【Web版】陰キャの僕に罰ゲームで告白してきたはずのギャルが、どう見ても僕にベタ惚れです

結石

第1部「僕と罰ゲームの彼女」

第1話「罰ゲームの告白」

「はーい、七海の負けねー。罰ゲームは七海にけってーい」


「ばっつゲーム!! ばっつゲーム!! やったー、私じゃなくてよかったー」


「げ~、私~?」


 クラスのカースト上位、陽キャの権化、見た目はすこぶる良く、美人で可愛いと既に人生勝ち組に属するであろうギャル系女子達が、わざわざ放課後に教室でトランプゲームに興じていた。


 別に金を賭けているわけでも無く、単純に罰ゲームを設定していたようだった。

 見た目の派手さと裏腹に、その辺りは健全なんだと僕は感心する。


 僕……簾舞陽信みすまいようしんは、たまたまその場面に出くわしていただけの彼女達のクラスメイトだ。接点は無い。


 正確には忘れ物を取りに来て、教室内に残っている彼女達に出くわしたのだが……普段から陰キャで、陰の薄い僕は彼女達に気付かれていなかった。


 名前に陽と入っているのに陰キャとは、名前負けも良いところだ。別に気にしていないが。


 とりあえず忘れ物……大したものじゃない。単に筆箱を忘れただけだ。それを取り、鞄に入れそのまま僕は教室を出ようとする。やっぱり彼女達は僕に気付いていないまま話を続けている。


 まぁ、僕の席は後ろだし……教室のドアも開きっぱなしだったから音もしなかったからね。彼女達の大声を考えると、ドアの音もかき消されてたかな?


「んじゃ、罰ゲームの内容だけど―……告白にしよう!! 明日の放課後に、普段接点のない男子に告白!!」


「おー、良いねぇそれ!! 罰ゲームの告白、定番じゃん!!」


「えー……? 罰ゲームの告白~……?」


 罰ゲームを申告された彼女……茨戸七海ばらとななみさんは嫌そうな口調で返答して、やたら短いスカートだと言うのに机の上で胡坐をかく。


 おそらく正面からならば彼女のその秘密の部分が丸見えだろう。思わず正面に回り込みたくなるのを僕はぐっとこらえる。


 陰キャだって、性欲はあるのだ。


「罰ゲームの告白って、人の気持ちを玩ぶ行為なんて最低じゃん!! 告白ってのはもっとこう真剣に……自分が好きになった人相手じゃ無いと……!!」


「ずーっとそれ言い続けて、アンタだけだよ、私等の中で彼氏いないの」


「そうそう、一番可愛いくせに、告白されまくってるくせに、全部断ってるでしょ?」


「うっ……だって……男の人ってちょっと怖いし……私の身体ばっかり見ながら告白されても……」


 意外とまともなことを言っている七海さんだったが、他の二人の友人……名前は忘れてしまった……に心配するような口調で言われて、言葉に詰まっている。


 そこで答えに詰まるなよ、君が正しいよ七海さん。負けないで、頑張って。


 彼女の事を少し見直した僕は、心の中だけで応援する。口には出さない。


「全然、男慣れしてないからねー七海は。だからね、とりあえず無害そうな男子に告白して、最低でも一ヵ月は付き合い続けること! それが罰ゲームね」


「え~……? 一ヵ月も~……?」


「きっかけは何でもいいのよ。まずは男子に慣れないと。心配なのよ私達……このままだと、変なやつに襲われないかって」


 一応、彼女達なりに七海さんを心配しているようだった。なんか方向性は違ってる気もするが…… と言うか普通に盗み聞ぎしてしまってるが……ちょっと先が気になってしまい帰れない。幸い、まだ気づかれてはいない様だが……。どうしようか。


「そうね、まずは草食系か絶食系で、二人きりになっても突然襲ってこなさそうなやつが良いわね……」


「基本は罰ゲームだから無理に付き合い続ける必要はないけど、別にそのまま付き合い続けちゃったっていいんだよ? 別れたとしても罰ゲームだって知らなかったら相手もそこまでは傷つかないでしょ? むしろ、七海に告白されて一ヵ月とは言え付き合えるんだから絶対喜ぶよ!! 私達も罰ゲームだってことは絶対に言わない!!」


 友達二人はノリノリで七海さんを焚きつけている。確かに相手に罰ゲームだと知られずに一ヵ月も付き合い続けられるのであれば、心の傷は負うことはまず無いだろう。むしろ、ご褒美かもしれない。


 ただ、彼女達は気づいているのだろうか、七海さんに告白を受けた側が、男達からどんな目で見られるかを。


 数々のイケメンたちを撃沈……轟沈……爆沈してきた七海さんと付き合うという事は、そのイケメン達からの嫉妬やら羨望やら、様々な感情が混じった目で見られることは間違いない。


 僕だったら耐えられない。


 たぶん、胃に穴が開きすぎてハチの巣になり、汗の代わりに消化液が身体中から吹き出すだろう。そして溶けて無くなる。


 その天国と地獄を同時に味わう、ある意味で羨ましく、ご愁傷様としか言えない男が誰か知らないが……まぁ、僕には関係ない話だ。


 せいぜい頑張ってもらおう。罰ゲームの告白も、一ヵ月のお付き合いも。僕も罰ゲームであることは心に秘めようじゃないか。


 そう決意し、盗み聞きをやめ颯爽と帰ろうとしたところで、僕は彼女達の言葉を聞いて固まった。


「んじゃ、明日……一番クラスで大人しそうな、簾舞陽信に告白ね!!」


「簾舞かぁ……確かにあいつなら……うん……いいよ……やってみるよ」


 そうか、羨ましくも哀れなその男子は簾舞陽信と言うのか。聞いたことのある名前だな。うん、簾舞陽信……とても身近で親しみやすい名前だ。


 え? 簾舞陽信? ……同姓同名の他人って、このクラス、いや、学校にいましたっけ?


 ……あの……僕ここにいるんですけど。ばっちり聞いちゃったんですけど……。


 え? 明日僕、罰ゲームで告白されるの? 七海さんに?


 ……心の準備しておこう。

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