。なんだろうか? 見慣れないそれに僕は首を傾げた。
「コレ、何かわかる?」
「いや……手袋とか?」
ブラブラと揺らすそれを僕に見せつける七海は、可愛く首を傾げながら僕にクイズを出す。でも正直、分からなかった。なんだろうか?
「ヒントは身に着けるものです」
「……身に着けるの? 手袋には長いみたいだけど……。あ、でもなんかファンタジー小説とかで長い手袋付けてる絵とか見た覚え有るから、それかな?」
自分の持っている知識で答えられるのはそれくらいだったんだけど……七海は笑みを深くする。
その笑みだけでよくわかる。どうやら僕の答えは間違っていたようだ。
「正解は、これニーハイソックスなんだよー。ここの白い模様とか可愛くない?」
「ニーハイ? 七海そう言うの持ってたんだ……って言うかなんで持ってきたの?」
「トオルさんから前に貰ったんだよねー。で、陽信が好きだって聞いたから持って来てみたのー。ニーハイって略すんだっけ?」
「へぇ、そうなん……ちょっと待って、誰から聞いたのそれ?」
突然の七海の言葉に僕は大いに焦った。
いや、確かにニーハイは好きだけどさ、それってソシャゲのそういうキャラが好き……と言うか可愛いよねと話題に出した程度なんだけど。実際にはそこまで好きって程でもないんだけど……。
あー……誰から聞いたとか言っときながら心当たりが思い当ってしまった。たぶんあの
「……もしかして、ピーチさんから聞いた?」
「うん。陽信がニーハイ系キャラを当てるのに無料ガチャで爆死して嘆いてたって話を聞いて、たぶん好きなんだろうなって」
ち……違う。それは性能面で欲しかったのであってニーハイだから欲しかったわけでは無いんだよ……。
なんだか恥ずかしくなってしまった僕は訂正しようと思って、言い訳に聞こえても良いからと口を開こうとした。だけど……。
「今日の勉強が良くできたら、ご褒美にこのニーハイを履いて膝枕してあげるよー」
七海のその言葉に、僕の動きがピタリと止まる。
マジで?
いや、決してニーハイが好きなわけじゃないけど、七海がニーハイ穿いて膝枕してくれるとなったら話は別じゃない?
七海のニーハイ姿って見たくない? 僕は見たいぞ。心の底から見たいぞ。
でもニーハイ好きだと誤解を受けたままなのを考えたら……ここは訂正しておくべきなんだろうか?
僕が葛藤していると、七海は更にカバンの中から布を取り出した。
「ニーハイに合わせてミニスカートも持って来てみたよ。履くのはショートパンツの上からになるけど、ピーチちゃんから絶対領域? ってのが凄く良いって教えてもらったから。でも絶対領域って何?」
……ピーチさん……君はなんて知識を七海に教えちゃってるんだい。スカートとニーハイの絶対領域なんて普通のギャルは知らないんじゃないかな?
ありがとうございます。
もうピーチさんには足向けて寝れない。もうピーチ様だ。時折、余計な知識を七海に植え付けるかもしれないけど今だけはピーチ様と心の中で呼んでおこう。
そして僕は、今日の勉強を死に物狂いで頑張ることを決心するのだった。
……それからしばらく時間は経過して。
「つ……疲れた……いや……疲れた……」
僕は情けなくも机に突っ伏していた。なんというか無駄に気合いが入り過ぎた。普通に勉強がヤバかったのもあるけど、報酬効果とはここまで凄いのか。
「うーん、陽信って基礎は徐々に良くなってきてるけど応用になると弱くなってくるねぇ。数学は数をこなして……あ、でも暗記物はだいぶ良くなってる。英語は……もうちょっと頑張ろうか」
英語はなぁ……苦手なんだよ……何ですか文法とかって……。七海はそんな僕の心情を慮ってか、優しく僕の頭を撫でてくれる。
癒される……。
「それじゃあ陽信にはご褒美あげようかなぁ」
パッと手を離すと、七海は僕のベッドに腰掛けてまずはニーハイを付けようとする。僕はその光景を机に突っ伏しながら眺めていたんだけど……。
「……陽信……見られてるとはきづらいから、その……後ろ向いててもらえないかな? それとも、そんなに見たい? 見たいなら見ててもいーよぉ?」
ちょっとだけ頬を染めた七海は、恥ずかしそうにしながらも悪戯っぽい笑みを僕に向ける。
多分ここで僕が慌てて顔をそむけることを前提にしているだろうその笑みを見て、僕は一度目を閉じてから少しだけ声を張る。
「……見たい!」
「ふぇっ?!」
「是非ともスカートをはくところまで見せていただきたい!!」
「ふええぇぇっ?!」
ぶっちゃけ、疲れすぎて顔を動かすのも億劫なだけだったりするんだけど僕の宣言に七海は目を見開き顔を真っ赤にして驚愕の表情を浮かべる。
うん、可愛い。
けどちょっとからかい過ぎたから、これ以上は怒られるかもしれない……七海なら怒られるのも良いと最近思いはじめてきたけど……それでもこの辺で止めておこうか。
「嘘嘘、ちゃんと……」
「わ……分かった!! じゃあちゃんと見ててよね!! 目を逸らしたらダメだからね!!」
「え?」
僕の声を遮った七海はビシッと力強く僕を指さす。今度は僕が目を見開く番だった。いや待って、なんでそうなるの?
そして僕が止める間もなく七海はまず、持ってきたミニスカートを穿きだす。ゆっくりとしたその動作に、僕は思わず唾を飲み込んでしまう。
スカートを穿き終わると一度大きく息を吐いてベッドに座り、それから二ーソックスを足に通していく。
七海は普通に服を着ている。
ショートパンツだって穿いてるし、上着だって脱いでいない。水着姿や下着姿になんて一切なっていない。脱いでいない、服を着ているのだ。
なのに……なのになんで、こんなにドキドキするのだろうか?
異常に心臓の鼓動が大きくなり、すぐに目を逸らそうと思っていたのに逆に目が離せなくなってしまっていた。
知らず知らずのうちに僕は顔を起こし、姿勢を正して、両手を膝の上に乗せていた。
七海は途中、目だけを動かして僕の方へと視線を向けると、当然のことながら僕とバッチリ目が合う。
そして僕と目が合うとその動きをピタリと止めて……。
「ダメ!! もうダメ!! 恥ずかしいからやっぱりそっち向いてて!!」
「は……はい!! わかりましたぁ!!」
七海のギブアップ宣言に伴い、僕も思わず敬語になってすぐさま回転して七海の姿を視界から外した。
いやぁ……なんで服を着ているだけなのに妙に緊張したよ……。
それからしばらく、衣擦れの音のみが僕の背後からは聞こえてくる。それもすぐに収まり……。
「陽信……もーいーよ」
七海のその一言で僕は改めて七海を視界に入れる。
そこにはミニスカートにニーハイを身に着けて、少しだけ落ち着かないように足をもじもじとさせている七海が居た。
絶対領域が眩し過ぎる姿に、僕はその場で両手を合わせて拝みたい気分になってしまった。
「な……なんか恥ずかしいね。ショートパンツ穿いてるのに、これからこれで膝枕すると思うと……」
「七海……写真撮っていい?」
「ダメ!!」
ちぇっ……ダメかぁ。せっかくの素晴らしい姿なのだからせめてと思ったんだけど……。
「ほら、陽信……早く」
ぺちぺちと自身の太腿を叩いて、七海は僕を膝枕に誘導する。恥ずかしさのあまり、一刻も早く終わらせて脱ぎたいのかもしれない。
僕はそれに一旦同意しかけて……。七海をいったん通り過ぎて部屋のドアまで移動した。
首を傾げる七海を背後に感じて、僕はそのまま部屋の扉に手を伸ばし……そのまま部屋の鍵をかける。
ガチャリという音が静かな部屋に響き渡った。
うん、これでもう今まで見たいな邪魔は入らないし、変な誤解やら写真が撮られることもないな。さすがに僕も学習する。
「じゃあ七海……って……どうしたの?」
「い……いや、陽信さ……今……その……部屋の鍵をかけたじゃない?」
「あぁ、ごめん。突然すぎてビックリさせちゃったか……ほら、僕の親が入ってくるかもしれないし……」
「……ビックリしたのはその通りなんだけど……えっと……その……」
少しだけもじもじする七海を見て、今度は僕が首を傾げた。どうしたんだろうか?
「えっとその……今から陽信にえっちなことされちゃうみたいだなぁ……って……思ったら……ビックリ……して……」
顔を伏せたままの七海の声は、後半は消え入りそうに小さくなってしまっていた。
「ごめん、今の忘れて……」
「うん……僕もなんかごめん……」
七海はそのまま顔を両手で覆い隠してベッドにポテンと寝転がる。僕もその隣に座って、彼女が落ち着くまでゆっくりと待つことにした。
そんな様子の七海を見て僕は、今日は膝枕はお預けかなぁ……まぁ、ニーハイ姿が見れただけ眼福だと思っておこうかとか、そんなことを考えるのだった。
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