第2話「相談しよう、そうしよう」

「て言う事があったんですよ、『男爵バロン』さん……僕はどうしたらいいですかね?」


『はっはっは、罰ゲームで告白か。良いじゃ無いの、高校生らしくて。若気の至りってやつだね』


 僕は帰宅してからスマホのゲーム用のチャットアプリで、とあるソシャゲで一緒のチームに所属している『男爵バロン』さんに今日あったことを相談していた。


 ゲームは今日からチーム戦で、大事な予選の真っ最中だというのに僕は個人的な事をチャットで相談していた。申し訳ない事ではあるが、彼は快く僕の相談を受け入れてくれていた。


 学校で友達が少ない僕でも、ネット上では相談できる人はたくさんいる。今の時代、友達を学校と言う枠だけに収める必要性はどこにもないのだ……と僕は自分に言い訳している。


 ちなみに僕はスマホでチャットをして、パソコンでソシャゲをするというやり方だ。どうもボイスチャットが苦手なので、僕はわざわざそう言うやり方を選択していた。


「笑い事じゃないですよバロンさん……罰ゲームで告白される身にもなってみてくださいよ……」


『他人事だし笑い事だよ……しかし、良く気づかれなかったね? 大人しい男の子って認識されてるくらいだからそこまで陰が薄いわけじゃなさそうだね。ちょっと安心したよ』


 確かにそれは僕も意外だった。実は罰ゲームの告白云々よりも、あの三人が僕の名前を知っているという事実が一番の驚きだった。てっきり、顔も名前も知られていないかと思っていたのだから。

 あれから驚きはしたものの、こっそりと教室を出ることは成功したので、おそらく明日、罰ゲームの告白をされるのだろう。


「僕はどうしたらいいでしょうか、バロンさん……罰ゲームで告白なんて」


『いや、良いじゃない。付き合っちゃいなよそのまま。君、特定の彼女いないんでしょ? 彼女が男の子に慣れるチャンスであると同時に、君が女の子に慣れるチャンスだと思ってさ』


 気楽に言ってくれるバロンさんのチャット内容に僕はため息をつかざるを得なかった。その選択ができればどれだけ気楽か……。


『私は反対です!! そんな人の心を玩ぶような真似……断っちゃってくださいよ『キャニオン』さん!!』


「簡単に言わないでくださいよ『ピーチ』さん……」


 キャニオン……と言うのは僕のゲーム内でのキャラ名だ。そして、異論を挟んできたのは僕と結構仲の良い『ピーチ』さんと言う同じチームの女性プレイヤーだ。

 いや、バロンさんもピーチさんも会ったことが無いので性別は分からないのだが、おそらくピーチさんは女性だろう。


『何でですか、別に告白されるだけなんだから断っちゃえばいいんですよ』


『まぁまぁ、落ち着いてピーチちゃん』


 バロンさんはピーチさんを宥めてくれている。今、このチャット内には僕ら三人だけで、他の人たちは必死になって予選を戦っている真っ最中なのか、僕等の会話に入ってくることは無かった。

 チームの全体チャットなので、後から見られるだろうが……とりあえず今は僕ら三人だけだ。


 ピーチさんは告白を断ればいいと言っていたが……それこそ陰キャの僕が彼女の告白を断ったとなったら、どれだけの人を敵に廻すのか……。いや、罰ゲームだから向こうに非があるのだが、それは当事者にしか分からない事なのだ。


 受けるも地獄、断るも地獄……だから僕はバロンさんに相談したのだが……。


『キャニオンくん、君は今、受けるも断るもどっちも地獄だって考えてないかい?』


 僕の考えを見透かしたようなバロンさんの発言に、僕の心臓が大きく鼓動する。チャットアプリなのに、この人はなんで僕の考えが分かるんだろうか。いや、だからこそ僕は彼に相談したわけなのだが。


『だったら告白を受けちゃおうよ。きっとそっちの方が、メリットが大きいと思うんだ』


「メリットって……」


『だって、受け入れても断ってもどっちにしろ好奇の視線や、非難の視線に晒されるのは間違いないさ、彼女、モテるんだろう?』


「そうですね、凄くモテてます」


 七海さんはすごくモテる。明るく可愛らしい性格をしており、誰にでも分け隔てなく接することから『あれ、もしかして俺の事、好きなんじゃね?』と勘違いする男子が日々量産されている。


 ファッションは何と言うか、所謂ギャル系だ。制服を可能な限り可愛らしく着こなしており、スカートなんてパンツが見えそうで見えないギリギリのラインを攻めていて、かなり短くしている。

 シャツのボタンも開けていて、その高校生離れした双丘を惜しげもなく晒している……そんな彼女だから遊んでそうな印象を僕は持っていたのだが……。


(男慣れしていないってのは、意外だったなー……)


 だから運動部の主将等のイケメンや、ちょっと悪いヤンキー系のイケメンや、勉強のできる真面目系イケメン等、様々なイケメンに告白されまくっても、その全てを断っていたのか。


 男性に慣れていないから……誰にもチャンスは無かったというわけだ。


 そのギャップが可愛らしく感じてしまっているあたり、僕もたいがいチョロいのだが……そんな彼女から罰ゲームとは言え告白されるとは予想外にもほどがあった。


『モテる彼女を振った男より、モテる彼女から告白されて一か月後にフラれた男の方がまだ印象は良いはずだよ。それに……君はこれをチャンスと考えるべきだ』


「チャンス……ですか……?」


 チャンスとは、先ほど言っていた女性に慣れるチャンスと言う事だろうか、でも、バロンさんの言うチャンスはそう言う意味では無かった。


『彼女の告白を受け入れた場合、最低でも一ヵ月はお付き合いを続けるんだろう? だったらその一か月の間に……君は彼女にメロメロに好きになってもらうよう努力するんだ』


『バロンさん?! 何言ってるんですか?!』


「へ?」


『あ、メロメロって言い方はちょっと古いかな? おじさん丸出しにしちゃったかな』


 驚いてるのはそこじゃないですバロンさん。僕は予想外のバロンさんの言葉にチャットの返信が打てなくなっていた。ピーチさんも驚いてその後の言葉を続けられないでいる。


『いいかい、君は大きなアドバンテージがあるんだ。それは君が『この告白が罰ゲームである』と言う事を知っているという事だ』


「はぁ……知ってますけど……それがアドバンテージになるんですか?」


『大いにあるさ、これがもしも知らなかったらだよ? 君は彼女が自分の事を好きだったんだと言う事実に舞い上がるだろう?』


 確かにその通りではある……陰キャとは言え……いや、だからこそ学校の上位カーストに位置する人に「選ばれた」と言う優越感は、きっと僕の内面の大きな変化をもたらしたことだろう。それはちょっと笑えない。


「まぁ……確かに舞い上がりますね……選ばれたことに優越感を感じて、調子に乗るかもしれません」


『それじゃあきっと、一か月後に待っているのは彼女からの別れ話だよ。でも君は、罰ゲームだと知っているからこそ……冷静にその事を受け止められている』


 冷静……これを冷静と言うのだろうか。冷静になれていないからバロンさんに相談しているんだけど。


 そんな僕の心情に構わず、バロンさんはチャットを続けていた。


『一か月間努力して……彼女に好きになってもらってから、君から意趣返しとして別れ話をするもよし、そのままお付き合いをするもよし、それから先の選択は君に任せるけど……。僕としては好きになってもらってお付き合いを続けた方が楽しい高校生活を送れると思うんだ』


「……バロンさん、もしかして楽しんでません?」


『楽しんでるよ。あ、ちゃんと報告してね。現役高校生の青春話なんて、良い娯楽だよ』


 僕はちょっとだけ相談したことを後悔したが……聞けば聞くほどに告白は受け入れた方が良さそうだという考えにはなってきた。これはバロンさんに洗脳されたという事かもしれないが。


 それでも、僕は覚悟を決めて……彼女の罰ゲームでの告白を受け入れるという結論を出した。


『あ、でもちゃんと高校生らしくね。男の人に慣れてない彼女なんだから、いきなり身体を求めちゃダメだよ』


「しませんよそんな事!!」


 陰キャにそんな度胸があると思うな!! 


 それから僕は、告白を受ける時の注意点やアドバイスをバロンさんから受けながらゲームを続けた。最後までピーチさんは反対していたが……最後には諦めたのかチャットに書き込むことが無くなっていた。


 ちなみに、チーム戦の予選は無事に勝ち進むことができ、チャットログから他のチームメイトに色々と揶揄われることになるのだが……それは別の話だ。

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