第5話 第一次マタンゴ大戦

 勇者と聖女はやることをやると、しばらく休憩して、人間派の核を瓶詰めにするとそれを抱えて人間の街へと旅立っていった……。


「核を使い終わったらまた来ますので、人間派の子たちは街の近くで待機していてくださいね!」

「仲間を増やすのは体を手に入れた者たちが受け持つ……。なーに、勇者のネームバリューを使えばすぐに終わることだ」


 もう完全にホラーだよ……。こええよ人間派……。


 それに比べておとなしい”デカイ派”の安心感よ! ダンス大会で生み出された俺達のうち少数が巨大キノコに抱きつくようにして埋もれていくとっても幸せそうな奴らだ。その背丈は森の木々を超えいまだに成長中だ。


「てめぇ! 今肘がぶつかっただろ!」

「はぁ? そんな小さいことでグダグダ言うんじゃねぇ!」


 はぁ……今度は何だ?


「うるせぇこのやろう!」


 最初にブチ切れた奴がついに手を出した。殴り飛ばされたほうが苦痛に顔を歪め倒れた。


 一方殴った方は胞子を飛ばしているときのような幸せそうな表情だ……。


「ははは! 殴るのって楽しいなぁおい!」


 やべぇ! またやべぇやつが現れちまった!


 そいつは周囲のやつを手当たりしだいに殴り始めた。


「やめろ! 何するんだ!」

「こいつおかしくなったぞ!」


 しかし多勢に無勢すぐに収まるかと思ったがなんとぶん殴りたいやつと同調し始めるやつが現れた。


 そいつらの傘の色がどんどん赤から黒へと変色していった。


「俺も前からずっとこうしたかったんだぜ!」


 そうやらマズイことに”暴力派”が誕生してしまったようだ……。


「ヒャッハー! 増える派は殲滅だーーーー! これからは暴力派の下に付いてもらうぜ!」


 やっぱり俺だ、ネーミングセンスも一緒だね。いやいや、感心している場合じゃない! 早く抑え込まないと!


「待て! そんな事はさせないぞ! とう!」


 暴力派の先頭にいた奴が白い傘の俺に殴り飛ばされた……。


「グ……何者だ!」


 後ろに控えていた暴力派がたじろぐ。


「我こそは! 弱者を助け、悪をくじく、正当暴力派! 名付けて”正義派”だ! 正当に暴力を振るう機会をずっと待っていたのだ!」


 その言葉を聞いておなじ欲求を持った者たちが、どんどん傘の色を変化させて争い始めた。


 黒い傘の俺の中からも「その手があったか」と言って白く変わり始める者もいた。


「てぇめぇ裏切るのか!」


 現場はますます混乱してきた……逃げ惑う赤の増えたい派、殴りかかる黒の暴力派、それを押さえつけ殴る正義派……。


 何故か俺だけまったく殴られない。なぜかと言うと、白い傘の正義派がガッチリと守ってくれるからだ。


「王には指一本触れさせないぞ!」

「やれ、みんな! マタンゴ太郎を殴った時の快感は計り知れないぞ!」


 ここに第一次マタンゴ大戦が勃発したのであった。

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