第2話 踊って増える増える

 俺は無事にどっかの森に生まれ落ちた。近くには赤ベースで緑の斑点模様のキノコが転がっている。きっと突然変異する前の俺の兄弟だろう……。


 弱肉強食! 俺は兄弟を拾い上げるとすぐに食らいついた。


「マタンゴになるのは俺だけだ! 貴様らに未来はない!」


 うん、こいつら意外とうまい……きっと体に必要な栄養だから美味く感じるのだろう……パーフェクト栄養食は同種をまるごとすりつぶしたものです! ってことだろうか? うっわプリオン病で死にそう!


 そんな事を考えながらも兄弟で腹ごしらえしたらやることは一つ!


 繁殖だ! 世界中に俺の種を拡散してやるぜ!


 体を大きくゆすり頭の傘をバサバサと上下させる。視界を遮るほどの濃度の胞子が舞い周囲の土や木へと付着する。


「あふん♪」


 ついおかしな声が漏れる。予想通り最上の幸福感が訪れる。頭で考えて反射で脳内麻薬を出す俺TUEEEなんて、比べるに値しないぞ! 体からくるどストレートな無敵の幸福感!


「こいつは病みつきになるぜ」


 ばらまいた胞子のいくつかは物に取り付くとすぐにきのこの形になり、やがては手足が生えて自ら歩き出した。きっと空気中の魔力とか吸ってでかくなってるんだろな……。


「おお! すぐに増えた面白いなこれ。てか一回で五人増えるのかすげぇ」


 そう声を出した途端に増えた俺達が俺をじっと見つめてきた。そのうちの一人の俺が俺に近づいてきて俺に声をかけてくる。


 登場人物が俺しかいなくて意味わからなくなってきた……。


「お前が、マタンゴ太郎の本体? ってか俺って今こんな見た目なの? キッショ!」


 マタンゴ太郎ってのはなんか響きがいいな……まるで俺が嫌われながらも大人気なような気がしてくる。


 見た目に関してはまったく同じ感想を持った……。見た目が予想以上にヤバイ。毒々しい傘の色にずんぐりむっくりした体型……。体型だけ見れば可愛く見えなくもないが顔の部分が気持ち悪すぎる。


 例えるなら、呪いで木にされた人間、壁に浮き出た呪いの人面模様、ラップに押し付けた顔。まったくひどい顔だ。



「「「「俺も同じ感想だ。俺キッショ!」」」」


 周囲の俺も賛同する。


「そんなことより……増えないか?」


 不毛なやり取りを断ち切るようにおれは、さっきの快感を再び味わおうとする。

 

 増殖童貞であるこいつらは女に飛びつくようにすぐに同意した。


「レッツ・ダンス!」


 俺小掛け声で俺たちはその場で好き勝手踊り始めた。ヘッドバンキングする俺、マサイ族のようにジャンプを繰り返す俺、歌舞伎の連獅子のように頭を振り回す俺。


「基本同じみたいだけど正確に差がある? もしかして完璧なコピーじゃないのか?」


 一匹が五匹に、五匹が踊りさらに二五匹追加……その追加された二五匹がまた踊る……増殖は止まらない……。


 なぜならみんな脱童貞したいからであった……。


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