第4話 人間派の誕生

「人間を見つけた!」


 その声が響いた途端、踊り狂っていた同胞たちは踊るのをやめて道を譲った。


 やっぱり分身たちは誰かに許可をしてもらいたいようで、なにか見つけると必ず俺のところに来る。


 ついにこの世界の人間と遭遇したらしい。


 囚われた罪人のように突き出されたのはイケメンと美女だった。両脇をマタンゴに支えられボロボロだ。きっと激しい戦闘の後に捕縛されたのだろう……。


「まだこんなに……いやがったのか……」


 ボロボロのイケメンが苦しそうにうめいた。


 周りにいるマタンゴが血の付いた棒を持ってることから、原初にして最強の戦術”大人数で囲んで棒で殴る”を実行したのだろう……。


 まだ動けそうだが抵抗はない……。いくら倒しても湧いてくる俺に心が負けてしまったのだろう。


「いやぁ……」


 美女は怯えきった様子でガクガクと震えている。


「マタンゴ太郎! おれ人間と融合したい!」


 俺は驚いてそいつを二度見した!


「え? 何言っての?」

「いやぁ、前世の名残かな? ちょっと人間に戻りたい感じがするんだよね」


 その言葉を聞いたイケメンと美女は流石に大暴れを始めた。しかし多勢に無勢。四肢は愚か頭までガッチリ地面に押し付けられ身動きが取れなくなった。


 イケメンと美女の泣き叫ぶ声がとても耳障りだ。完全に俺が悪者っぽくなってるじゃん……。


「もう、うるさいから好きにして!」


 俺の言葉を聞いて二人はすぐに黙ったが、時すでにお寿司。


「ありがとうマタンゴ太郎!」


 そう言うと人間になりたい”人間派”が誕生してしまった。


 そいつは自分の核とも呼べる謎の光る球体を体から引き抜くと、男の口に叩き込んだ!


「むごむっごおお!」


 イケメンはそのきれいな顔を崩しながら懸命に吐き出そうとする。しかしそれは粘着質なようで吐き出すことができないようだ。


「ああ、あれ粘菌か」


 どうやら俺の核は粘菌のようだ。その粘菌は体の隅々まで触手を伸ばしキノコの体を動かしているようだ。


 すなわちキノコの体の代わりに人間の体を使おうという発想だな!


「恐ろしい子!」


 俺は思わず白目をむいた。完全にゾンビパニック映画の様相を呈してきた……。


「おごごあがが」


 イケメンだった何かは奇妙な声を上げると眠るように静かになった。


「いやー! 勇者様ー!」


 美女が無残なイケメンの姿を見て悲鳴を上げた。


 勇者って……もしかして俺の分身がヤバイことしちゃってない?


 しばらくじっとしていた勇者が突然体を起こし立ち上がった。


「すばらしい……融合とはなんと素晴らしいのか! 生きているだけで最上の幸福感を感じるぞ!」


 そりゃそうだろうね人間になりたいって体の欲求が永続的に叶ってるんだからね……。


「聖女……君もぜひ融合してもらうべきだ!」


 あれ? もしかして融合しても記憶とか全部あるのか?


「なぁ人間派の俺ちゃんよぉ。それどうなってんの?」


 俺が声をかけると勇者はひざまずきこう答えた。


「はい、申し上げますマタンゴ太郎様! 記憶や人格がすべて融合されております。と言いますか人間としての意志の方がかなり強いです。そこにおなじ人間にもこの快楽を味わってほしいと思いが乗っかったような感じです」


 うわ……。これヤバイタイプのゾンビパニック映画だ……。ってちがう! あれの元ネタは、マタンゴっていう昔の映画だ! 親父が持ってたビデオテープのマタンゴだ!


 俺……ヤバい奴として生まれてんじゃん……。


 いや、俺はただの”増えたい派”だ! 踊りが好きな陽気で楽しいきのこちゃんだ!


「おごうごっご!」


 うわ、次は美女が餌食に……。俺もう知らない! 好きにして!


「怖くて仕方がなかったけど……勇者様のおっしゃるとおりこれは素晴らしいわ……」


 美女がうっとりした表情でビクビクと痙攣し快感に浸っている……。


 なんだかとってもエロい、今の俺にチ○コがあったら絶対反応しているだろうな……。 


 と思ってたらチ○コを持った俺が隣に存在しているわけで……。


「お前がずっと好きだった!」

「いけません勇者様! 聖女の力が失われてしまいます!」


 ああクソ! そう言えば”人間派”も元は”増えたい派”だった。第一の欲求が叶えば次は第二の欲求だ! 胞子散布機能を失った”人間派”はもちろん……。


「あんっ……ダメ……。でも聖女の力をなうなっていく背徳感がたまらないわぁ……」


 勇者の手がクチュクチュと卑猥な音を立てる。 


「もう良いかい? 僕は我慢できないよ……」


 アーアー何も聞こえないし何も見てない!


 森の中で突如おっぱじめた二人から背を向け、俺はまたダンス大会へと戻っていくのだった。

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