第90話「そして僕等の日々は続く」

 カットの後の仕上げを終えた僕は、音更おとふけさんに店の奥のスタッフルームらしき場所へと案内されていた。


 トオルさんにそこで待っていてねと言っていただけたのでお言葉に甘えることにしたけど……見慣れない場所に少しだけ緊張感を覚えてしまう。


 なんか、オシャレな場所ってソワソワしちゃうよね。僕だけかな?


 なんとなく場違いっていうかさー……。なんだか廊下一つとってもオシャレだし、まるで違う世界に迷い込んだみたいな気分になる。


 異世界召喚とか転生物の主人公って、こんな気分なんだろうか? まぁ、僕はどうやっても主人公にはならないだろう。せいぜいモブキャラがいい所だ。


 そんなことを考えている間に案内された一室は、整理整頓が行き届いた白を基調とした割と広めの部屋だった。


「今、お茶持ってくるからさ。ソファにでも座って待っててよ」


「あ、おかまいなく……」


 一人取り残された僕は、少しソワソワしつつも見慣れないその部屋を観察していた。


 部屋には大きな姿見や大きな白い布が天井から垂れ下がっている。棚には見たことのない機材が綺麗に並べられていた。


 狭苦しい感じはせず、部屋が広々と感じられる。実際にも広いんだけどね。それでも白い壁紙の影響か余計に広く感じられる。


 ちょっと寂しい。七海、早く来ないかなぁ……。


 最初はスタッフルームかと思ってたんだけど、そういう部屋はスタッフさん達がくつろぐための部屋なんじゃないだろうか? ここはなんだかそう言うのとは少し違う雰囲気がする。


 少しだけ既視感のある作りのある部屋だ。ここは美容院のスタッフルームというよりは……。


「スタジオ……?」


 そうだ、スタジオだ。


 この部屋すごい洒落た感じだけど、特撮とかのメイキング映像で出てくる撮影スタジオにそっくりなんだ。布とか、部屋の作りとか。カメラは無いけど。


 そう思うと、ほんの少しだけ緊張が緩和されてくる。


 全く知らない場所から、ほんの少しでも知ってる場所に似ているという安心感からだろうか。ソファに深く腰掛けて、僕は安堵のため息をついた。


 そして少しリラックスできたことで、新たな疑問も生まれてきた。


 ……なんでスタジオっぽい部屋に通されたんだろう?


 他のスタッフさんと鉢合わせないように気を使ってくれたんだろうか。知っているスタッフさんはトオルさんと音更さんくらいだからなー……。


 鉢合わせても気の利いた会話をできる自信が無い。でもちょっと気になるのは……トオルさんが言っていた「楽しみにしててね」の一言だ。


 あの一言と、この部屋に通されたことは何か関係があるんだろうか?


 あれかな、僕と七海の写真でも撮ってくれるんだろうか。せっかく髪も切ってセットしたんだし、記念に……とか?


 それは考え過ぎか。たまたま空いてる部屋がここだったってだけだろう。


「お待たせ~。とりあえず、お茶とお茶請けにクッキー持ってきたからこれでも食べててよ。たぶん後1~2時間くらいで七海の方も終わると思うからさ」


「えぇ……? 女性の美容院に時間がかかるってのは聞いたことあったけど、まだそんなにかかるんだ……」


 紅茶とクッキーを持ってきてくれた音更さんの衝撃の発言に、僕は驚いてしまう。僕がやっていた1000円カットなんて15分で終わるのに、女性は大変だなぁ。


「まぁ、ケアとか他にも色々あるからねぇ。少しでも好きな男に綺麗に見られたい女心ってやつだから、理解してやってよ」


「七海が僕の為にってやってくれてるなら、待つのは平気だし理解もするよ。そうじゃなくて、七海が疲れないかが心配だなぁって思ってさ」


「……そういうところホントすげーよな簾舞みすまいは……。私の彼氏でさえ美容院に一緒に来てくれるけど、長すぎるって文句言って別な場所で時間潰してるのに……」


「でも、一緒には来てくれるんでしょ? 良い彼氏さんだと思うよ。格闘家で義理のお兄さんって……なんかドラマっぽいよね」


「……まぁね。色々あったけど、両親も認めてくれたし……。高校卒業したらさ、二人暮らしするんだー……」


 頬を染めながら、音更さんは少しだけ照れながら幸せそうな笑顔を浮かべた。


 もう彼氏さんと二人暮らしの計画を立ててるとか、なんとも羨ましい話だ。まぁ、義理のお兄さんだから計画しやすいってのも大きいかもしれないけど。


「それじゃあ、ゆっくりと……七海の登場を楽しみに待っていなよ。私は仕事に戻るからさ」


「あ、うん。引き留めてごめんね。仕事、頑張って」


 手をフリフリと振りながら、音更さんは爽やかな笑顔を残して部屋から出て行った。


 後に残された僕は、静寂に包まれた部屋の中で一人……どう時間を潰そうかを思案する。


 スマホゲームでもしようかな。


 バロンさん達は今ならいるだろうかとチャットを覗いてみると……。うん、割と人が居るね。


 美容院だし、音声は無しで文字だけにしておこう。


『おや、今日はシチミさんとデートじゃあ無かったのかい、キャニオン君?』


「今は美容院で、彼女待ちなんです。あと1~2時間くらいみたいなんで、ちょっとだけ付き合ってもらえます?」


『あぁ、いいよ。デートに勉強にゲームにと、高校生は大忙しだ』


「バロンさんは良いんですか? 単身赴任中とはいえ、奥さんに会いに行ったりとかは……?」


『あぁ、心配ないよ。昨晩は妻がこっちに来てくれたからさ。会うの久しぶりだったから、まだ寝てるんだよ』


 その発言になんだか大人な匂いを感じたけれども、僕はそれ以上は特に突っ込むことはしなかった。


 突っ込んでもはぐらかされるのは明らかだし、その辺はプライベートだから……と思ってたんだけど。


『もう、聞いてよキャニオン君。久々に会った妻がね、会うなりギュってしてくれたんだよ! デレ期!? 何なのコレってくらい可愛いし嬉しかったよ! 思わず抱き返して、さらにお姫様抱っこまでして運んだよ!』


 ゲームをしながら、バロンさんはよっぽど嬉しかったのか、久しぶりに会った奥さんがいかに可愛いかをとうとうと語ってくる。


 そこからは大惚気大会の始まりだった。聞いてるこっちが照れるくらいに惚気まくる。バロンさんがこうなるとは珍しい。よっぽど嬉しかったのかな。


 詳細は伏せて喋っているけど、昨日はイチャイチャし通しだったのは明らかだ。色んな意味で。


『久々に食べた奥さんの手料理は美味しかったよー……。正直ね、君達カップルがお互いに手料理作り合ってるのが羨ましくて羨ましくて……』


「バロンさんは、料理しないんですか?」


『するけど簡単なものばかりだなぁ……。まぁ、今日の朝は僕が作るつもりだけどね。妻が起きたら一緒に食べるんだ』


 こんな感じで、バロンさんの報告と惚気は止まらなかった。怒涛の勢いである。


 珍しく僕が聞き手に回ってるなぁと思いつつ。色々と夫婦生活の話も聞けた。


『僕、転職しようかなぁ……。今の仕事って転勤多いんだよねぇ……あっちこっち行ってるんだよ……』


「そんなに転勤、多いんですか?」


『うん。僕の勤めてるところはあっちこっち行かされるよ。まぁ、北海道から沖縄まで全国行ったり来たりしてる友人もいるから、それよりはマシかな?』


「それは……大変なんですね……」


 さっき高校生は大忙しと言ってたけど、バロンさんの方がよっぽど忙しそうだ。


 大人の世界の大変さと厳しさを垣間見た僕に、バロンさんは『彼女と長くいたいなら、転勤の少ない仕事にした方が良いよ』とアドバイスをくれる。


 将来……考えないとなと思いつつ、七海との未来を少しだけ夢想した。さっきの音更さんの二人暮らし発言も効いているのかもしれない。


 そんな話をしながらゲームをしていると、部屋の扉がノックされる音が聞こえてくる。


 七海、終わったのかな?


「バロンさん、すいません。どうやら終わったみたいなんでこれで失礼しますね」


『そっか。僕も妻が起きる時の鳴き声が聞こえてきたから行ってくるよ。この声がまた可愛いんだよね~』


 奥さんは猫かなんかですかと思ったが、僕はその辺は黙りつつゲームを終了する。


「どうぞー。って僕が言っていいのだろうか? まぁ、いいか。入って大丈夫ですよー」


「はァーい。陽信くーん、七海ちゃん終わったわよー。お待たせェ」


 扉を開けて入ってきたのは、トオルさんだった。


 いや、トオルさんだけじゃない。トオルさんと……数人のスタッフさん達が後ろに控えており、七海の姿はどこにも見当たらない。


 あれ? 終わったんじゃないの?


「それじゃあ、ここからが仕上げねェ? みんな! やっておしまい!」


「ラジャー! 店長!!」


 はい?


 トオルさんは、まるで悪役のような号令をしつつスタッフさん達に指示を飛ばすと、彼等は僕に向かって突進する勢いで迫ってきた。


 あまりにもあっという間の出来事で、僕はスタッフさん達に取り囲まれてしまう。


「え?! ちょっ?! なにを……いや、ちょっとまって服をなんで脱がそうとするんですか?!」


「良いから大人しく脱ぐ!! 大丈夫!! 怖くないから!! あら、細いけど結構良い筋肉してるのね」


「髪のセットは任せてねぇ~。とりあえずはウィッグは無しでそのままでいくなー?」


「ぐふふふ……現役男子高校生の筋肉……良い!! 腹筋も割れてる……店長には感謝しかない!! さすがに全裸にはしないから、大人しくこの服に着替えてねぇ~」


 スタッフさんに囲まれた僕は、そのまま指定された服を着せられ、椅子に座らされ、髪を整えられ……なすがままにされてしまっていた。


 唐突なその行動に対して頭の整理が追い付いていないために、放心状態になって言いなりになってしまっているというのも大きいかもしれない。


 なんで服? いや、何の服ですか? それに髪は切ってもらったばかりだけど……? いや、そもそも七海は……?


 疑問が頭に浮かんでは消え浮かんでは消え、あっという間に僕に対する嵐のような手入れは終了する。


 気づくと僕は、先ほどまでとは全く違う服装に着替えていた。白を基調とした、見慣れない服だ。


 ……いや、なんで僕は着替えさせられてるんだろうか?


「あらァ、似合うわねぇ。サイズもピッタリ。うん、とってもカッコいいわァ」


「いや、あの、トオルさん……説明をいただけませんか……?」


「七海ちゃーん? 準備できたから入って来て良いわよー?」


「えー……? ここで無視ってどういう……こと……で……す……か……?」


 僕のトオルさんに対する抗議も含めた疑問の声は、部屋に入ってきた七海の姿を視界に入れたとたんに霧散してしまう。


 そこには……僕と同じく白を基調としたドレスに身を包んだ七海の姿があった。


 そのドレスにはレースがふんだんにあしらわれながらも、大胆に肩から胸元を露出している。


 しかし、矛盾する様な事をいうけれど……。そこまで大胆に露出しながらも清楚さを一切失っていない。そんな姿だ。


 それは見事なバランスで組み立てられた芸術品のようで、僕は息をするのも忘れてその姿に見惚れていた。


 まるで、花嫁ののようだと僕は思う。花嫁……誰の……? ……僕のか?


 七海は少しだけ頬を染めて上目使いで僕の方へと視線を向けてきた。


 そんな彼女と僕の視線が交差する。


「綺麗だ……」


 思わずポツリと呟いた僕の言葉は、そのまま静まり返った部屋の中に響き渡る。みんなも、七海に見惚れているのか言葉を失っていた。


「……ありがと……陽信もカッコいいよ」


 七海は更に頬を染めて僕の服装を褒めてくれるが、嬉しさよりも僕は今の七海に触れたい衝動を抑えきれなくなっていた。だから、ゆっくりと彼女に近づいてその頬に触れる。


 七海はほんの少しだけ、反射的にピクリと身を震わせたけど……そのまま触れた僕の手を取る。


 現状がどうなっているのかなんてどうでもよくなった僕は、そのまま七海に対して顔を近づけようとして……七海の奥にいる人物達に気が付いた。


 と言うか、爛々と光る目に気がついた。僕は慌ててそちらに視線を向ける。


 そこには見知った顔ばかりが居た。


 七海の家族、僕の家族、音更さん、神恵内かもえないさん、翔一先輩……。


 みんな微笑ましい物を見る温かい目……ではなく決定的シーンを見逃すまいという視線で僕等を見ていた。


 その視線で僕は我に返ってしまう。


「なななな……なんでみんないるんですか?!」


「ん? いやぁ、今日ここで面白いことをやると聞いてね。ほら、私達には気にせず続けて続けて」


「厳一郎さん、父親が娘とのキスを咎めないっていいんですか? こういう時は反対するものじゃないんですか?」


 いくらなんでも両親の前でキスをしたことは無いから、思わず反論してしまう。だけどみんな、一斉に大きなため息をついて苦笑している。


「うーん、今更じゃないかい?」


 厳一郎さんのその一言に、全員が一斉にうんうんと頷く。


 え? なに? 打合せでもしてたみたいにピッタリなんですけど?


「まぁ、説明するとせっかく二人で予約してたから、店長がどうせなら一ヶ月経過記念に結婚式っぽい写真を撮ってあげたいなって話になって……」


「初美ちゃんにお願いして、人を集めてもらったのよォ。みんなノリノリで来てくれたわァ」


「もう結婚しろよってみんな思ってただろうから、集まり良かったわー」


 混乱する僕に二人は現状を説明してくれた。よく見ると、厳一郎さんはスーツ、睦子ともこさん、沙八ちゃん、音更さん、神恵内さんはドレスっぽい服だ。


 僕の両親も揃ってスーツで、両親の隣にいる翔一先輩は……黒いタキシードを着て蝶ネクタイをしている。


「翔一先輩……えっと……いいんですか部活行かなくて? 大会近いんですよね?」


「ん? この撮影が終わったらもちろん行くよ。親友の晴れ姿を見たいと思うのは当然だろう。あ、陽信君のご両親にも挨拶させてもらったよ」


「陽信……いつのまにか良い友人もできて……」


「お父様、お母様、陽信君の事は僕にお任せください!」


 そう言って、翔一先輩は父さんと固い握手を交わす。……いや、いつの間に僕の両親と仲良くなってるんですか。


「ほらほら、二人とも。キスはもうちょっと待ってねェ、お化粧崩れちゃうかもだから。お写真撮りましょうねぇ」


 僕等はトオルさんに促されるままに、スタジオの中央部分に背中を押されるように移動する。


 あー……確かにさっきは気づかなかったらキスしちゃってたね。思わず頬が熱くなる。僕はそれをごまかすために口を開く。


「トオルさん、こういうのって凄い高いんじゃないんですか? 記念にはなりますけど……」


「子供がそう言うのを気にしないの。それにほら、写真を店内に飾ればうちの良い宣伝にもなるからねェ」


 いや、飾るの……? 七海なら絵になるけど……僕はちょっと勘弁してほしいかな。


「えーっと……結婚前にウェディングドレス着ると、婚期が遅れるんじゃなかったっけ?」


「ちゃーんと相手がいるのに婚期って遅れるのかしらァ?」


「ひどーい、陽信、私とは結婚したくないのー? 結婚したいって言ってたのにー」


 せめてもの抵抗に発した言葉も、七海とトオルさんのタッグにからかうようにかき消された。その聞き方は卑怯だよ……。


 僕は降参するように両手を上げて、大人しく写真を撮られることにした。もうどうにでもなれだ。


 これだけ綺麗な彼女と、高校生のうちに結婚式みたいな写真を撮ってもらえるなんて無いんだから、前向きに喜んでおくさ。


「はーい、それじゃあ二人とも笑ってねェ、写真撮るわよォ」


 そして撮影会が始まった。


 腕を組んだり、手を繋いだり、音更さんと神恵内さん、それに翔一先輩と一緒に撮ったりもした。


 七海と七海の家族の写真や、僕と僕の家族の写真も撮ったし、逆に僕が厳一郎さん達と撮ったりもした。


「父さんも母さんも……よくもまぁ僕に秘密で用意してたよね……」


「あら、息子の晴れ姿を見れる機会があるんなら、なんでもするわよ?」


「そうだな。見られないかもと思ってた晴れ姿だからな、感無量というものだ」


 よく見ると、二人とも目尻に涙を浮かべているように見えた。


 ……確かにまぁ、彼女ができるってだけで驚かれたのに、こんな風に擬似的な結婚式までやったら喜ぶか。


「後はあれね。孫の顔がいつ見られるかね。そうなると大学生のうちに学生結婚もありよね」


「母さん?!」


志信しのぶさん……気が早いです……私はその……新婚の間は二人だけの時間も楽しみたいなって……」


「七海も落ち着いて!」


 顔を真っ赤にしながらも七海は僕との新婚生活を想像したのか、嬉しそうに笑みを浮かべる。


「そうよね、確かにしばらくは二人きりが良いわよね。家とかも借りないと……」


「あらあら楽しそうな話ですねぇ。うふふ、私も混ぜてくださいます?」


 ウェディングドレス姿でしている気の早い話に、睦子ともこさんも参加しだす。


 僕と父さんも、厳一郎さんも顔を見合わせながら少しだけ肩を竦めた。


 そんな様子もトオルさんは楽しそうに写真を撮っている。


 これもいい思い出かな。


 トオルさんは僕にウィンクを送り、僕は思わず苦笑を浮かべた。


 そんな風に写真を沢山撮影し……最後にはトオルさんも含めて全員の写真を撮ったりもした。


 これは本当の結婚式ではない、ただのドレスアップしての写真撮影だけれども、みんな僕等を祝福してくれてる。


「最後に二人の写真で締めましょうかァ。陽信君、お姫様抱っこできる?」


「余裕ですよ。僕が何のために筋トレしてると思ってるんですか」


 トオルさんのその言葉に、僕は胸を張って応える。いや、別にそのために筋トレしてるわけではなかったんだけど、ここはカッコつけさせてもらおう。


 七海をお姫様抱っこすると、彼女は嬉しそうに僕にピタリとくっついてくる。思わず笑みが零れる。


 ……沙八ちゃんが「私もあんな風に抱っこされたんだ……」って呟いてたけど……。え? 沙八ちゃん彼氏できたの?


 なんか、厳一郎さんが顔を引きつらせて詰め寄っているね。


 そんな風に視線を彼等に向けていると、くっついてきた七海が嬉しそうに口を開いた。


「陽信、夏休みもいっぱい遊ぼうね。それにこれから先……ハロウィンだってあるし、クリスマスやお正月、来年にはバレンタインもあるし……」


「イベントが目白押しだね。去年までは一人だったから、ちょっとピンとこないなぁ」


「じゃあ、これからは私がピンとくるようにしてあげる……。ずっと一緒にいようね?」


「もちろん、ずっと一緒だよ。愛してるよ」


 そう言って僕は、彼女の答えを聞く前に抱えた七海の唇に自身の唇を重ねた。


 写真を撮る音や、みんなの歓声、祝福の声が聞こえてきて、僕らは幸せな気持ちになる。


 こんな風に……これから先も七海と、そしてみんなと居られると良いな。


 いや、絶対に大丈夫だ。


「……私も、愛してるよ」


 唇を離した僕に、彼女は蕩けるような笑顔を僕に向けて呟いた。


 僕の腕の中で幸せそうな笑顔を浮かべる七海を見て、僕は確信し……もう一回彼女に口付けをする。


 瞬間、みんなが写真を撮るような音が聞こえてくるが、僕はその幸せな音を耳にして、さらに彼女を強く抱きしめる。


 僕等はお互いに接点の無い二人だった。


 そんな僕らが、こうやって今では二人でいられる。


 それが何よりも……幸せだと感じる。七海もそうだと感じてくれてるだろうか?


「陽信、私……幸せだよ」


 僕の心を読んだようなその言葉に、僕は思わず笑みを浮かべ、七海も綺麗な笑顔を浮かべる。


 罰ゲームで告白してきたはずのギャルと、陰キャだった僕の日々は……これからもずっと続いていく。

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