【番外編】バニーガールは好きですか?
「バニーガール姿ってさ、男からしたらやっぱり嬉しいものなのかな?」
そんなことを唐突に言ってきたのは
しかもここは教室だ。
僕の隣の七海はちょっと首を傾げてて、
「いや、
「え?! 僕?!」
まぁ、そうだよね。この場には今、僕等、四人しかいないんだから。いや、周囲にも何人かいるけど、それぞれが思い思いに雑談を……。
あれ? 気がついたら急に静かになってるぞ?
……なんで? と思いつつも、僕は正直に……だけどちょっとだけ回りくどく音更さんに答える。
「世の中にはピエロ恐怖症って言うものがあるらしいけど、バニーガール恐怖症と言うのは寡聞にして知らないので……。まぁ、世の中の男性陣はバニーガールを嬉しいと思うことはあっても、嫌悪感を感じることはないと思……」
「正直に応えたら、七海用のバニーガール衣装やる」
「バニーガール大好きです。たぶん、この教室にいる男子もみんなバニーガール大好きなはず」
「陽信?!」
七海の抗議の声が聞こえるが、僕はとりあえず、教室の男子も巻き込みつつ改めて正直に答える。
周囲の男子陣もうんうんと頷いていた。……一部からは嫉妬交じりの視線を感じるがそれは黙殺だ。
「よーし、良く正直に答えた。それじゃあ、バニーガール衣装をあげようじゃないか」
音更さんはそう言うと、机の上に三つのビニール袋に包まれた衣装を置きだした。黒、赤、白……これが全部バニーガールの衣装なの?
いや、そもそも……。
「なんでバニーガールの衣装を持ってるの?」
「ほら、うちの彼氏って格闘家やってるだろ? なんでもさ、ラウンドガールの衣装が余ったらしくって、新品を貰ってきたんだよね」
ラウンドガール用の衣装が余るなんてあるのか……いや、なんでそれを貰ってきちゃうの音更さんの彼氏。総一郎さんだっけ。
「サイズ的にも七海とか着れるだろうなって思ってさー。そんで簾舞が喜ぶかと思って」
「ありがとう音更さん。こんなに感謝の念を覚えたことは久しぶりだよ。今なら正拳突きもできそうだ」
「私が着るのは決定なの?!」
「何だ七海ィ……これを着て見せた簾舞の反応を見たくないのかぁ?」
抗議の声を上げる七海に対して、音更さんは意地の悪いニヤリとした笑みを向けていた。その言葉に七海はしばらく考え込むと……。
「見たい……かも……」
何を想像したのかは分からないけど、ちょっとだけ頬を染めて七海は音更さんに真剣な眼差しを向ける。
そして、音更さんは無言で七海に対して手を差し出すと……七海はその手を握り返し固い握手を交わす。
なんだか友情を確認し合うワンシーンのようだが、バニーガール衣装である。
「あ、この白いのちょうだ~い。私、これ着てみたい~」
そんな中、神恵内さんがマイペースに白いバニーガール衣装を手に取った。
「あぁ、いいぞ。……無茶はするなよ?」
「無茶なんてしないよ~。最近会えてないから、これを着た写真を送りつけて、後はテレビ通話の時に着て喋ろうかな~って」
「あぁ……今は彼氏、出張中なんだっけか……。大変だな」
「毎日喋っているから平気~」
目を垂れさがらせて楽しそうな笑みを浮かべる神恵内さんだったが、目の奥は笑っていなかった。
とりあえず、神恵内さんの事情は置いといて……残るは黒と赤の衣装である。それが机の上に置かれている。
「……陽信はどっちの色が好き?」
七海のその一言を受けて、衣装を前にした僕は固まった。
てっきり、七海も神恵内さんと同じように自分で選ぶと思っていたからだ……。これ……僕が選ばなきゃいけないの?
周囲を見ると、みんな固唾を飲んで僕の事を見守っていた。
一部の男子生徒は「黒派」と「赤派」で別れているようにも見えた。あ、なんか賭けが行われている?
唐突に、僕の性癖を教室で暴露させられる羞恥プレイが始まってしまったようで、僕の顔全体から変な汗が噴き出してくる。
そんな僕の様子を七海は不思議そうに首を傾げて見てきていた。あんまり現状が分かっていないようだ。
神恵内さんは何も考えて無いように白い衣装をギュッと抱きしめて僕を見ている。
そして音更さんは笑いを堪えている。畜生。
そして僕は……。
「こっち……です」
黒いバニーガール衣装を選ぶ。
「そうなんだ! 陽信はそっちが好きなんだね!」
屈託のない満面の笑みを七海は浮かべる。何この羞恥プレイ?!
後ろからは「黒派」からの歓声と「赤派」からの落胆の声が聞こえてきた。
女子人達は女子達で「七海……大胆……」とか「簾舞は黒バニー好き……」とか「私も今度、彼氏に着てあげようかな」とか声が次々に聞こえてくる。
……うん、僕が最低とか言う評価をいただかなくて良かったよ。
「んじゃ、私は残った赤を貰ってくよ。それでさ、ここからが相談なんだけどさ……」
音更さんはバニーガールの衣装をしまうと、少し真剣な眼差しを僕等に向けてくる。
そういえば、最初は「男はバニーガールが嬉しいか」と言う質問から始まったんだっけ。
「……これってやっぱり、私に着ろって意思表示なのかなぁ? いや、彼氏の前だから着るのは躊躇いは無いんだけど……」
「あー……なるほどねー……。ちなみにさ、その衣装を渡してきたとき彼氏さん……総一郎さんって何て言ってたの?」
「『ラウンドガールの衣装余ったから貰ってきたんだけどいる?』としか言われなかった。とりあえず、いるって言ってもらってきたけど」
これまた判別に困る発言だ。弁当感覚でもらって来てる感じだ。
「着て欲しいとも言われてないんだよね?」
「言われてねーよ。うちに手ぇ出すのは18超えて高校卒業してからって頑なだからなぁ。思ってても、絶対言ってこないだろうしな。あのムッツリ格闘家……」
なるほど、その辺の考え方は気が合いそうだ。
今どきの高校生ならやることやっててもおかしくないけど……僕等は未だにそういうことはしてない。
「でもね……なんだろうか……。この衣装着て彼氏の前に出たら……私が我慢できるかどうか……」
そっちの心配かい。
「ま……まぁ、あくまで僕の私見だけどね。可愛い彼女が可愛い格好していて嬉しくない男子は居ないと思うよ。それが自分のために着てくれた衣装ならなおさらだね」
「陽信……私がこれ着たら嬉しい? だったら今度のお休みに着てあげるようか?」
「あ……うん……七海……その……お願いします」
思いがけず七海が衣装を着る日が決まったことに僕はドキドキしてしまうのだが、そんな僕を見て音更さんは大きなため息をついた。
「うちもそれくらい素直に聞けたらなぁ……。やっぱり素直なのが一番なのかね? ……考えても無かったなぁ」
てっきり呆れられたしまったのかと思ったんだけど、そうじゃなかった。
単純に、僕等の会話を聞いて直接聞くという事を自分の中から除外していたことを認識したようだ。
「まぁ、偉そうなことを言える立場じゃないけど……。素直なのが一番だよ。漫画とかアニメとかゲームでも、お互いのためにとか言って黙っているとかえって大変なことになることが多いし」
「そうなんだー……うち、漫画もゲームも知らないからなぁ……今度おすすめ教えてよ……アニメ……彼氏と見る……」
机に突っ伏しながら音更さんは、どうやらこの件を素直に聞くことを決めたようだ。
良かった良かった……次の休みには七海がバニーを着てみてくれるというし……。
あー……でもそうだ……とりあえずそれに対して我慢できるようにしておかないと……。
そんなことを考えていたら、七海から衝撃的な一言がぶちあがる。
「陽信もさ、私だけじゃ不公平だからバニーの格好してよね!」
「は?!」
「ほら、タキシード着てウサ耳付けたらバニーボーイになると思うんだよね。お父さんの痩せてた時のスーツもあると思うし。大丈夫、私がコーディネートしてあげるからね!」
……やけにノリ気かと思ったら、これが狙いだったのか、七海……。
ウキウキとした七海、机に突っ伏した音更さん、マイペースな神恵内さん……カオスな女子達を前に僕は遠い目をするのだった。
ちなみに、次の休みの時にバニーガールの衣装を着た七海は……。物凄かったとだけ記しておく。
「……こんなにえっちなの?! バニーガールって?!」
と言うのが彼女の残した叫び声でした。
我慢? もちろん、ちゃんとしましたよ。
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