第6話 引っ越し

 俺はすべてを忘れて踊り狂った……。胞子を飛ばし俺を増やす……。


 その中からの一定の割合で他の派閥になっていく者たちがいる。その割合に変化はなく暴力派も正義派も一定の数が出て、今もダンス会場の外側で戦いに明け暮れている……。


 無心で増えたい派の俺達と踊っていたら突如轟音が響いた。黒い傘のマタンゴが吹き飛ばされると、正義派を押しのけて見知った顔が現れた。


「何だこれは!」


 おお……しばらく前に出ていった人間派の勇者くんじゃないか。

流石勇者だな何人もの強者の人間を引き連れて凱旋しに来たようだ。


「おお久しぶり! そっちはどうだ? こっちは暴力派と正義派が生まれてこの通り戦争中だよ」


 勇者くんは俺の言葉に納得したようだ。


「そんな事が……。しかし起こってみれば納得ですね。我々には様々な欲求がありますからね」


 なんか頭が良い雰囲気になってるな。だいぶ馴染んだのかな?もう野外でおせっせすることはなさそうだな。


「しかし、これはちょうどよかったかもしれません」

「何がちょうどよかったの?」


 勇者は俺の前にひざまずくと懐から何かを取り出し掲げた。


「王都を完全掌握しました! ぜひ貴方を新たな王として迎え入れたいのです!」


 え? 何やってくれちゃってんの、この子……。俺って完全に人類の敵じゃん……。


「それは素晴らしい!」


 固まってる俺の代わりに答えたのは正義派の奴だった。


 あれよあれよという間に話は進み、俺は人間派の持ってきた神輿の土台みたいのものに乗せられて王都に引っ越しすることになった。もちろん頭には絢爛豪華な王冠とモコモコ付きの赤いマントを付けられている。


「下にー、下に!」


 俺を神輿に乗せた正義派と人間派の連合は、またたく間に暴力派を森の奥に押し込めた。


 そしてこの大名行列である……。増えたい派とは完全に別にされ俺は王になってしまったようだ……。


 そして世代を重ねた増えたい派の末端は、いつの間にか、俺の思考とだいぶ離れ善良な市民として生活し始めていたようだ。驚いたことに雌雄が生まれ胞子で増えるのは俺だけになっていた……。


 大名行列が人間の都市に到着する。


 俺の予想ではゾンビパニックのように世界が滅亡していると予想していた。しかし、最初に乗っとたのが勇者っだったのが幸いしたのか、ほとんど戦闘が起こらず乗っ取ったらしい……。


 ということは……。


「我らの王がきてくださったぞ!」

「キャー! マタンゴ太郎様を初めて生で見れたわ!」


 この声援である……謎の大人気。増える毎に少しずつ変化があった俺は、末端までいくと完全に別の人間になっていた。


 こうして俺は王になり王都へと引っ越したのであった。

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