第77話「罰ゲームで告白してきたギャルに、僕はベタ惚れです」

「そっか、それがキャニオンくんの選択だったんだね。いやぁ、予想通りではあるけれどもさ、こういう時は予想外なんていらないんだよね。僕も安心したよ……。あー……なんか泣きそう」


 僕等がお互いに告白し合った数日後……休みの日に僕と七海は、僕の部屋で一緒にバロンさんに結果を報告していた。


 バロンさん達をちょっとだけ待たせたけど、落ち着いた日に改めて二人で報告をすることにしたのだ。


 、僕等はちょっとだけ照れくさそうに頬を染める


「だから言ったでしょ? シチミちゃんとキャニオンさんは絶対に上手くいくって。私が保証するって」


「ピーチさん、シチミとそんな話してたの?」


「女の子同士でこっそり話てたんだよねぇ、ピーチちゃん♪」


 ピーチさんも、スマホから聞こえてくる可愛らしい声を喜びに彩らせている。


 僕等は今日……はじめてスマホの音声チャットで四人で話をしていた。どうせ報告するならチャットを使って見ないかと七海から提案されたのだが……まさかピーチさんとはたびたび通話していたなんて知らなかったよ。


「それにしても……バロンさん達も私が罰ゲームで告白してたって知ってたんですねぇ……。本当、ご迷惑をおかけしたみたいで……」


「いやいや、僕等こそ知っていて黙っていたことは申し訳ない。でも……結果的に良い結果になって良かったよ」


 七海の謝罪に、バロンさんも謝罪し返す。


 なんだか不思議な気分である。こうやって四人で穏やかな時間を過ごせるなんて……僕はベッドの上に座りながら隣の七海を目を細めて見ていた。


 隣の七海は、僕に抱き着くようにして身体をピッタリと寄せて来ている。彼女の身体の柔らかさと、その暖かさが僕の身体に心地の良い幸福感を与えてくれる。


 音声だけで映像は出ていないからできているんだけどね……。


 いや、この体勢も仕方ないんだよね。椅子には二人で座れないし、必然的に二人が座れて長時間疲れなさそうなのがベッドの上だったからさ。だから仕方ないんだよこれは……でも、これは何と言うか……。


 これ、僕の理性が試されてるのかな?


 それを考えた瞬間に、あの日に先生から貰った例のモノが脳裏にチラつく。


 だけど、僕は頭を振ってそれをいったん無理矢理に忘れる。うん、あれは僕等にはまだ早いし、今はバロンさん達と通話中なんだから、それを忘れろ。先生にも言われたろ。


「でも二人とも、これで正式な恋人同士になったわけだけど。何か変化はあるかい? ほら、もっともーっとラブラブになったとか」


「変化……ですか?」


「聞いてくださいよー。キスの頻度は上がったけど、キャニオンくんってば、恥ずかしがっちゃってなかなか自分からキスしてくれないんですよー。しても、ほっぺたくらいだしぃ……。唇にしてくれたのは記念日の時だけだったかなぁ?」


「それ言っちゃうの?!」


 僕は彼女の発言に、スマホの向こうのピーチちゃんがキャーキャーとはしゃいでいた。どうやら記念日のキスの話は初耳だったようで、詳細を聞きたがっていた。


 七海は僕の隣で、僕があげたネックレスを指先で弄ぶとニヤリと僕に笑みを向けてきた。頬は赤いので、自爆覚悟で僕に対してキスをせがんでいるようだ。


 ……だってほら……あの時は気持ちが盛り上がってたからさぁ……。普段から唇にキスをするとか、ハードル高いよ。さすがにまだ、気持ちが高ぶらないとさぁ……。


 僕はせめてと、ベッドの上で一緒に座っている彼女の肩を抱き寄せる。これくらいなら……まだ慣れないけどできるくらいにはなってきた。


「……特に大きな変化はないですよ? 今も彼女はベッドの上で僕の横に一緒にいますけど……こうやって隣り合っているのもいつも通りだよね?」


 僕の発言に……スマホの向こうと、そして七海も……沈黙が訪れる。あ、あれ? なんでみんな黙るの?


 七海は顔全体を……耳から首まで真っ赤になって目をシロクロとさせている。


 スマホの向こうでは沈黙が……と思いきや、ピーチさんが「大人だ……大人の関係だ……大人すぎる……。え? えええ? 変化起きすぎじゃないですか?」と小さい声で呟いているのが聞こえてきた。


「えーっと……ごめん……流石にピーチちゃんの教育に悪いから、そう言う発言は慎んで……と言うか、そんな状態なら日を改めて」


 そこまで言われて僕は自分の発言を思い返す。『彼女はベッドの上で僕の横に一緒にいますけど』……って……まって、この発言……。


「違います違います!! 誤解です!! いや、誤解させたのは僕ですけど!! 今はベッドの上で二人で座って喋っているだけです!! 僕等はまだキスどまりの清い関係です!!」


 僕は慌てて自分の発言を釈明する。僕としては事実をいっただけなんだけど、この発言は捉えようによっては誤解されかねない発言だ。全然思い至らなかった。


 隣の七海が「珍しいね……陽信の自爆……」とか言ってくるけど、真っ赤になったままだ。


 うん、流石にごめん。いや、何も後ろめたいことが無くなったことで、思ったよりも浮かれているんだろうな僕も……。


「あぁ、そうだったんだ。いや、高校生だから不思議ではないけどねぇ。先日も妻と話したら一組のカップルに性教育をしたって言ってたからさ。タイミングが良いよねぇ」


 ……あれ? なんだかその話には少し既視感があるんだけど……。偶然かな?


「そうそう、聞いてくれる? 妻がね、物凄い久々に愛してるって言ってくれたんだよ! 照れちゃって照れちゃってなかなか言ってくれないのに、やっと久々にデレてくれたよー」


「わぁ、バロンさんおめでとうございます! でもいいですねー。私だけ彼氏いないからなぁ……」


「大丈夫大丈夫。ピーチちゃんなら絶対に良い人が現れるから」


 バロンさんとピーチさんの会話が盛り上がるのだけど、何だろうか……その話にもちょっとした既視感が……。うん、あんまり深く考えないどこうかな?


 そんな風に二人で会話が盛り上がっている最中に……七海はちょっとだけ僕に近づくと耳元で囁いてくる。スマホの向こうには絶対に聞こえない声量で……聞いたことのないような甘い声を出す。


「……いつでもいいよ?」


 その一言を囁かれた瞬間に、僕は七海の方に勢いよく視線を移動するのだけど、七海も僕と同じくらいの速度で僕から視線を外していた。


 さっきと同じくらい赤くなった彼女だけど、それからゆっくりと僕に視線を合わせてくると……はにかんだような笑顔を僕に向けてきた。


 僕はため息を一つ着くと、七海の頭にポンと手を乗せて優しく撫でる。


「……無理しないで良いよ。僕等は僕等のペースで……ゆっくり行こうね……」


「ありがとう……うん……愛してるよぉ……キャニオン……」


「僕も……愛してるよ」


 七海は撫でられて気持ちよさそうに目を細めて、僕に抱き着いてくる。僕はしばらく七海の頭をそうやって撫でていたのだけれど……。


「まぁまぁ、聞きましたピーチちゃん? 愛してるですってぇー。やっぱり進んでいるのねぇ。隠さなくても良いのにねぇ?」


「そうですねぇ、バロンさん。こういうのをなんて言うんでしたっけ? リア充爆発しろ? それとも、末永く爆発しろ? 結婚して爆発しろの方がいいですかね?」


「ピーチちゃん?! どこでそんな言葉覚えたの?!」


 ……しまった、通話チャット中だったんだっけ……。て言うかバロンさん何なんですかその小芝居は。ピーチちゃんもノッてるし……。


 いつもは文章でしかやってないから油断した。と思っていたんだけど……七海は撫でられながら僕の方を見るとペロッと舌を出してくる。


 ……わざとだったのか。


 それからも僕等は四人で報告をしあいながら、他愛のない雑談を続ける。バロンさんは気が早くて、結婚生活において大切なことを僕等に対して色々と忠告してくれる。


 七海はその言葉を全て、聞き漏らすまいかと言わんばかりに納得しながら聞いている。


 そんな折に……ピーチさんが僕と七海に疑問を投げかけてきた。


「そういえば……シチミちゃんの恋みくじの内容は聞いたけど、キャニオンさんの恋みくじの内容ってなんだったんですか?」


「あ、それ私も聞きたい! そう言えば聞いて無かったよね!! なんて書いてたの?」


 あぁ、恋みくじ……バタバタしてたから忘れちゃってたね。僕は一度だけベットから立ち上がると、財布を持って再びベッドの上に座りなおす。座りなおした僕に、七海はやっぱりピッタリとくっついてくる。


「お財布に入れてるの?」


「うん、良い内容だったからね……ほら、これが僕の恋みくじの内容だよ」


「うわぁ、大吉だ! 凄いねぇ……私は…ってこの内容」


「シチミちゃん? なんて書いているんです」


 ちょっと僕の口から説明するのは言いづらい内容だっただけど、七海が嬉々として恋みくじの内容を説明してくれた


「えっとね……『真実の愛を知った二人、もう……別れられません』……だって……うぅ……うぅぅぅ……」


 七海の目に見る見る間に嬉し涙が溜まっていく。僕は泣きそうな彼女の頭を再び優しく撫でる。七海は感極まって僕に抱き着くと、そのまま静かに喜びの涙を流すのだった。


 これがあったからってわけじゃないけどさ……僕は彼女と別れるなんて選択をする気はさらさらなかったんだよね。今度のデートで、あの神社に行ったら神様にお礼を言いに行かないとね。


「真実の愛……ですかぁ……乙女ゲームとか少女漫画にありますけど、ロマンチックで良いですねぇ……」


「そうだねぇ。でもそれ、もしかしたら『浮気はダメ』みたいなこと書いてない? 僕もね、妻と結婚する前に引いたおみくじに同じような文言があったんだよね」


 うっとりした声を出すピーチさんとは対照的に、バロンさんは冷静におみくじの内容を確認してくる。うん、確かに『浮気は凶運』って書いてるな。


「書いてますね、……バロンさんも同じおみくじ引いたんですね」


「うん……それがきっかけで妻と結婚したようなものだしね。だから僕が保証するよ。二人は結婚までいける! 式には呼んでね!! オフ会兼結婚披露宴だ!!」


「結婚って……気が早いですよ……僕らまだ高校生ですし」


「大丈夫だよ……僕と妻も高校からの付き合いだからさ……僕等が前例だよ」


 そう言われては返す言葉も無い……。抱き着いている七海は、僕の胸の中から僕を見上げてきている。それは、ちょっとだけ期待するような目だ……。


「そうですね……じゃあ、僕と彼女が結婚する時は皆さん招待しますよ」


「うん……その前にオフ会とかをしても楽しそうだね。まぁ、二人が仲良くなったことで……未来は無限に広がるよ。本当に……二人とも祝福するよ」


「改めて……おめでとうございます。キャニオンさん、シチミちゃん」


 その祝福に……僕等はもう何度めかもわからないお礼の言葉を二人に告げる。


「そういえば、そろそろ時間なんじゃない? 今日のデートはどこに行くのさ?」


 バロンさんのその言葉に、僕等は出かける時間が迫っていることに気が付いた。もうそんなに時間が経っていたのか……。


「今日のデートは、映画ですよ。映画デートは僕等の初デートですからね。再出発にちょうどいいかなって」


「そう……二人とも楽しんでね。こんど、ゲームも一緒にできたら良いね」


「お二人とも、行ってらっしゃい。お気を付けて」


「バロンさん、ピーチちゃん。ありがとう。またね。あ、私ちょっとお化粧直して来るね。ちょっと泣いちゃったし、お義母さんにも挨拶したいからさ」


 そう言って七海は部屋から出ていき、ピーチさんもチャットから退室した。僕とバロンさんだけが通話状態で残っていた。


 僕もそろそろ通話を切ろうかなと思っていたところで……バロンさんが不意に僕に聞いてきた。


「最後に聞かせてくれないかな……キャニオン君? 罰ゲームで告白された君だけどさ……今はどんな気持ちだい?」


 バロンさんに相談したことで、僕は七海とここまで来れた。バロンさんがメロメロのベタ惚れにしちゃえばいいんだよと言ってくれたから……僕と七海の今の関係がある。


「そうですねぇ……今の気持ちを一言で表すなら……」


 だから僕は、少しだけ考えて……バロンさんに答えを告げる。その答えを聞いた彼は満足気な声をあげてくれた。


「罰ゲームで告白してきたギャルに、僕はベタ惚れですよ」

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